月夜裏 野々香 小説の部屋

      

風の谷のナウシカ 『青き衣の伝説』

   

その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし

失われし大地との絆を むすび ついに人々を 青き清浄の地にみちびかん

   

第02話 『あれま〜』

 ナウシカは、時折、女性らしい服装で身を装う。

 それが好きというよりギルの好みだろうか。

 といっても、ギルは、どちらでも良いらしく、

 ただ、飽きさせないように着替えるだけ。

 昔と違って、風の谷は、豊かになって、ナウシカが自ら働く必要もない。

 男勝りな格好をしてもすることがない上に家庭教師が付いて暇がない。

 植樹もまだ。

 畑もまだ。

 それなのに食料や物資が運び込まれてくる。

 タリア石、金、宝石の加工業。

 王蟲の皮の加工業で生業を立てる者が増えて利潤も大きくなっていた。

 自給自足を前提にしていた風の谷が食料を産せず食材で豊かになる。

 ペジテの技術で大型風力発電機も建設されている。

 人口が増え貨幣経済が大きくなると財産に頼り保身に走りやすく、

 人と人との繋がりが気薄になって人を利用する事を覚え、

 地位と資財を守るため殺意の対象にすらなる。

 風の谷は、軍管区の中核で兵站の集積地で、

 ペジテに似た都市国家になりそうな勢いだった。

 ナウシカの素直な感想は、自然が失われ、

 人との繋がりで打算が強くなり、寂しさと同時に危機感を覚えていく。

 軍部に納入しなければならない業者も増えていく。

 そして、その中心にギルがいた。

 トルメキアは事務レベルで優秀な武官や文官が多い。

 ミトも行政官としての手腕が買われて働いている。

  

  

 ギルはテーブルに座って、腐海の報告書を見ていた。

 ナウシカは、そばに立ち、時折、行政で質問される。

 地元のナウシカより、

 着いたばかりのトルメキア行政官の能力が上だと思い知らされる。

 視点の高さ、見識の深さ、

 ボキャブラリーの量と適切な判断力は、太刀打ち不能だった。

 自然志向の風の谷と、人工志向のトルメキアの相違もある。

 しかし、総じてトルメキア人は優秀な人間が多く、マンパワーに頼っていない。

 ギルは、大まかな方針を口出しするだけで、

 小さなことは、キルヒスと、それぞれの文官・武官に任せていた。

 だれでも、出来る仕事を分担し、

 狭く深く連携しつつ自分の仕事をしているだけだった。

 トルメキア人自身が融通性の悪さから縦割り行政と自虐的に皮肉る。

 とはいえ、機能しており、代わりがすぐに見つかるほど人材の層が厚い。

 自己分析で窮屈で柔軟性がないと分析しているのだから、

 メリットとデメリットを知り尽くした確信犯なのだろう。

 むかしの風の谷は、そうではなかった。

 個々の歪な個性と才覚に頼り代わりがいない。

 個人に負うところが大きく、穴埋めが利かず、息切れしやすい。

 トルメキアは、教育が王族だけのものではない思想で一貫していた。

 風の谷のテパは、ナウシカの同世代で風使いの見習いだった。

 しかし、頭が良いとトルメキアの英才教育を受けさせられ。

 今では目付きが思慮深く、立ち振る舞いだけで知性的に見える。

 相乗効果があるらしく、風使いの腕も上がっている。

 テパも英才教育に感謝しているのか、

 風の谷よりトルメキアに味方することが多くなる。

 ギルが10歳という若さで、知性と狡猾さを垣間見せるのも教育と知識を裏付けにしていた。

 大帝国トルメキアの器の大きさと、帝国となった一端を垣間見せる。

 ナウシカとギルは、家庭教師の教育で時間を費やされていた。

 

 

 クシャナ殿下が王室に入ってくる。

 「おや、クシャナ殿下。戦線は?」

 「ギル王子。そろそろ、ドルクに総攻撃を掛けるべきだと思うが」

 「もっと、地歩を固めてからの方が良い」

 「なぜだ。戦力なら十分に集められるのではないか」

 「クシャナ殿下。敵がドルクだけとお考えか」

 「もう少し、力をつけておくべきであろう」

 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

 阿吽の呼吸だろうか、

 ギル王子の言い分を理解したクシャナが引き下がる。

 風の谷は、力をつけつつあった。

 相克の龍を紋章にする帝国は、強さを表現するだけでなく、

 身内同士の骨肉の争いも暗示させる。

 ギル王子の発言は、本国との戦争も視野に入っていた。

 簒奪王の犠牲者であるクシャナ王女と簒奪王の継承権最下位の末息子の同盟。

 そして、ドルクという敵の存在で本国から送られてくる戦略物資。

 第4軍の交易による収益が加算され、莫大な社会基盤が作られようとしていた。

 クシャナ軍は、最小限の損失で戦線を防衛し、

 他の戦線で戦っている三人の皇子より人気があった。

 あとは、クシャナ殿下とギル皇子のどちらが主導権を握るかであり、

 ギル王子は、クシャナに俺の女になれと言いかねない脅威のませガキだったりする。

  

  

 トルメキア帝国 クワン軍管区

 クシャナが戦場の空気を見ながら戦闘指揮を執っているのと比べるなら、

 3皇子の戦闘指揮は、軍事教本を読みながら戦闘をしている、といえた。

 攻撃と守りは短調でセオリー通りと書けば、イメージしやすい。

 状況の変化に対応できない戦線は、ちょっとしたほころびで混乱していく、

 「・・・ギルが邪魔だな」

 「あいつが風の谷にいなければ、今頃、クシャナを亡き者にしていたものを・・・」

 「まったく。子供のくせに国を欲しがるとは、生意気な」

 「大人しく、本国に控えてればいいものを」

 「しかし、何とか、工作も進んでいる」

 「いざとなれば、ギルだけでも助け出せば、我々も安泰だろう」

 「そうだな。どうせ。ギルが成人する前に我々が王位を継承するのだから」

 「相克の龍の紋章を露骨に肯定してしまうのも庶民受けが悪すぎるからな」

 「くっ くっ くっ」

 天幕に副臣が入ってくる。

 「・・・皇子・・・左翼の浮砲台を沈黙させました」

 「それでは、火力を左翼に集中しろ」

 「はっ!」

 「・・・戦況は安定しておるな」

 「ああ。これなら。ここから予備兵力を注ぎ込んで、突き崩せるのではないかな」

 「そうだな。上手く戦線から部隊を退き抜いて予備兵力は勝っている」

 「あとは・・・」

 「・・・皇子! 敵が崖から降りてきます」

 「ば、馬鹿な、あのような崖を降りられるわけがない」

 背後の崖から逆落としでトリウマ200騎が降りてくる。

 トルメキア第2軍は、浮き足立ち戦線の崩壊が始まる。

 予備兵力を防衛線から引き抜き、

 投入する時期と場所で判断を誤って、さらに混乱。

 第2軍は、散々な目に遭って敗走する。

 全滅しなかったのは、皇子たちの指揮が良かったのでない。

 しんがりを見捨てながらの敗走に過ぎなかった。

 これも良し悪しといえた。

 クシャナ軍なら仲間を助けようとして余計な損害を増した可能性もある。

 3皇子は例え、将兵の不信と戦意喪失の代償を支払っても合理的な判断をしていた。

  

  

 腐海

 “森の人(セルム)” とユパ、アスベル

 蟲使いから伝えられたとおり。

 森の人は、火を使わず。蟲の腸を身にまとい。

 蟲の卵を食べ。蟲の体液で作った泡を住処にしていた。

 ユパとアスベルはショックで呆然とする

 腐海でマスクをせず、瘴気を吸って生きているのだから当然で、

 蟲使いは畏敬の念で森の人に接する。

 既存の人間性からも逸脱しているように見える。

 「・・・ユパ様」

 アスベルの声にユパだが、どう対応したものか迷った。

 「・・・・腐海に異変が起きようとしている。これは、我々のあずかり知らぬこと」

 いきなり核心に触れた回答する。

 「・・・・」

 「しかし、原因を調べねばなるまい。関わりなくとも状況は知っておくべきであろう」

 「あ・・・森の人セルム殿。異変とは、どのような?」

 「大海嘯(だいかいいしょう)」

 絶句する。

 王蟲の暴走と腐海の急速な拡大。

 次の大海嘯で人類は、確実に滅びるといわれえている。

 森の人が他人事なのは、既存の人間生活とのかかわりがないからだろうか。

 マスクもなしに腐海深部で生きていられる人間は、森の人しかおらず、

 ・・・人類ではない。

 「セルム殿。大海嘯だけは、なんとしても止めたいのだが、ご助力願えまいか」

 「我々は、どちらでも良いのだ。人間世界がなくなろうと生き残ろうと・・・」

 「・・・・・」

 「どちらでも良いということは、助力しても良いということかな」

 セルムが不敵に微笑む。

 「・・・・・」

 「・・・・大海嘯の原因は、ドルク。聖都シュワにある」

 「シュワ?」

 「いま、わかるのは、これだけだ」

  

  

 腐海 探索砦

 蟲使いは、国家という概念がなく個々の契約が全てだった。

 国家の枠組みの中で安穏とするのでなく、

 契約によって利益を得て契約を果たすことで生きていける。

 蟲使いに愛国心は、育ちにくい。

 ということでドルク、第4軍、第3軍の蟲使いの契約者が腐海に混在するようになった。

 当初、契約者の比率は、ドルク(9)、第3軍(1)だった。

 それがドルク(4)、第4軍(5)、第3軍(1)という風に変わっていく。

 腐海に対する意気込みと資金力の差は、探索力と情報量で跳ね返る。

 ユパとアスベルが地図を広げる。

 「・・・どうも、太古において、二つの技術体系が見受けられる」

 「トルメキア側が巨神兵技術体系」

 「そして、ドルク側が腐海・王蟲・超能力技術体系・・・」

 「では、ユパ様。第3軍が秘石を捜索しているのは巨神兵の関連技術でしょうか?」

 「ドルク側が秘石に対して、ほとんど関心を寄せていないのは技術体系が違うためだろう」

 「まったく違う技術でしようか」

 「どうかな、ガンシップが機銃とエンジンの組み合わせなら、機銃とエンジンが分かれて進化したともいえる」

 「・・・」

 「まったく違うもの、ともいえる」

 「とはいえ、互いに未知の技術には興味を示さず」

 「いまある技術体系で勝つ算段だろうな」

 「ということは7日間戦争。その二つの技術体系の戦いだった可能性もあるのでしょうか?」

 「興味深い発想だが仮にそうだとして腐海・王蟲側の勝利とはいえまい・・・少なくとも人間はな」

 「シュワで調べるしか・・・ですが、忍び込むというのは・・・」

 「・・・・聖都シュワにまで行く戦力もないな」

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」

  

  

 ウシアブに乗る機会も、経験も、ざらに得られない。

 人間を食べるウシアブに乗るのは、まったくもって最悪の気分。

 なぜウシアブに乗るのかというと撃墜される可能性がゼロ。

 蟲使いが特殊なコケをウシアブに塗り、催眠術のようなものをかける。

 すると蟲使いとユパ、アスベルを乗せた二匹のウシアブが飛ぶ。

 蟲を攻撃する者は、トルメキアにも、ドルクにもいない。

 そして、蟲は忌み嫌われているのか、見たとしても人が隠れ、すぐに目を逸らされる。

 フリーパスでドルクの聖都シュワに近い森に降りる。

 「・・・ユパ様。今度という、今度は、生きて帰れるかどうか」

 「戦場に行くのと、どっちが、いいかな」

 「こっちです」

 「では、腐海にいるのと、こっちは?」

 「・・・・こっちです」

 利益が保証されなければ腐海に暮らす者などいない。

 腐海で寝ぼけてマスクを外し、死んだ兵士もいる。

 敵の首都にいても、マスク抜きで自然に呼吸できた。

 見つからない限り、命の危険に常に晒されることもない。

 「・・・では、3日後にこなければ、そのまま帰ってくれ」

 ユパは、蟲使い二人に言い残すとアスベルと共にシュワに向かっていく。

 アスベルとユパは、街に入るとベールを被り、

 蟲使いやドルク人の様に振舞う。

  

  

 腐海の地下世界

 数十体の王蟲の殻が転々とし、王蟲の墓場がそこにあった。

 王蟲の死に場所が生息地の腐海でなく、非生息地の清浄な地にあるのは皮肉なことだ。

 ナウシカとギルは、王蟲の殻を見上げる。

 古いものは、体液が流れて大地に浄化されている。

 そして、比較的新しいものは、体液が残って少しばかり臭うが毒ではない。

 綺麗な殻の王蟲は、入り口を切り分けて物資を搬入すれば空中要塞にもなる。

 ドルクが王蟲の墓場を見つけられなかったのも、

 王蟲の皮を焼き切る熱処理技術がなかったせいだろうか。

 史上初めて王蟲の墓場を発見したのは第4軍だった。

 「・・・ギル。王蟲の墓。本当にあったのね」

 「ああ、第4軍は最強の軍団になるよ」

 「熱加工の張り合わせの戦闘機ではなく。全シームレス構造だからね」

 「・・・・」

 「そして、中からも、外からも二重、三重に補強する」

 「・・・そう」

 ギルは、書類にサインをするとキルヒスに渡す。

 これで、事務処理上。空中要塞建造が始まる。

 「ナウシカ。毒を出す花と毒を出さない花の違いは、わかったの?」

 「シアン系の物質と何かのウィルスが反応しているみたい」

 「そのウィルスは、シアン系の物質をエネルギーにしている」

 「んん、じゃ・・・地下にある毒を出さない植物は、おなかが空くんじゃない?」

 「ウィルスが仮死状態になるだけ」

 「でもシアン系の物質を取り込んだらエネルギーを回復して活性化する」

 「ふ〜ん」

 「わたしたちの体にも、そのウィルスがいるからシアン系の物質が少ない間はいいけど」

 「多くなると死ぬ」

 「じゃ 瘴気には、シアン系の物質が含まれているということか?」

 「ええ」

 「じゃ そのウィルスを殺せば僕たちは、腐海の中でも死なない?」

 「ええ」

 「じゃ、その薬で、一儲けできるかな」

 「ふっ・・・・そうね」

 ナウシカには、命をお金に変えてしまう発想はなく。

 なんとなく。ギルに面白味を感じる。

 人間も、社会も、お金の使い方で良い方にも、悪い方にも、どちらも転ぶ。

 お金の使い方が良ければ社会が繁栄し。悪ければ社会が腐敗する。

 そして、風の谷は繁栄していた。

 悪い使われ方をしているお金より。良い使われ方をしているお金が多いといえた。

 「森の人が生きていられるのは、どうしてかな?」

 「ウィルスがないか。王蟲と同じ耐性体質になっているか・・・」

 「調べてみないとわからないわ」

 「ウィルスのない森の人、耐性体質の人間」

 「二つの未来があるとしたら。理想は、どっちだと思う?」

 「わからないわ」

  

  

 重コルベット2艦とガンシップ6艦が腐海から離陸する。

 しかし、雲の合間に浮砲台10隻と亀型戦闘艦30隻が現れて、

 風の谷に帰還しようとしていた編隊に立ちはだかる。

 「・・・待ち伏せされていた」

 「旗艦を守れ。なんとしても、ギル様とナウシカ様を守りきるんだ」

 「ちっ! 雲に退路を断たれた」

 「南は?」

 「隊長! 3時方向から戦闘艇に切り込まれます」

 「ギル様の重コルベットを南側に避難させろ。突っ込め、近づけさせるな」

 激しい航空戦になった。

 戦場は、押し戻されて南に向かっていく。

 ギルとナウシカの乗る重コルベットを守ろうと、

 ガンシップが次々と盾になって撃墜されていく。

 そして、浮砲台の一撃でギルとナウシカの乗る重コルベットは被弾し、

 腐海に不時着する。

  

  

 ギルが目を覚ます。

 目の前にナウシカがいる。

 「やあ。ナウシカ」

 「大丈夫?」

 「ああ」

 重コルベットは、腐海の木々を100メートルほど圧し折って不時着していた。

 なんとも丈夫な艦だ。

 それでも、乗員の半分が死んで、生存者は10人ほど・・・。

 隊長は、キルヒト

 上空で数機のガンシップが、まだ戦っている。

 「王子。すぐに脱出を」

 「わかった」

 10人は、ギルとナウシカを囲んで移動しようとする。

 「おい。キルヒト。そっちじゃない。逆だ」

 「王子。そっちは、ドルクです」

 「帝国側は、待ち伏せされている。こっちだ」

 「・・・・」

 「武器・食糧だけじゃなく、金目の物も忘れるな」

 ・・・・・・・・・・・

 どっちが正しいかでなく。

 一行はギル王子に従うしかなく、南に向かって移動する。

  

  

  

 そして、ギルが正しいことが、すぐに判明する。

 浮砲台は上空を通り過ぎて帝国側に降りていく。

 「・・・キルヒト。どうやら情報が漏れていたらしいね」

 「申し訳ありません。王子」

 「ここより、南側の探索砦は、やられていると考えた方が良いのだろうか?」

 「・・・襲撃された時。浮砲台は、1隻も破損していませんでした」

 「なるほど。戦力的に探索砦も同時に攻撃するのは無理がある」

 「待ち伏せも、不可能になる」

 「しかし、これからは、南側の探索砦も襲撃されるかもしれません」

 「ドルクは、そんなに予備兵力があるのか」

 「恐れながら・・・第2軍が敗走したと伺っています」

 「なるほど。そこから予備兵力を引き抜いたわけか。迷惑な兄上様たちだ」

 ギルは、異常なほど落ち着いている。

 というより、面白がっている。

 そして、この行軍で部隊を守ったのは、兵士達でなかった。

  

  

 ナウシカとギルが蟲使いの格好で蟲使いと取引し、水と食料を手に入れる。

 墜落した重コルベットは、軍資金が積まれていた。

 金さえあれば、敵中をのんびりと旅行しているようなもので、殺傷沙汰になることもなかった。

 北に向かって逃げていたら、それこそ血みどろの殺し合いになっていた。

 それでも、気付いているドルク兵士の一隊がいるのか、執拗に迫ってくる。

 ドルク兵士20人。2個分隊が蟲使いに案内されながら向かってくる。

 「どうやら、我々が南に逃げていると考えている部隊がいるようだ」

 「・・・ギル様。攻撃しますか?」

 「次の買い物の時には、嘘の情報を流すことにしよう。東か、西に行くと」

 「逆襲してもいいかと。奇襲なら勝てます」

 「んん・・・倍の戦力か・・・」

 「本隊から離れたドルク軍がどの程度、自由に動けるか見定めたい」

 「はい」

  

  

  

 探索砦の一つが浮砲台の攻撃を受けていた。

 探索砦から撃ち出される大砲が浮砲台に命中。

 浮砲台を墜落させる。

 そして、メーヴェの一隊が半分を失いながら、

 浮砲台に取り付いて浮砲台で銃撃戦を繰り広げる。

 「・・・・逃げれば、いいのに」

 高台から見ていたギルが呟く。

 「ドルクが来たら逃げよとは命令していませんでしたから」

 「敵が優勢なら、逃げるべきだろう」

 「この辺は、金脈が、あったはずです」

 「・・・金か・・・・命の方が大切だろう」

 「兵士は命をすり減らしながら金を稼ぎます」

 「ギル様、どうしますか?」

 「もっと南にいく。たぶん、あの探索砦は占領されるだろうな」

 「わかりました」

 「追跡してくるドルク部隊を待ち伏せして全滅させますか?」

 「いや、優秀なドルク兵じゃないか」

 「我々の意図に気付いて本隊から離れて移動している」

 「優秀な部隊は好きだな」

 「・・・・何とかメーヴェだけでも手に入れられれば良いのですが」

 「まだいい」

 「しかし、せめて、ギル様だけでも」

 「制空権を失っている」

 「メーヴェがあっても逃げ切れないよ。無理をすることもない」

 「・・・・・・」

 「利潤もないのに。いつまでも大軍を腐海に配置してられない」

 「ドルク軍は、捜索で疲労してもらおう」

 「しかし、それではギル様が危険にさらされてしまいます」

 「当面は、南にいく。その間は、捕まらないだろう」

 ギルの言うことは、正鵠を得ていた。

 ドルクの捜索範囲は北に向かって範囲が広がり。

 腐海のあちらこちらで第4軍の探索砦と交戦状態に入っていた。

 そして、危険なのは追跡してくるドルク兵の一隊より、蟲だった。

 時々、羽蟲やウシアブが襲ってくる。

 しかし、ナウシカが近くにいると手を出さない。

 「へぇ〜 蟲女だ〜」

 「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」

 と、無神経な子供は、トルメキア兵士でさえ気を使って言わないことを言う。

 王族は、気を使うという世事から、かけ離れているのだから仕方がないのだろう。

 特に大国の王子ともなれば、露骨で本質を付いているような気もする。

  

  

 夜になると

 森の人(セライネ)がウシアブを連れて現れる。

 キルヒト、ギル、ナウシカが前に出る。

 「・・・代表は、その子なのですか?」

 「何? 蟲使いには見えないけど」

 「森の人よ」

 「森の人か・・・美人」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「まあ、いいわ」

 「王蟲の血を浴びた娘が動いているから気になって来ただけだから」

 セライネがナウシカを見詰める。

 ナウシカは、王蟲の子供の血を浴びた服を着ている。

 「その者 青き衣をまといて 金色の野に降り立つべし

 「失われし大地との絆を むすび ついに人々を 青き清浄の地にみちびかん

 「・・・・・」

 「・・・どうするつもりかしら」

 「・・・???・・・あなたの言っていることが、わからないわ」

 「森の人の予言よ」

 「予言? 森の人の?」

 「わたしたちに、わからないことがあるのは珍しいことなの」

 「その様子だと本人すらも、わからないようね」

 セライネは、そういうとウシアブと去っていこうとする。

 「まって!」

 「・・・・・・」

 「・・・教えて、これから、どうなっていくの?」

 「・・・・・・・・」

  

  

 兵士が疲れて眠っているギルを背負って進む。

 ギルが眠っていると進む速度も速い。

 追跡しているドルク兵士たちを一気に引き離していく。

 「大丈夫ですか? ナウシカ様」

 「ええ、わたしは平気です」

 「そうですか」

 「ふっ 眠っていると、かわいいのに」

 「王子のこと。よろしくお願いします」

 「・・・ええ」

 「今回の待ち伏せ。たぶん、3皇子の画策だと思われます」

 「・・・3皇子の?」

 「はい。ギル様はヴ王のお気に入りと思われ警戒されていたようです」

 「・・・・」

 「そして、第2軍の敗北で差がつけられたと思って・・・」

 「では、クシャナ殿下の方も?」

 「・・・・たぶん」

 「そんな・・・・」

 「わたしは、ギル様には希望を持っています」

 「この方はトルメキアを救ってくださると」

 「・・・わたしも、そんな気がします」

 「そして、ナウシカ様も」

 「・・・・・」

 「ギル様とナウシカ様がいなかったら・・・・」

 「・・・・」

 「我々、兵士だけでしたら。全滅していたはずです」

 「我々の命は、ギル様とナウシカ様のものです」

 「・・・・・」

  

  

 ドルク領

 ギル、ナウシカ、トルメキア兵が腐海からドルク領を覗く。

 「・・・・誰も、いないようだ」

 「ええ」

 「・・・・キルヒト。夜になってからドルク領に入ろう」

 「了解です。ギル王子」

 ギル、ナウシカ、そしてトルメキア兵士は、一兵も損なわずにドルク領まで到達していた。

 食糧を買うため、蟲使いと接触した時。

 ギルが渡した紙切れが第4軍に送られるかどうか。

 それに生死がかかっている。

 「ギル。疲れてない?」

 「疲れてないよ」

 やせ我慢しているのがわかる。

 「・・・・・」

 「風呂に入りたいな・・・・・」

 「そうね」

 「・・・・・・」

 「ギルのおかげで、だれも死んでいないわ。敵さえも」

 「王族は、直接、人を殺したらいけないんだよ」

 「・・・・・」

 「どうしても殺したいときは、敵を使う」

 「駄目なら、蟲や人を使う。ナウシカも習っただろう」

 「・・・・ええ」

 「君も、クシャナ殿下も、気をつけないとね」

 「その点。3皇子は良くわかってる。今回は、見事だったね」

 「・・・・・・」

 「復讐に囚われてもいいけど。国民は、人殺しをあがめたりはしないよ」

 「・・・・・・」

 「だから、自分で、やってはいけないんだ。特に王族はね」

 「・・・・・・」 

 ナウシカは子供に説教されていた。

  

  

 夜になって、ドルク領内へ。

 追跡していたドルクの一隊は、腐海から出ると反逆罪扱いされると思ってか、

 腐海の中の探索に戻っていく。

 ギルとナウシカ、トルメキア兵は、用心しながら夜の草原を抜けて行く。

 地図は、蟲使いから買ったもので大雑把だった。

 主要な都市が描かれ、

 マニ族、ビダ族、サパタ族、サジュ族、ダマ族、ナレ族の勢力分布を記されていた。

 ここでも、ナウシカとギルが蟲使いに化けて食料を調達したり、

 情報を収集したり・・・・・

 聖都シュワの大通り。

 正面からすれ違おうとした互いの蟲使いモドキは、妙な親近感を覚える。

 「・・・・ナウシカ・・・・ギル様」

 「・・・アスベル・・・ユパ様」

 敵中のど真ん中で、ばったり仲間と接触。

  

  

 ユパとアスベルが、マニ族から買った民家

 「いや・・・風呂は、いいねぇ 飲んでも良いような水に全身を浸かれるなんて、贅沢だね」

 「文化の香りがするよ」

 「・・・そうね」

 ギルとナウシカは、風呂に入っていた。

 といっても長い腐海生活で臭いが染み付いているため。

 ギルも、その気になれなず、

 目で楽しんでも鼻血も出ないという感じだ。

 特に腐海の中

 蟲使いの食料を食べ付けないギルは痩せてしまい、性欲より食欲。

 ナウシカは、別の意味で、その気になれないといえる。

 とはいえ、彼の臣下たちから “王子をよろしく” と頼まれ。

 風の谷の住人たちのこともあれば諦めるよりなかった。

 何よりナウシカは、青き衣の伝説で異性から思いっきり退かれている。

 妻にする気でいるのは、いまのところ、この子供だけだった。

 ギル、ナウシカ、兵士たちは、マニ族の服に着替える。

 ギルとナウシカはともかく。

 兵士たちは、トルメキア特有の違和感があった。

  

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 後方でふんぞり返っていたギルとナウシカが敵中突破で、ドルクの心臓部へ。

 風の谷は、どうなっているのか・・・・・

 救援は、来るのか・・・・・

 予言って・・・・

 

 

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