月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

 

第37話 1977年 『逢 着 (ほうちゃく)』

 オアフ島沖

 70000t級空母ユナイテッド・ステーツは、世界最大最強の空母だった。

 圧倒的な海上航空戦力を誇示しながら風上に向かって西進していた。

 9560t級カリフォルニア型原子力ミサイル巡洋艦が左右を固め、

 F14トムキャットが離着艦訓練が繰り返していた。

 艦橋

 アメリカ海軍将校たち

 「これでようやくCF105Jアローに対抗できる」

 「どうかな。アローのECM・ECCMは、フェニックスミサイルを回避できるかもしれない」

 「それに機体をステルス型に成形する噂もある」

 「あんなでかい機体をか?」

 「元がでかいから凹ませても構わない考え方もできるよ」

 「最新情報だと、デルタ翼の底辺を斜めに切り込んで菱形翼に変えるらしい」

 「翼面積が減っても機体を凹ませて軽量化できるから、総合で向上する」

 「随分な改造だな。新型機を開発すればいいのに」

 「予算がないんじゃないのか」

 「予算ね。日本がチタンや複合素材を安く生産しているのが納得できんよ」

 「日本の山師は世界一だからな。たいてい、一発で掘り当てる」

 「アメリカ合衆国の中小資源開発は日系人に押さえられつつある」

 「当然、なにを作っても原価は下がるさ」

 「たぶん、同盟に機体の一部を払い下げながら段階的に切り替えて行くだろう」

 「日本のCF105Jは、チタン化が進んでいるから同盟も好むだろうし」

 「30年もしたらCF105Jは、まったく別モノになるだろうな」

 「エンジンは?」

 「イギリスのロールス・ロイス コンウェイエンジンをさらに改良するか」

 「新型エンジンに換装するかもしれないな」

 「だれだ。日本にCAD教えたの」

 「CADの差かもしれないが、日本が設計通り製造できるのが不思議でならんよ」

 「じゃ 性能比が縮まらない可能性もあるわけか」

 「どちらにしろ、日本は、国力の割に戦力を低く抑えているようだ」

 「というより、影で戦力を揃えてないだろうな」

 「それでも10パーセントは超えないだろう」

 「だといいがね」

 「それとソビエトがSu27を開発した噂もある」

 「強力なのか?」

 「情報を集めているらしいがF14より強力かもしれないな」

 「前途多難だな」

 「それより、未確認の飛行物体が西太平洋から大気圏外に飛び出したと聞いたが?」

 「ドイツ宇宙省の情報だと、円盤状のUFOらしい」

 「信憑性はともかく、ドイツ宇宙局は、本気で調べてる」

 「日本は宇宙船を持ってると?」

 「さぁ ドイツのジーンリッチと日本の魔法使いの戦いかもしれないな」

 「ジーンリッチ技術は、アメリカの富裕層も利用してるがね」

 「アメリカの地下資源も掘り当ててるのが日本の魔法の正体かもしれないよ」

 「いまじゃ アメリカの日系資本も相当なものだそうだ」

 「しかし、あまり黒い噂を聞かないな」

 「町レベルの名士がほとんどだし、マフィアの介入も不思議とかわしてるらしい」

 「なんで?」

 「まぁ マフィアも人の親、人の子だからね」

 「自分の子供が事故で死んだり、病死したら、日本人をアンタッチャブルにするだろうよ」

 「魔女狩りが起きても日系人を外すだろうな」

 「やっぱりインチキをしてると?」

 「さぁね。基本的に真面目で働き者だし、一般はインチキに頼っていない」

 「日系アメリカ人は有益な人種でもある」

 

 

 

 偏った民族主義は、国家の枠組みを狭め優劣の本質を見誤らせて国益を失わせる、

 偏った国粋主義は、交易を阻害し、国民の暮らしと人権を置き去りにする、

 偏った権威主義は、人々の精神を捻じ曲げ、陰湿に媚びさせた。

 旧世界の階級制度で形成されたコミュニティと、因習で綴られたアイデンティティであり、

 すべからく否定するモノでないものの、

 新世界は、そういった因習から逃れ、

 新しい社会を形成する余地があった。

 アメリカ合衆国は、独立当初、民族的なアイデンティティも、国民が共有すべき歴史もなかった。

 しかし、憲法によって人権を保障し、

 民主主義と自由資本主義を旨としていた。

 時代は、封建社会の瓦解期であり、

 人々は、既得権の圧政に苦しみ、

 信教の自由と人権を最大限に保障してくれる国家へ雪崩れ込んだ。

 アメリカは人種、言語、宗教の枠組みを越えて人々を集め、

 西部開拓で国土を広げ、

 南北戦争で内戦を経験しながらも大陸国家を形成していく、

 それが民主、自由、平等のビロードで飾られた資本主義であったとしても、

 1898年、世界第4位の国土面積(937万2615ku)と世界有数の資源を有し、

 増大する人口は、欧州諸国の総力を凌駕する可能性が秘められていた。

 第一次世界大戦でアメリカは、補助的に参戦することで同盟国の戦意を後退させ、

 連合国の戦勝を確実なものにさせた。

 1929年は、世界恐慌の発端ともなる経済力を持つに至っていた。

 第二次世界大戦、アメリカは不参戦を装いながらもレンドリースは大戦の帰趨を左右していた。

 1977年には、人口2億を抱え、

 貧富の格差は、実力と能力を持つ者には莫大な見返りを保障することであり、

 世界中から知識層、富裕層、有力者を集め、

 世界有数の巨大産業がひしめかせ、莫大な富を作り出していた。

 そのアメリカ合衆国最大の懸念は国防でなく、

 資本家と労働者の対立だった。

 ピラミッド階層が大きいほど賃金格差も広がる、

 欧州大戦で不参戦だったアメリカ国民は戦友という絆もなく、

 一体感とアイデンティティが乏しく、

 人種差別撤廃運動は、血で血を洗う抗争劇となり

 労働運動も日増しに増大していた。

 国内市場は開拓されつくし、

 新たに市場を開拓するか、資産を再分配するか、既得権同士で潰し合うしかなかった。

 アメリカ合衆国の資本家層は、労働者の賃金闘争に耐えかねていた。

 所得税で貧富の格差を縮めれば魅力を無くした富裕層・知識層が祖国に帰還する。

 無論、連邦準備制度(FRB)が介入し、

 世界恐慌と引き換えにドルを回収することも可能だったものの、

 国家的な産業停滞は、致命的な事態になりかねず躊躇し、

 国外で都合のよい生産拠点を求めた。

 人権と権利主張ばかりの不良不遜不信な同国人より、

 赤の他人の方が扱き使え、御しやすかったのである。

 そして、アメリカ資本は巨大な賃金格差を維持したまま、

 何の責任も持つことなく人材を取捨選択し、

 生産を支配し消費と言論を操作を行い、中規模の国王の様な生活を送ることができた。

 それは、極東権益地という巨大な踏み台が存在していたからといえる。

 アメリカ合衆国の建国理念は “自由、平等” という名のオブラードに包まれていた。

 しかし、極東権益地では、

 “自由資本の自由資本による自由資本のための政治” と陰口を叩かれ、

 露骨な拝金主義社会が形成されつつあった。

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島

135万2437

   
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 1.02 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 アメリカ極東権益地 (満洲+半島 135万2437ku)は、アメリカ資本主義の牙城、

 極東自由州(Far East freedom state)とも呼ばれ、

 法人税が少なく、列強企業の進出も可能になっていた。

 中国大陸で最も繁栄し、英語が語られ、ドルが流通し、

 アメリカ資本の象徴である摩天楼が主要都市に建設され、

 人権を無視した再開発が繰り返されていた。

 日本人や台湾人を中間管理職に置いた体制を構築し、

 日本の労使関係と、似て非なる強制された労働社会が作られていた。

 極東権益地は、アメリカ合衆国連邦準備制度(FRB)からドル札を購入しなければならず、

 その支払いのため労働と生産品をアメリカ本土に提供し続けなければならないかった。

 無論それは、アメリカ合衆国も同様だったものの、

 極東権益地は、返済の利率が上乗せされ、

 さらにアメリカ国債を大量に押し付けられていた。

 アメリカ社会が生産と消費の牧畜社会だとしたら、

 極東権益地は、養鶏生産工場型社会だった。

 アメリカ極東権益地を51州と呼ぶ者は多い、

 しかし、州昇格は、アメリカ人の市民権と人権を認めると同じであり、

 生産効率の根底が崩壊する。

 権益地のアメリカ資本も税金を取られる、

 そのため、ロビー活動を繰り広げて植民地扱いを継続させ、

 他の中国七軍閥より不正腐敗が少なく、

 近代化して住み良い利点を利用し、属州を維持することができた。

 もっとも、中国七軍閥の不正腐敗が減少し近代化が進むと、

 労働条件で妥協を強いられ、体制的な限界が近付いていた。

 

 ハルピン

 日本の建設会社社員たちがスラム街を見下ろす高台に立っていた。

 「日本の受注が増えたな」

 「四国沖のメタンハイドレート開発で日本の建設費が上乗せさせられると焦ったんだろう」

 「日本の弱点が減って、ぼったくられると思われたかな」

 「白人世界は優勢だし、そこまで傲慢にならないと思うけど・・・」

 「メタンハイドレートの最下層からの引き落とす採掘法は、崩れ落ちると怖い気がするな」

 「下から抜いてもメタンハイドレート層の地盤がゆっくり沈下するだけだろう」

 「だといいけど」

 「しかし、日本だけ、石油燃料からメタン燃料移行は、初期投資で冒険だな」

 「将来性を考えるならメタンエネルギーでの先行投資も悪くないさ」

 「結局、ディーゼルを改良したモノにするのか?」

 「さぁ メタン燃料を利用するエンジン開発が増えるだろうな」

 スラム街から銃声が聞こえる、

 「・・・摩天楼が高くなるほど銃声も増えてる」

 「搾りかすのスラムは増加傾向らしいからな」

 「スラム街でも貧富の格差が作られてたりしてな」

 「ふっ 朝鮮系に関していうなら自業自得だよ」

 「自己主張とやる気だけは凄まじいがね」

 「エゴイストだから若い芽を摘み取って踏み台にしても権威を保とうとするし」

 「派閥を作って多数派工作で聖域を作ろうとするし、自分より無能な人間を後継者にするし」

 「節目のたびに生産は劣化して行き詰るし、生産より収奪に向かう」

 「日本人も似たところがあるが、産業を衰退させるまで酷くはない」

 「まるで政治家みたいじゃないか」

 「ふっ トップに立たせると産業が潰されるから、アメリカ企業群じゃ朝鮮系の出世は制限されてるらしい」

 「アメリカ社会も懲りたらしいな」

 「元々アメリカ自由資本主義の思想と小中華思想の朝鮮系は合わないよ」

 「しかし、抱え込んでしまったのだから、後の祭りだろう」

 「だけど極東権益地の資本統制は、アメリカ本国以上だ」

 「日系人は?」

 「ほとんどが、あそこの中高級住宅街だな」

 「低級住宅街は、中国・朝鮮系労働者か。反米運動は?」

 「軍閥諸国より条件がいいらしい」

 「計算付くとはいえ、上手く取捨選択して淘汰してやがる」

 「見せかけの自由ってやつか」

 「というより、資本が自由力なのさ。才能と金がないと不自由だ」

 「才能を生かす道があるならいい方だろう」

 「日本じゃ 既得権と序列に才能が殺される」

 「単一民族ムラ社会の日本じゃなかなかできないよね」

 「人種も祖国もバラバラじゃ ムラ社会を作れるだけの一体感もないのだろう」

 「極東権益地で働いてる日本人は、アメリカナイズされてるらしいけど」

 「日本は、しがらみと組織に雁字搦めで、本心の自由を失ってるからな」

 「自分の意見を自由に闘わせられるアメリカ系社会は魅力があるよ」

 「だけど、アメリカの田舎は、結構、排他的らしいよ」

 「何世代も住民が変動しなければ、そうだろうけど」

 「しかし、極東権益地は、独立させないつもりかな」

 「むしろ、多国籍企業を誘致して、極東企業国家連合にする趨勢だと思うよ」

 「それで、ディズニーランドをハルピンにするか、東京にするか、決まってないわけか」

 「中国大陸中から集客が見込めるなら大陸に置きたくもなるよ」

 「しかし、アメリカサイドは、ごねてるらしい」

 「最終的には、ハルピンと東京の2ヵ所になる可能性も高い」

 「なんで? リップサービスか。最初から日本に置く利点はないだろう」

 「まぁ 日本の魔法がどうとか・・・」

 「ふっ 馬鹿らしい」

 

 

 バラックが積み上げられただけの路地裏は狭く、

 生活品ともゴミともつかないモノが溢れ、逃亡者を迷わせ、追っ手を苛だたさせていた。

 障害物の隙間を駆ける少年の右脇を銃弾が掠め、

 咄嗟の判断で積まれていた段ボールを倒し、追っ手の目を逸らせ、

 掴んだビール瓶を飛び込んだ廃屋の逆の廃屋に投げ込んだ。

 不意の沈黙、

 少年は追っ手は用心深く迫る足音に聞き耳を立て、

 銃弾で穴の空いた服を弄ぶ、

 生体素粒子の消耗を最小限にとどめるほど、弾道の逸らせ具合は小さくなっていく、

 彼らの生体素粒子の使い方は無理、無駄、ムラが多く、

 生体素粒子と寿命の関係に気付いていない、

 あるいは、統計が取れているところまでいってない、

 “野火君。見つかったんだって?”

 『CIAの対魔部隊は、特殊な地場を作って、召魂術を乱してるし』

 『古今東西の伝統的な法術を取り入れて滅茶苦茶だし』

 『力を持つ人間も何人かいたから、最深部にまでいけなかった』

 “ハルピンの対日諜報機関は伊達じゃなかったわけだ”

 『といより、馴れないことはするもんじゃないね』

 “しょうがないよ。ガイアに大量移民させて、人員不足に陥ってるから”

 “それより、アメリカ警察が厳戒態勢に入ってるけど”

 “そっちは、ヤバい状況かな?”

 『基本的に原始的だし、魔法の杖もないから、それほどでもないよ』

 『だけど、最深部の魔女は常人の10倍くらいだった』

 “日本人なら第一級の魔法使い候補だね”

 『生体素粒子を露骨に使って、追っ手を誘導してるし。追っ手は銃まで持ち出してる』

 『どうやら、本気で捕まえる気だな』

 “いま、そっちに向かってるけど。合流まで30分くらいかかるよ”

 『頼むよ。知識量と魔法の杖の装備は勝ってるけど、相手は3人』

 『1人でもやれないことないけど、寿命消費を考えるとまともに相手したくない』

 “同感だね”

 『できれば荒事は避けたいけど、追っ手の生体素粒子は、ほぼ同じか、向こうが大きい』

 “よく揃えたもんだ”

 『アメリカも必死だね』

 “らしいね。いま、殺人犯を封鎖する検問を通過した”

 『殺人?』

 “野火君は殺人現場を見て、犯人から逃亡中らしい、証人だね”

 『見てないよ。というより狙われてる当事者だけど』

 “警察を動員して道路を封鎖する口実なんだから、何だっていいんだよ”

 “保護してしまえば、どうにでもなるからね”

 『やれやれ』

 “だけど、アメリカも超常部隊編成だとやり難くなりそうだ”

 『拷問は嫌だな』

 『準魔法使いだけじゃなく、下位の魔法使いも後方に下げた方がいいかも』

 “まぁ 魔法使いの適性に拷問に堪えるはないね”

 『拷問されるくらいなら寿命削って逃亡するけどさ・・・』

 数人の男たちが壁の向こう側に集まった。

 「応援は?」

 「周辺を警察に包囲させた。応援はライアンとジミーを急行させている」

 「警察に見つかると面倒だぞ」

 「手は回したよ。ほら」

 CIAのジャケットが放られる。

 「だけど、テレパスのレイジーが見失って、誘導が途切れた」

 「やっぱり、日本の魔法使いが上か」

 「だけど、動物を使った諜報とは、随分と間接的な方法だな」

 「CIAの聞き耳ネコちゃん計画は失敗したんだけどな」

 「魔法使いが使う猫と、機械的な盗聴は、根底から違うよ」

 「少なくとも間接的な方法は、発覚し難い利点があるからね」

 「あるいは、そっちの技術が進んでいるかだ」

 「本部は異世界扉が本当にあるのなら、何としても確認したいそうだ」

 「つまり、日本の魔法使いは、何としても捕まえないと・・・」

 「しかし、子供だとやり難い」

 「子供でも油断するな。本気になったら心臓を止められるぞ」

 壁のこちら側

 『そんなことするか。どんだけ、生体素粒子が破損すると思ってんだよ。無知が』

 “捉えた。鳥に襲わせるから上手く逃げてくれ”

 『わかった』

 ヒチコックの鳥のような光景がはじまる。

 カラスの群れが追っ手を強襲し、

 追っ手は、テレキネシスの様なもので、鳥の攻撃をかわす。

 意識が散漫になったのを確認すると、野火はスラムを抜け、

 『警察か・・・』

 路地を出ると2人の警察が手配書を見ながら辺りを見渡していた。

 一羽のカラスが通行中の女性を襲うと警察官二人は慌てて駆け付け、

 その隙に野火は、仲間の車に乗り込んだ。

 「急ごう。検問は校外に広がってるから急がないと、二重三重にチェックされたら面倒だ」

 「魔女の写真は撮ったよ」

 「へぇ 20代の白人女性か。ポーランド系か・・」

 「あれは、あった? 魔法の杖?」

 「いや、最深部を確認できなかった」

 「じゃ 保有は不明か」

 「あっても、モーセの時代の代物だろう」

 「耐久年数と容量は、ピンキリだからな」

 「だけど、日本の魔法使いのせいで、列強の超常研究が進んでる感じだな」

 「本来バケモノ扱いされて排斥されて疎まれる超常者が、国の保護と全面バックアップ」

 「それは、日本のおかげなんだぞ」

 「感謝されこそすれ、日本に敵意丸出しなんて酷い」

 「いいよ。その方がこっちの値打ちが上がるし、日本に魔法の杖がある限り優勢は変わりないよ」

 「もっとたくさん欲しいけどね」

 「扉が開かない限り無理かな」

 

 

 大河を挟んだ荒涼たる大地に陽が沈む

 天と地の狭間が紅く照らされていく光景は圧巻で、

 目を背ける者は一人もいない、

 例え、近代的な摩天楼から、地の果てに飛ばされたとしても、

 焼き付けられた記憶は、変えがたい宝として一生残った。

 荒漠とした山川草木(さんせんそうもく)な自然の只中にいるものの、

 ウスリー(黒竜江)川の対岸はソビエト領であり、

 亡命に絡んだ銃撃戦は数十回を超えていた。

 互いの敵意と悪意は、空気の中に溶け込み、

 米ソ両軍は川を挟んで緊張関係のまま睨み合っていた。

 アメリカは30年掛け、国境線の手前に幾つも要害を造成し、地の利を高め、

 開発した戦車を送り込み、現在は最新鋭の52t級M60戦車を配備していた。

 対するソビエト軍の41.5t級T72戦車は、滑空砲と複合装甲を装備し、

 質と量でアメリカ軍を圧倒していた。

 アメリカ駐留軍は、数と質の戦力比で不利と考えられ、

 近接航空支援(CAS)専用機A10サンダーボルトの配備が決まっていく、

 これは、極東ソビエト軍の恐怖心からであり、

 近代化が進む中国七軍閥国も極東自由州の潜在的な脅威となっていた。

 「これが試作中のXM1型戦車?」

 「実地での機動試験をするらしい」

 「強そうだな」

 「中東戦争の結果だと、M60戦車は、不利だからな」

 「攻撃ヘリもコブラからアパッチに変わるし、少しは、巻き返せるだろう」

 「Mi24ハインドは?」

 「そうだな・・・ハインドは対戦車用というより、多機能の空挺侵攻作戦用だな」

 「数が多くてもコブラで勝てるよ」

 「数が、問題なんだがね」

 

 

 日本 三陸基地

 戦艦大和が記念艦として浮かんでいた。

 戦後、一度、改装されたものの、大きな働きもなく退役が決まり、

 今では、人々を集め、ルートに至る観光財収を助けていた。

 同型艦の武蔵は、瑞樹州で記念艦にされ、こちらも観光名所となっていた。

 とはいえ、あまりにも巨大な艦体を手入れするのは大変らしく、

 税収負担は困難となり、入館料負担は集客が遠のくと、

 艦内は、ホテルか、商店街の如く改装されていく、

 艦内食堂の元乗員たち

 「なんとも嘆かわしい気がするね」

 「金の事を言われるとしょうがないでしょう」

 「解体されるよりマシです」

 「本当にマシか? 介錯してやるのが情けな気もするね」

 「そんなことないでしょ 2泊3日ですよ」

 「元乗員のコネがあってもチケットは大変だったんですからね」

 「もう少し働けると思ったんだがな」

 「西暦2199年は、再就役のはずですよ」

 「「「「あははは・・・」」」」

 「まぁ むかしは、こんな巨大な戦艦で国を守っていたことが子供たちにわかってもらえればいいか」

 「しかし、最近は、軽薄短小重視らしいですよ」

 「まったくだ。息子は、瑞樹州に行って変わってしまったよ」

 「例の部隊ですか?」

 「ああ、法務省隷下のよくわからん部隊だ」

 「口には出してませんが、大和を粗大ゴミ扱いですからね」

 「まぁ 連中から見たら三笠と同じに見えるんだろうな」

 「わたしは、三笠を尊重しますよ」

 「まぁ そうだな・・・」

 「しかし、平和になって、危機感が薄れたんだろうな」

 「戦前もこんな感じでしたかね」

 「36年以降は、ピリピリしてたぞ」

 「あれは、国際情勢が悪かったからな」

 「日本が悪役にならなかったのは幸運だよ」

 「そういえば、畝傍はなんで解体したんだろうな」

 「あれこそ、記念艦にふさわしいと思ったけどな」

 「なんか、秘密があったらしいですよ。それを隠す為に解体したとか」

 「そういえば所有権でロイド保険と最後までゴネテいたな」

 「両政府を巻き込んで大昔の艦艇になにを本気になってるんだか、物笑いの種でしたからね」

 「しかし、大和か・・・なにもかも皆懐かしい・・・」

 「「「「・・・・」」」」 苦笑い

 

 地下

 真っ当な人間ならレベル4と赤く記された区画に立ち入ろうと思わないだろう。

 十数人の白衣の男たちが、そのレベル4の区画へと入っていく、

 日本国防軍組織は、一般軍将校と特殊軍将校に分かれており、

 レベル4以下の区画に特殊軍将校用のガイア研究室があった。

 チタン骨格とともに

 魔法使いが作ったカーボンとシリコンのナノチューブ、グラフェンが組み上げられていく、

 精密ながらも強靭な素材の塊であり、戦車並みの防弾力があった。

 何より、ゴーレムとして動かせる強みは無類であり、

 土系魔法使いは前準備さえ可能なら4系統中最強と言われていた。

 そして、最強を最強とするため、

 人間と見紛う人造人間ゴーレムが有利だった。

 問題は体重の13分の1を占める酸素を運ぶ血液の代替液で・・・

 「法務省詣では、対応できているのか?」

 「民間は利権がある程度大きくなって、いまは沈静化している」

 「しかし、民間はますます発言力を強めてるな」

 「新幹線を走らせて赤字国債でたれ流す方が、アロー飛ばして赤字国債をたれ流すよりいいらしいよ」

 「少なくとも新幹線なら資本回収の見込みがあるし、黒字の楽しみもあるがね」

 「アローは回収の見込みのない掛け捨て保険だろう」

 「ふん、どうせ、あれこれ難癖付け私腹を肥やすに決まってるさ」

 「どいつもこいつも国防を後回しにしやがって」

 「現実問題として、魔業参戦なら戦争しなくても世界制覇も可能だよ」

 「もっとも、被支配圏の面倒もみないといけないがね」

 「支配は、バルカンとカフカスで懲りたよ」

 「ガイアの扉は開けられそうにないか」

 「位相の壁は、何ともしがたいね」

 「魔法というレベルだけじゃ荷が勝ち過ぎる」

 「ああいう安定した扉が開くのは2012年以降だな」

 「それまで、ガイア派遣部隊とは音信不通か・・・無事に生き残っていたらいいが」

 「というより、日本人であることを忘れていなければいいがね」

 「時間的な変動がなければ、生きているうちに会えるはずだよ」

 「その辺の研究も確認できてないな」

 「可能性を信じるしかないよ」

 「ところで、ガイアのクモは飼い慣らせそう?」

 「基本的に生態系を移しただけだし、ノウハウもわかってる」

 「飼い慣らせるよ」

 「発覚したら核ミサイルでも飛んできそうだな」

 「飛んで来ても、たぶん斥力レーザーで撃墜できるだろう」

 「だといいがね」

 「寿命さえ惜しまなければ、軌道も狂わせられるし」

 「寿命は惜しいよ。できるなら生産で消費してもらいたいね」

 「まぁ そうだけどね」

 「問題は、改造人間と人造人間の方か・・・」

 「ふっ ジーンリッチが人道的に思えるね」

 「改造人間は本人の意思の確認と人体補強器具の延長だよ」

 「人造人間は・・・」

 「いまのところゴーレムと電子制御を合わせたみたいなものだ」

 「魔法使いならでは、だろうね」

 「しかし、ガイア研究のメインが瑞樹州に行くのは面白くないな」

 「あっちの方が隠しやすいからね」

 「雨が多かったからアウトドア派は辛いね」

 「だから隠しやすいんだろう」

 「それで、瑞樹は、血液をどうするって?」

 「やはり、魔法使いの血液がいいようだ」

 「問題は骨髄が別物だから当然、保存はできても血を作れない」

 「一体で4L分の血液か・・・」

 「一人400mmlだと10人分か」

 「ちょうどいいと思うがな、土系、水系、風系、火系の魔法使いから採血して4体作れる」

 土系統O型。火系統B型。水系統A型。風系統AB型

 「人口比だとO型30パーセント。B型20パーセント。A型40パーセント。AB型10パーセントだ」

 「ゴーレムは適性で土系が強いと思うがな」

 「取り合えずテストケースで血液別に4体でいいだろう」

 「魔法使いは性格的な問題とムラがあるし、ゴーレムも長時間の運用に適していない」

 「電子制御でどこまで補完できるかだな」

 「戦力的には、どのくらいだろうね」

 「魔法使いが集中できる間だけならスーパーマン級じゃないかな」

 「魔法使いは戦争向きの適性じゃないよ」

 「斥力型ヘリウム3核融合炉と自律制御。遠隔操作だから・・・」

 「携行兵器くらいは堪えられそうだし。武器さえ持たせれば小隊と戦争ができる」

 「対戦車ロケットはまずいと思うが」

 「当たるとまずいとしてもロックできないだろう」

 「それにRPG7なら拳銃弾より遅くて、弾も大きいくらいだ」

 「電子制御された人造人間にとっては、スローモーションで近付いてるようなものだし」

 「手で叩くこともできるよ」

 「じゃ あとは、搭乗型ゴーレムと予算の取り合いかな」

 「平時でも潜入させられる兵器が上だと思うけどな」

 「上層部が情報を重視してくれるなら問題ないけどね」

 「しかし、ばれない様な表情と仕草は、どうにもならんな」

 「まだ未熟ということでしょう」

 「いっそのこと仮面でも被せるか」

 「正義の味方で?」

 「「「「あははは・・・」」」」

 

 

 

 

 欧州大戦

 バルカン連邦は、バルカン半島からドイツ軍を押し返すことで統一と独立を果たした。

 それはバルカン諸国の独力で成し遂げた統一と独立でなく、

 日・英(印)・トルコ軍がドイツ軍を駆逐したことで統一と独立が達成されたものだった。

 当時、物心付いた者たちは、イナゴのように押し寄せる貧相なインド軍が、

 屈強で精強なドイツ軍の戦線を押し崩していく様を目のあたりにしていた。

 その後の混乱は、目を覆うモノがあったものの

 日英土の勢力争いとバルカン諸国民の民族自治の間で妥協が図られ、

 黄禍(インド軍)が去るとバルカン半島は沈静化し、

 対外戦争は困難でも国内防衛が可能な83万8387kuに達する広大な自治都市連邦が形作られた。

 とはいえ、バルカン連邦の国情は楽観としたものではなく、

 北西は、品種改良されたジーンリッチ種族が支配する精強なドイツ帝国、

 北東は、凶悪な共産主義思想で国家基盤の内部破壊を画策するソビエト連邦、

 西は、未回収のダルマチア領土を狙うイタリア、

 南東は、近代化を欲するイスラム国家トルコが囲み、

 そして、外洋に繋がる地中海も袋小路といえた。

 地政学的な劣勢は、覆しようのない事実であり、

 しかもバルカン連邦の鉱物・油田資源の4分の3は、日本、イギリス、トルコに奪われ、

 バルカン連邦の取り分は4分の1に過ぎなかった。

 日本は、バルカン連邦を強い自治権を持つ都市連合体に変貌させてしまう。

 無論、中央主権させなかったことが皮肉なことにバルカン連邦の統一を保たせた根幹である。

 日系資本は基幹産業を牛耳つつも自治行政に介入せず、

 日本人の過去のしがらみのない、無機質で事務的な対応のためか、

 バルカン半島の内部紛争は、不思議なことに沈静化してしまう。

 そして、バルカン連邦で基幹産業が整備されていくにつれ、

 バルカン連邦の広大な国土と、東のカフカス連邦との連合の国内総生産は増大し、

 日英同盟の後ろ盾で列強の仲間入りしていく、

 そして、国家統制で劣りつつも近代化と産業拡大で、列強に名を連ね、

 サラエボオリンピック開催を目指し、準備していた。

 

 日本移民は、先住民と衝突を避けるため、

 寒村や山岳地から行われることが多かった。

 人種のるつぼのマイナスも自治の強いポリス制で補っていた。

 幸運なことに第二次世界大戦以降、平和が保たれ、

 バルカンの深刻とされた問題点は、紛争や内戦といった形で浮き彫りにされず、

 日系資本の基幹産業を核にした近代化は、急速に進み、

 新幹線の路線が全土を張り巡らし、

 日英系列の自動車が高速道路を行き来した。

 多言語能力を持つ者がコミュニティを広げやすく、

 流通を握り、チャンスを手にしやすかった。

 その中で、日本語、ルーマニア語、英語は、最大で、言語統合が進み、

 書店の最多書籍は、日本語であり、現地語、ルーマニア語、英語が続いた。

 職種と雇用も急速に拡大し、所得は、毎年の如く、増えていた。

 GDPは、戦後の右肩上がりの成長を見せ、

 イギリスを抜いてドイツ帝国と並び、

 バルカン半島史上、初の繁栄を迎えていた。

 首都サラエボ

 緑の山野と石畳と赤いレンガを織り交ぜたような風景が広がっていた。

 昔と変わったといえば近代的になったこと、

 そして、水田が増えたことで、こればかりは、日本移民の影響を否定できない、

 バルカンの人々は、あれこれと模索し、利害が絡めば衝突し、

 安寧と生活圏を守りつつ社会生活を営んでいく、

 平穏な日常の中で、何か楽しいことがあるわけでもない、

 不意に喧騒が始まる。

 「・・・改革を蔑ろにし、私腹を肥やし」

 「あまつさえ、罪無き者に罪をなすりつけるとは、貴族の名折れ、恥を知りなさい」

 「う・・ぅ・・くっ 曲者じゃ 出会え、出会え!」

 「スヴェンさん、カスパルさん、懲らしめてあげなさい!」

 チャンバラが始まる

 スヴェンの両手剣ツヴァイヘンダーと

 カスパルの片手剣カッツバルゲルが一閃するたびに火花が散り、

 悪党たちが倒されていく、

 スヴェンとカスパルは、望郷の彼方に消えたランツクネヒト(傭兵)の生き残りだった。

 「ええ〜い、控えぃ控えおろう! この玉磁が目に入らぬか!」

 「この方こそは、神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世様なるぞ」

 「「「「へへぇ〜」」」」

 「はい、カ〜ト!」 カシャ!

 見物人たち

 「・・・なんか、時代考証を無視してないか」

 「いいんじゃないの、日本の黄門さまも旅なんかしてないし、時代考証も手抜きだし」

 「ていうか、皇帝が玉磁を持ち歩くのって、どうかな・・・」

 「ドイツ帝国からクレームが来そうだな」

 「たしか、神聖ローマ皇帝は、オーストリア大公。ハンガリー王。ボヘミア王」

 「あと、クロアチア・スロベニア王。イタリア王だから大丈夫だろう」

 景色が良くても、楽しみと刺激は、自分たちで見つけるよりなかった。

 「それより、撮影終わったみたいだけど、どうする?」

 撮影隊は三々五々、散っていく、

 「そうだな・・・」

 「知り合いが昆虫を売ってるから山に行って、昆虫でも捕まえてくるか」

 「珍しくてオスとメス揃ってたら高く買ってくれそうだ」

 「ふ〜ん・・・狼が出るんじゃないの」

 「まぁ ナイフくらいは持って行った方がいいかも」

 「はぁ? 足りねぇよ。毛布、水、食料、ロープもだ」

 「山は、山賊が出るって、ばあちゃんがいってたぞ」

 「いつの話しだよ」

 なぜ、バルカン半島の山々から山賊が消えてしまったのか、

 日本資本の進出、

 山岳農法の確立など山々の一部が開発されてしまったのが大方の予測ながら、

 サラエボオリンピック開催を望む勢力の山賊淘汰キャンペーンを行った影響とも、

 他にもインド軍が残したインドのシヴァ神の祟り、

 日本山伏の法力、日本仏教、神道の進出といったオカルト染みた推測もなされていた。

 山々から山賊が消え、安全性が高まって人々の登山が増加すると、

 今度は怪しげな流言飛語が大きくなり、

 最近は、魔女が出る噂も・・・

 日本人とバルカン系の高校生たちは、むかし、山賊のメッカだった山々に入り、

 珍しい昆虫を捕まえ、町で売る、

 時々、珍しい昆虫が見つかる、

 バルカン連邦の治安が良くなり、

 観光事業が軌道にのると、昆虫類の需要も高まった。

 そして、より資金を得て身の振りの自由を手にするため

 バルカンの山々へ分け入る者たちも現れる。

 「でけぇ ヨーロッパミヤマクワガタ♪」

 「「「おー!」」」

 日本人、クロアチア人、セルビア人、ルーマニア人の少年は、けもの道に入り込み、

 昆虫の穴場を見つけ出していた。

 「女の子だ・・・」

 森の中で昆虫を採取し、虫籠に入れていると、

 木々の奥から上下白のシャツとスカートの少女が現れた。

 スロベニアの民族衣装を現代風にアレンジした服装が深緑の中で映えていた。

 山の中を歩くにしては、不用心なことこの上なく、持っているモノは小枝だけ、

 少女の重さを感じさせない足取りに現実離れした世界に入り込んだ感覚を覚え・・・

 「・・・日本人みたいだな」 と、クロアチアの少年

 黄色系の肌色と凹凸の少ない顔つきでだいたい見当がついた。

 「随分、軽装だけど、この近くに家でもあるのかな」

 「ここ、山道どこか、けもの道じゃないか」

 短絡な少年たちでさえ、

 地図、コンパス、毛布、水筒、お菓子がリュックに入って一泊くらいならできた。

 「よく、こんなところに・・・」

 !?

 少女の後ろから2匹の灰色狼が付いて来る、

 「「「「・・・・・」」」」 ごっくん!

 灰色狼は、少女を狙っているというより、従っている、

 従っているというより、守ってるといった光景で、

 少女と2匹の灰色狼は、凍りついたように動けない4人の脇を通り過ぎていく、

 横目で見た少女は整った顔立ちをしていた。

 感情を見せず、微かに会釈をしたようにも見え、

 「「「「・・・・・・・」」」」 ごっくん!

 「な、なんか、ヤバイのと擦れ違った気がするぞ」

 「あれが魔女?」

 「そ、そりゃ 灰色狼2匹従えてるなら魔女だろう」

 「こえぇ〜」

 「なんで、日本人って、ああいうことができるかな」

 「出来るか!」

 「だって、あれ日本人だろう」

 「・・・・」

 「昔から住んでるバルカン諸国人だって、灰色狼2匹従えて山中を歩きまわったりしない」

 「結構、可愛かったかな」

 「小学生じゃないのか」

 「まさか、日本人だから、中学生ぐらいだろう」

 「どうせ日本人は身長低いよ」

 「ていうか、あんな現実感のないのがうろついてたら山賊でも怖気づくと思うよ」

 「いまどきの山賊は銃を持ってるだろう」

 「だって、日本人は銃弾逸らせるだろう」

 「出来るか!」

 「「「・・・・」」」

 「出来るか!」

 「「「・・・・」」」

 

 数日後、その小柄な少女は、教壇の前に立って転校の挨拶をし、

 「「「「・・・・・・・」」」」

 クラスでも悪たれな4人組を怖気づけさせた。

 伊沙良ヤヨイと名乗った少女は、静々と空席に着くと教科書を開き、

 周りに溶け込んでいく、

 『山賊の次は、学園生活か・・・』

 “今度は、君のエンターテナー能力が多分に含まれるかもしれないな”

 召魂術の会話が続く、

 “先生の視点じゃ わからないことが多いから生徒の視点で修正していくんだ”

 『へぇ 自覚していたなんて、気付かなかったわ』

 “ふっ”

 『誠実でいい先生がいれば小細工しなくてもバルカンのパックスジャポニカは安泰だと思うけど』

 “条約切れと返還の年は迫ってる”

 “いざとなったら自決権を言い出す輩が現れるだろう”

 “子供の頃の関係が人種の対立を緩和させることも分かっている”

 『とりあえず、できることは調整するけど・・・』

 “重要なのはもう一つあるよ”

 『あの・・・不可思議な現象が脳下垂体に影響を与えるって、どこまで本当なのかしら』

 “その実証実験も兼ねて、君を学校に転入させたんだ”

 “せいぜい、同級生の常識とやらを掻き乱して、いい思い出を作ってやってくれ”

 『刺激できるだけの生体素粒子を持つ者はいないわ』

 “魔法使いは、適性スカウト制だ”

 “しかし、スカウトするばかりでは枯渇する”

 “そろそろ、前段階で国民的な適性を啓発する時代だ”

 『人の集合意識が扉が開く場所と関連があるなら、日本に近い方が良かったんじゃない?』

 “メインは日本だけどね。日本人が多いし、こっちでも少しやることになった”

 “君も楽しめばいいだろう”

 『魔女狩りは面倒よ』

 “そのときは、フォローするよ”

 『ちゃんとシナリオは考えてるんでしょうね。ダラダラ続けるのは嫌よ』

 “山賊のときだって、上手くいっただろう。考えはある”

 『まさか・・・ この前、読んでた風の又三郎じゃないわよね』

 “ま、まさか・・・”

 『まぁ いいか、最初は、お化け屋敷だったわね』

 “掴みがいいだろう?”

 『発想が貧相だわ。どこの娯楽番組ネタかしら?』

 “君だって昔は喜んで見てたじゃないか”

 『こ、考証してたのよ』

 

 

 

日本 バルカン連邦 83万8387ku   カフカス連邦 19万0500ku
ドデカネス諸島 2663ku 225万 ハンガリー 1109万 アゼルバイジャン 404万
カナリア諸島 2505ku 60万 ルーマニア 1940万 グルジア 421万
キプロス 9250ku 280万 ブルガリア 810万 アルメニア 182万
    アルバニア 183万    
    ユーゴスラビア 2000万    
    ギリシャ 901万    
    合計 6943万 合計 1007万
  565万 日本人 1200万 日本人 400万
    総人口 8144万 総人口 1407万

 

 

 

 バミューダー海域

 6000t級潜水艦 雷龍

 指揮所の中央に巨大な水晶があり、

 雷龍を中心に周囲の海中の様子が投影されていた。

 魔法と最先端ソナー技術を融合させた結晶だった。

 もっとも、魔法使いが搭乗していなければ能力は半減以下であり、

 今回の次元探査は、魔法使いを3人同行させていた。

 伊吹少尉は、艦の周囲を捜査し、

 鞍馬少尉は、イルカを使った遠隔探査を行っていた。

 そして、筑波少尉は、交替要因だった。

 「・・・10時23000mにアメリカ潜水艦。着底しています」

 「型は?」

 「4740t級スタージョン型原子力潜水艦です」

 「新型ロサンジェルス型じゃないのか・・・」

 「まだ発見されていないのかな」

 「特に動きはありません」

 「アメリカ海軍のSOSUS網を無事通過できたと考えるのは早計かな」

 「静粛性で発見されず哨戒圏を突破できたと思いたいですが」

 「まぁ 非戦時中だ」

 「アメリカ、ソビエト、独伊同盟、日英同盟の勢力均衡で分散されてるし」

 「アメリカ人は大戦で不参戦だから、気質は、のんびりしているからね」

 「いきなり攻撃されるようなことはないだろう」

 「目標地点まで、あと5kmです」

 「着底後、しばらくは、待機任務が続くことになりそうだな」

 「バミューダー海域は、本当に並行次元を開く糸口があるんでしょうか?」

 「魔法使いを3人も乗せているんだ。少しは期待したいね」

 「通常装備より、魔法使いの方が心強いですからね」

 「まぁな」

 

 魚雷室

 「これが7m級魚雷型ゴーレムか・・・」

 「変形するんだろう」

 「強いらしいよ。ガイアの高等魔物といい勝負できるらしい」

 「子供に見せてやりてぇ」

 「まさか・・・」

 「だけど、このまま、潜水艦でガイアに行ったりしないよな」

 「通常装備で行くわけないだろう」

 「これまで行った潜水艦は、全部、積み荷満載で特殊装備だ」

 「そういえば背広組の人は、なんで怒ってるんだ」

 「法務省の番人だろう」

 「ポストと金を作ってるのは産業だからね」

 「産業よりの人みたいだから、魔法使いを3人取られて剝れてんのさ」

 「国防省は、法務省に魔法使いを取られてからいいことないな」

 「寿命と関わってるからね。押し付け合うのはしょうがないよ」

 「でも怖いのは食命鬼だろう」

 「上限があるから魔力を使わない限り、補給する必要はないんだけどね」

 「でも一番仕事させてるんだろう」

 「寿命を奪われるのは恩赦で出される人たちらしいけど」

 「人に言えねぇ」

 「まぁ 信じて貰えないだろうけどね」

 

 

 

 

 アメリカ合衆国でF14トムキャット、F15イーグル、F16ファイティングファルコン、

 ソビエト連邦でSu27ジュラーヴリク、MiG29ラーストチュカ、

 ドイツ帝国で、Fwファルケ(鷹)とMeネーベル(霧)が1970年度で開発されると、

 1950代開発の日英同盟のCF105アローとBacライトニングは古さが目立ち、

 新型戦闘機開発の要望が強まった。

 CADが複雑で精密な曲線を描き、開発を助けたとしても

 振り分けられる予算は冷徹で厳格だった。

 日本

 赤レンガの住人たち

 テーブルに米独ソの航空機の詳細が無造作に置かれている、

 この情報は考慮されたのち、CF105Jの改装に応用される、

 ここにある情報だけで、旧式機でも十分、米独ソの新型機に対応できた。

 もっとも出所不明の最高機密であり、

 一般将兵に知られてもならず、事前に対処するわけにもいかず、

 戦時となったとき、即席の対応を迫られる、

 「やはりガイアにお金を取られ過ぎた。改良で済ませることになったよ」

 「少しはこっちに回せばいいのに」

 「どうせ、社会資本に金を回しても歓楽街や闇経済に流れるだけでは?」

 「そうは言ってもな」

 「国民と国家を代表しているのは議会であって、軍じゃない」

 「政治家が人間として一番腐ってると思うのですがね」

 「地域が利益代表を議会に送り出してるのだから、しょうがないよ」

 「素材の軽量化は、結局、チタンと複合素材のシームレス化ですからね」

 「工場を大きくしないといけないし、力技ですよ」

 「開発と違って目に見えるから日本人好みではあるね」

 「イギリスは、ライトニングの後継機でトーネードの開発を進めているが、アローは日本に任せるようだ」

 「大型過ぎて不評でしたかね」

 「どの道、トーネード戦闘機も日本が部品を作ることになりそうだがね」

 「アローの改装は?」

 「やはり、デルタ翼の底辺を切り取って菱形にする」

 「あと垂直尾翼はV型で機体もステルス形状に凹ませるそうだ」

 「機能的に厳しくなるのでは?」

 「ステルス化が進めば、ECM・ECCMを削っても、お釣りがくるよ」

 「エンジンはどうするのです?」

 「可能ならメタンを使いたいそうだ」

 「そりゃ分りますがね。常温で気体の燃料は・・・」

 液体のメタンは−183℃以下で保存しなければならず、

 液体(415kg/m3)が気化(0.717 kg/m3)した時、578.8倍の体積となった。

 「無理ならジェット燃料と一番新しいターボファンエンジンを使うことになるな」

 

 

 

 カフカス連邦

 元々 ソビエトに組み込まれていたものの、対ロシア人の反発は根強く、

 ドイツ軍の侵入でソビエト支配の頸木は外され、

 日英印土連合軍の北上によって解放され、

 日英ソ土4各国の圧力により、カフカス連邦として独立となった。

 日本、トルコ、カフカス、ソビエト、イギリスの5ヵ国の利権が絡み、

 カフカス連邦のバクー利権は1/5だった。

 日本人(400万)が住み、

 アルメニア人(250万)、グルジア人(350万)、アゼルバイジャン人(700万)が対立し、

 国情はバルカン連邦と似ていた。

 戦後、民族対立は沈静化し、

 日本の基幹産業を中心に近代化が進み、

 今では、国内総生産でトルコを追い抜いていた。

 静まった和風仕立ての茶室仕立ての中、

 外から音水渓谷で石清水な音が漏れ入る、

 こん!  ししおどしと

 縁台を模した向こうから

 しゃか しゃか しゃか しゃか・・・  心地よい調べ、

 菓子は仄かな餡の甘みの中に焼き栗の味がする、

 『言ってやる、今日こそ言ってやる、お前ら違うんだと』

 『日本の伝統文化を・・・』

 目の前に黄緑色の茶碗が出され、

 作法に則り、回して口に含む、

 「・・・結構なお手前で・・・」

 無言の会釈の後、茶碗が取り払われる、

 そう、アルメニア商人は、茶道喫茶チェーン店を広げようとしていた。

 既にドナウ連合は席巻され、

 日本へも出店する勢いだ。

 異国人だけでなく、

 よく知らない若者が面白がり、店に入って来るのが癪に障る、

 

 

 ドイツ帝国 世界首都ゲルマニア

 ローマ帝国を回帰の拠り所とする文明は、欧州諸国のみならず、アメリカやソビエトにまで及ぶ、

 そして、自国こそ、ローマ帝国の正統継承者、

 あるいは、末裔の徒といった演出を好んだ。

 厳密にいうならローマ帝国の後継者の所在地はイタリアなのだが、

 政治、経済の比重は、北欧州ドイツ帝国へと押し上げられ、

 イタリア半島は古代の過去の栄光を残照として残すのみだった。

 ドイツ帝国も御多聞に漏れず、ローマ帝国の正統継承者であることを望み、

 その演出に成功していた。

 とはいえ、国際情勢の力点は、新大陸のアメリカ合衆国と、

 旧大陸の未開地を開発するソビエト連邦へと流れ、

 古代から続くもう一つの世界の雄、中国大陸の分裂覚醒と、

 徒花のように開花している日英バルカン同盟の隆盛によりローマ帝国の回帰も色褪せてみえた。

 どちらにせよ、ドイツ帝国は、必要とする人口、資源を国内に抱え込み、

 国土産業開発を中心とした内政時代へと移行し、

 覇権の時代は終焉を迎えていた。

 俗な言い方をするなら、野蛮な膨張政策で血を流すのは御免被る、だった。

 といっても国防産業は廃れることはなく・・・・

 ホテル

 「相変わらず、息苦しい国だな」

 「追求した機能性に人間を当てはめる国民性だからね」

 「非人間的な傾向になりやすいのは仕方がない」

 「怠惰なソビエトほどじゃないな」

 「サービス過剰な日本もどうかと思うね」

 「そろそろ、通過すると思ったが・・・」

 ほどなくして、新型戦車がキュルキュルと低音を響かせ、アウトバーンを走行し、

 ホテルの脇を過ぎていく、

 複合装甲と滑空砲装備の59.7t級レオパルド2戦車が大量配備されつつあった。

 「・・・レオパルド2戦車か。チャレンジャー戦車だと不利だな」

 「チャレンジャー戦車でも戦えるさ」

 「ああ、分が悪くなっただけだ」

 「矢面に立つのは、バルカン連邦だしね」

 「つまり、駐留日本軍だろう」

 「ドイツ帝国の意識は宇宙に行ってる、野心は低調だと思うよ」

 「戦争すれば宇宙開発が台無しになるから、防衛主体ということか」

 「日本もそうだよ」

 「並行次元世界の扉が開けば、そっちの投機が天文学的になるだろうし」

 「戦争で消耗していられない」

 「投資分が回収できればいいがな」

 「斥力物質と魔法の杖だけでも十分に元が取れるよ」

 「しかし、魔法使い同士のカップルでも、魔法使いが生まれると限らないし」

 「魔物の強烈さを考えると、第二次ガイア入植は不安だよ」

 「最新の装備と喰命鬼レベルを揃えないと太刀打ちできそうにないな」

 「喰命鬼が増え過ぎても不安だな」

 「それは言えるな」

 

 

 

 宇宙開発局

 モニターに映る直径500mの巨大な二重リングは増築が繰り返された結果だった。

 アメリカとソビエトが宇宙開発で急追しているものの、

 いまだ、ドイツ帝国の50分の1の質量すら宇宙空間に放り上げられないでいる。

 しかし、ドイツ帝国が莫大な国家予算を注ぎ込んでも

 高速回転で得られる人工重力は、5分の1G程度でしかなく、

 低重力は人骨に含まれるカルシューム保持に悪影響を及ぼしていた。

 そして、自給自足優先で、ドイツ帝国の軍事的優位性にまで至らない、

 それでも他人の庭は綺麗に見えるもので、

 ジーンリッチと合わせた宇宙開発は、ドイツ帝国の国際的な地位を押し上げていた。

 ドイツで磨き抜かれたレンズは、日本の某所に向けられ、

 衛星を中継し、ベルリンの宇宙基地にも届けられ、

 毎日のように解析されていた。

 「日本の様子は?」

 「疑わしいが決定的ではないな」

 「しかし、反重力エンジンの開発など、あり得ないと思うぞ」

 

 

 

 

 瑞樹州

 ガイア研究所 休憩室

 チャーン♪ チャーン♪ チャンチャカチャーンチャ♪ チャンチャカチャーンチャ♪

 漆黒の宇宙を三角形の巨大宇宙船が進み、

 小型宇宙船が飛び交ってレーザーを掃射していく、

 主人公がライトサーベルが一閃するとビームを弾いていく、

 「・・・これはやりたくないな」

 「まぁ できればね」

 「寿命の浪費だよ。食命鬼だって、こんな使い方はしないな」

 「映画もテレビも派手にやらないと」

 「魔法使いがナノ精密加工工員じゃ 見る人減るじゃないか」

 「ふっ こういうのは最後の手段だからねぇ」

 「ガイア派遣部隊は、斥力レーザー剣を振り回して、やってるかも」

 「食われる覚悟でガイアに行ってるからねぇ」

 「ギリギリの戦いになったら寿命削ってでもやるだろうね」

 「そういう刺激もいいなぁ」

 「正規の魔法使いは、ほとんど居残りだったからね」

 「日本で、なるべく魔法使いを増やして、次に開いたときガイアで勢力を拡大したいらしい」

 「魔法使い同士で・・・だけど・・・狭いよね。魔法使いの世界・・・」

 「でもガイアの藪蛇突いたりしたらまずいんじゃない」

 「強い魔物は、生体素粒子の塊みたいなやつで位相レベルが違うっていうし」

 「そういうのは、栄養価が低過ぎて人間を襲わないのでは?」

 「非接触広域吸収型の食命鬼だったらどうするんだよ」

 「中国大陸に住んでもらえばいいかも」

 「「「「あははは・・・」」」」

 「世代交代が早まって国力増強するじゃないか」

 「「「「・・・・」」」」

 休憩室では、SFモノ、魔法使いモノの番組や映画が流れ、

 若い魔法使いたちは、できる、できないで面白がり、

 どのくらいの寿命を消費するか、計算し、

 やりたくないと結論付けていた。

 若い魔法使いのやっていることは、映画モノやテレビモノのかっこいい姿でない、

 大量生産されたモノを電子顕微鏡を覗き

 ナノレベル以下で調整する工業制手工業の流れ作業だった。

 成果は、次に流れてくる大量生産品の量が増え、品質と精度が良くいること、

 遠大な目標に向かってノロノロ歩いてるように実感できた。

 対外活動でも可能な限り生体素粒子を壊さず、

 発覚されないよう地味に事を進める、

 日本の国家レベルで優位性が確立されている実感は得られるものの、

 代償が自分の命でもあった。

 どこかのアホな大会社と社員の利益になったり、

 お馬鹿な官僚の手柄にされていると思うとムカつくものの、

 総合で国益と思ってやっているだけだった。

 最近は、二人の食命鬼が刑務所を巡り、

 寿命の問題を魔法使いだけでなく、一般人にも広げやや緩和させている、

 もっとも、生体素粒子は最低レベルで面白くないことこの上ないらしい、

 厳密に言うと国家のやっていることは犯罪といえた。

 もし、実証されたならば、の話しではあるが・・・

 どちらにせよ、地球とガイアの扉は鎖され、

 魔法の杖と斥力物質と、その他、貴重なモノの供給も断たれていた。

 扉を開く研究と実験は繰り返されているものの、

 周期的な閉塞期にあるのか、いかんともしがたいらしく、

 現状できることと言えば、あるモノの使い回しと、

 持って来たモノの探究、

 最先端加工品の品質と精度向上だけだった。

 「!? そろそろ、バルカンの定期巡回飛行じゃないか?」

 「あ・・おれか・・・」

 映画の残りを気にしながら待機中の魔法使いが出ていく、

 「工場で缶詰だからな。たまに気晴らしができると助かるよ」

 

 

 

 小惑星ケレスは、直径952.4km。自転周期9.075時間。

 公転周期4.60年のケレス・ミネルヴァ族小惑星帯に属す小惑星帯最大の小惑星だった。

1000t級アマテラス
排水量 斥力 直径×全高 斥力ラムジェット 最大速度 武装×4門 乗員
水上 1000 400t×10 60m×10m 4基 〜4G加速 斥力レーザー砲 40
水中 2600 ミサイル×12発

 アマテラス艦橋

 ケレスの表面が氷ということは、知られており、

 海神千草(わだつみ ちぐさ)少尉は、A型血液で水系の魔法使いだった。

 「太陽が小さく見える」

 「地球というより、太陽から離れたからな」

 「しかし、でかいな」

 「宇宙で直径952.4kmは、それほどでもないよ」

 「表面積が284万kuか。開発し甲斐がありそうだ」

 「開発は地下だよ。その開発が大変なんだがな」

 「大変とは言えないだろう。地球の37.6分の1の重量なら人間ホークリフトだ」

 「気をつけないと慣性が働いていたら押し潰されるぞ」

 「取り合えず外周を固めて、ドック用トンネルを掘ればいいわけか」

 「魔法使いたちの出番だな」

 「貴重な斥力物質も大量に使わなければならないな」

 「重力区画は、だいたい500uだから、それほどでもないよ」

 「重力制御服がないと開発しきれそうにないな」

 アマテラスの円盤下部から、直径533mm×全長6mの魚雷型が降下すると、

 手足を持つロボットへと変形していく、

 魔法使いの操る4体のゴーレムロボットが出撃するとミネルヴァに着地し、

 小惑星を掘り出していく、

 「何回、往復することになるかね」

 「太陽熱を集めて発電して、氷を解かせば、自給自足率できるだろう」

 「国際的に発覚した時が怖いね」

 「火星より遠いからね。次の扉が開くまで大丈夫だろう」

 「ロケットで、宇宙ステーションを建設する予定ではあるよ」

 「日英共同で?」

 「しょうがないよ。単独宇宙開発を強行すると日英同盟関係が薄れる」

 「じゃ のらりくらりやらないと」

 「のらりくらりは難しくないか。ドイツ帝国の独走は、国際力学のバランスを崩しつつある」

 「ドイツ帝国だけの宇宙開発は息切れするよ。せいぜい月までだ」

 「だといいけどね」

 

 

 バミューダー海域

 雷龍 CIC

 3人の魔法使いたちが巨大な水晶を囲み、

 召魂術を駆使しつつ、並行次元の兆候に探りを入れていた。

 「位相反応0.44から0.56へ」

 「生体素粒子の黎度1.17プラスマイナス0.21で推移」

 「この規模だと、全容を捉えきれないな」

 「この海域が一番ノイズ大きいけど」

 「どちらにしても、第6位相(生体素粒子)で、5次元の並行次元世界を探知する方が無理があるよ」

 「この海域を中心に市街戦ができるなら集団意識の底上げができて、話しは変わるけど」

 「ふっ 生体素粒子が圧迫を受けやすい戦争が並行世界の扉を開きやすい条件だと知ったら」

 「戦争を演出する奴が現れそうだな」

 「アメリカが中東パレスチナでやってるのがそれじゃないか」

 「戦争の行方不明者は、ほとんど逃亡者だけど。そうじゃないのもいるからね」

 「ガイアへの既脱者ね」

 「行った先が人間が餌にされる世界と知ったら後悔するだろうに」

 「どちらにしろ、僕らは食命鬼じゃない」

 「いくら並行次元世界の歪が感じることができて、作用できるからって、寿命の浪費は面白くないよ」

 「そりゃ そうだ」

 「んん・・・ガイアとパターン波長が違うように感じるけど?」

 「別の世界の可能性もあるけど、誤差の範囲だと思うね」

 「しかし、海洋UMA発見のたびにバミューダー海域を疑うのは、芸がないと思うけどな」

 「生態系の違うミッシングリンクが出現したら並行次元の向こう」

 「5次元の扉を疑っても仕方がない」

 「ジーンリッチの人体実験の可能性もあるよ」

 「ふっ やりかねないけど、ドイツの実験は、だいたい把握してる」

 「その気になれば、潜在意識でUMAやUFOを作り出すのだって・・・」

 「まぁ 何かの弾みや集団意識の作用で現れるゴーレムみたいなモノもあるしね」

 「だけど、バミューダーは人の意識が介在し難い海域だし、別格だろう」

 「何回も来てるけど、いま一つはっきりしない」

 「何か並行次元世界を繋ぐ媒体でもあるのかな」

 「それがわかれば、並行次元戦線が生まれるよ」

 「なんか、それも藪蛇が出そうで嫌だな」

 「うん、ベトナム帝国でガイアから現れた魔物を見たとき、死を覚悟したよ」

 「炎狐 (えんこ)だっけ」

 「あれは、生きた心地がしなかったな」

 「食われる側になったと思ったね」

 「人族の生体素粒子が小さくてよかったのかもな。そうでなかったら今頃、地球全体が餌場だ」

 「生体素粒子が小さいのは不便だよ」

 「そうでもないさ、強靭な生体でないから一人で生きていけないし、自然の中でも生きていけない」

 「外装を付け足して、環境を変えていくから、高度な社会を作れてしまうだろう」

 「それでも、あのレベルと戦いたくないさ」

 「そりゃ そうだ」

 !?

 「は、反応が上がった」

 「なんだろう」

 「もっと、焦点を合わせよう」

 水晶がぼんやりと白色に包まれ・・・

 「位相反応0.59から1.06へ」

 「生体素粒子の黎度1.57プラスマイナス0.55で推移」

 次第に発光していく、

 「おい、位相壁が召魂可能域に入るぞ」

 「まさか、扉が?」

 「・・・いや、まだ不確定域だ」

 ・・・・

 「音楽だ」

 「な、なんだ」

 「焦点を合わせるぞ」

 ・・・ごくん!

 ・・・

 “よし、魔業の黎明。完結〜♪”

 !?

 「い、いまのなに?」

 「さ、さぁ・・・」

 「誰だ?」

 「ちっ! 切れた」

 水晶は、ゆっくり透明に戻っていく、

 「わからん、消えた」

 「誰かの召魂を受信したのか?」

 「まさか、こんな海底で・・・」

 「それとも地球マスターの声?」

 「「あははは・・・」」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 アルメニア商人の日本浸透が少し心配な日本です (笑

 

   商売が巧いとされる華僑3人が束になっても1人のインド人には勝てるかどうか。

  そのインド人が3人束になっても1人のアラブ人と同じぐらい。

  そのアラブ人が3人束になっても1人のユダヤ人には敵わない。

  しかし、そのユダヤ人が3人束になってかかっても1人のアルメニア人には敵わない。

        日本マクドナルド創業者の故・藤田田氏  談

 

 

 あと、この年、スターウォーズの年でした。

 瑞樹州の人たちが、どうして映画を観れたのか、不問ということで・・・

 

 

 バミューダー海域

 潜水艦の魔法使いたちは、一体誰と逢着したのでしょう (笑

 一応、音楽を聴きながら書いてますけど (笑

 因みに作者は地球マスターじゃありません (笑

 電波が届いただけです、そうでないと書けませんから (笑

 オチがついたところで、第一部を終わります。

 

 

 

  0次元 1次元 2次元
    点の連続 線の連続
  平面
       
 
  3次元 4次元 5次元
  平面の連続 空間の連続 並列空間の連続
  立体・空間 時空連続体 平行次元連続体(ガイア)
第01位相 個体 宇宙 ハビラ土地 クシュ土地 アシュル土地 宇宙(地球?)
第02位相 液体 時間 ピション川 ギホン川 ヒデケル川 ユーフラテス川
第03位相 気体 平行次元宇宙
第04位相 プラズマ 波動
第05位相 霊界・零体 重力  
第06位相 生体素粒子    
第07位相 斥力物質 (縞メノウ?)    
第08位相 魔法の杖 (ブドラフ木?)    
第09位相 (金?)    
第10位相      
第11位相      
第12位相      
       
  6次元 7次元 8次元
  立体次元連続空間 6次元の連続空間 7次元の連続空間
  多次元宇宙    
       
       

 

 

 広義的には、

  ※ ハビラ土地 ピション川 (アラビア半島 ?)

  ※ クシュ土地 ギホン川  (エジプト ?)

  ※ アシュル土地 ヒデケル川  (アッシリア ?)

  ※ ユーフラテス川         (イラク ?)

 実のところ、エデンの園がどこなのか、わかってません。

 

 

 

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第36話 1976年 『電子と幽子』
第37話 1977年 『逢 着 (ほうちゃく)』 第一部 完結