月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第07話 『時空脈符と創始者』

 科学技術庁

 陰陽文師と科学者たち

 「式神は、製品というより、子供に似てるのです」

 「材料があればいいというわけじゃないですし。手間暇と年月がかかるものですし」

 「式神の強化と大量生産は難しいと思いますね」

 「では、陰陽師の大量育成はどうです」

 「才気があれば、何とかなるのですが・・・」

 陰陽文師は、椅子に座ってパソコンを打ってる助手の女性に向かって手を伸ばした。

 女性は式神に戻って、陰陽文師の手のひらに戻る。

 「「「「・・・・」」」」 茫然

 「150年前の式神ですよ。強い力を持っています」

 「これに何らの力を感じるのなら少しは見込みがあるのですが」

 「これを持って、何か感じますか?」

 科学者に手渡された式神は、一巡して、陰陽師の手に戻った。

 「どうです?」

 「「「「・・・・」」」」 ふるふる

 「いえ、なにも・・・」

 「しかし、こういう現象は何かあるはずでは?」

 「た、例えば、何事も最初があるはずです」

 「そのことについては、陰陽文師の間でも幾つもの意見がありますし」

 「霊山衆が違えば、いうことも違ってくるでしょう」

 「先生は、どう思われるのです」

 「陰陽道は、陰陽道以前からあった。ということですよ」

 「と言いますと」

 「ライト兄弟は航空力学が作られる前に空を飛んだのではないですか?」

 「それはそうです」

 陰陽文師は、針金を器用に捻じ曲げ始める。

 「ある血筋の十数世代の人生が陰陽五行のパズルを埋めていったとしたら」

 「これは、時間軸を利用した陰陽五行ですが、パズルのように埋められ」

 「ある世代で、陰陽五行が完成したとしたら、すなわち才気を持った人間が突然、現れる」

 「それが、役行者、賀茂家、安倍家の始まりですし、新参陰陽師の発現と言えます」

 「この針金を横から見ると何の変哲もない曲がりくねった針金に過ぎません」

 「「「「・・・・」」」」

 「しかし、歴史を横からでなく、上や下から見ると・・・」

 陰陽文師が曲がりくねった針金を科学者たちに向けて倒すと、護符の模様が作られていた。

 「「「「・・・・・」」」」

 「一部の陰陽文師は、時空脈符読んで護符や呪符と区別してます」

 「ぐ、偶然のなせる業ですか」

 「偶然か、必然かは、意見の分かれるところです」

 「もっとも、仮定の話しですし」

 「そこまで研究できるわけではありませんから」

 「どの人生経験がどの変化とわからないわけです」

 「しかし、見てわかると通り、生死、幸不幸、貧富と起伏のある変化と言えるでしょうね」

 「ある不幸が、数十世代掛けて作った護符や呪符のマークを完成させ、才気を発現させる」

 「そういう可能性があるということです」

 「あなたが方がそれを望むか、わかりませんが」

 「「「「・・・・」」」」

 「もう一つ言うなら」

 陰陽文師は、別の針金を曲げ始め

 「・・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 「これで、呪符の模様の完成です」

 「「「「・・・・」」」」

 「これは、個人の功徳や犯罪なんてものじゃない」

 「国家盛衰をもたらしかねない人間ということになります」

 「「「「・・・・」」」」

 「どうしたら・・・」

 「さぁ しかし、愚か者の集団に組しない方がいいと思いますよ」

 「彼らは大きくなると自分の欲心で国と人を滅ぼしますからね」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 西八乗高校

 体育の授業は午後から雨が降り出して体育館になり、

 スケジュールの関係でB組とC組が一緒にやらないと単位計算がし難くなるらしく、

 対抗バスケット試合が行われた。

 B組は、松永の娘、大沢恵美(16歳)がいた。

 彼女は凡庸な容姿で、三人娘の中で低く見えた。

 しかし、自分の隣にいても違和感がなく、

 柔和だったことから人に好かれていた。

 チーム戦が一巡すると、単位の問題は、一息つき、

 あとは、消化試合となったがクラス対抗戦の決勝は応援に熱が入る。

 「秋月君のおかげで勝てたよ」

 「男子はC組の圧勝。女子は決戦までもつれ込みか」

 「女子はいい勝負だね・・・あ、危ない」

 大沢恵美が転ぶ、

 「なんだ。B組だろう。好きな子でもいるのか」

 「好きってわけじゃないけど知り合いがいてね」

 「おまえ、奇行士と呼ばれる割に、顔広いんだな」

 「“ただの人間には興味ありません” な女の子が多いのかも」

 「確かにお前、人間じゃないな」

 「あははは・・・・」

 「しかし、ここまで見事な分身を作り出せるなんて、戸隠でも何人もいなかったな」

 「結構いるんだ」

 「上級の陰陽文師くらいのもんだって言ってんだよ」

 「新参の陰陽師がポッともらった式神で、できるこっちゃねぇ」

 

 

 朱条家

 “長野から広がった無力病は、徐々にではありますが日本各地に広がり”

 “数十か所で点在し、拡大してるようです”

 “感染の仕方に特徴があり、主発症者に定着するまで冬眠状態で感染しにくく”

 “主発症者に定着すると、周囲に感染者を広げるという2段感染を取っているようです”

 “先生。このような特殊な感染は、これまで例があるのでしょうか”

 “点在する主発症者の増加は落ちてるようですし”

 “特異体質な人が感染しやすいのかもしれません・・・”

 夕食

 「彰人。勉強はしてるのか」

 「だ、大丈夫だよ」

 「まぁ 無気力病は勘弁してくれよ」

 「あははは・・・たぶん、大丈夫だよ」

 「羊印町じゃ 駅と電車の中で一度に何人も発症したそうだ」

 「お父さんも気を付けて」

 「ん・・・しかし、こればっかりは運だな」

 「仕事先の営業の係長はパワフルな男だったんだがな」

 「今じゃ昼行燈になってるし」

 「逆に好かれたんじゃない」

 「わかるか」

 「なんとなく」

 「だから今度、据え置きされてた課長に昇進するんだと」

 「・・・・・」

 中学のころ交通事故で母親が死に、父親と二人暮らしだった。

 母の死の後、特殊な能力が発現したことから、何らかの因果関係があるのかもしれない、

 しかし、家事は自分の仕事になり、

 ある程度のことはそつなくこなせるようになった。

 父は再婚する気がないのか、できないのか、凡庸に生きていく気のようだ。

 自分はどうしようかと思うのだが、

 「味噌が変わったな」

 「うん」

 「料理が上手くなったな。材料が高いわけでもないのに」

 「珍しいね。褒めるなんて」

 「板前になれるんじゃないのか」

 「そ、そうかな」

 「将来の選択肢で考えてもいいと思うぞ」

 「・・・・家計が苦しいの」

 「ば、馬鹿いえ、大学まで行きたきゃ行かせてやる」

 陰陽に慣れると自然に使い始める。

 その結果がこれだった。

 しかし、板前も悪くないかもしれない、

 「あ、今度、友達の家に泊まりたいんだけど」

 「そうか、なんかいるものでもあるのか」

 「なにもないよ」

 「そうか」

 

 彰人の部屋

 通帳を見ると訳の分からない実用新案権の考案者にされてるらしく、

 知らない会社から、お金が振り込まれてる。

 子供が持つには大きすぎる金額、

 しかし、命を天秤にかけた代償にしては寂しい、

 この通帳の金が泡銭となって自分の生活を潤わせるだろうか、

 それとも朱条彰人の遺品として父に渡るだろうか、

 振り込みの項目は責任を追及されることもなく、無難で疑われにくいかもしれないが・・・

 人が遺すものとして、金は、一番嬉しいが一代っきり、忘れ去られてしまう。

 どうせ残すのなら人に尊敬されるような哲学や思想、

 それとも偉人伝に残るような生き方を残したいものだ。

 もっとも前者あまりにも経験不足で、後者は労の割に報いが小さく泣きたくなる。

 遺言めいたことを書いて挟んでおくべきだえろうか・・・

 さすがに気が滅入る・・・・

 携帯が鳴った。

 

 

 深夜の羊印町

 町の上空を輸送機が通過していく、

 暗闇の空で真っ黒なパラグライダーが20個ほど開いた。

 東南から吹く風に乗ったパラグライダーは、弧を描きながら旋回し、

 決められた広場に着地し、地元の警察官と合流した。

 仙堂、千、朱条、秋月は、自衛隊員に抱えられるように着地すると、

 「真っ暗な地面に飛び降りるなんて、怖かったよ」

 「確かに怖かったわね」

 「とりあえず。これで陰魔と、条件は同じ。先に本体を見つけた方が先制できる」

 「式神を出して、索敵しよう・・・」

 自衛隊員は私服に着替えると式神を胸ポケットに入れたまま散開していく、

 仙堂、千、朱条、秋月の4人は、警察の車で移動し、

 蔵元衆系列企業の独身寮で割り当てられた空き部屋でくつろぐ。

 仙堂と千の部屋

 「朝になれば風水の変化で、陰魔は気付くかもしれない」

 「この前の手応えだと、陰魔の影は、100とする方が無難ね」

 「私の式神は57。千は53。朱条君は42・・・って、朱条君。本当に大丈夫なの」

 「うん、最近、操作できる数が増えてるみたい」

 「さすが鬼子ね」

 「でもねぇ 2対1でも押されてたから、分が悪いといえば、分が悪いのよね」

 「自衛隊の人が上手く動いてくれたら何とかなるわよ」

 「でも自衛隊員を陰陽師の身代わりなんて、なんか、酷くない? 」

 「体に護符結界を施してるから、最悪は防げるわよ」

 「だといいけど・・・」

 「そうでもなきゃ こんな不利な作戦やれないでしょう」

 「だいたい、要人警護手放すより、自衛隊員見殺してる点で、どうかと思うけどな」

 「私より公の割り振りが多いだけ、ましな国なんじゃないの」

 「・・・・」 ため息

 

 

 どこかの洋館

 少年は不意に目を覚ますと、ベットから這い出て、ベランダへと出た。

 雲に覆われた空は暗く、風が右から左へと流れていく、

 邸宅の周りは、カヤの林がまばらに広がっていた。

 “野狐さま、どうかされましたか?”

 「ホウか、ちょっと胸騒ぎがしてね」

 “外周も敷地内も変化ないようです”

 「変化があれば迂回して、逆襲してやるのにな」

 「一人だけなら、二時間もあれば片が付く」

 “索敵を増やしましょうか”

 「風下側に10ほど出しておくか」

 “はい”

 

 翌朝

 洋館の少年は、早期警戒網の回復に忙殺されていた。

 町の要衝15、6ヵ所に式神が立ち、地脈を荒らしていた。

 このままでは、町に仕掛けた早期警戒網が無力化され、盲目同然となってしまう。

 そして、要衝に配置された式神を駆逐するほど、こちらの位置が知られやすくなり、

 最終的には、先制攻撃を受ける。

 “野狐さま。どうやら陰陽師ではないようです”

 「どうやって侵入したのかわからないが夜の間に例の陰陽機動部隊に町に侵入されたようだ」

 「外周に配置した影が戻ったら、西のブロックを索敵」

 「我々は、西から町にを抜け出してやろう」

 “わかりました”

 

 

 どこかの独身社員寮

 405号室

 仙堂、千、朱条、秋月は、地図をチェックしていた。

 「4人目がやられたわ」

 「あと、2回から3回攻撃したら、敵本体の位置がわかる」

 「あと、7人から8人の犠牲が出るということか」

 「それで、町が救われるのなら、尊い犠牲じゃないかな」

 「放置すれば増えるだけだもの」

 「相手も索敵を開始してるよね」

 「外周に配置させていた影を移動させて、この場所を発見しようとしてる」

 「西の影が多いのはなぜだろう」

 「カマかけかしら」

 「私たちがいるのは、南だから問題ないけど」

 「それだけならね」

 「本体が西に移動してるんじゃない」

 「な〜る」

 「こっちも移動した方がいいかも」

 「蔵元衆がバンを待機させてるけど、現状でも索敵戦はこっちが有利よ」

 「「「・・・・」」」

 

 

 八乗町

 BMWの後部座席に少年が座っており、

 式神の攻撃凌ぎながら後退していた。

 運転手は催眠をかけられてるような表情をしていた。

 パトカーのサイレンが鳴り響いて市内を走り回っていたが、

 警官はBMWに近づく前にサイレンを止め路肩に止まってサボタージュを始める。

 「ええい、ちまちまと・・・」

 “野狐さま、老人は、神社にいませんでした”

 「くそじじい、奇門遁甲で待ち伏せていたとは小賢しいことよ」

 “絨毯探索を開始しますか”

 「八乗町の霊山衆は、一筋縄じゃいかないらしい」

 「撤収する」

 「ガキどもが戻ってきたら厄介だ」

 “影を引き揚げさせます”

 「ああ・・・」

 

 

 

 東八乗町神社

 仙堂、千、秋月、朱条が神社に戻ってみると、

 鎮守の森の木々がささくれ、

 拝殿の壁に “再度の遭逢に期待す” と彫られていた。

 「妖狐か・・・」

 「嫌な予感がしてたけど・・・」

 「参った」

 「えっ」

 「こういう置き土産を残す陰魔は妖狐以上よ」

 「わたしたちが生きてたのは、運がいいということ」

 「1対1じゃ というより2対1でも負けるわ」

 「人的被害を考えると、妖狐と戦うほど不利になっていくわね」

 「千爺さんは?」

 「地元ヤクザに人を借りに行ったわ」

 「補償を考えたら警官や自衛隊より、ヤクザが潰しききそうね」

 「潰しは利くけど、いろいろ仕切られて、庶民が厄介なことになるのよ」

 「それに式神と同じで、無尽蔵というわけじゃない」

 「それじゃ 神社の地脈を直して・・・」

 「というより町中の地脈を元に戻さなきゃ 酷い荒らされようよ」

 「短い時間にこれだけやられるなんて」

 「私の木も半分やられてる・・・」

 「作ったばかりの式神も3分の1がやられてるわね」

 「爺さんが避難させてなかったら全滅してたかも」

 「神社を守れなかったんだ」

 「妖狐と1対1で戦う陰陽師や山伏なんていないわ」

 「これじゃ 八乗町を留守できなくなるね」

 「ほかの陰魔討伐機動部隊も似たような状況に追い込まれてる」

 「妖狐にカウンター攻撃を食らって、家族を殺された霊山衆も少なくないし」

 「蔵元衆の警護部隊を投入しないと戦力的に膠着状態になるわね」

 「警護部隊を出すかしら」

 「さぁ 自分の権力、生活水準、財産を目減りさせられるのを死ぬほど嫌がる人たちだからね」

 「むしろ邸宅でクダ巻いて高収入で将来性高いのなら、私たちの方が要人警護に回りたい」

 「いいねぇ」

 

 

 

 長野県

 仙堂、千、朱条、秋月は、作業服を着て視察団に随行していた。

 視察団の周囲は、数百の式神が護符結界を形成していた。

 「陰陽師と山伏が30人文か。壮観だねぇ」

 「やれやれ、待望の要人警護かと思ったらお偉いさんの政治的な都合ね」

 「千爺さんでもよかったかも」

 「災地に老人を連れて行ったら票に関わるんじゃないの」

 「子供を連れて行っても、だと思う」

 「変装してるようなものだし、遠目にはわからないでしょう」

 「ところで、八乗町を留守にしても大丈夫なのかな」

 「近郊のヤクザ連中と話が付いたみたいだし」

 「とりあえず、身代わりは確保してるんじゃないかな」

 「なんのかんのいいながら使い道があるわけね。ヤクザ」

 「一般人に弾除けになってくれって言っても、心の準備がねぇ」

 「それに妖狐だって、私たちがこっちに来てるなんて気付いてないかもしれないし」

 「爺さん、200年物1枚と150年物3枚持ってるし」

 「確実に一人って確信しない限り妖狐は襲撃しないでしょう」

 「200年物の式神って、どんなことできるの」

 「朱条君が雷風でできることは、ほとんどできるでしょうね」

 「並みの山伏の法力を出すぜ」

 「熊野でバイク持ち上げたの見たことあるけど」

 「あれくらいじゃない? 200年物・・・」

 視察団の上空を白鷹が横切っていく、

 

 

 

 西八乗町

 ありふれた町の交差点、

 車は、多くなく少なくもなく行き交っていた。

 朱条彰人は非合理的といえるような行程で、町の中心を行ったり戻ったりする。

 その奇行が祟って、奇行士と呼ばれるようになった。

 仮に面白がる友人たちが仮に5mほど離れて後をつけたとしよう。

 陽界から陰界への路程は、千態万状の時間と空間が迷路を作り、

 あたかも時空に護符を描くが如くだった。

 例え、十数メートル離れて正確に跡を付けたとしても時間の遅れで正しい護符を描けず

 迷路を踏み外し、前を歩く朱条彰人が消える現象に遭遇する。

 「・・・本当に消えやがった」

 『あれ、式神の雷風だろう

 『透明になれたんか。いや、それ以前に才気を消せるなんて・・・』

 「ほら、秋月君。言った通りだろう」

 訳知りの同級生が自慢する。

 「こりゃまた驚いたわ。奇行士とはよく言ったもんだ」

 「おれは、これで3回目」

 「しかし・・・・」

 「ん?」

 秋月は携帯の時間を確認する。

 「いや・・・なるほど・・・」

 「この近くに本屋あったかな」

 「え・・・・あのビルの裏にあったと思ったけど」

 「そうか。ありがとう。じゃな同級生A君」

 「・・・・」

 秋月は、地図を買うと消えた地点にいちばん近い喫茶店に入り、

 「ケーキセット」

 「はい」

 テーブルに数学の本とノートと携帯を出し、

 消えた地点から道順と合わせた時間を逆算させていく、

 『時間軸と空間軸の計算だな』

 『今日の四柱推命と星の位置は・・・』

 『どっか法則があって、入り口から出口までの全体で時空結界を描くはず』

 『空間をX軸。時間をY軸・・・』

 二次関数、三次関数が次々書かれ、代数方程式が書き換えられ、

 立体的な形に変化していく、

 立体的になるのは、時間軸を加味しなければならないためで、

 時間が変わればルートも変わってしまう。

 ・・・・・

 ・・・

 『問題は、開始地点がわからん限り完成した時空結界図もわからんのか』

 『山伏は内宇宙に向き過ぎて、森羅万象の法則に消極的やからな』

 『俺は陰陽の基礎しかわからんし』

 『こういうのは式神作ってる陰陽師が得意だし』

 『仙堂か千に聞くか・・・いや、それは格下決定やし』

 『それに自分で時空法則を見出さんことには使い切れん無能者ということやし』

 『あと、2、3回は跡つけないと、難しいか』

 『いや、ばれる。せいぜい、あと、一回か・・・』

 『しかし、朱条の野郎。伊達に鬼子じゃないなぁ〜』

 『問題は陰界から出てくる時だけどな・・・』

 秋月は、喫茶店の外を見つめる。

 『出現するとしたら、どこになるんだ』

 そう、霊山衆はチームを組むことがあるが、個人経営者でもあった。

 特に山伏と陰陽師は、根底で分岐し、

 両方の才気を兼ねることは、不可能な偉業となっていた。

 

 

 陰界 朱条荘園

 雷風はトレーラーハウスの掃除をし、

 柵を作り、雑草を取り、畑を手入れすると、いつものようにくつろいだ。

 分身がくつろげば、本体も安らぐ、

 逆に言うなら分身が休んでいるなら、本体の疲労を安らげさせることができた。

 そういう関係なので休めるときは式神も当然のように休む。

 なので両方が忙しいときの辛労は、著しく大きくなった。

 “雷風。陰界の様子は?”

 別に聞かなくてもわかるのだが、なんとなく聞いてしまうのが人情で、

 「異常なしです。ハイネス」

 と呼ばれると主体格は気分がいい、

 なんとなく、某アニメで覚えた敬称を省いて呼ばせていた。

 意味が通じなくなるとか、あるのだが、

 下位の式神と違って、雷風は別格で、自分の分身

 なので自分が自分に向かって自問自答してる気分になるほど同気しており、

 縦の階級というより、横の関係になっていた。

 なので、立場の違いだけで、むしろ省いた方が正解と言えなくもない、

 「ハイネス。秋月陣につけられました」

 “隠さなくてもいいよ。秋月君とは友達だから”

 「ほかに漏れるかもしれませんね」

 “どうかな。霊山衆は、秘密主義だからね”

 “千は、僕が鬼子だって祖父に黙ってた上に、陰界のことまで秘密にしてたくらいだ”

 「聞かれたら答えるのでは?」

 “あの千爺さんが聞くという行動に出るか、疑わしいけどね”

 “特にかく自立の早い集団だよ”

 「いつごろ、戻りますか」

 “そうだな。どうせ、式神作りだけだし”

 “父親も9時まで戻らないし、8時に家に戻る”

 “そっちは、手入れが終わったら家に戻ってきてくれ”

 「了解。ハイネス」

 東八乗神社

 朱条は小さくため息をついた。

 今のところ、身代わりを父親に晒したことはない、

 さすがに身内を騙すのは気が引ける、

 というより、親一人子供一人では、ばれたときの反応が怖すぎた。

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 今回は、陰陽五行における時系列系の鬼子システムの説明でしょうか。

 数十世代を経た血統の人生が先端と末端から見ると陰陽の護符、呪符になる可能性がある。

 朱条彰人は、どっちなのでしょうか (笑

 本戦より索敵前哨戦に集中しようかな。

 

 

 

 

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