月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第08話 『切った張っただよ人生は』

 東八乗神社 鎮守の森 

 秋月は、折り畳み傘を振り回しながら迫る式神の群れをかわしていく、

 式神と影の攻撃は攻撃対象の陰陽五行を破壊するが、直接攻撃と間接攻撃に分かれる。

 直接攻撃は、呪符式神を直接身体に当て、相手の陰陽五行を削る、

 間接攻撃は、周囲に呪符結界を構築し、結界の中にいると、陰陽五行が打撃を受ける。

 山伏は、式神をかわすか、粉砕するか、

 呪符結界が形成される前に結界から逃れるしかなかった。

 特にヤバいのは、間接攻撃で

 式神が大量にあれば探知範囲の外から打撃を与える。

 そのため秋月も手持ちの式神で鬼門を抑え、呪符結界の形成を阻止するのだが、

 陰陽師は、直接攻撃で山伏の回避ルートを狭め、

 事前に形成した呪符結界に追い込もうとする、

 そして、相手が結界に飛び込むと酷い目に合う。

 !?

 「うわあぁああぁっと〜」

 朱条が使ったのは呪符結界でなく、護符結界だったが、

 秋月が結界に飛び込むと当身のような圧迫を受けた。

 「ちっ やられた」

 親指より大きなスズメバチが秋月の目の前で滞空する。

 “秋月君。発見されなければ陰陽師有利ですね”

 「雷風か。お前さえいなけりゃ もう少し朱条に肉薄できたんだぞ」

 “場所がわかったんですか?”

 秋月が明後日の方向を指差した。

 “いいとこ、突いてます”

 指先の岩の影から式神が現れ、

 「やぁ 秋月君」

 わずかにそれた木の影から朱条が現れた。

 「・・・当たらずとも遠からずか」

 「反対側に罠を置いてるとはな。大きく迂回して回り込もうとしたのが敗因だった」

 「まだ、5勝6敗だよ」

 「おいおい、俺は山伏の家系で4代目なんだぞ」

 「パッと出の新参陰陽師に追い詰められるなんて自信喪失だよ」

 「山伏は、陰陽師と戦い方が違うから勉強になるよ」

 「ったくぅ どんな脳みそしてんだよ」

 「陰陽師は山伏より大成が遅い、なぜかわかるか」

 「いや」

 「山伏は身体。小宇宙が中心だから観念で補える部分が強い」

 「しかし、陰陽師は森羅万象に長けないと駄目だ」

 「5年くらいは式占計算だけで精一杯で、まともに動けないはずなんだけどな」

 「おまえ、本当に式占計算してるのか」

 「な、なんとなくかな」

 「な、なんとなくって、それ観念だろう」

 「あははは・・・」

 「つまりお前の観念そのものが森羅万象を統べる式占計算に近いってわけだ」

 「俗にいう天才」

 「俺たちの間では、鬼子っていうんだ」

 「鬼子・・・・」 どんより

 

 

 東八乗神社の門前、

 白いバンが並んでいた。

 外患から国家を守る守護者自衛隊、

 内患から治安を守る公安、警察、

 非合法暴力遂行者たる表ヤクザ、

 そして、闇ヤクザの陰陽師と山伏、

 犬猿の仲なのだが陰魔襲来で一緒にいる。

 「ほう、若いじゃないか」

 「というより、子供だろう」

 「おうおう、お前らガキどもが俺らに指図するってか」

 「い、いや、そんな・・・」 朱条は、ビビる

 「あー! 調子に乗って、俺らの凌ぎに手ぇ出すんじゃ・・・」

 ドタッ!

 「「「「あ、兄貴!」」」」

 「な、なにしやがる、てめぇ!」

 「勝手に気を失って、倒れたんでしょ 知らないわ」

 仙堂がとぼける

 「ふざけんな、証拠のないのはお前らに決まってんだよ」

 「きっと、靴ひもが切れても、わたし達のせいにしないと収まらないのね。千」

 「心身症の病気だわ」

 「ふっ 病気ねぇぇ・・・」 にゃ〜

 「て、てぇめぇ〜」

 秋月が前に出ると、やくざたちが見えない空気の壁のようなものに気圧され、たじろぐ、

 「やめねぇか」

 「若!」

 「いまは、争ってる時じゃねぇだろう」

 「しかし、若。兄貴が」

 「全部、事が済んでからだ」

 「「「「へい・・・」」」」

 「「「「・・・・」」」」

 「すまねぇなぁ 若いの。うちは、元気だけは良くてな」

 「こちらこそ。戸隠が迷惑をかけたみたいで、すみませんね」

 「・・・まったくだ」

 警察官らしいのが話しかけてくる。

 「こっちも同僚が何人も死んで神経質になっててな」

 「もっとも、地域が違うし、若い君らのせいというわけじゃないだろうがね」

 「そうだろう。組の若さん」

 「まぁ 陰魔ってわけのわからん奴に仕切られるのは面白くないからな」

 私服を着るとヤクザも警察も外見上、変わらない、

 慣れたら警察とヤクザはわかりやすいが、

 マル暴、公安は、独特の空気を持ち、嗅ぎ分けるのに年季がいる。

 比較的、無機質な自衛隊の方が付き合いやすかった。

 しかし、こういう切った張ったの世界で生きていくのは、性格的に辛すぎる。

 『堅気の頃の生活が懐かしい・・・』

 

 

 BMWが公道を南下していた。

 “野狐さま。やられましたね”

 「警官を騙そうとすると、内ポケットの式神が反応して、位置がばれる」

 「警官を騙さないようにすると疑われる、か」

 “陰陽師の居場所がわかれば、殲滅してやれるのですが”

 「通常は、警官が勝手に動いてるだけだし」

 「こっちが化かそうとしない限り式神は凍結されている」

 「ったくぅ 小賢し連中だな」

 不意に影が車を横切る。

 “やあ、野狐も住処から狩り出されたの”

 「雷狐か。例の手だよ。警官をやってもいいが、数が多くて面倒でな」

 “こっちは撒いたから、一度合流しないか、低級陰魔も2匹いる”

 「そうだな。それもいいな」

 

 

 長野県の県境、

 十数人の陰陽師と山伏、

 そして、自衛隊、警察、ヤクザが集まっていた。

 幕僚長が正面に立っていた。

 「作戦は、4か所から同時に行われ、戦闘を行いながら戸隠に突入し、陽界に帰還する」

 「朱条君は、この部隊を陰界に送り込むまでが任務だ」

 「それ以降は、我々が指揮を執る」

 「君は、戦闘には参加せず、我々を陰界に送り込んだ後、家に帰れ」

 「君は数少ない貴重な存在だ。無茶な行動や余計なことはしないでくれ」

 「はい」

 千家は鬼子の朱条を温存秘匿したがっていた。

 しかし、戦況は思わしくなく、蔵元衆からの霊山衆引き抜きと、

 和解の道筋作りのための攻勢で、ごく一部の層に公表され、今回の作戦となった。

 そして、陰界反攻作戦は、各霊山衆が秘匿していた数少ない鬼子たちにより口火が切られた。

 戦車部隊が複雑な軌道を描いて平原を行ったり来たりする、

 誰かが見たら税金返せ、と言いたくなるような無駄な動きが繰り返され、

 すぅ〜

 「「「「・・・・・・」」」」 茫然

 戦車が目の前から消える。

 即席の橋頭堡が陰界に作られると、陰界への反撃が行われ、

 戦闘は、陽界だけでなく、陰界にも広がっていく。

 陰界に橋頭堡を建設した部隊は、陰界の長野に突撃し、

 陰陽師でも陰界と陽界を出入りできる戸隠から陽界へと帰還する。

 

 

 

 高層ビルの最上階

 シルクとウールが編み込まれた赤絨毯に靴底の半分が沈む、

 メダリオン模様の赤絨毯がフロア全体に敷き詰められ、

 重厚な調度品が人を委縮させ、

 目の前には食べきれないほど豪勢な食事が並んでいた。

 こういう部屋の人たちと人脈を持てば一般人を虫のように感じるだろう。

 そういうフロアだ。

 千や仙堂に事前に

 “こけおどしだから、真に受けて尻尾振ると馬鹿にされるわよ”

 と、聞いていなければ畏敬の感情に飲み込まれ、イエスマンにされていただろう。

 蔵元衆のネットワークは、日本全国だけでなく、世界中に及び、

 個々の上層部はさしずめ小君主の気分なのだろう。

 初老の男は、まだ油っ気が残ってるのか、若々しく見え、

 横に30代ほどの山伏の才気とわかる側近を一人置いていた。

 この至近距離では、まず勝ち目がない、

 そういった事情を踏まえ、側近を最小限にしてるようだ。

 「よく来たね。朱条彰人君。食べてくれたまえ」

 「はい、お招きありがとうございます」

 「君の活躍は聞いてるよ」

 「優秀な新参陰陽師と聞いてるが霊山衆の仕事は慣れたかね」

 「式神は作れるようになりました」

 「まともに使えるようになるのは、5年先になります」

 「それは楽しみだ。できれば朱条君を我が蜜朋グループに迎えたいものだが」

 「蔵元衆と霊山衆の関係は聞いてます」

 「蔵元衆は、霊山衆を飼殺してしまうとか」

 「ふっ 確かにそうらしい」

 「我々 蔵元衆が求める欲望は、霊山衆の力の根源を失わせてしまうらしい」

 「本来なら相容れないが、互いに切っても切り離せない関係でもある」

 「彼は高千穂薫というのだが、普段は、こういう食事に手を付けることは少ない」

 「せいぜい、客が来たときだけ、少しばかり口にする」

 「霊山衆には過分過ぎますよ。特に山伏にはね」

 「ふっ ほかにも利便性より、余計な不便を望むし」

 「まぁ 求める方向が全く逆なのだが、互いに共存している」

 「朱条君ともそういう関係を維持したいものだな」

 「はい、喜んで」

 「できれば、ほかのグループの誘いも同じように断って欲しいものだ」

 「そのつもりです」

 「・・・・」 ほっ

 そう、蔵元衆と霊山衆は近づき過ぎれば互いの良さを殺し合う。

 そのため、クライアントと請負人の関係ながら一定のの期間と距離を保ち、

 独立性を持ちながら共存していた。

 特に陰陽師は、人知れず味方を生かし、敵を削ぐ力を持つことから

 蔵元衆は勢力拡大と自衛のためにも子飼いの陰陽師を手放せない、

 そのため、各グループは危機的状況でも疑心暗鬼で数人の陰陽師を抱え込み、

 手放せずにいた。

 『ったくぅ 国難だというのに保身か・・・我ながら何やってんだか・・・』

 

 

 

 テレビ映像が流れていた。

 “ナガノウィルスの発症件数は徐々に減少傾向にあり、鎮静化の兆しがあるようです”

 “引き続き・・・”

 “全国で重機関銃・サブマシンガンを使った集団襲撃事件が多発しています”

 “中継は、大丈夫ですか?”

 住宅に銃痕が残されていた。

 それは、明らかにサブマシンや機関銃の弾痕で、戦場跡のような様相だった。

 “目撃者によりますと”

 “この襲撃事件は、人気の少ない頃、3台のバンから銃撃されようです”

 “銃撃後、バンは早々に引き上げるため封鎖が間に合わず”

 “証拠らしい証拠は残されていません”

 ”ですが、金品強奪を目的としてない節があり”

 “怨恨による請負業の存在が噂され、警察当局は調査中とのことです・・・”

 朱条家の夕食

 「やれやれ、怖い時代になってきたな」

 「・・・・・」

 「彰人も気をつけろよ」

 「お父さんもね」

 怨恨や強奪を目的に機関銃を使うのは費用対効果で悪すぎる。

 拳銃どころか、バットでも足りるし、発見を避けるならナイフでも足りる。

 この事件は陰陽師に誘導された軍警察の特殊部隊やヤクザがやっていることで、

 標的は人間に紛れた妖狐狩りだった。

 もっとも成功率は低く、妖狐は包囲網と突破し、逃亡している。

 というより、陰陽師たちも正面切って妖狐と戦うより妖狐の生活を乱し、

 陰界に引き上げさせる作戦でしかない、

 そう社会の事情に精通していたのは父親でなく、子供の自分だった。

 「あ、彰人」

 「ん?」

 「そういえば、松永さんっていう通関ブローカーと知り合いなのか」

 「え、あああ・・・た、たしか、同級生のお父さんだったような」

 「そうか、飲み屋で知り合ったんだが、娘の縁で彰人と会ったことがあると言ってたな」

 「あははは・・・」

 『娘をダシに使うな、直接の縁だろうが』

 「・・・付き合ってるのか」

 「ま、まさか、友達だよ」

 『つか、どの娘だよ! 特定できねぇだろうが』

 「親に恥をかかせるようなヘマはしないでくれよ」

 「あははは・・・」

 『あのやろう・・・』

 

 

 彰人の部屋

 机の上にカップ大の白熊、茶熊、黒熊の縫い包みと、

 チェス駒のナイトの置物が置いてある。

 白熊は仙堂菜月の式神、茶熊は千羽鶴の式神、黒熊は秋月陣の式神で、

 相互連絡が可能なように置かれていた。

 ちなみにナイトは雷風だった。

 ケースから手作りの和紙トランプを取り出して捌く、

 マジシャンほどでないとしても並の人間より上手く扱える。

 54枚入りのケースが8つで式神は432枚、

 この式神がまともに使えるようになるまで3年から5年かかる。

 影と交戦して力負けしないなら10年物以上が望ましい、

 新参陰陽師の朱条は、ほかの陰陽師と違って誕生樹が一本きり、

 その上、材質は問題ありのポプラ。

 誕生樹があるだけましなのだが生産量は少ない、

 今は、戸隠と熊野からの式神供給で誤魔化しているが一度の戦闘で式神5、6枚を失う。

 どう考えてもいま作ってる式神が戦力化する前に手持ちの式神が枯渇する。

 式神のない陰陽師なんて、艦上機のない空母のようなものだ。

 いまは、式神を自衛隊、警察、ヤクザに持たせ、囮代わりに使う温存策が執られている、

 それでも子飼いの霊山衆を手放さない限り消耗戦を強いられる、

 戦力的に苦しければランチェスターの法則で被害も増える。

 年数の長い式神を失うのは痛手だった。

 「やばいぃいいい〜」

 “もって数か月でしょうか、明らかに1年持ちませんね”

 雷風は良き話し相手だ。

 「もう、陰界と和解してくれよ。マジでスッカラカンだよ」

 “日本全体が戸隠霊山衆の尻拭いですからね”

 “・・・朱条君。爺さんが陰界の代表と今度接触するって”

 茶熊の縫い包みが喋る。

 “朱条。それより、問3の答えを教えてくれよ”

 黒熊の縫い包みだ。

 “なんで、御国大事の話し中に宿題の話しが割り込むわけ?”

 白熊が話した。

 “明日、俺が先制から怒られるか怒られないかは一大事ごとなんだよ”

 「最初の返事は “期待する” っで」

 「次の返答は、X=2/5 Y=1/5 Z=2/5」

 “よし!”

 “何が、よし! よ。朱条君。千爺さんの護衛をして欲しいんだけど”

 「え、俺が?」

 “そうよ。3日後、1日だけ休戦するけど。会見場所は、戸隠だから”

 「あ、危なくない?」

 “危ないに決まってるでしょ”

 “爺さんが菜月や私より朱条君を随行員に選んだんだから”

 「お、俺一人かよ」

 “ほかに由緒正しいベテラン陰陽師1人と最強の山伏2人の3人がつくけど”

 「・・・・・」 ほっ

 “朱条君も頭数に入ってんだからね。しっかりしてよね”

 「でもなんで俺が?」

 ““““・・・・・””””

 “全霊山衆で確保してる鬼子は、朱条君を除くと3人いるわ”

 “いずれも高い才気を持ってる”

 “でも性格に問題あって、一般に出せないの”

 “一般に出せる程度まともな鬼子は朱条君だけなのよ”

 「鬼子って、いったい・・・」

 『そういや、松永さんも少々ヤバい人だったな』

 『でも人前に出せないってことはないよな』

 『隠れ鬼子って、意外といるかもしれないな・・・』

 “・・・鬼子の研究は、むかしからされてるけど。よくわからないの”

 “役小角がそうだと言われてるし、安倍晴明、賀茂忠行がそうとも言われてる”

 “というわけで、未知数だけど、朱条君が交渉の随行員に選ばれたわけ”

 「じゃ 平和か・・・」

 “事実確認のための席で、開戦時、何があったかを確認するだけ”

 “戦いを終結するための席じゃないわ”

 「えぇえええええ〜〜」

 

 

 軍用ヘリに乗るのは5度目だ。

 周囲は護衛のアパッチ攻撃ヘリが編隊で飛んでいる。

 国は、この手のことに惜しまないらしい。

 もっと報酬よこせとか。蔵元衆のどこかと実入りのいい個人契約するぞとか、

 いろいろ思うこともあるが、今日も惰性に流されている。

 千爺さんのほかに、陰陽師一人、山伏二人が搭乗している。

 いずれも10代以上遡っても霊山衆という名家だ。

 もっとも持って生まれた才気の違いで、陰陽師に転向したり山伏に転向したりはあるという。

 「昨夜から休戦状態に入ってる」

 千爺さんがおもむろに話し始めた。

 「交渉は、双方とも代表1人、随行員4人ずつ」

 「君たちは証人でもあるし、護衛でもあるが、交渉権はない」

 「言いたいことがあるなら今のうちに言ってくれんか」

 「できれば手打ちにしたいものですね」

 山伏の1人が答えると残りの3人が同時に頷く、

 弱肉強食の世、必要な勢力圏さえ確保できればいい、

 とはいえ、相手は陰魔。

 シマ荒らしの食み出し陰陽師を制裁するようなわけにいかない、

 陰魔撃退が不可能となれば、蔵元衆が陰魔と組む可能性もでてくる、

 そうなれば霊山衆は一気に衰退するだろう。

 とはいえ、表ヤクザとの闇ヤクザの力関係もあり、陰魔と竜虎相打つは避けたい、

 そう思うものだ。

 

 

 戸隠霊山の庭園に席上が作られていた。

 会見の席に千爺さんが座り、陰界の代表と向き合う。

 陰界の代表と随行員は人型をした妖狐で、

 必然的に随行員の4人も後ろに立って正面の随行員4人と睨み合うことになった。

 「代表は、戸隠の側から陰界に進出し、陰界にある麒麟玉を盗んだと言われるが」

 「こちらの調査では、そういった事実はないとのことだ」

 「何かの間違いではないかな」

 「構わぬ、陽界で荒探しを続けるだけだ」

 「そちらでも我々の陽界勢力を利用して私利私欲を働く者がいうのではないかな」

 「・・・・・」

 「どうであろう。そちらの陽界での捜索を合同ということにしてもらえないだろうか」

 「信用できないのは霊山衆だ。お前らと組んだところで隠されるだけだ」

 「我々も今回の件は迷惑してるのだ」

 「ほとんどの霊山衆は、麒麟玉など必要としておらんのだよ」

 「逆に、そんなものが一つの霊山衆に独占されては困る」

 「・・・・」

 「言ってることはわかると思うが」

 「お互い、戦力の消耗を続けるのは得策ではないだろう」

 「確かにそうではある」

 「では、休戦を半年延長し、その間、合同調査の有用性を確認しては?」

 「捜索隊の規模は?」

 「4人1組で10隊。計40人では? 我々も同数の捜索隊を出そう」

 「現状の3分の1以下だな」

 「戦わないことによる効率性を思えば悪くはなかろう」

 「その代り、陰界での捜索も行わせてほしい」

 「なんだと」

 「片手落ちでは、我々の側も納得できんよ」

 「お前たち陽界の侵入から麒麟玉が失われたのだ」

 「陽界にあるに決まってる」

 「どうかな。身の潔白を証明するには、言葉だけでは足りぬであろう」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「わかった。しかし、早急に麒麟玉を回収せねばならぬ」

 「陰界まで捜索するとなれば4人1組で15隊は増やしたい」

 「了解した。休戦は、半年延長。合同調査隊は4人1組で15隊60人だ」

 「結構だ」

 「ところで、戸隠の陽界と陰界の迷路が近いようだ」

 「これでは私でも容易に行き来できる」

 「妖狐は理由を存じているのかな」

 「いや、我々の側に原因はない」

 「しかし、周期的なものと、伝承が残っている」

 

 

 

 朱条は帰りのヘリで胸を撫で下ろしていた。

 少なくとも安心して眠れる。

 むろん警戒を怠るつもりはないが、相手の側も休戦で安堵してるように思えた。

 「千爺。陰界も緊張状態にあるようですね」

 「んん、カマをかけてみたが・・・」

 「あの表情からして、妖狐と大陸の化蛇との関係は、噂以上かもしれぬの」

 「ですが、千爺、麒麟玉とは、どういったものでしょう」

 「平和をもたらす宝石とされ、護符結界を領域に発現させる宝石らしい」

 「我々で麒麟玉を見つけられますかね」

 「才気があるなら見過ごすことはなかろう」

 「発現すれば隠せるようなものではないから、見つけられるはず」

 「今後、注意すべきことはありますか」

 「んん・・・停戦中ではあるが中尉は怠らぬ事」

 「捜索隊を支援する部隊も別に作っておいた方がいいだろう」

 「そうですね・・・」

 大人たちの会話は続き、

 緊張で疲れ切っていた朱条はいつの間にか眠っていた。

   

 

 

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 月夜裏 野々香です

 とりあえず陰界への反撃成功と陰魔と休戦かな。

 

 

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