月夜裏 野々香 小説の部屋

    

喰命鬼の日記

   

 第03話 『中学一年 春の陣 六月』

 ○○年06月××日

 永遠に続きそうな時が無為に流れる、

 教師は、キャベツ畑を見ているような表情で黒板に何かを書き、

 事務連絡をだらだらと・・・

 スケジュールと、型にハマったマニュアル教育が転がっていく、

 教師は生徒を見ておらず、生徒も教師を見ていない、

 内容を理解できない生徒を置き去り、

 これほど苦痛なことはない、

 教師は、いつから自分の魂を伝えることより、

 押し付けられた知識を伝える振りをするようになったのだろう。

 生徒は、いつから生きていくため思想を渇望し、

 生きる力になる知性、情感、意欲を求めなくなったのだろう、

 ベルトコンベアに載せられた生徒の集団がメッキの様な履歴を受け取って社会に押し出されていく、

 教師は事勿れに流され、

 生徒たちも漠然とした支配の中で、内輪揉めするか、埋没していく、

 喰命鬼になって、教室を見回すと、とても狭く感じ、

 そういった光景が見えてしまう。

 なにもなかったような気持ちで、四角い養鶏場の中に戻れたら・・・

 

 

 

 ○○年06月××日

 初恋の彼女を手品師にしたのが良かったのか、またしても依頼が舞い込む、

 わーい わーい

 でも彼女が主役で、自分が助手なのが心なし侘びしい、

 とはいえ、彼女が花になるのは確かだ。

 4つのパターンで、自分が見たモノを彼女に伝え、手品が終わる。

 ベテランのマジシャンは、興味深々で種を探っているらしいが見つけられていないようだ。

 当然と言えば当然、種などないのだから、

 しかし、他にもネタを考えないと、

 店長にマジックアイテム店の場所を聞いて買い物に行く、

 数と文字当てだけでは、この世界では駄目ってことだろう。

 報酬は××××

 わーい わーい

 それにしても、自分の不器用さには呆れる、

 カード捌きは、彼女の方が筋がいいようだ。

 ますます日蔭者  (泣き

 

 

 ○○年06月××日

 マジックショーの依頼は、まだピンチヒッターだった。

 なので、普通は、ボクシングジムだ。

 まぁ 体を鍛えることは、悪いことじゃない、

 性格的な適性は低くても、

 4人分の経験と蓄積を得られてるので若手のホープらしい。

 しかし、殴られても限度以上は、寿命が伸びないし、

 殴っても支配できる人間は、7人以上増えない、

 なんか、不毛な気がする。

 

 

 ○○年06月××日

 3年の瓜生ヒトミから電話、久しぶりにデートの誘いだ。

 こっちで働きかけて、かけさせたのだけど、

 その方がモテる男を演出できて気分がいい、

 というか、彼女は自発的にそうしてると思っているのだ。

 これが喰命鬼と使い人の関係だった。

 初恋の彼女、紀川エミは、何となく敬遠、

 実のところ、顔じゃなくて、繭の綺麗さで選んでる。

 自分の繭の方が綺麗ってこと、

 なんとなく、他の同級生の女子で試してみたい気がする、

 クラスで一番綺麗な繭は誰だろう。

 そこまで、目が養われていない、

 ごっつん! して、一人一人試してみようか、

 いや、それやると変態にされそうだ。

 喰命鬼なのに小心者だ。

 しかし、ボクシングの野郎どもより、ハーレムの方が良いに決まってる。

 女子の候補を書いておこう♪

 帰り際、瓜生ヒトミとキス。

 ちなみに自分の身長は152.5cm、瓜生ヒトミ156.8cm、紀川エミ152.0cm、

 4cm負けてる〜

 

 

 

 ○○年06月××日

 学校が終わると、バイトに行く、

 正確には、請負業でバイトと趣きが違うらしく、探偵業に近い感覚になる。

 色褪せた初恋の紀川エミは、マジックショーに馴れつつある、

 客と伝言ゲームをすると、

 途中がどうなっても、最後に答えを合わせることができた。

 客に自分と彼女の間で無線機があると、身体検査をされた。

 そんなものはない (笑

 店長に面白くないモノを面白くするエンターテイナーは、いま一つと言われた。

 見栄えのいい彼女でさえそうなのだから、

 それは、プロフェッショナルとアマチュアの差のだろう。

 しかし、客の間で評判になってる気がする、

 報酬××××

 わーい わーい わーい

 

 

 

 ○○年06月××日

 アニメ、特撮を見てると思うことがある、

 徒党を組んで正義、友情、勝利をやらなければと・・・

 しかし、現実の話し、悪らしい悪は滅多に現れない、

 むしろ徒党を組んでる方が悪っぽい事をしているように思えた。

 特撮モノのわかりやすい悪が現れたら、さぞ楽しいだろう。

 正義も相対的なもので、悪が生じない限り正義が現れることはない、

 そして、権威に媚び諂う多数派が正義なら、少数側、孤立は悪だ。

 金持ちの側に付くことを正義というのなら、貧乏人は滅ぼすべき悪になる、

 喰命鬼で、貧乏な自分は、悪になるのだろうか、

 権威に付くか、拝金に付か、決めるべきだろうか。

 それ以外の選択肢は、あるのだろうか、

 牧羊犬に追われ、狼に狙われる羊の群れの一匹なのだろうか。

 とりあえず、喰命鬼は、羊の皮を被った狼の心境になってる気がする。

 喰命鬼だからといって、自動的に野心が備わるわけでもなく、

 本当に悪かというと、特撮モノの悪の様な真似はできない。

 いや、恥ずかしい (笑

 そして、正義が現れるのだろうか。

 むしろ、長いモノに巻かれ、悪と癒着して、朱に交われば紅くなる気がする。

 

 

 

 

 ○○年06月××日

 今日は、別のマジックバーから依頼が来た。

 ピンチヒッターだ。

 やっぱり、顔を繋げておくのは正解だ。

 あったこともない人間に連絡を取るのは、難しいからだ。

 そうだ。後、2、3店、顔を繋げておこうか。

 最近、トランプモノのマジックを一つ覚えた。

 でも、先輩のマジシャンと被らないようにしないといけない、

 しかし、ありふれたマジックがエンターテイナーひとつで引き立ち、

 面白くなるのだから、わからないモノだ。

 とはいえ、プロに交じると、子供だからという甘えは、消されてしまう、

 自分と7人分の視野と頭脳を結集しても自分の芸で精一杯、

 店長、先輩マジシャンにフォローされることはあっても、

 人をフォローする余裕は全然ない、

 社会は、厳しい現実だ。

 

 

 

 

 ○○年06月××日

 人間、能動的になると、生きてる気がしてくる。

 ボクシングと手品、

 いまのところ、中途半端ながらどちらも可能性だけは開けてる、

 喰命鬼だから (笑

 しかし、なんとなくボクシングは、上限一杯で健康維持だけでいい感じ、

 野蛮だから、やめたい気でいる、

 そして、手品は脇役 (涙

 勉強は心もとない、

 残念ながら7人とも頭がいい方じゃない、

 ボクシングジムの4人は高校生なのに中学一年の問題を梃子摺ってどうする、

 生徒が減って、学校が潰れそうなのだろう。

 何とも、言い知れないモノが子供の大事な何かを削いでるような気がする、

 自分が天然記念物級の異端だと、

 自分以外の異端の可能性を否定しきれなくなるから怖い、

 ありふれた社会に誰も知らない恐ろしい秘密が潜んでいる気がする。

 でも同類とは、出会っていない、

 

 

 

 ○○年06月××日

 ときどき接触しないと切れてしまうのは、煩わしくもあり、

 割り切れていいような気もする、

 一番いいのは、肉体同士の接触で、相手が女の子はいいとしても、男同士は却下、

 二番目は、頭同士のごっちん! いろんな意味で、頭いてぇ

 三番目は、殴ることだろうか、気が進まない、

 四番目は、そばにいることだろう。

 なので事故で使い人にした悪友の志波ケイイチとプラプラと街を歩いた。

 性格とカテゴリーは違うけど、クラスの評価と階層は自分とそう変わらない、

 強制的な感じで不自然なのだが、いまでは、気心知れて仲良くなっていた。

 何というか、女の子は女の子でいいのだが、

 男同士でつるむのも悪くないのだ。

 とはいえ、もっと、良質な使い人はいないかと物色中でもある。

 制限人数は7人なので、もっと性格が良くて美人で頭のいいのが好みなのだが・・・

 これが賭けなのだから問題といえる、

 当然新しい使い人を選ぶと、一番薄れている使い人と切れてしまう。

 選択肢は広げたいけど

 何かを得るため、何かを捨てる取捨選択も人の道かな。

 しかし、よさそうな人と擦れ違っても、機会がないのが最大の問題だった。

 まったく、世の中は、消極的で小心な者に冷た過ぎる、

 少年は傷付いたぞ。

 

 

 

 ○○年06月××日

 以心伝心は、悪くない。

 特に誰かに勉強させながら、テストを受けられるなら、最高だろう、

 頭が悪い人間でもそれなりの点数になってしまう。

 しかし、もっと頭の良い人間と以心伝心になりたいものだ。

 教科書と参考書を読みながら8人がかりで、この点数は、ちょっと、おバカ。

 ところで、教室の有力者7人と、ごっつん! すれば、教室を支配できると思いつく、

 でも却下、

 サル山の教室支配も、同級生を侍らせてのハーレムも、いまのところ、眼中にない、

 独立戦争は、始まったばかり、

 不定期のピンチヒッターのマジックショーの収入では自立できるわけもない、

 世知辛過ぎるぜ、世の中は・・・

 

 

 

 ○○年06月××日

 彼女がいると幸せかというと、実はそうでもない、

 2人いてもそうなのだから、世の中淡白にできている。

 恋愛をすっ飛ばして、いきなり、支配したのがいけないのか、

 普通の恋愛をしてみたいものだが、何となく、切っ掛けがない、

 出会い系をやってみようか。

 店長の話しだと、やってるのは、Web管理してる人間だけで、

 出会ってやったぞ!

 とWebをUPしてるのも集金できて自由に連絡をとれるオイシイ管理者だけだそうだ。

 自作自演で自分だけ良い思いかよ!

 ていうか、金と女が手に入るんなら出会い系管理やりてぇ!

 

 

 

 ○○年06月××日

 そうだ! 以心伝心で伝えられる人間が7人もいるなら宗教ができそうだ。と思った。

 しかし、どうやるんだろう。

 思い付いてもアホな高校生の知性が上限だと、そこに至るまでの道筋とノウハウが乏し過ぎる、

 そういえば、自分は廚二病にも至ってないのだ。

 3人寄れば文殊の知恵というが、アホが8人いてもアホが8人が世の中らしい、

 母がクイズ番組の問題をサクサクと解いてる光景を横目で見ながら思ってしまう。

 こうなったら母を・・・やめた。

 

 

 

 ○○年06月××日

 そういえば日本アマチュアボクシング連盟の大会が7月にあるらしく、

 高校生の4人は、それぞれの高校から出場する。

 まだプロボクシングに行く決心に至ってないようだ。

 まぁ 自分も痛いの嫌だが・・・

 よくよく考えると、自分が成功しなくても4人のうち1人がプロで成功しても大きいのだ。

 なんにしても、手品師を紀川エミに譲ってしまったとき、おれの心は折れた。

 支配権さえ確立できているのなら、自分が主役でなくてもいいのだと。

 人類は、近代化するほど人が矮小化して、英雄がいなくなる気がする、

 ど〜んより

 ボクシングは、相手と直面しないとわからない世界もあるのだが、

 四方を囲んで応援させ、自分がセンターになって支援すると、

 客観的な視点で戦えて、才能以上の力を発揮できた。

 4人とも主観・客観と両方の視点が得られる利点は大きく、順調に勝ち進んでる、

 

 

 

 ○○年06月××日

 今日も瓜生ヒトミとデートだ。

 しかし、向かい合って座っても、相手の側から自分の姿を見えている感じは、何とも妙だ。

 これは喰命鬼だけの特権らしく、彼女はわからない、

 とはいえ、死角がほぼなくなる、

 そして、八方向が頭の中で同時並行に展開されていた。

 この光景と感性は、ピカソでも表現できないだろう。

 8人には、こちらが指示を出すこともできるが、

 自分の意思でそうしていると思い込んでるのがミソだ。

 もっとも面倒なので勤勉以外は放置している。

 とはいえ、同位体というのだろうか、

 近似観が過ぎて、御姉さんといる感じになってしまう、

 普通の恋愛をしてみたいものだ。

 それにピンチヒッターは、不定期過ぎて収入の見込みが立たない、

 やっぱりボクシングに賭けるか、

 でも痛いからやめて、手品だな。

 このまま資金繰りがつかないと、不死を誤魔化せなくなって人体実験だ。

 もっと、喰命鬼の才能を生かした独立戦争をしなければ・・・

 つか、もう少し御金が貯まったら彼女二人とホテルに行こう。むふっ♪

 でも彼女二人の前で裸になるのって超ハズカシィ〜

 ていうか、自分の裸も彼女の立場から、自分で見えてしまうのか。

 なんとなく、微妙過ぎる。

 

 

 

 ○○年06月××日

 使い人に勉強を強制させているせいか、賢くなった気がする、

 やっぱり、馬鹿でも、1人1時間でも、7人にやらせると1時間分で7時間になる、

 同時並行システムに比べたら、孤立人の進歩の遅いこと、

 ていうか、クラス1位といい勝負って、こいつも人間じゃねぇ!

 話してみると、なにぃいいいい〜!!

 高校2年の教科書と参考書を読んでるそうだ。

 もう、十分、モンスターです。

 ていうか、こいつと、ごっちん! してえ!

 機会があったらそうしよう。

 そうそう、同類にあったら喰命鬼の “ヤツメ” と自己紹介しよう。

 それとも妖怪 “ヤツメ” がいいだろうか、

 だんだん、気持ちが人間離れしてきた。

 早くに人間に戻り・・・たくねぇ!!! (笑

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 喰命鬼の妄想生活です。

 

  

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第02話 『中学一年 春の陣 五月』
第03話 『中学一年 春の陣 六月』