第02話 『中学一年 春の陣 五月』
○○年05月△△日
さぁ 五月病だ。
とはならなかった。
ジムの5人は高校生で、不良娘も中学3年なのである。
5人分の気力は、それだけ大きく。集中力も5倍に跳ね上がる。
ボクシングで鍛えているせいか足も速い。
賢さは、標準的な中学一年より上、
とはいえ、5人を足して割ると平均年齢以下の賢さと言える。
“5人に、もうちょっと、勉強しろよ” と命令し、
国語、数学、英語、理科を担当させて勉強させると、おいしい。
頭の中に、ハードディスクとメモリーを5つ持っているようなものだ。
なんとなく、このまま、家主、地主の豚になり下がって、生活していくのも悪くない。
この世は、弱肉強食。
喰命鬼は、人類種を喰って生きる力を与えられた種族だ。
肉食動物が草食動物を食べるのは本能だし、
自分の才能を利用して生きていくのは自然なことだ。
そもそも、勉強嫌いの怠け者に勉強させているのだし、
それくらいのうまみが欲しい。
寿命を奪ってるし、彼らのためでもある。
むろん、知識を流用できる自分のためでもある。
○○年05月△△日
5月の連休、初恋の彼女をボクシングの試合に誘う。
別にかっこいいところを見せたいわけではなく、
これを切っ掛けに、お友達になろう、下心見え見えの作戦だった。
しかし、試合に来たのは、彼女を含め同級生の男女6人。
が〜ん!
頭にきて、本気で、やっちまった。
ボクシングを始めて1ヶ月、基礎鍛錬は、そこそこ、
4人の使い魔から流用した経験値で高校級、
そして、一発当てれば、相手の闘争心を削いで勝てる、
たぶん、超高校級の実力じゃないだろうか、
お陰で初恋の彼女と少しだけ話せた。
「ねぇねぇ 付き合っている年上の人ってどんな人?」 興味津々
「え〜・・・」
女ってやつは分からん。
○○年05月△△日
そう、今日、僕は、テレビを見てるとき、悪魔の囁きを聞いた。
それは、手品で相手の手を読むマジックだった。
実に簡単だ。
自分の頭を相手の頭と ゴツン! とやるだけで良いのだ。
上手く、トランプ当てに誘いこめば・・・
『これなら、初恋の彼女とやれるじゃないか〜♪』 と、心の叫び
3年の不良娘は大人っぽい体だけど、
「やっぱり、初めての相手は初恋でしょ」
しかし、その ゴツン! が勇気がいる。
自分の配下にジゴロはいない、
高校生の筋肉脳で野暮ったい先輩ばかりだった。
3年の彼女でさえ、
「わたしにやったように階段で待ち伏せて、頭突きすれば」 で
恋愛下手のモテない共だ。
なので、どうしたものかと・・・
「なに? 顔が赤くなってるよ」
と休憩の時間、初恋の彼女に言われ、
「・・・・」 ぽっ!
さらに赤くなり、
周りにバカにされてしまった。
○○年05月△△日
あれから数日。
一向に “ゴツン! 手品作戦” まで行かない。
だいたい、学校にトランプを持って行ってはいけないのだ。
悶々とした日々が流れる。
あ、でも今日は、隣の駅まで行って、3年の彼女と公園のデート。
やっぱり、我慢するのは体に良くない。
周囲を確認し、ちょっとだけ摘まみ食い、
というか、抱きしめてキスするだけ、
やっぱり3年年は身体つきが違って、感動する。
○○年05月△△日
初恋、第二次計画
一向に “ゴツン! 手品作戦” に進まない現状を鑑み、
次なる手段を考えた。
そう、彼女と同じ部活に入ることである。
より親密に、より会話を・・・
放課後、部室の扉の前に立ち、
“英会話” と書かれた表札を見上げる。
初恋の彼女は、英会話の部活に入っていた。
まったくもって、人生とは、人生とは・・・である。
何が悲しゅうて、ボクシング。
何が悲しゅうて、英会話だった。
これは、自分を陥れようとしている闇組織の陰謀に違いない。
人生の達人なら、
“人は、暴虐無人に生きてはいけない。
人生は、豊かな人格を育て、熟成させるためにある”
というだろう。
いや、これは、権力者に、不当に、理不尽に、押し付けられた嫌がらせですよ。
この辺、一帯の疫病神が寄って集って自分に嫌がらせをしてると、小一時間問い詰めたい。
5人に勉強させて、単語や文法を知っても英会話は足りない。
会話は発音が求められるため、反復練習が必要だった。
数分間、反省ポーズの後、
敗北感に浸りつつ、部室の扉を後にした。
○○年05月△△日
体育祭の練習が始まる。
そういえば、月の終わり頃の行事だ。
そして、組み体操で同級生と頭と頭が ゴツン!
これは、意図しての事でなく、不可抗力で、過失事故で無実だ。
しかし、お陰で教室内に手下を作れてしまう。
まぁ 元々、仲が良いというより、仲が悪くない同級生、
疎遠な同級生と親密になってしまう。
こういうのは、心の準備が必要な気もするが、
やっちゃったものはしょうがない。
とはいえ、こいつ、ずる賢い同級生で、
初恋の彼女を支配下に置く知恵を出してくれた。
○○年05月△△日
作戦成功〜♪
悪友は、サクラになって、数字当てゲームをやってくれた。
そう、悪友がノートの切れ端に数字を書いて伏せ、自分が当てる。
それだけだった。
初恋の彼女は、数字を書いて悪友に見せて、机の上に伏せる。
悪友の目を通して数字が分かるので簡単だった。
あとは、初恋の彼女と頭でゴツン! すれば、モノにできる。
「え〜! なんで〜」
「だって、組み体操の頭と頭がぶつかって、わかるようになったんだよ」
「うそぉ〜」
「本当だよ」
「怪しい」
「じゃ “ゴツン!” して、試すしかないよね」
「うんうん」 悪友
「「・・・・」」
そして・・・
ゴツン!
生きてて良かった〜
でも、愛は盲目、人は見かけによらない。
彼女は、容姿だけが好みの貧相な女の子だった。
気持ちの部分で “が〜ん!” な事にショックを受けた。
まだ3年の不良先輩の方が気持ちの部分で良識が強かった。
つまり人間の良心性ってやつ、
ぼくの夢と、純情と、初恋と、お前に費やされた時間を返せ〜!
○○年05月△△日
初恋の彼女にとって自分の好感度は、同級生の中で “中の上” だったらしい。
そして、家で飼っている愛犬 “タロウ” 以下。
好感度が最低でないことが嬉しいよ、で、
犬のタロウ以下の悲しい現実だった。
盲目の愛に敗れた男は、次の一歩が踏み出せない。
人間の負の魂は、喰命鬼にとって嫌悪感が強過ぎる。
映画に出てくる吸血鬼が家族にならないのも分かる。
そう、外見重視でなく心情重視に価値観が変わる。
御馳走だと思った寿司が古くパサパサだったのに近い。
初恋の彼女とのデートは、白け気味で冷めた感じだった。
でもまぁ 繭の部分で目を瞑ればよく、って、瞑れないぜ!
嫌悪感はあったけど、人けのない処であんなことやこんなこと、
それなりに楽しめた。
同級生男子は、羨望のあまり、歯噛みすることだろう。
とはいえ、もっと人を見る目を育てよう。
というより、使い魔となった初恋の彼女に命令し、
精神的な負の部分をどうにかしようと思ったりする。
○○年05月△△日
体育会は、卒なく始まり卒なく終わっていく、
そういえば、ボクシングをやっていることが知られたのだろう、
3年の不良に虐められなくなって、学校を楽しめるようになった。
さらにアイドル系の初恋の彼女と、悪友の二人を味方にしているので、
教室の中でも虐められる可能性が減っている気がする。
まぁ 元々 そういう露骨ないじめがあるクラスでもなかった。
しかし、強面な同級生が数人いる。
いわゆる、御近づきになりたくないタイプだ。
あまり目を付けられないようにしよう、
○○年05月△△日
どうやら、使い人は、人数制限があるらしい。
7人。
これが自分の把握できる最大個体数のようだ。
彼女2人、ボクシング関係が4人、同級の悪友1人の計7人。
やれやれ、便利なようで不便だ。
いらないと思ったら、しばらく放置すれば3週間ほどで絆が切れ、
切れた後は、惰性的な関係が続き、支配下にあった事を忘れる。
本人にしたら、どうしてあんな事をしたのだろうという気分らしい。
とはいえ、あまり露骨な命令だと、まずい気がする。
自然とそうするように仕向ける方が良いだろう。
○○年05月△△日
喰命鬼なれてよかった。
有意義な中学生活を送れている、
しかし、考えなければならないこともある。
寿命150年。さらに殴られたら、さらに延長が見込めるのだ。
というか、老化も押さえられそうな気がする。
何かしら手を打たなければ、100年も経たず、自動的に妖怪にされてしまう。
自分の様な仲間はいないのだろうか。
社会はこれまで、自分の様な人間を妖怪と呼び、
日蔭の世界に追いやられてしまった隠れた歴史があるのではないだろうか、
何とかしなければ・・・
そうだ。30歳くらいになったら、崖から身投げしたことにして、第二人生を送ることにしよう。
まだ先のことだけど、
というか、自分の仲間はいるんだろうか・・・
○○年05月△△日
使い人7人に勉強させたせいか、自分の頭もよくなってくる、
いやはや、もっと新聞とか、専門書を読ませてやろう。
頭の悪そうな7人に勉強させるなんて、俺って、いいやつ、
と言いつつ、自分は、楽をしてるのだ。
しかし、問題は、彼女2人を抱きしめるとき、いまいちなのが気に入らない、
なぜなら、抱いているのが、おれだからだ。
このゲンナリな吸血鬼な感覚、普通の人は、わからないだろう、
あいつらが増えない理由がわかったよ。
そうだ、支配しなければいいんだ。
だとしたら、もっと自分をカッコしないと・・・
たまには、自分も勉強して、体も鍛えるか、
○○年05月△△日
やっぱり、自立する方向性で行こうと思う。
ボクシングもいいが、悪友発案の手品がいいだろう。
なにせ、彼女や悪友が見たモノが分かるのなら、種も仕掛けもない大型手品ができた。
なので、○○年05月△△日は、僕の独立宣言の日。
初恋の彼女がネットで調べたマジック・バーに行って、手品を披露。
しかし、残念ながら持ちネタが少ないうえにエンターテイナーがなく、
中学生は駄目なんだと、
エンターテイナーってなんだ。
ムカつく。
むしろ、初恋の彼女が手品師で自分がアシスタントなら考えてもいいんだと、
もう、コロス
あと、種を買うとか、ていうか種も仕掛けもねえ!
○○年05月△△日
独立戦争は、八方塞のまま、過ぎていく、
中学生というだけで独立を許さないだと、アホかと。
とはいえ、7人分の気力は萎えることなく持続していた。
なにも考えなくても、7人分のアイデアが浮かんでくる、
ボクシングジムの4人がいるなら、カツアゲが金になりそうなのだが・・・
それならボクシングがましだろうか、
しかし、性格的に向かない、
中学生は、真っ当な方法で金を稼げないようになってるらしい、
とはいえ、マジックバーを5軒も回ると人脈になり、
そのうちの一軒から、5日後、代理出演で一芸を披露することになった。
あと、一つだけじゃ間が持たないから、他にも芸を考えとけ、だと、
使い人どもに手品のネタ探しをさせる、
○○年05月△△日
“探さないでください”
自分探しの旅に出たくなる今日この頃、
そう、人は、自分を見つめ直したい一過性の症状に蝕まれるものだ。
元ヒトの喰命鬼も、そう思っていい権利があるはず、
とはいえ、先立つモノがないので、公園をぶらぶら・・・
当然、自分探しなのだから一人だ。
まったく、国は、思春期の子供のため、小指一つ動かす気がないのだろう。
人気取りの集票のことしか考えられないとは、嘆かわしいことだ。
しかし、自分探しの旅は “孤独” だ。
そして、孤独は、どこまでいっても変化のない孤独になる、
虚しく時間だけが流れていかねぇ〜!
喰命鬼の使い人7人の14の目、14の耳から情報と刺激が刻々と流れ込む、
喰命鬼は、一人になれないことを悟った。
○○年05月△△日
初恋の彼女とマジックバーに行って、技を3つ披露する、
3つとも趣向を変えたものだが、
自分が見たモノを見栄えの良い初恋の彼女に伝え、応えさせるものだった。
早い話し、彼女が手品師で、自分が助手。
がぁ〜ん! ツッー (涙・・・
その方が手取りがいいのだからと妥協する、
もっとエンターテイナーな容姿に生まれたかった。
そして、報酬××××円を貰う。
わーい! わーい! わーい!
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月夜裏 野々香です。
悶々とした健康な中学一年でしょうか、
記憶を辿って当時の気分を出してます。
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