月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第09話 『呉越同舟』

 陽界と陰界の休戦が成立すると下等な陰魔が陰界に帰還し、

 妖狐など体を持つ上級陰魔たちの一部が麒麟玉の捜索隊として残った。

 紅刀町

 野狐、火狐、雷狐、鳳狐は、4人は、人間、それも高校生のように見えた。

 「君らに合わせたんだよ」

 「「「「・・・・」」」」

 仙堂、千、朱条、秋月は力の差が明確なのか押し黙る。

 もちろん、いったん戦えば簡単に負けるつもりはないが、

 まともに戦って勝てる気はしない、

 「あなたたち、麒麟玉の目星はあるのかしら」

 「おい、とぼけてんじゃないぞ」

 「・・・・」

 「まぁ 待てよ。火狐。こいつらは知らなさそうだ」

 「ふん、陽界で見つけたらただじゃ済まないからな」

 「こんな飯の不味いとこ、見つけたら早々にオサラバしたいわ」

 「鳳狐はいつもそれだな」

 「あら、雷狐もでしょ」

 「ええ、不自然過ぎて肌が荒れるわ」

 「陰魔の弱点は公害ってとこかしら」

 「人間。お前たちより化学物質に抵抗力がないといったか」

 「「「「・・・・」」」」

 「まぁいい」

 「邪魔されないっていうのなら絨毯爆撃で歩き回ればいいさ」

 「結界張って隠そうとしても隠しきれるものじゃないしな・・・」

 「なに?」

 野狐が不意に土手に近づくとしゃがみ込んだ。

 「これ・・・」

 野狐は土の上から何かを拾う。

 「なに?」

 それは爪の半分にも満たない小さな布切れのようなものだった。

 「蛇の抜け殻」

 「妖狐って、そんなものに興味があるわけ」

 「化蛇の臭いがする」

 「「「「・・・・」」」」 

 「野狐。よく見つけたな」

 「大陸の化蛇がどうしてこんなところに?」

 「紅刀町に何かあるのか?」

 「知らないわよ。私は初めて来たけど」

 「「「・・・・」」」 ふるふる

 「それはそうと、化蛇を海を渡るのが苦手なはずだが」

 「最近、大陸と取引が増えてるんじゃないのか?」

 「え、まぁ 中国製は多いわね」

 「化蛇は、妖狐以上に見つけにくい、島に入り込まれると厄介だぞ」

 「そんなこと言われても、国を支配してるのは蔵元衆であって霊山衆じゃないもの」

 「そうなると水源側のアジトか。出入国する空港、港側・・・」

 「なに? 化蛇を探るの? 麒麟玉は?」

 「陰界と陽界は迷路があって行き来しにくい。が行き来できないわけじゃない」

 「陰界の住人でも特異な妖狐は、迷路を通って行き来することができる」

 「もし化蛇が島の陽界から回り込んで麒麟玉を盗み」

 「もう一度、陽界から大陸に逃げていけば捉え難いな」

 「じゃ 犯人は化蛇?」

 「さぁね。人間が化蛇と組んでないとは言えないだろう」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 喫茶店のテーブルに地図が広げられ、

 仙堂、千、朱条、秋月と野狐、火狐、雷狐、鳳狐が覗き込む、

 紅刀町を中心に水源、空港、港までの線が引かれ、ルートが推測される。

 「この中国系企業が怪しいな」

 「水源域も買ってるし、空港と港までの要衝を押さえるようだ」

 「中国人・・・」

 「中国人なんて、どうでもいい」

 「問題は中国人に成り済ましてる化蛇だ」

 「何? 陽界で妖狐と化蛇の代理戦争をやらかす気?」

 「麒麟玉がなかったら放置するところだが、よかったな人間」

 「「「「・・・・」」」」

 「わかったわよ。こっちも縄張りを化蛇に荒らされるのは面白くないわ」

 「まぁ お前らが戦力になるとは思えんが、せいぜい、足を引っ張らないようにしてくれ」

 「てめぇ・・・」

 仙堂が秋月を抑える。

 「戦い方で負けたことは一度もないわね」

 

 

 紅刀町の水源域 柿種村

 廃村で飲茶(ヤムチャ)店が営業していた。

 廃村と思えないほど客、

 方術士 ⇒ 劉徳(りゅうとく)、亮明(りょうめい)

 道術士 ⇒ 雲長(うんちょう)、飛徳(ひとく)、

 化蛇 ⇒ 水蛇、火蛇、木蛇、金蛇がいて、

 チャイナドレスの少女が、点心をテーブルに置いていく、

 「ごゆっくりある」

 「陰陽師と妖狐の戦いは、収まってるようで・・・」 水蛇

 「霊山衆と妖狐の相打つで日本を弱体化させ、どさくさに紛れて日本に足場を築こうとしたが・・・」

 「その前に撤収かもしれないある」

 「島の中で徹底的に戦うと思ったがな」

 「たぶん、日本に視点の高い視野の広い戦略に長けた御仁いるある」

 「日本人は単細胞と思ってたのに意外ある」

 「劉徳(りゅうとく)。我々は麒麟玉は手に入れた。もう島には用がないよ」

 「水蛇。我々は宿敵同士ある。しかし、約束は守ってもらうある」

 「大陸から島へ出て行け、か」

 「妖狐対策で少なからず島に移動させられるとは思うがね」

 「我々も党幹部の支援で仕方なく島に来た口ある」

 「方術は、日本の陰陽師の先祖に当たると聞いたが?」

 「中国人が日本に陰陽を教えたのは確かある」

 「しかし、陰陽師は独自に進歩して方術とは似て非なる系統ある」

 「気功衆は、日本の霊山衆に勝てるか?」

 「方術士に当たるのが陰陽師。道術士に当たるのが山伏ある」

 「方術士の霊符は、陰陽師の式神に負けないある」

 「だといいがね」

 「しかし、我々気功衆が戦うのは、妖狐ある」

 「いろいろ支障多くて人間同士で戦うのは、大使に厳重に止められてたある」

 「陽界はいろいろ面倒くせぇな」

 「日本の蔵元衆とのビジネスに勝つには霊山衆がどうしても邪魔ある」

 「しかし、いまは、大陸がゴタゴタしていて戦いたくないある」

 「4人とも人畜無害の渡航者ある♪」

 「けっ!・・・」

 !?

 「な、なにか近づいてるある」

 「なんだ?」

 「水鏡が反応したある」

 磁器に入れた水が揺れていた。

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 化蛇4匹と妖狐4匹が激しく争っていた。

 互いに百数十もの影を放出し、柿種村は、至る所が破壊されていく、

 巨大なパワーの衝突を前に日本の霊山衆も中国の気功衆も翻弄される。

 朱条が化蛇の一撃を間一髪で瑞鬼で防ぐと茂みの中に倒れ込んだ。

 !?

 「なっ! こんなところで何してる」 朱条

 「は、な、何もしてないある」 劉徳

 !?

 朱条の式神が化蛇を防ぎ、

 劉徳の霊符が妖狐の攻撃を防いだ。

 「お、おまえ、霊山衆なのか?」 

 「ち、違うある。善良無垢な旅行者ある」

 「「・・・・」」

 しら〜〜〜

 「おい、大丈夫か朱条!」 秋月

 「大丈夫あるか、劉徳!」 亮明

 4人が同時に術を発動し、妖狐と化蛇の影を押しのけた。

 「お前ら、中国の気功衆だろう」

 「き、気功衆?」 

 「ち、違うある・・・いや、ただの観光旅行中の気功衆ある。人畜無害ある」

 「嘘つけ」

 「本当ある。天地神明本当ある」

 「なんで気功衆が化蛇と一緒にいる」

 「一緒にいないある! 突然、化蛇と妖狐に襲われたある」

 じーーーーー

 !?

 「君。危ないある〜♪」

 どん!

 「わっ!」

 「ちっ!」

 がきっ!

 朱条の目の前で化蛇の爪が止まり、一瞬で妖狐と化蛇が交差する。

 「お、お前!!」

 「いま、後ろから俺を化蛇の方に押しただろう!!」

 「そんなことないある!!!」

 「き、君が化蛇に襲われそうだったから助けたある」

 「嘘つけ!」

 「そ、そっちこそ、いま、妖狐が化蛇からお前を守ったある」

 「ぅ・・・」

 「人間のくせに、陰魔と結託してるある!」

 「偶然よ」

 不意に仙堂と千が現れ、

 反対側から雲長(うんちょう)と飛徳(ひとく)が現れる、

 「偶然じゃないある」

 「妖狐が化蛇からその陰陽師を守ったの見たある!」

 「わたしも、あなたが朱条を化蛇に向かって押したのを見たわ」

 「ご、誤解ある」 

 「絶対にそんなことないある。人間同士なかよしある。天地神明本当ある」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 仙堂が携帯を掛ける

 「もしもし、いま、中国の気功衆と化蛇の連合軍と接触したんですけど」

 “中国人とは、事を構えるな”

 「はぁ? 気功衆と化蛇は、絶対に結託してますよ』

 “戦うのは化蛇のみだ。中国の気功衆とは事を構えるな”

 ・・・・・・

 ・・・

 中国気功衆側も携帯で連絡を取り合っていた。

 「バレたある・・・」

 「絶対に無理ある・・・」

 「しかし、現場は・・・」

 「し、しかし、この状況で誤魔化せないある・・・・」

 「もう一触即発ある・・・」

 “全力で誤魔化すある!!!!!” ぷつーーー

 「「「「・・・・」」」」

 「「「「・・・・」」」」

 8人が同時に式神と霊符を出して八重結界が作られ、化蛇と妖狐の影を退けた。

 「な、何か、誤解があったある」

 「君、悪かったある。我々は、旅行を続けるある」 ひくひく

 「そ、そう・・・」

 「こっちも・・・勘違いしてたみたいね。旅人さんたち」

 「いい旅を・・・」 ひくひく

 ・・・バイバイ・・・・・

 

 

 紅刀町の喫茶店。

 「あ、ありがとう。野狐。助けてくれて」

 「けっ! お前らには失望したよ。何を白々しく馴れ合ってんだ」

 「き、麒麟玉の捜索は手伝ってるわよ」

 「ただ国策上、気功衆と戦争は困るのよ」

 「あいつら外患だぞ」

 「知ってるわよ!」

 「でもあの状況で戦ったら近接戦闘になる」

 「向こうは道術士2人。こっちは、山伏1人で不利だったのよ」

 「お前らなんて、最初から頭数には張っていないけどな」

 「「「「・・・・」」」」

 「と、とにかく、麒麟玉の盗難は、霊山衆じゃないでしょ」

 「だが先に侵略してきたのは霊山衆だったがな」

 「そ、それは・・・だから手伝ってるじゃない!」

 「足手まといな気もするが」

 「・・・まぁまぁ 野狐。ほかの隊でも、状況は似てるらしいし」

 「いまさらことを荒立てても終わったことだし」

 「俺たち4人で、化蛇4体と気功士衆4人が同時だと、正直、まずい」

 雷狐が割って入った。

 

 

 水源の柿種村 飲茶店

 「ったくぅ〜 お前ら、馬鹿だろう」

 「お前らに言われんでも自分でそう思ってるある!」

 「あの場で霊山衆を始末してしまえばよかったんだ。アホが!」

 「あの状況じゃ不味いある。日中関係が収拾できなくなるある」

 「化蛇たちも妖狐と膠着状態に陥ってたある」

 「ち、ちょっと、手強かったかな」

 「そっちの増強計画が悪いある」

 「そんなに化蛇を島に連れてこれるか!」

 「それで、いま、麒麟玉は?」

 「それが日本海側の港と空港が妖狐に封鎖され」

 「太平洋から出ようとしたところを東京の結界に阻まれ」

 「西に向かったところで妖狐と陰陽師の戦いに巻き込まれて、関ヶ原で喪失したらしい」

 「な、何やってるある。退避ルートは作ったはずある」

 「日本の結界がこれほど入り組んでるとは思わなかった」

 「霊山衆は、本当に護符結界を戸隠に移動させたのか、まるで迷路じゃないか」

 「じゃ 今は・・・」

 「陽界列島派遣した化蛇の7割が関ヶ原に移動している」

 「俺たち気功衆も関ヶ原に駆り出されるあるか?」

 「列島の霊山衆と妖狐を相手に足場のない気功衆だけで戦えるのか」

 「「「「・・・・」」」」 ぶっすぅうう〜〜

 

 

 

 西八乗町

 朱条家

 TV 〜〜関ヶ原の怪〜〜

 “今日は、最近、噂になってる関ヶ原の怪現象の話題です”

 “住人たちは次々に起こる怪現象に悩まされています”

 “今日は物理学の大苫教授にお越し願いました”

 “では大苫先生。怪現象は、ナガノウィルスと関連があるのでしょうか”

 “ナガノウィルスは疾病関連でして、怪現象とは全く関連がないものです”

 “ですがナガノウィルスが現れる地域では怪現象が報告されてますし”

 “恐怖心が心理的に働いた可能性もあり、注目されています”

 “ですが電柱が折れたり、住宅が鋭いもので削り取られたり・・・”

 “ごほん!” 

 “まぁ なんというか、プラズマの放電現象の可能性がありますね”

 “プラズマの放電現象と、ナガノウィルスの関連性はあるのでしょうか”

 “そ、そうですね・・・・”

 父親が居間でテレビを見ていた。

 彰人は自分の分と父親の分のコーヒーを入れ

 「お、ありがとう」

 自分の部屋に戻ろうとする。

 「彰人。おまえ、こういうのに興味ないのか?」

 「でも、この人たち、わかってなさそうだし、なんか、嘘っぽい」

 「だよな。営業連中が嘘ついてる時の表情と言い回しにそっくりだよな・・・」

 日本は、民主主義より権威主義、資本主義が強い社会で、

 日本資本の8割を握る少数の蔵元衆が大多数の国民を金融的に支配していた。

 マスメディアは巨大な国民洗脳フィクション市場であり、

 蔵元衆と霊山衆の闇産業は一般に知らされることなく、

 それらしい噂が流れてもオカルトの範疇に閉じ込められてしまう、

 現実の社会に直面するに連れ、社会の歯車に溶け込むか、

 鬱になるか、反逆したくなるかであり、

 松永が人々を誘拐し、陰界に自分の王国を作った動機も少しばかり理解できた。

 「彰人」

 「な、なに?」

 「元気か? 」

 「え、ああ・・・まぁ 元気してるよ・・・」

 この父親の敏感さが雷風に任せられない理由の一つだった。

 命拾いした気分を数日引き摺っている。

 運が悪ければ死んでいた。

 いや、運が良くなければ生き残れない。

 紙一重の生還は、なるべく経験したくないものだ。

 さらに化蛇との戦闘で8年物の式神を13枚失って泣きたくなっている。

 貰い物の式神でさえそうなのだから、

 手塩を掛けて育てた式神を失う陰陽師の落胆は推し量れる。

 新たに補充された式神は、ミクロレベルの式占計算で製造された6年物の式神15枚、

 自律制御は8年物より劣り、できることも少なく、攻勢で使えず戦力ダウンしている。

 正直なところ

 『ま、まずい・・・』

 部屋に戻ると白熊、茶熊、黒熊の縫い包みが会話している。

 関ヶ原は戦線が存在しない、

 霊山衆と妖狐の連合と、気功衆と化蛇の連合軍は有利な地脈を押さえようと画策し、

 謀略を重ね。時に戦い麒麟玉の争奪戦を繰り広げていた。

 戦況は混沌としており、

 自分たちの部隊も静養期間が終われば関ヶ原に投入される、

 “・・・というわけで、霊山衆は結界の地の利と数的な優位性で有利”

 “問題は妨害を繰り返す気功衆と戦わないこと”

 “化蛇との交戦は、式神の消耗率が高く、多対1に徹すること”

 “そして、妖狐との連携を気功衆に気取られないことね”

 “不確定要素いっぱいだな”

 「しかも化蛇は、水系術全般で長けてる」

 「気功衆って、山伏に近いんだね」

 「ええ、彼らは個人の解脱を目的としている」

 「霊符も道具を強化する目的で使うことが多く、長距離戦は得意じゃない」

 「体術は山伏より強い傾向があるわね」

 「まぁ 山伏でも道術士相手だと、やや不利かな」

 「関ヶ原で気功士と戦うことはないの?」

 「今のところ、蔵元衆は霊山衆を温存したがってるし」

 「党幹部は賭け金を載せず勝ちたがってる」

 「というわけで気功衆と霊山衆は戦いを避けてるみたいね」

 「麒麟玉の捜索は?」

 「妖狐との協調関係は変わらない」

 「でも前哨戦で情報を妖狐に伝えるくらいで、霊山衆も対化蛇戦に集中している」

 「中国はいつまで信用できるの?」

 「蔵元衆は、あと3か月くらい大丈夫だろうと・・・」

 「蔵元衆は大陸のことになると、見通し甘いときがあるからな」

 「そうそう、何度、煮え湯を飲まされたことか」

 「なんか、大陸とは、いろいろありそうだね」

 「大陸は、基本的に自分の都合よ」

 「約束を守る気がないから信用しない方がいいわ」

 「特に背を預けないこと」

 「それは身に染みたよ」

 「もっとも向こうは味方同士でも背を預けたりはしないけど」

 「「「あはははは・・・」」」

 「そういう国・・・」

 「大陸の噂はたまに聞くけど、碌なもんじゃないわね」

 「それより化蛇対策は?」

 「化蛇は妖狐より頭悪そうだけど、水系術と防御力が総じて高いから」

 「陰陽師が苦手とする相手ね」

 「でも、これ以上、式神を消耗すると戦いにならないよ」

 「それくらいわかってるわよ。いま、頭、悩ませてんだから」

 

 

 

 松永帝国は、八乗町の郊外の陰界に作られ

 陽界側にも土地を持ち、村で町までのバスを運営し、排他的な雰囲気になっていた。

 この手の暴力に敏感なヤクザは近づかず、警察も大人しい、

 松永も鬼子と呼ばれる人らしく、才気は朱条と並ぶ、

 年の功や利権を加算するなら松永は、圧倒的に有利だ。

 朱条は、松永の子供を陰界の王国につれていくときがある。

 松永は巧妙に娘と朱条を近づけさせようとし、

 朱条も松永と敵対する気になれず、なんとなくアルバイトを引き受けていた。

 隣の座席に座る大沢恵美(16歳)は凡庸な容姿ながら性格が柔和で話しやすかった。

 ヨタヨタ ヨロヨロ ヨタヨタ ヨロヨロ ヨタヨタ

 トラックを運転させてくれるのは嬉しいが、

 初心者マークどころか無免許なので上手くない、

 複雑な操作を割り引いても下手だ。

 私有地でなければ捕まるし、平地でなければ危なくてしょうがない、

 自衛隊隊は戦車で、指示した通りの操作ができたのだから大したものだ。

 満載の積み荷はデートらしくないが、年頃の男女が並ぶと意識するし、

 陰界への迷路を何度も踏み外して、誤魔化すのが大変で、

 これで5度目のトライだ。

 「ありがとう。朱条君。いつも手伝ってもらって」

 「いや、大したことないから」

 「大したことあるよ。お父さんと朱条君しか行けない世界に行けるんだから」

 「でもトラックで陰界にいくのって、長くかかるのね」

 どきっ!

 「こ、小回りが利かないからどうしても時間がかかるんだ」

 「そう・・・」

 「いま、陰界の化蛇と戦争してるんだ」

 「それと妖狐と緊張関係だから陰界に行ったら気を付けた方がいいよ」

 「状況がよくないんだ」

 「麒麟玉というお宝を巡っての大陸の気功衆と化蛇を巻き込んで争奪戦らしいから」

 「麒麟玉って重要なモノなの?」

 「さぁ 元々は妖狐のモノだったみたいだけど」

 「強い結界力があって、支配者は欲しがるだろうね」

 「僕は関係ないけど」

 「宮使いは大変ね」

 「今回の戦争で、松永さんが自分の王国を作ろうしたの、わかった気がする」

 「でもやり方がね」

 「最近は、有望な人材をリクルートしてるんだね」

 「お父さん、その手の業界で働いて負けた派閥から、有能な人を引っ張り込むみたい」

 「強引に?」

 「お父さんは、朱条君に気を使ってるみたいよ」

 「みたいだから・・・どうしたものかな・・・て・・・」

 「やっぱり、東八乗高校の娘と仲がいいんだぁ」

 「ど、どきぃ〜」

 「不決断してたら、そのうち進退窮まるかも」

 「あははは・・・」 苦笑い

 不意に風景な陰陽が複雑に絡む世界から陰界に入る。

 

 

 

 東八乗神社

 新型の式神が届いた。

 式神は素材、行程の前提から組み上げるほど式神の資質が増す。

 その式神は陰陽文師でも困難なほど細かく複雑な式占計算で作られていた。

 しかし、式神の資質が増しても一定時間を過ぎなければ役に立たない、

 仙堂、千、朱条、秋月は、届いた補給物資を覗き込んだ。

 「これが試作品?」

 「できたてほやほやじゃ使えないけど」

 「お金はどうするの?」

 「効果が発動しやすい5年後から払えってことじゃないの?」

 「なに? 押し売り? わたし達、受け取りにサインしたけど、借金持ち?」

 「報償金の前倒しじゃないの?」

 「報償の現物支給なの?」

 「手持ちの式神が減少してるから助かるけど」

 「欲しいのは、いま使える式神なんだけどね」

 「まぁ 早くから手持ちにしてた方が有利ではあるわね」

 朱条が配給された式神に触れると異常に気付いた。

 「なんだ。これ?」

 「・・・見かけは和紙なのに、構造は紐状、わたしのミサンガに近い」

 「格子状の和紙は構造が丈夫だけど自由度が低い」

 「紐状なら形を自由に変えられて自由度が高いから?」

 「新素材で紐状でも大丈夫って人が増えてるけど」

 「紐状は切れると衰弱しやすいんじゃ・・・」

 「手作りはね」

 「ナノ技術で作ると自律幅が短くできるし」

 「ハードの基礎構造がDNAに近づくから途中っで切れても再生させやすいの」

 「護符と呪符は?」

 「護符と呪符を紐の形。ソフトの部分で分けるから手作りの式神と考え方が違うわね」

 「すぐには使えないけど、面白そう」

 「そのうち、自分で式神を作らなくなるかも」

 「それだと蔵元衆の言いなりになってしまうわよ」

 「それはなんか嫌だな」

 「式神の規格化と高性能化の工業化で式神の生産能力を奪って、取り込もうって腹ね」

 「ぅぅ・・・根性悪い」

 「熊野霊山衆の話しだと今回の戦いで霊山衆は低下していたけど」

 「気功衆の参戦で、バランス的には持ち直してるらしいの」

 「ふっ 外患で貴重に思われるなんて・・・」

 「世の中そんなものでしょう」

 

 

 西八乗高校

 数か月ぶり教室だった。

 分身の雷風を学校に行かせていたため連続性はある。

 しかし、相互支援しながら命懸けで戦う戦友と違い、

 同級生は、どこか他人事で薄っぺらに思えた。

 昼食後、学校生活に失望しながら久しぶりの校舎を歩き回ると

 人気の少ない場所でイジメ光景に出くわす、

 最上級生3年が4人で、体格に劣る2年の1人を囲んでカツアゲ中、

 上級生4人対下級生1人はかなり卑怯だが、

 社会ではよくある光景だろう、

 生徒たちは見て見ぬ振りをしてどこかへ行ってしまう。

 少しばかり義憤も感じるが、

 ああいうゴロツキのような手合いに関わっても面白くない、

 どうしたものかと思っていると、

 「よぉ 1年。俺たちにカンパしてくれないか」

 なんと、ぼんやりしていた自分を標的にしたらしい、

 「・・・1000円しかないよ」

 「出せよ」

 ズボンのポケットから500円玉2枚をだして、3年の掌の上に乗せる。

 「ちっ こんだけかよ。しけてんなお前・・・」

 「おい、佐藤。何してる」

 不意に後ろから声がかかり、3年はびくついた。

 体育会系の強面先生で全校生徒から恐れられている。

 学校も社会の縮図のようなところがある。

 ベビーフェイスだけで風紀は保たれない、

 デビルフェースの怖い先生が1人、2人いるだけで校内の治安が保たれる、

 西八乗高校は、用心棒代わりの先生が二人ほどいた。

 「佐藤。いま、下級生から、お金を受け取ったな」

 「い、いえ、河野先生。そんな」

 「右手に500円玉2枚あるだろう。見ていたぞ」

 「「「「・・・・」」」」

 「お金を返して、謝って、どこかに行くか」

 「それとも保護者を呼ぶかだ」

 「・・・・・」

 3年は500円玉二枚を返すと

 「すまん」

 3年の4人組は、逃げていく。

 先生は消えてなくなり、朱条だけが残った。

 ゴロツキと正面切って戦うほど惜しい金でもないし、

 3年をボコって、校内で有名になるのもごめんだ。

 最大公約数的な判断で先生の分身を引っ張り出した。

 あとは、身に覚えのない先生と3年の関係になるだろう。

 教室に戻ると、

 「よぉ 朱条。3年にカツアゲされたって?」

 秋月が声をかけてくる。

 どうやら、噂は教室まで広がったらしい、

 「ん、まぁ 高校生活の一コマかな。返してもらったけど」

 「都合よく先生が現れてか」

 「都合よくね」

 「ふっ 完全犯罪できる相手をカツアゲなんて、馬鹿なやつだ」

 「別にいいよ。お金は返してもらったし」

 「ああいう馬鹿は、死ぬ目に合わないと変わらんぜ」

 「次に来たら考えるよ」

 しかし、次はなかった。

 松永グループが裏で動いたらしい、

 というよりお金を使ったのが松永グループというだけで、

 いろんな派閥がその気になっていたらしく、

 4人は、その日のうちにやくざ者に殴られ複雑骨折で入院してしまう。

  

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 陰陽両界の接近は、戸隠の陰界侵略と麒麟玉事件を発生させます、

 事態は、善と悪、敵と味方の勧善懲悪二元論でなく、

 善悪混在。第三勢力、第四勢力を巻き込んでカオスでしょうか、

 

 

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