月夜裏 野々香 小説の部屋
  

風の谷のナウシカ 『青き衣の伝説』

 

高度に成長した文明社会は火の七日間という最終戦争によって崩壊した。
世界は腐海という有毒植物の森に覆われていった。
生き残った僅かな人々は、腐海とそこに棲む蟲から辺境の地へ逃れ
・・・・・・・そして、千年の時が流れた・・・・・
巨大産業文明が崩壊してから1000年
錆とセラミック片におおわれた荒れた大地
くさった海…腐海(ふかい)と呼ばれる有毒の瘴気を発する菌類の森がひろがり
衰退した人間の生存をおびやかしていた

 
その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし
失われし大地との絆を むすび ついに人々を 青き清浄の地にみちびかん

 

その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし

失われし大地との絆を むすび ついに人々を 青き清浄の地にみちびかん

 

第01話 『へっ?』

 ペジテは滅び。

 風の谷は森を焼いて腐海に沈むのを防いだだけだった。

 いまの風の谷は、200人も生きていけないにもかかわらず。

 人口500人と行くあてのないペジテの残党30人が加わる。

 風の谷は半分滅びていた。

 食料を求めて侵略するか、

 余剰人口を追放して間引きするしかない。

 ところがペジテが腐海に沈むと、

 幸運なことに風の谷は、トルメキア帝国の対土鬼諸侯連合(ドルク)の要衝に位置してしまう。

 風の谷は、ジル王を殺したトルメキア帝国の戦略拠点として生き残るしか術がなく、

 一度は、死ぬことで捨てたはずの族長の重荷がナウシカに圧し掛かってくる。

 ナウシカは生きてる限り、風の谷の族長の娘であり。

 いまは、族長だった。

  

 トルメキアの大型輸送船(バカガラス)が次々と風の谷に着陸する。

 その中に豪勢な服装の少年がいた。

 武官たちを連れ、高台から風の谷を見下ろす。

  

 城の王室

 ナウシカは、王の財産。国の財産の収支。

 そして、村人への配給計算をする。

 城の備蓄は、すぐに食い潰される。

 植樹は水資源であり、畑の収穫も間に合わない。

 青き衣の・・・は、空中から食い物を出せると伝承に書いていない。

 当然、自覚もない。

 どう考えても、トルメキアの言いなりになるほかない。

  

  

 扉が開かれ、

 武官を引き連れた少年がナウシカのそばに来る。

 「・・・君が風の谷のナウシカ?」

 頭一つ分低い少年。年も若い。

 「ええ、そうよ。なあに?」

 ナウシカは、トルメキア高官の息子が紛れ込んだと思った。

 「僕がナウシカの夫だよ。名前は、ギル。風の谷の新王ギル」

 「・・・・」

 小国の立場は、幼少から教え込まれ、

 特別にかわいがられたりもするが姫君の義務は避けられず、

 いろんな可能性が想定されるものの、責任の重さは変わらない、

 もちろん、想定外も起こる。

 目の前。

 目鼻立ちは普通。

 ニタリ顔の少年は、10歳くらいだろう。

 ヒヒ爺では、なかった。

 「・・・・いっぱい、かわいがってあげるね。ナウシカ」

 背伸びされて、頭を撫でられる。

 「じゃ キルヒス。あとは、風の谷の増築と再建を頼むよ」

 「はい。お任せください」

 武官と少年が逆で連れ子なら、もう少し、王族らしい振る舞いも出来ただろう。

 しかし、相手が子供だと勝手が違う。

  

 選択の余地はなかった。

 風の谷に王子が育たなかった時点でトルメキアの属国になる運命だった。

 仮に王子がいても軍管区の中核国家ともなれば、王子が生きていられるかどうか、運次第。

 そして、王女でも・・・

 ギルが、一度、風の谷の王になれば、後は、女王の挿げ替えも利く。

  

 ナウシカは、ギルを案内して風の谷を歩いた。

 なんとなく、ナウシカの目から生気が消えている。

 族長の娘、族長という位置がなければ・・・

 「姫ねえさま〜 結婚するの?」

 子供たちが集まってくる。

 「・・・ええ」

 「きゃー! 素敵!」

 「だれ♪ だれ♪」

 「相手は、だれ」

 「ギル! 俺さ」

 にやけた少年。

 「「「「「・・・・・・」」」」」

 子供たちが退いていく。

 子供たちと同世代で当然の反応だろうか。

 ナウシカも再認して、よろけそうになる。

 「・・・ひ・・・姫ねえさま」

 「安心しな。俺がナウシカをいっぱい、かわいがってやるからな」

 子供たちは、ますます退いていく

 「え〜 嘘!」

 「本当だぜ。ひぃ〜 ひぃ〜 喜ばせてやるよ」

 ギルが小さい胸を張り。

 ナウシカは崩れそうになる。

 「え〜」

 「あんたのなんて、ちっさいくせに」

 「そうよ、そうよ。剥けてないくせに」

 「ションベンくさいくせに」

 「何だと!」

 「剥けてなくても王族生まれは特別大きいんだぞ」

 「ナウシカに女の幸せと喜びを教えてやる」

 「うそだぁ〜」

 「なに〜 見せてやる」

 ギルがズボンを下ろして見せようとする。

 「きゃ〜!」

 子供たちが逃げ出す。

 「ギルの寝小便たれ〜」

 「寝小便なんか、半年前から一回もしたことないぞ」

 「・・・・」 ナウシカ、立ちくらみ。

 「姫ねえさまを。ひぃ〜 ひぃ〜 喜ばせる、なんて10年早いわよ。ちび〜!」

 子供たちが捨て台詞をはいて逃げていく。

 「あの、やろう。10年後に妾にして、ひぃ〜 ひぃ〜 泣かしてやる」

 いろんな意味で泣けてくるナウシカだった。

 とはいえ、何人も人を殺した自分を貰ってくれる人間がいるのも、

 ありがたい様な気もする。

 ギル王子は、人殺しで6つ年上の女と結婚しようというのだから大損といえた。

  

 

 第3軍のクシャナ殿下。

 第4軍のギル王子。

 どちらも風の谷軍管区に配備されることになっていた。

 第4軍は、ギル直属部隊で優秀な兵装が最優先で回され少数精鋭だった。

 クシャナとクロトワ。

 そして、キルヒスが地図を睨みつける。

 ペジテ市に使われた手が使われたら・・・・・

 最大の問題が、これだった。

 領土の取り合いをしているのに腐海で領土を減らす、考えは普通ない。

 これまでの戦史で、ペジテが使ったような自殺戦法・・・

 いや、飢餓戦法はなかった。

 しかし、今後も、ないといえない。

 「ペジテは?」

 「・・・既に腐海に覆われようとしている」

 「んん・・・」

 「ペジテの価値は、その地下にある」

 「・・・・失ったものが大きい。焼き払いたいくらいだがね」

 「駄目だろう。そんなことをすれば、次は、ここ、風の谷だ」

 「ドルクの動きだが・・・」

 ・・・・・・・・

 扉が開き、

 ギルがナウシカを控えさせて作戦室に入ってくる。

 「・・・クシャナ殿下。戦況は?」

 とギル王子が声を掛ける。

 「ギル王子。そなたが出張って、こようとはな」

 「兄さん達の争いに巻き込まれたくなくてね」

 「「・・・・・・・」」 にやり

 2人とも共感したらしい。

 「ヴ王のお気に入りだから、無理が利くか」

 「簒奪王の犠牲姫と簒奪王の末息子か。あと5歳も上だったら。貰ってやったのに」

 『この、ませガキが!!』

 「・・・ふっ。それは泣きたいほど残念じゃ」

 「ナウシカの前に女を泣かしてしまったか」

 クシャナとナウシカは苦笑する。

 『いくら、わたしでも復讐で子供を殺しとうない。こいつは後回しじゃ』

 「・・・・この戦線で戦うのは、良くないよ」

 ギルが陣営の配置図を見て指摘する

 「もっと退いた方がいい」

 「この辺かな・・・・この稜線で戦うのが戦略だな」

 「い、いけません。ギル王子」 キルヒスが入る。

 自軍の被害を最小限、敵軍の被害を最大限に出来るなら戦略的に正しかった。

 「・・・ギル王子。それでは、風の谷が、前面に出てしまうぞ」

 「第4軍が、どの程度戦えるか、見てみたい」

 「ドルクがきたら。ここから第3軍が突破、背後に回って第4軍と挟み撃ちにしよう」

 これも正しい。

 クシャナが一番最初に描いた理想的な戦術機動構想だった。

 キルヒスが言い返そうとするが、とどまる。

 最善手を提示されて反発するのは子供じみている。

 「・・・ヴ王が反対するに決まっている。そんな作戦が通るものか」

 第4軍を危機にさらせば、勝敗に関わらずクシャナ自身の生死に繋がる。

 当然、第4軍。副指令キルヒスも了解済みだった。

 実を言うとクシャナは、第4軍がいなければギルの言う防衛線で戦うつもりだった。

 「退かなければ、第4軍も出る」

 「ギル王子! いけません!」

 キルヒスが反対し。

 クシャナも、むっとする。

 『こいつをここで見殺しにしてやるのも一興だがトルメキア兵士をムダに殺させとうはない・・・』

 「・・・ギル王子。初陣は、早すぎよう。この城に引っ込んでおれ」

 「・・・・・・」 憮然

 「良いな」

 名目上、風の谷軍管区の主席軍は、第3軍だった。

 しかし、第4軍に対する指揮権はなく、あくまでも要請。

  

  

 第4軍。

 重装甲コルベット4機、ガンシップ4機、バージ4機。バカガラス(戦列艦)8隻の編隊

 第3軍に配備されている飛行機械より強力な編隊だった。

 「・・・ナウシカ」

 「なに? ギル」

 「俺は、固めが好きなんだ」

 「・・・ごめんなさい。今度から気をつけるわ」

 2人は、スパゲッティを食べていた。

 「どこへ行くの? ギル」

 「宝探し」

 「宝探し?」

 「王蟲の墓」

 「王蟲の墓?」

 「そう、寿命が来た王蟲は、その谷で死期を迎える」

 「そ、その王蟲の墓を見つけて。どうするの?」

 「決まっているだろう。何かをすると金が要る。兄上たちから身を守るためには金が要る」

 ナウシカが、かって、やっていたことを大規模に行うようだ。

 「・・・・当てがあるの?」

 「・・・・当てを探すんだよ」

 ・・・・呆れた話しだが王蟲の墓に関する噂話しは、確かにあった。

 普通は、王蟲が脱皮した皮を採取する。

 しかし、王蟲の墓なら、完全体のまま、抜け殻が残ると予測される。

 上手く加工できれば、王蟲そのものを利用した飛行戦艦も陸上戦艦も考えられた。

 いまだ、そういったものが無いのは、まだ発見されていないということだ。

  

  

 輸送機(バカガラス) 格納庫

 アスベルがメーヴェに乗って降下しようとしていた。

 「・・・大丈夫。アスベル」

 「ああ、ナウシカ。大丈夫さ。ペジテの反逆。これで帳消しに出来ればいいけど」

 「・・・ユパ様も」

 ユパはバージに乗り込もうとしていた。

 「探し求めるものは多い。ナウシカ。ギル殿と仲良くな」

 「はい・・・」

 バカガラスからバージが切り離され、

 メーヴェの群れと共に降下していく。

 平原に着陸したバカガラスの格納庫が開き、

 兵員装甲車数両が降りていく。

 次に迎えの輸送機が来るまで、そこで探索を続けなければならない。

 腐海の深部。

 蟲の巣窟に入って生きて戻れる保証はなかった。

 ナウシカも興味があるのか、降下したい気もする。

 しかし、そうもいかない。

 自分の人生を自分で、決めることが出来ない族長の娘から。

 自分の生活を自分で、決めることが出来ない族長の妻になろうとしていた。

 かごの鳥の気分が漂う。

 王族教育は幼少からの一般の新妻が受ける環境の変化とストレスを予見し、

 従属するように徹底される。

 “忍耐” などという、なまゆるいものでなく “従属”

 そのおかげで環境の変化も、ストレスも想定済みで軽減されている。

 もっとも、その相手が頭一つ分低い子供だと想定外。

 とはいえ、その子供は、安直ながら思慮があった。

 結局、ナウシカ自身の成功はギル王子を通してしか得られない。

 ということで、ギルの腐海探索を助けるしかなかった。 

 第4軍の戦力の3分の1。

 それも核になる機動軍を投入した作戦は、ギルが本気であるという証だった。

  

  

 周囲は、腐海に囲まれている。

 バージを中心にメーヴェ10機。

 外周に兵員装甲車5両が円陣を組んで即席の陣地を造る。

 第4軍、ペジテ、風の谷の混成部隊。総勢40人。

 武器こそあるものの、蟲を撃つのは最悪の場合のみ。

 探索だけでなく。初期の探索基地建設も兼ねていた。

 偵察の為、メーヴェが2機編隊で腐海に向かって突入していく。

 ユパとアスベルは、広陵の一角に立っていた。

 「・・・青き衣を着た者も・・・・花嫁か・・・」

 「婚儀が終われば、そうなるな」

 「・・・」 アスベルが落胆する

 「ふふ・・・ペジテ市が残っていたらアスベルが相手だったかも知れぬな」

 「そんな・・・・青き衣を着た者が相手なんて・・・・」

 「だが子供がやっている」

 「し、知らないからですよ」

 「ギル王子か。意外と指導者として悪くないかも知れぬな」

 「そうでしょうか」

 「ペジテ反逆を不問にして手懐けている」

 「そして、既に砂金とタリア石を見つけている」

 ユパが手を広げると数個のタリア石と小粒大の金。

 10分の1が取り分ともなれば、みな必死に探すだろう。

 そして、探査隊全体でも、10分の1が均等に分配される。

 「・・・・・・」

 「少なくともクシャナ殿のように軍事力だけに頼っていない」

 「金の力を知っているのだろう」

 「経済的な背景があれば巨神兵がなくとも、風の谷軍管区を統合できる」

 「民を食べさせる力があれば統率力や軍事力に頼らずとも自然と指導者になってしまうものだ」

 「・・・・・」

 第4軍の腐海派遣部隊の中隊長イトシマが近付いて来る。

 「・・・ユパ殿。来て欲しい。西の森で蟲使いと接触した」

 「本業者たちと接触か・・・・」

 「ええ、彼らとの戦いは、できれば避けたい」

 「協力して、より腐海の深層部に行けるのなら、利益も大きいはず」

 頷くユパ。

 蟲使いは、いま、第4軍がやろうとしていることを生業にしている者たちだった。

 ライバル業者との出会い。

 協調して探索事業を拡大できるか、

 障害になり事業を縮小して戦いになるかだった。

  

  

 風の谷の秘密の地下室

 腐海の植物が花を咲かせていた。

 ナウシカは、トルメキアから贈られた顕微鏡を覗き込んでスケッチする。

 腐海深部の植物と比較する必要があった。

 しかし、以前と違って、自由に動くことは出来ない。

 頼りない子供が、まとわり付いていた。

 寸足らずで圧し折れそうな腕に抱きしめられる。

 これが夫の腕なのだから滑稽。

 どちらかというとナウシカに膝抱っこされている方が似合っている。

 「・・・蟲娘は、なにしているのかな」

 と達者なセリフ。

 もっとも、腐海の植物を育てているのだから、大の大人でも気味悪がって退いてしまう。

 この子供は違う。

 子供だから蟲に嫌悪感がないのか。

 秘密の部屋の腐海の植物を見せても面白がるだけ。

 今となっては呆れ、諦めていた。

 単純な力比べだけならナウシカの方が上。

 テトは、少年ギルの無害性を感じているのか気にしていない。

 「・・・瘴気を出す植物と、出さない植物の違いを調べたいの」

 「ふ〜ん・・・・あのアスベルとかいうのに頼んだ仕事か」

 「いけなかった?」

 「・・・・別に。一人くらい余計な仕事をしても、影響は、ないからね」

 「そう」

 「腐海の植物で、食べられそうなものでもあるのかな」

 ギルが植物を見回す

 「まだ試していないわ」

 「ふ〜ん ねずみに食べさせてみるか・・・」

 ギルが、ヒソクサリの花を愛でる。

 子供は、ナウシカが出来なかったことを平然と言う。

 成功すれば人類の生存で大きな前進になった。

 ナウシカはギルが強要すれば、風の谷の民500人が生きていくため、気が進まなくても従うしかない。

 少なくともナウシカは、ギルが嫌いというわけではないが恋愛の対象外といえた。

 とはいえ、聞いてみると、ひぃ〜 ひぃ〜 の第一号もナウシカになるそうだ。

 ありがたくて、涙が出そうになる。

   

  

 腐海

 蟲使いとの交渉は、取り分の比率。分配交渉に終始する。

 蟲使いは、地の利と情報があることから、6対4を要求し。

 第4軍は、5対5で均等に分けるべきだと粘る。

 ここで退いては、全軍の利益と士気にも繋がる。

 そして、うっかり蟲使いが漏らした情報で形勢が逆転。

 北の渓谷に何かがあるらしい。

 当然、第4軍だけでも探索が出来る。

 移動手段で劣勢な蟲使いは5対5で妥協する。

 利益分配交渉が済むと互いに同盟意識が強まり、

 ドルクの情報も金次第になっていく。

 そして、ドルクと蟲使いの共闘も知らされ。

 結局、欲望に正直な選択がなされ、

 利益の大きい方と組むことになった。

 この近辺の蟲使いは、第4軍と組むことに決めたという。

 上空から航空機が近付いてくる。

 重装甲コルベット4機、ガンシップ4機、バカガラス(戦列艦)8隻の編隊。

 それぞれ決められた探索砦に物資を投下していく、

 そして、メーヴェやバージによって、兵士の交替と増員が行われる。

 多くの場合、探索砦は、贅沢な王蟲の殻で組み立てられていく。

 これが、もっとも軽量で丈夫だったからだ。

  

  

 風の谷 作戦室

 「・・・・ギル王子。物資をどこに横流ししているのですかな」

 「・・・・」

 「横流しとは無礼であろう。本国からの物資供給は、後れているだけではありませんか」

 キルヒスは、むっとして割り込む。

 「確かに納品書の数字には、間違いないがね・・・」

 「それにしては、第4軍。随分と羽振りが良くなっているようですな」

 「本国直轄部隊ですからな」

 「ほう。ところで第4軍の中核。機動軍は、どこに配備されているのかな」

 「兵力も半分以下の様に思えるが」

 「・・・・・・」

 「風の谷の守備軍が、これでは、第3軍は身動きが出来ぬな」

 「ドルク軍の侵攻部隊ごとき。機動軍がなくても守って見せる」

 「それより、戦線はどうかね」

 「いまのところは、心配ない」

 「第4軍の補給品が利いているようですな」

 「出所が知りたいものだのう」

 「それだけの資金が動かせるとは本国からの送金だけでないと思うが」

 「おや、クシャナ殿下」

 「他の軍団のお金の出入りが気になるとは、随分、余力が残っているようですな」

 「・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・」

  

  

 戦線

 ドルク軍の浮砲台5機が戦線の後方上空に浮いていた。

 浮砲台から撃ち出される砲弾によって第3軍の戦線が破壊される。

 コルベット4機とガンシップ2機がドルク軍の対空砲火を掻い潜り、

 浮砲台5機に向かっていく。

 双方とも砲撃戦と銃撃戦で死傷者を増やしていくが戦線は維持されていた。

 「・・・クシャナ殿下。第4軍の輸送部隊が動いた模様です」

 「・・・・クロトワ。ガンシップ1機を出して、輸送部隊を追跡させよ」

 「良いのですか? 戦場から戦力を引き抜いても」

 「・・・このままでは、第4軍が何をしているのかわからん」

 「了解しました」

 「あの・・・くそガキが・・・・いまいましい・・・」

 「なかなか、やり手のようですな」

 「あの兄上たちより、面白いがな」

 「そうかもしれませんが」

  

  

 腐海の町

 トルメキア第4軍との取引が増えると、

 これまでドルクよりだった蟲使いも第4軍に付く者が増え、

 蟲使い同士の諍いも大きくなっていく。

 トルメキア製品が腐海に流れ込み。

 ドルクの貨幣とトルメキア貨幣が腐海の中で使われる。

 岩穴の生活様式は、貧しいながらも安定していた。

 ユパとアスベルは、腐海の食生活に慣れ始めていた。

 岩穴の食堂。

 岩壁に風の谷にあるようなタペストリーが飾っていた。

その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし

失われし大地との絆を むすび ついに人々を 青き清浄の地にみちびかん

 「・・・こんな奥地でも予言のタペストリーがあるのか」

 「ユパ様。青き衣の予言ならナウシカが・・・」

 「・・・まだ、途上だろうな」

 「しかし、切っ掛けは与えられた」

 「我々は、腐海の存在目的に対して無知ではない」

 「青き清浄の地へ行きたいですよ」

 「ここは、正気な人間が来るところじゃないです」

 「切っ掛けだけ。という考えもある」

 「生きているうちにどうにか、なるものでも、ないだろう・・・」

 「・・・もう一つの予言は、なんでしょう。タペストリーの反対側の予言?」

その者 人であり 人でなく 定められた選択 光と闇を混沌に戻して 新しい天地を創らん

 「青い衣の予言は、腐海の奥から来たものだ」

 「しかし、反対側は、トルメキアから流布したものをバランスを取るため、書き込んだに過ぎない」

 「・・・・なんとなく予言めいているのに・・」

 「だから、反対側に縫い込まれたのだろう」

 「バランスは悪くない。予言というより預言だな。人の希望だよ」

 「確かに新天地は、希望がありますね」

 「アスベル。トルメキアで意識されている秘石は、良くわからないな」

 「わたしも、専門用語になると何がなんだか・・・ですが、巨神兵と関わりがあるようです」

 「第3軍に雇われた蟲使いは秘石の捜索。ドルクに雇われている蟲使いは蟲を操るコケを捜索」

 「・・・・それに比べて第4軍は世俗的ですね」

 「まあ、金めの物だからな」

 「おかげで住み分けが出来て争わずに済みますよ。金脈を見逃しているんですから」

 「まったくだな」

 「ユパ様も、随分、世俗的になられて」

 「いや、おかげで、随分、探索させてもらった」

 「トリウマでは、こんな腐海の奥地に入ってこられまい」

 「何か見つけましたか?」

 「いや、あの地下空洞以上のものはなかった」

 「ナウシカは、あれに希望を見出したようです」

 「希望・・・か・・」

 「違うのですか?」

 「我々の体には合わぬかも知れぬな」

 「本当ですか?」

 「子供の頃からあそこで育っていたら良いかも知れない」

 「しかし、そうなると、外に出た瞬間に死ぬだろう」

 「・・・・」

 「つまり、あそこに一度住み始めると抵抗力がなくなって外界に出られなくなる」

 「我々の世界が毒、腐海が猛毒。地下世界が消毒ということになる」

 「ギル王子は、面白がっていたようですが」

 「子供は、何でも面白がるよ」

 「なるほど」

 「だが毒と猛毒の世界だけでないことがわかっただけ救いがある」

 「森の人と接触するんですか?」

 「探しているものが見つかるやもしれん」

 「人類の行く末・・・ですか?」

 「ああ」

  

  

 風の谷

 城の中庭。

 ギルはナウシカに膝枕されている。

 婚儀の日が決まり、なんとなく、のんびりしている。

 青き衣を・・・が、こんなことをやっていて良いのだろうか

 という気にもなるが “金色の野に降り立った” 後なので、

 “失われし大地との絆を むすび ついに人々を 青き清浄の地にみちびかん”

 をどうするかだった。

 ギルに言わせれば、

 “人間のいない世界が清浄なのだから、導いた途端に不浄になる”

 “ということは、清浄な地へは、永遠に辿り着けないという”

 ナウシカが思わず笑ってしまう発想で、伝承を茶化せる子供もいるのだろう。

 “清浄な地ではなく。清浄な血を作るんだな”

 という発想も、ギルらしい。ひねた子供だ。

 それで・・・・

 “おれと作ろうぜ”

 と髪の毛を引っ張られて、チュッ!。

 そして、眠るギル。

 このくそガキが・・・と思っても、それほど憎めなくなっていた。

 これくらい生意気で無いと、

 6歳も年上の女の子と結婚なんてできないだろう。

 トルメキア兵士を殺した女というのは、広がっている。

 せいぜい捨てられないように愛想良く、若作りに励むしかない。

  

  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 本編後の話しです

 『青き衣の伝説』は、10年ほど前、トルメキアのヴ王が酒を飲みすぎて悪ふざけを・・・・・・

 改変は、ヴ王に10歳程度の末息子がいたことでしょうか。

 この息子、少し目端が利いて、あまり腹黒くないかもです。

 誕生日のプレゼントに国を一つ求め。

 ヴ王が聞き入れて、風の谷です。

 

 

 

  

 

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風の谷のナウシカ 『青き衣の伝説』

第01話 『へっ?』
第02話 『あれま〜』