月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第01話 『陰界と陰陽武師』

 陰陽武師同士の戦いは、五行の木・火・土・金・水を支配する戦い、

 己が五行の木・火・土・金・水を用い、

 「相生」「相剋(相克)」「比和」「相乗」「相侮」を駆使し、相手の五行を封じ、

 時空結界を支配していく、

 知らない人間が見るなら、二人の陰陽師が互いの姿が見えないほど離れた場所で

 適当に歩き回りながら式神を撒いてるようにも見える、

 しかし、複雑な計算と将棋や囲碁のような攻防が繰り広げられ、

 場の占有に負けたものは、五行を狂わされ、霊障を負い、

 「ぅぅ・・・」 バタッ!

 時に体調を損ない、死に至る。

  

 

 どこかの工場の一角

 燃えた跡が残されていた。

 「先生。どうでしょうか。何かわかりますか」

 「警察は何と?」

 「原因不明の不審火だと」

 「正直に言いましょう」

 「この手のものは、誰かに恨まれたか、競合するライバル会社か、陰魔の仕業といえます」

 「・・・・」

 「信じられてないようで・・・」

 「い、いえ、そういうわけでは・・・」

 「工場長。ここに5枚の和紙があります」

 「はぁ」

 「それぞれ、五行の木・火・土・金・水に因んだ。刻限と場所で定めだれた手順で作りました」

 「この5枚の和紙を決まった場所に置きます」

 陰陽師は、遠回りで無駄な工程で非合理的な作法で5枚の紙を置いていく、

 「携帯ですが強い護符なら、場の五行を打ち消します」

 「そして、手順に従って作った式神を特定の場所に配置すれば、火を消し去ることも可能で」

 「逆に火のないところで火を起こすことも可能です・・・」

 陰陽師が指を指すと、

 ぱちっ!

 工場の一角で火花が散り、燃え始める。

 気付いた工員が慌てて消し去り、

 工場長は目を見張る。

 「静電気放電からの出火ですが、自然現象に見えるでしょう」

 「こ、こんなことが・・・」

 「それはそうと、いま昼ですが、少し寒くありませんか」

 「そ、そういえば・・・」

 「これも同じですよ」

 「あなたが昼食に食べた食事と、私が自販機で買って渡したコーヒーのせいです」

 「あと、幾つか、組み合わせると体温を下げ」

 「もう一つ、私が置いた式神が特定の場の空気を変えたのです」

 「5メートルも下がれば、暖かくなりますよ」

 工場長は、言われた通り下がると体温が上がっていくのを感じる。

 「そんなことが・・・」

 「こういったことを続けると、普通の人は病死します」

 「・・・・」

 「大丈夫ですよ。一時的なものですから、すぐに元に戻るでしょう」

 「・・・・」 ほっ

 「不審火は、私と同じ陰陽師の仕業で、誰かの恨みを晴らすため雇われたか」

 「ライバルの会社に頼まれたか・・・」

 「それか、陰魔の仕業でしょうな」

 「い、陰魔とは?」

 「人の恨みや他社の工作であると困るので、便宜上、陰魔ということにすることがありましてね」

 「な、なるほど」

 「人間同士、直接対決を避ける大人な対処ですが・・・」

 陰陽武師は、工場の一角を見つめる。

 「珍しいことに本当に陰魔のようで・・・」

 「な、何とかしてください、このままでは仕事になりません」

 「ま、まさか、そんな・・・・・」

 

 

 

 八乗市の交差点

 駅ビルの壁スクリーンに速報映像が流れていた。

 “長野県の製薬工場が突然出火し、従業員を巻き込み、犠牲者多数を出しています”

 “関係者によりますと工場の可燃物は少なく、このような火災はあり得ないと・・・”

 少女は、その日、朝から気分が良く、好調だった。

 バイオリズムの変化だろうか、

 世間一般に知られている陰陽道は、既に死んでいる。

 陰陽と五行は、元々自然人体科学を統計的に考察したもので、

 本物の陰陽師は、最新の科学知識を貪欲に取り込む風潮が強かった。

 交差点の近く

 少女の視界に何やらぼんやりとしたモノが伝わる。

 『陰魔・・・』

 陰陽師随一の武闘派、陰陽武師でさえ、対人2割、対物6割、

 対霊1割9分、対陰魔1分といわれ、

 陰陽師と陰魔は、対立してるにもかかわらず、

 戦いは金をもらっても割が合わないことが多く、

 通常、危害を加えてこようとしない限り無視するか、

 よほど大きな利害がぶつからない限り戦わない。

 しかし、その日、少女は、気まぐれにも陰魔の気配に興味をもった。

 『手持ちの式神は40枚・・・』

 『足りない分は・・・』

 少女は、日時と方角と方位を計算し、

 一見すると非合理な動きで太乙神数、奇門遁甲、六壬神課を完成させ、

 場を支配していく、

 この戦いに巻き込まれた歩行者は、立ち眩み、

 悪寒を感じたり、吐き気を模様したり、

 そして・・・

 「はぁ?」

 

 

  

 陽界の人たちは、陰界と、陰界にいる影に気付かない。

 目の前に立っていてさえも陽界から陽界へと通り過ぎていく、

 建物さえも陰界を無視して作られていた。

 器用なものだ。

 なぜ、陽の人々は、陰界に気付かないのか、

 危険な住人を恐れ、目を瞑っているのかもしれない、

 少年が陰界に気付いたのは中学の頃、

 特権的な利益に気付いて高校生に至るまで秘密裏に利用している。

 世界の半分が陰界で構成され、危険で豊かな自然が広がっていた。

 そう、朱条彰人(しゅじょう あきと)は、陰界にいる。

 一度この世界に踏み入り、その構造に気付けば、誰もが陰界を聖域として利用する。

 陽界で搾取しても陰界に隠れていれば気付かれない。

 世界一の怪盗でさえ、夢じゃない、

 表の人々にとって密集密閉された空間でも、

 裏の世界に住める者は、表の隙間に裏が重なって隙間だらけ、

 人が不意に姿を消し神隠しと呼ばれてしまう事がある。

 神隠しの100人に1人は、裏の世界に引き籠もっていると思えた。

 そして、ほとんどの住人は、陰界の奥に潜む魔を恐れ、たまに利用しているだけに過ぎない。

 朱条彰人も同じ、表の世界に近い場所で休み、

 何も気づかない表の世界の人を眺めてっ・・・

 不意に陰界に侵入した少女と目を合わせた。

 彼女のわざとらしい慣習的な悲鳴と、

 面白がるような表情を隠す仕草は、どこか鼻につくが

 無防備に曝け出してるのは、こっちなので、慌てる。

 

 千・羽鶴は、高校1年生で、この日、陰界に気付いた。

 もっとも気付いたのは、偶然というより、特別な家系にいるためであるが、

 停滞期にある陰陽道の秘術は、最後の最後で興亡の選択肢を与えられたらしい、

 朱条彰人は、こそこそと服を着ると、

 「まさか、人が入ってくるなんて・・・」

 「この世界って、面白いのね」

 「誰にも言わない方がいいよ」

 少年、朱条彰人と少女、千羽鶴は、交差点の真ん中、自動車が行き交う中にいた。

 「言っても信じてもらえないもの」

 「僕は、気付いたのが中学の頃だったから、変に思われたっけ」

 「あんたの家は、何か特別な家系?」

 「えっ いや、普通の家だけど」

 「そう・・・・」

 素人が陰陽道を知らず知らずに使うことがある、

 逆に公式の陰陽道を盲信してる似非陰陽師は陰陽道を使えない、

 そして、イレギュラーになると、陰界にまで紛れ込むのか・・・・

 「・・・どうして、この陰界に気づくのかしら」

 「陰界?」

 「こういう世界を陰界っていうの、この世界に住む化け物は陰魔」

 「へぇ〜 僕の場合、何かの拍子かな」

 「朱条君は、交差点の真ん中で日光浴してたものね。しかも裸で」

 「あははは・・・」

 「いくら陽の人に気付かれないからって、裸でこんなとこにいるなんて信じられない」

 「千は、これが初めてだったの?」

 「そうよ」

 「陽の人でもこの世界に敏感な人もいるから、ちょっと、うっかりするんだ」

 「ところで、朱条君。これ、どこで調達してくるのよ」

 トレーラーハウスがあった。

 「前にいた人が持ってきたらしい」

 「その人は?」

 少年が指差すと墓が作られていた。

 「あんたもタフねぇ」

 「ほかにも人がいるの」

 「これまで、3人見たよ」

 「少ないような多いような」

 「この世界に来る力がなくても連れてこられて閉じ込められて働かされてる村もあるよ」

 「げっ」

 「でも、力があっても、この世界は危ないから、普通は表の世界にいるらしいけど」

 『表の世界か・・・』

 「・・・危ないめにあったの?」

 「この世界で最初にあった人に聞いてね」

 「魔がいるんだよ。深入りすると喰われてしまうって」

 「その人が言ったこと信用したんだ」

 「その人、5人で奥を探検したらしいけど生き残った1人で、そのまま、死んだし」

 朱条は墓を見つめる。

 「そう・・・」

 千・羽鶴は、式神を飛ばし、陰界の奥を観察する。

 「せ、千・・・器用なことするね」

 「私、陰陽武師だもの」

 「なにそれ?」

 「そういう家系なの」

 「・・・・・」

 

 

 夏、殷(商)の古代中国の頃、

 陰陽と木・火・土・金・水の五元素が組み合わされた自然学術が起こった。

 自然学術の一部は、数百年をかけ、天文学、暦学、易学、時計、呪術と組み合わさり、

 周王朝に至ると陰陽道として大成されていた。

 大陸から日ノ本に伝わったのは、聖徳太子の時代の5世紀頃、

 伝わったのは陰陽道の嘘交じりの基礎だったにもかかわらず

 山岳山伏は、その隠された秘密に気付き、陰陽道を開眼していった。

 霊場を中心とした山伏を母体に陰陽師や忍者が派生し、

 そして、

 三善清行 みよしきよゆき(みよしきよつら) 847年(承和14年) - 919年(延喜18年)

 賀茂忠行(かものただゆき) ? - 960年(天徳4年)

 賀茂保憲(かものやすのり) 917年(延喜17年)-977年(貞元2年)

 賀茂光栄(かものみつよし) 939年(天慶2年 )-1015年(長和4年)

 安倍晴明(あべのせいめい) 921年(延喜21年)-1005年(寛弘2年)

 安倍吉平(あべのよしひら) 954年(天暦8年)-1026年(万寿3年)

 安倍吉昌(あべのよしまさ) 955年(天暦9年)? - 1031年(長元4年)の2代系譜の時代、

 護符と呪符で朝廷と貴族に保護された陰陽は花開き、

 その闇の力は、権力者と結びつきながら表の社会から沈んでいく、

 その陰陽師の一派、陰陽武師は、強力な護符と呪符で

 有力者の手足となって、人を呪ったり、田畑を不作にさせたり、

 その攻防で世の恨みの辛みの元凶を作り、

 時に和解の要求に従って諍いの解消も手掛けた。

 しかし、朝廷と貴族も手足となる陰陽師の特異能力を恐れ、

 時に権力者に追われる事もあった。

 武士の台頭がそれ、

 応仁の乱以降、陰陽勢力は、戦乱のたびに物理的な攻勢に晒され、

 陰陽師は、相互補助を目的とした職業ギルドめいたものを形成し自衛していく、 

 霊場に陰陽師の子弟の基礎教育場が作られ共有化されたのもこの頃、

 しかし、護符と呪符は、いつの時代にも如何なる権力層にとっても需要があり、

 乱世、平時を問わず権力層と結託し、恐れられ、排斥され、

 その後、陰陽勢力を回復していくといった興亡の繰り返しがなされた。

 1181年養和の飢饉。1231年寛喜の飢饉。1459年-1461年長禄・寛正の飢饉。

 1642年寛永の大飢饉。1732年享保の大飢饉。

 1788年天明の大飢饉。1833年天保の大飢饉

 の大飢饉は、陰魔の干渉で被害が拡大したのだが、

 元々は、商人の暴利と、朝廷、将軍、大名の諍いが元で、

 陰陽師の呪法によって飢餓が引き起こされたことは、その筋の人々に知られており、

 明治維新の近代化で公の場から駆逐された。

 元々、需要があっても好んで呪符を出す陰陽師は、少数派で、

 当然、護符の発行も低迷していたことから商売替えする陰陽師も少なくなく、

 近代化なのだから、もういいとばかりに急速に衰退していく、

 もっとも公式上、否定されただけであって、

 恨み辛みと不信で需要がなくなったわけでなく、細々と供給が成されていた。

 もう一つ、闇の先住民で人であって人ならざる勢力は、陰界に潜み、

 自分たちの存在と画策に気付く陰陽師に敵対することがあり、現代に至っている。

 

 千家は加茂陰陽道の系譜に属していたが、血脈相伝のためか、

 世俗に流され戦乱に揉まれ秘術は徐々に先鋭化しながら失われていた。

 八乗神社

 羽鶴は、部屋で高校生と思えないほどの専門書に目を通していた。

 修験で力を持っていても自然科学や物理の知識がなければ運用できず、

 より効率的に運用するなら物理科学の大家になるくらいの努力も必要だった。

 『朱条君か・・・陰陽の才気が有りそうだけど、どうしたものかしら』

 『普通、基礎の修練は10年以上、資質だけじゃ危ないだけだし・・・まぁ いいか・・・』

 『だけど、陰陽の陰は、あの陰界のことも含めてのことかしら』

 『ということは、一般に知られてる陰陽道は嘘があるけど、私たちが学んだモノの中にも嘘が・・・』

 少なくとも公にされてる陰陽道の嘘に気付かないようでは陰陽師にはなれなかった。

 「羽鶴。羽鶴。カレー粉とタマネギ買ってきて」

 「はいはい」

 「はいは、一回」

 「はいはい」

 「・・・・」 ため息

 「陰陽武師の中堅と言われた千家の娘も、カレー粉を買いに行く時代か・・・」

 「あんたもカレーが好きでしょ」

 「ふっ」

 

 千家は、代々神社の神主で有力者に護符・呪符を売ることを生業にしていた。

 それほど大きくはないのだが、山を一つ持ち、

 神社は山裾にある。

 千・羽鶴も陰陽の基礎を修験し、陰陽武師としての力を持っていた。

 といっても陰陽師の家系の多くは、時代とともに得意な分野に先鋭化し、

 それ以外が等閑に失われていた。

 羽鶴が使えるのは、式神だけ、

 さらにお気に入りは、折り紙で作った鶴の式神で、これは名前のせいだろう。

 五行と類似する五色の木・青、火・赤、土・黄、金・白、水・黒で自家製和紙の折鶴を使う。

 それぞれは、簡単な命令しかできないが、簡単な魔くらいなら払うことができた。

 境内に至る階段で、依頼人らしいおばさんとすれ違っていく、

 陰陽の修験を受けてる人間は、研ぎ澄まされた感性で人に憑いてるモノを見極める。

 『生霊か・・・欲張り過ぎだよ。おばさん』

 霊障は悪霊だけに及ぼされるものではない、

 人から恨まれると生霊が憑く事がある、

 相手が生きてるので、浄化できず、

 憎しみを撥ね退けると反動で相手が実力行使に出ることがあって、厄介なのだ。

 そう、厄払いの後で、人に殺されたなんてことになると、神社の評判に傷が付き、

 廃業にもなりかねない、

 基本的に恨んでいる相手に資産の譲渡させるのが早道なのだが、そうもいかない、

 欲とはそういうもので、

 法的に、その代の善悪を表面的に決めることができても氷山の一角に過ぎず、

 氷山の隠れた大半は、血統的なしがらみが複雑に絡んで

 どっちを立てて釣り合いをとっても血統的に恨みの消えないマイナスとなり、

 どちらも生きていけなくなってしまうことすら珍しくない。

 そう、陰陽師は、諍いの系譜を含めた恨み辛みを見ることができた。

 

 羽鶴は、不意に楠の木の枝にとまった烏に気付く、

 今の時代、式神を使って、会話をするなど馬鹿げている、

 そう思いながらもともに修験した頃の懐かしさが込み上げてくる。

 『久しぶりね。羽鶴』

 「菜月。携帯の番号は教えたと思ったけど」

 『そんなことだから陰陽道が廃れるのよ』

 「ふっ 確かにそうだけど、式神使うより速くて便利よ」

 『今度、そっちに行くことにしたから』

 「え〜」

 『なによ。迷惑そうに言わないで』

 「何か、巻き込まれなければいいんだけど」

 『手遅れね。戸隠山に妖狐が現れたそうだから』

 「よ、妖狐って大物の陰魔じゃない。千家の護符じゃ太刀打ちできない」

 『だから子供を安全な場所に避難させて、大人たちを戸隠山にトレード』

 「じゃ お父さんも・・・」

 『そうなるわね。それで、私たちは組んで、そっちの仕事をすることになるわね』

 「はぁ〜 呪符なんて未成年の子供のやるもんじゃないわ」

 陰陽の世界では “護符は才気に応じて、呪符は、30過ぎてから” という慣習があった。

 『当然、護符だけよ』

 「それならいいけど」

 

 陰陽師社会は、霊場を中心に

 富霊山衆、立霊山衆、白霊山衆、戸隠霊山衆、阿蘇霊山衆、

 恐霊山衆、比叡霊山衆、高野霊山衆

 熊野霊山衆、大和霊山衆、出羽霊山衆、伊勢霊山衆に分かれ、

 ほか、弱小霊場霊山衆が点在し、

 それとは別に、霊山衆からはぐれた陰陽師

 一般から成り込んだ新参陰陽師、

 山伏・忍者からの移籍組があった。

 山伏・忍者の系譜とは、元々霊場が重複することから交流が少なくなく、

 基礎の修練で重なることも多かった。

 陰陽師は、自然科学の情報量が増すにつれて先鋭化、

 陰陽武師(戦闘) 陰陽文師(研究開発)

 陰陽呪師(呪術) 陰陽天師(天文) 陰陽導師(先生)など細分化していた。

 12大霊山衆のひとつ戸隠霊山衆の縄張りが陰魔に荒らされると、

 すぐ、陰陽師社会に伝わり緊張していく、

 

 

 西八乗高校

 「朱条。たまにはカラオケでも行こうぜ」

 「いや、今月、もう、お金ないから」

 「付き合い悪いな」

 「もう、行こうぜ。」

 「朱条は、変わり者なんだから、ほっとけよ」

 「・・・・」

 朱条は、学校を終えると、迷路のような線に沿って歩いていく、

 なんとなく、東八乗高校の千に会いたいと思った。

 特別な力を持ってる者同士にしか、分かり合えないこともある。

 むろん、ある種、胡散臭く、曰く付の団体に所属してる彼女と分かり合えても

 “陰陽武師って、どんな集団なの?”

 “んん・・・家は神社だけど、実体は非物理行使のヤクザかな・・・”

 “げっ”

 仲良くできるかは別で、相容れられなければ犬猿の仲になることもあり得た。

 陰界へ行く線は、日によって時間によってコロコロ変わり、

 そして、陰界へと入り込む、

 知らない人が見るなら行ったり来たりしてる変な少年に見られるだろう。

 しかし、夜中に陰界に入るのはさすがに怖く、

 普通は変に思われても昼間に陰界に入る。

 千に言わせると、陰陽道や修験者からすれば羨望モノの才気で、

 何かの間違いで手に入れた力らしい、

 とりあえず、彼女に貰った折鶴型の護符が15枚あって、

 使い方も教わっていた。

 聞けば、その筋で20万円以上の護符だという。

 ただし、手順が複雑なのだ。

 少し、奥に深入りした気もするが、ビワの木を見つけたのだからしかたがない、

 言われた通りの手順で陰魔除けの結界を作り、

 カバンの中から折り畳まれたショルダーバックを取り出し、ビワの実を入れていく、

 「ここもいいなぁ テーブルとイスでも運んできて、休息所にしようかな」

 土地持ちという気分は悪くなかった。

 原野であっても自分で開発したくなる。

 同級生を引っ張り込んで、一緒に開発する手もあったが秘密が漏れるのは面白くない、

 さりとて、誰かのようにこの空間に閉じ込め、酷使するといったこともしたくなかった。

 不意に式神が反応する。

 急いで、表の世界に向かって逃げるが、

 決まった順路でしか表の世界に戻れない、

 鹿に似た奇怪な陰魔が近づき、

 その爪が方に届きそうになると、計算する暇もなく、式神を出した。

 式神は陰魔に向かって、飛ぶと方位を形成し、陰魔の動きを鈍らせる。

 『す、凄いじゃん』

 朱条は、陰界から脱出し、最後の4枚で陰界の通路を封じた。

 「あんた。何やってんの?」

 「千か・・・」

 「あんた。その肩の傷。陰魔につけられたんじゃないの?」

 「ん、ちょっとね」

 「ちょ ちょっとって、陰魔につけられた傷を普通のけがと思ったら駄目よ」

 「ちょっと来なさい、本当に死ぬわよ」

 「えっ そうなの?」

 「奥に入ったんでしょ」

 「いや、おいしそうなビワを見つけて・・・」

 「へぇ〜 これ・・・神木級よ・・・お手柄じゃない、葉は取ってきた?」

 「葉? そんなの食べられないじゃないか」

 「あほ」

 「なんてこと言いやがる」

 「まぁ いいわ、手当てしてあげるから、ビワの3分の1は貰うわよ」

 「げっ 搾取、横領」

 「なに言ってんの良心的なのよ」

 「でもなんでこっちに、千って東八乗高校だろう」

 「式神使ったでしょ」

 「あ、ばれちゃうんだ」

 「嫌なら自分で作れ」

 「ど、どうやって」

 「どこかの霊山衆に入るのね。10年くらい修験することになるけど」

 「千は、どこの霊山衆なの?」

 「私は、熊野よ」

 「ふ〜ん」

 「だけど、よく式神を使えたものね。普通なら混乱して、役に立たないのに」

 「いや、なんとなく・・・」

 「・・・あんたみたいのを陰陽師の仲間内でなんていうか知ってる?」

 「なんていうの?」

 「鬼子」

 「なんか、酷い」

 「ふっ」

 「まぁ 陰陽道の本を読んで我流で覚えてもいいけど」

 「あれ嘘が混じってるから、気付かない限り、あんたの場合、逆効果になるし」

 「教えてくれよ」

 「そうね。月にビワ20個で教えてあげてもいいわ」

 「命がけじゃないか」

 「だったら、奥に入らないで、すぐに逃げられるような場所にいることね」

 「私だって、陰界の奥に入ろうなんて思わないのだから」

 「そ、そうなんだ・・・」

 

  

 東八乗谷駅

 茶髪の頭、青っぽいサングラスを掛け、

 ポンチョ風ニットを着た少女がプラットフォームに降りた。

 田舎の町では少しばかり浮いて見える。

 「3年ぶりね。羽鶴」

 「菜月・・・太った?」

 「胸がね!」

 「はいはい」

 菜月は一つ上の高校2年生、

 同じ陰陽師の狭い裏社会で、歳が近いせいか、互いにライバル視していた。

 もっとも彼女の家系は、直接的な対人でなく、間接的な対田で苗を生かしたり殺したり、

 いまだと、生産を阻害したり、加速させたりで、

 対人より自己嫌悪に陥りにくく、陰陽師社会の主流派を占めていた。

 「でも戸隠で何があったのかしら、陰魔に縄張りを襲撃されるなんて」

 「ここに来る前に熊野に寄って、情報を仕入れたけど。変な噂があったの」

 「変な噂?」

 「戸隠霊山衆が陰界で修験をしてるとか」

 「そ、そんな」

 「でしょう」

 「そりゃ 効果あるかもしれないけど、危険すぎる」

 「だいたい、陰魔の巣窟の陰界に入ろうだなんて・・・でも、どうやったのかしら」

 「なに? 噂を信じてるの?」

 「普通、陰魔を陰界に押し戻せば仕事は、終わりなんだけど」

 「今は、パソコンを駆使する陰陽師もいるし」

 「原子核と素粒子を陰陽や五行に組み分けてる時代だもの」

 「オールマイティな陰陽師はほとんどいないけど専門分野は異常なほど深まってるし」

 「これまでと違うことを考える陰陽師がいても不思議じゃないでしょ」

 「そりゃ そうだけど・・・」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 260万HIT記念です。

 今回は、珍しく漢字の名前です (笑

 同姓同名とか嫌なので、ありそうでない名前を考えないといけないのですが

 実は、これが作者泣かせ、

 これまで、面倒だったので、カナ文字が多かったのですが、

 たまには、まじめに名前を考えるのもいいか、

 今回は、陰陽武師を主役にした話しです、

 といっても陰陽の流行も陰りが・・・

 もう、出遅れです。

 

 光と影は表裏一体、

 魑魅魍魎の本体。自作自演の陰陽ヤクザ。

 呪符と護符を使ったマッチポンプ産業なんですわ、

 悪霊退散! 成仏しろよ! (笑

 

 もう、正直、記念作品はやめよう。

 

 

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陰陽紀 『木漏れ人たち』

第01話 『陰界と陰陽武師』

第02話 『戸隠の乱』