月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第06話 『わかろうとしたの』

 東八乗神社

 仙堂、千、朱条の3人は式神作りに励んでいた。

 千と仙堂

 「この箱は何?」

 「タバコよ」

 「はぁ?」

 「なんで未成年ばかりの陰魔討伐機動部隊にタバコが送られてくるのよ」

 「タバコはね。兵士を死地に送るとき、気持ちを和らげさせる効果があるの」

 「効果は絶大だから弾薬と並ぶ戦略物資よ」

 「なんだかねぇ〜・・・て、秋月か・・・」

 仙堂は携帯を耳に当て、

 ・・・・・・・

 ・・・・

 地図に印をつけた。

 「わかった。こっちでやるから、あなたたちは手を出さないで」

 「羽鶴。この前逃した陰魔が八乗町に来てるそうよ」

 「決まったわけじゃないでしょ 別の陰魔かもしれない」

 「八乗町は、珊瑚町から近いし」

 「陰魔が弱っていたのなら町の結界をすり抜けて入ってきたのも頷ける」

 「感染規模は1体ほどだから当たらずとも遠からず。可能性なら最大ね」

 「菜月。どうする?」

 「対応が早いと、この町に陰陽師がいると勘づかれるかもしれない」

 「できれば、別の町で処分したかったけど・・・」

 「かといって犠牲者が増えると居着かれて身動きが取れなくなるかもしれないし」

 「爺に聞いてみるわ」

 「千爺さんのシマだもの、道理よね」

 

 

 西八乗町双葉区

 千爺さんが先頭を歩き、

 仙堂、千、秋月、朱条が続く、

 陰陽武師の戦闘能力は、式神の質と量で決まる、

 千爺の参戦で戦力は数倍に跳ね上がり、

 式神の大群によって陰魔は完全に包囲されていた。

 「陰魔と秘密裏に交流するなんて・・・」

 「戸隠が教えてくれないのなら敵に聞くか・・・あんたの爺さんも食えないわね」

 「まぁ 事情も知らずに戦わされるのは面白くないわね」

 「事情を知っても面白くなると思えないけど」

 「無知のままよりいいわ。選択肢が増えるかもしれないし」

 「選択枝か・・・そういうの嫌がる人たちもいるようだけど」

 「上にしたら、敵愾心だけの考えない手駒は便利だもの」

 「一歩引いて戦うべきか戦わざるべきか考える人間や」

 「敵と独自のパイプを持っている人間を嫌うのは普通でしょ」

 

 

 

 東神社の神主が感染症の疑いのある家に来て、

 一言二言話をすると家の中に入れてもらえる。

 すでに家は式神によって包囲されており、

 陰魔も影も完全に封じられていた。

 比良木家

 少年は部屋で生気を失って座っている。

 「もう、逃げられんぞ」

 “こいつは死ぬぞ”

 「それは困ったの。しかし、逃がしてやらんこともない」

 “・・・・・”

 「なぜ、陽界に来た」

 “先に陰界を荒らしたのはそっちだ”

 「ほぉ 陽界も一枚岩ではないでの」

 「事情を教えてもらえるのなら、助けてやれるかもしれんの」

 “信用できるものか、貴様たちは我々の一族を殺した”

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「わしらの立場は今言った通り、事情を知らない者たちの勢力じゃ」

 「知っているのなら、お前との交渉するら成り立たないではないか」

 “・・・・・”

 「おまえを消したとしたら報償が入る。額は平均的な月収のほぼ2倍ほどじゃ」

 「頭数で割ることになるがの」

 「まぁ 命懸けじゃがの一度の仕事じゃ良くもないが悪くもない」

 「しかし、お前を逃がしたとしよう」

 「お前は、先に陰界を荒らした勢力以外の勢力が存在すると陰魔社会に伝えるだろう」

 「そして、ひょっとしたら、我々は君らの陰界と陽界の橋渡しになれるかもしれない」

 「むろん、お前もだ」

 「お前、一人逃がしたところで、我々の報償は小さくはないが大きくもない」

 「むしろ、人同士の争いに加担する方が楽で実入りがいいのじゃよ」

 「しかし、情報を得られるなら選択肢は増え、陰魔とパイプがあれば、大きな投資にはなる」

 “・・・・・” 

 「どうかの、一つ賭けてみんか」

 “名前は?”

 「千重憲じゃ」

 “わかった。俺は、レンショウ”

 “ではレンショウ。戸隠で何があった”

 「」

 「」

 「」

 

 

 ファーストフード店

 若い男女4人が座っていたら、いちゃついたり、じゃれたり、ういた方向に行くのだが、

 その席は、お通夜の帰りのような神妙さがあった。

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「レンショウが5分か10分で考えた創作じゃないとは思うけど」

 「実は、レンショウが創作の天才かもよ」

 「半分本当で、半分嘘で戸隠に悪者を押し付ければいいんだし」

 「先に手を出したのが戸隠とは限らないんじゃない」

 「だけど、人間が陰界に行けるなんて・・・」

 「戸隠は、何十年前に陰界に行く迷路があると噂があった」

 「だけど、結局、有耶無耶になった」

 「それが陰界に進出なんて・・・」

 「「・・・・」」

 「熊野も20年くらい前だけど。陰界に行く迷路の噂があったらしいよ。消えたけど」

 「それに、ほかの霊山衆でも陰界に繋がる迷路の噂だけなら幾つか聞いたことがある」

 「仙堂さん。もし、そういった陰界に行ける迷路が見つかったらどうするの?」

 「わたしなら秘密にするかしら、メリットはなさそうだけど独占で気分がいいから」

 「でもねぇ いくら権力争いだからって、陰界に進出しようだなんて、とんだ馬鹿よ」

 「どうして?」

 「護符結界と呪符結界は風水を不自然に変えてしまう」

 「規模が小さい間はどうということはないけど」

 「権力抗争や経済戦争が発展して争いが拡大すると、地脈を狂わせてしまう」

 「そして、大飢饉を起こすような大規模なものになると、地神(つちのかみ)を怒らせるわ」

 「地神(つちのかみ)が怒ると天災という形で現れる」

 「そのあと陰魔も大量に入ってくるわけ」

 「陰魔と抗争なんてことになったら、地神(つちのかみ)をいつ怒らせてもおかしくない」

 「じゃ いまは、天災がいつ起きてもおかしくない?」

 「ええ、それが、ほかの場所から護符や呪符をはがして戸隠に持って行った理由の一つよ」

 「地脈を乱してる式神の総量だけでも減らそうと苦肉の策ね」

 「霊山って、元々 陰界に近いのかな」

 「さぁ どうかしら、そういう可能性はなくないけど、元々は逆かもしれない」

 「陰魔も自由に陽界に出入りできるわけじゃないみたいだけど」

 「そもそも陰魔が陽界に来る用事がないのよ」

 「確かに人間の生気を奪ったりすることはあるけど、彼らにとって人間は、ごちそうじゃないの」

 「それに私たちから陰界に行く道は迷路だけど、陰界から陽界に行く道も迷路のようだし」

 「今回の事件は迷路が簡単に行き来できるようになったのが原因らしいけど」

 「それはレンショウもわからないみたいだけど」

 「揺らぎと揺らぎで増波したり減波したりするから周期的な現象かもしれないじゃない」

 「その原因を戸隠霊山衆にしていいのか、怪しいわね」

 「でも陰魔も一枚岩じゃないのは、ほっとしたよ」

 「気休めにはなるわね」

 「レンショウの件、千爺の預かりになってしまったけど」

 「どちらにしろ、わたしたちは、戦うことになるわね」

 「事情を知ると。あまり戦いたくないな」

 「元々 呪符なんて使いたくなるようなものじゃないし」

 「陰魔討伐機動部隊なんて名前だけで、金にならないもの」

 「それを命懸けなんて、やってられないレベルよ」

 

 

 

 西八乗高校

 路上

 「あ、朱条お兄ちゃんだ」

 西八乗中学3年A組 三沢裕子(15歳)

 高校と中学は道路を挟んで隣り合っていて、

 基本的に受験は隣の高校を狙う。

 三沢裕子は、少しボーイッシュな少女で、歩いてるのに弾んでるように思える娘だ。

 目鼻立ちがはっきりして目が輝いて将来が楽しみなのだが・・・・松永の娘なのだ・・・

 「お、おはよう、三沢ちゃん」

 彼女たちの父親は、登下校で朱条と会いやすいよう娘たちの家を配置している。

 なので、図らずも3人の中の誰かと出会う公算は高い。

 もっとも、松永には、ほかに息子3人もいるのだが、

 彼らの家は、高校周辺で空いてる場所が選ばれたようだ。

 交流は校内がほとんどで登下校で会うことは少ない、

 そして、三人とも母親に似たのだろう父親に似ず、結構まともだ。

 ちなみに6人とも母親は別なのだから昔の将軍や大名並み。

 俺も吹っ切れたら同じことができると、数秒思い・・・

 「お兄ちゃんはどっち?」

 「偽物だよ」

 「本当にそっくりね」

 「わたしも覚えたいな。分身」

 「苦労四倍で、楽二倍くらいだよ」

 「それはちょっといや」

 「あはははは」

 「お兄ちゃん、高校楽しい?」

 「んん・・・道路を挟んで隣だから上級生になるのと変わらないような気もするな」

 「ふ〜ん、先生は、もっと上の高校を狙えるって言ってるけど、どうしよう」

 「三沢ちゃんは才色兼備だから上を目指せるよね」

 「でも、お父さんの命令で、隣に入試なんだ。来年はよろしくね」

 「う、うん」

 彼女は、隣の中学校へ走っていく、

 『いいよなぁ 三沢ちゃん、かわいいよなぁ でも松永さんの娘なんだよね』

 彼女たちに捕まることは、将来、松永王国の君主なることを意味した。

 村人口は300人弱、これ以上の誘拐は必要ないにしても責任が被さる。

 ぶっちゃけ、村人300人を支配続けることは性格的に難しく、

 さらに村人を解放しなければ先代の犯罪を継承するという不名誉な気分に陥る。

 『・・・・・』 ため息

 「よ、朱条。おはよ、今日はどっちだ」

 「おはよ。聞くまでもないだろう」

 そして、たまに秋月とも登下校がぶつかる。

 「まぁ 式神作りが重要か」

 「5年後、死にたくないからね」

 「そんなに長く陰魔と戦わないさ」

 「だといいけど」

 「今度、羊印町に遠征に行くらしいよ」

 「ふ〜ん、ちょっと遠いな」

 

 

 羊印駅

 直接攻撃で生命力を削る影の群れと

 間接攻撃の呪符結界で陰陽五行の損壊する影の群れが陰陽師の周囲を巡り、

 陰陽武師が繰り出した式神の群れとぶつかる。

 巻き込まれた通行人が生気を削られ、次々と立ち眩みを起こし、

 ぼんやりとたたずみ始める。

 秋月が仙堂に直撃しようとした影を傘の形状をした金剛丈で払う。

 「抜かったわね。陰魔の索敵網に入り込んでしまうなんて」

 「駅を張ってたんでしょ」

 「賢い」

 「言ってる場合、駅から出るわよ。身動きが取れない」

 「敵の居場所もわからないのに? 菜月。撤退した方が良くない」

 「・・・そうね。引き上げる方が賢明か」

 「俺がしんがりを努める」

 4人は、陰魔の影を撃退しながら改札口から、プラットフォームに戻り、

 「先頭車両に乗って。羽鶴は運転士と車掌を守って」

 「ええ」

 電車に乗ると、

 車内では影に生気を削られた乗客が次々と立ち眩みを起こし、座り込んでいく、

 運転士の周囲は、得体のしれないスズメバチと影のようなものが入り乱れ、

 発車を手間取らせていた。

 「・・・ええ、早く」

 仙堂の携帯が切られると、

 慌ただしくやってきた車掌と運転士の口論が始まる、

 「どう?」

 「社長命令なら最優先で聞くでしょうね」

 「仙堂さん、顔広いんだね」

 「蔵元衆なのよ」

 「・・・・」

 「でも、もう、電車の移動はできなくなるわね」

 「2対1でも苦戦してる。これまでの影より手強いよ」

 「上級の陰魔のようね」

 電車が動き出し、

 「仙堂さん、あれ・・・・」

 「影の増援・・・80以上いるじゃない」

 しかし、電車は、駅を離れるに連れ、

 陰魔の影は引き揚げていく、

 

 プラットフォーム

 16〜17歳ほどの少年が電車を見送り、

 一際大きな影の一つが少年に近づいた。

 “野狐様。申し訳ございません。陰陽師の護符式神は手強く、逃してしまいました”

 「あれが八乗町の対陰魔討伐機動部隊か」

 “影を増援して殲滅した方が良かったのでは?”

 「8割以上の影を生気狩りで出払わせていたからね」

 「影を少な目に出して駅の外に引っ張り込もうとしたんだが」

 「引き際を心得てるとは、どうしてどうして、戦い慣れた部隊だ」

 「撤退戦術を駆使できる部隊相手に逐次投入で戦うのは面白くないよ」

 “残念です”

 「まぁ いいさ」

 「ところで、ホウ。お前が式神相手に梃子摺るとは珍しいな」

 「雷風とか言う式神に妨害されました」

 「そうか、100年物の式神なのだろう」

 “そのようです、100年物の式神は山伏に準じるそうですから”

 「しかし、生気が少ない人間が多くて困る」

 “陰界に戻りますか”

 「いや、陽人どもの制裁は終わっていない」

 「もうしばらく、居座ってから陰界に帰還するとしよう」

 

 

 東八乗神社

 陰陽文師が作ったカーボンナノチューブやケブラーを編み込んだ手製和紙は独特の質感があった。

 トランプの裏模様は式神の命が刻み込まれ、

 表の絵柄マークと数字は、護符や呪符が施され、式神の性質をあらわしていた。

 作りたての式神は、全く役に立たない、

 それどころか、人の目に晒すことも、ましてや触らせるなどもっての外だった。

 最低でも3年が必要で、5年ごろから使えるようになり、

 10年でまともに用を成しえた。

 千爺から貰った式神は、式神戦で15枚ほど失い、

 残ってる式神は35枚ほどしか残っておらず、

 千、仙堂に貰ったもの、

 熊野の陰陽文師から送られてきた式神を合わせ

 60枚を回復させていた。

 「朱条君。いい?」

 朱条は、トランプ大の式神をケースに入れてく、

 「・・・どうぞ」

 千は、茶菓子を持ってきた。

 基本的に日と時間を選んで作る式神なのだが、戦況が苦しく、そうも言ってられないと、

 千と仙堂も学校を休み式神を急増していた。

 「朱条君。大分様になってきたわね」

 「でも雷風がいなかったらヤバかったと思うよ」

 「爺の式神の中じゃ 四天王の一つでしょうね」

 「僕が貰ってよかったのかな」

 「いいんじゃない、私も危ないところを助けられたし」

 「千。熊野は、羊印町攻めに増援を出すって?」

 「どこの町も増援を求めてるし、敵の規模がわかりにくいから何とも言えないわね」

 「でも羊印町の陰魔は、妖狐と思わないけど、相当に戦い慣れてる相手だと思う」

 「妖狐だとまずい?」

 「最低でも、今の戦力の3倍と、プラス自衛隊一個小隊は欲しいわね」

 「そんなに強いんだ」

 「妖狐と戦いたがる霊山衆はいないわね」

 「それより、熊野に行って籍を入れて欲しいんだけど」

 「え、じゃ 僕は霊山衆になっちゃうの」

 「新参陰陽師には門戸が狭いんだけど、今なら即行で入籍できるわ。どうする?」

 「んん・・・」

 「無理強いはしないけど、才気を生かすなら霊山衆になった方がいいわ」

 「蔵元衆にも記名されるから保障も大きいし」

 「二三日あげるからよく考えて」

 「うん・・・」

 

 

 和歌山県 熊野

 原林がうっそうと繁っていた。

 朱条は来てしまったと己が意志薄弱を痛感する。

 そう人間は流される生き物なのだ。

 四十も五十も歳をとれば選択肢は変えられないが、

 選択肢があるのは若者の特権と言えた。

 霊山は、管理部門、基礎教育部門、修験場に分かれていた。

 「トラックが入り込んでるみたいだけど、何かあったの?」

 「陰陽武師から製造部が独立するらしい」

 「霊山で工場を作って可能な限り式神を生産するらしい」

 「少しは手作りに近づければいいけど」

 「携帯と同じさ。ナノレベルから陰陽の手順を取り入れてるからね」

 「しっくりこなくても汎用性は高いよ」

 そこは、役場のような場所で試験や面接もなく、

 千家欄に所定の物を渡し、項目を記載するだけでよかった。

 あとは事務手続きでパソコンに入力され、

 「これで携帯が届くことになるわね」

 「千が持ってるような携帯型の式神?」

 「ええ、高級自動車数台分の値段だけどね」

 「うそ・・・・」

 「呪符結界を数十個も壊せば元を取れるわよ」

 「いつになるやら・・・」

 「戦時下だから、今回は、割引で配給されるかもね」

 「感覚がマヒしそうだよ」

 そして、数十分後、蔵元衆から会見の申し込みがメールで届き始める。

 どこかで聞いたことがあるような企業が連なり絶句する。

 「な、なんか・・・」

 「蔵元衆は、霊山衆を敵に回さないよう懐柔しておくか、なるべく手元に置きたいのよ」

 「顔見知りで奢ってもらった相手と戦いにくいでしょ」

 「主要企業は、全部蔵元衆なの?」

 「主要公共機関もね。もう馴れ合い」

 「どうしよう・・・」

 「まぁ 顔見せぐらいしておくべきでしょうね」

 「注意することなんかあるのかな」

 「そうねぇ 責任感、真摯さ、聡明さを相手に印象つけられたらいいんだけど」

 「うんなもん、高校生にあるか!」

 「あははは」

 「修験道と基礎教育場を見ていく?」

 「うん」

 

 

 東八乗町 東八乗神社

 羊印町の地図が広げられ、

 仙堂と秋月が覗きこんでいた。

 「町に入るルートが限られてる」

 「少ない影で早期警戒できるわけだ」

 「陰魔が、この町を意図的に選んだとしたら相当な策士よ」

 「問題は影の強さだな」

 「影に質量感があるから、撃破するのが大変だった」

 「かと思えばダミーの影で翻弄されて、一筋縄じゃいかないし」

 「数もまだ多いような不気味さを感じる」

 「んん・・・進入路が限られ、敵のホームグランド、その上、戦力推定で互角以上か」

 「秋月君。近接戦闘で敵本体に勝てる自信はある?」

 「遠距離攻撃と近接戦闘の両方に長けてるとは思えないから手合せしないとな」

 「妖狐クラスじゃなければね」

 「妖狐か・・・さすがにまずいだろう」

 「秋月君は式神使えたっけ?」

 「20年物以上の式神で、同時使用は最大3つだけな」

 「いま6個持ってる」

 人形型の式神を見せた。

 「どちらにしろ、散漫になるのはまずいわよね」

 「当然」

 「増援どころか、支援要請が来てるくらいだし」

 「千爺さんに出張ってもらうほかないかしら」

 「要人警護してる陰陽師か山伏を送ってもらえよ」

 「見込みはないと思うわ」

 「言ってみたかっただけだよ」

 「ふっ」

 

 

 総理官邸

 「戸隠の主流派が陰界に進出しようとした噂を聞いたが本当のところ、どうなのかな」

 「「「「「・・・・・」」」」

 「ま、まさか、そのような」

 「富良野 司という山伏が迷路を通って、陰界の道を切り開いたのでは?」

 「・・・・・」

 「お、御国のため未開地を切り開こうと思ってのことにございますれば」

 「跡目相続争いで苦しくなった主流派が、巻き返して戸隠霊山の主導権を執るためであろう」

 「い、いえ、そのような・・・」

 「戸隠包囲網を突破した陰魔は推定184体」

 「ナガノウィルスは、感染者23000人でさらに急増中だ」

 「お前たちだけでは処理できず、全霊山衆を駆り出さなければならいのだぞ」

 「下手をすれば地神(つちのかみ)を怒らせ、天災になる」

 「こ、このようなことになるとは・・・」

 「いまさら言っても始まらないのでは、善後策を練らなければ・・・」

 「「「「「・・・・・」」」」」 ため息

 「・・・千爺。なにか、よい手腕があるのかね」

 「今回の情報を得るため陰魔レンショウと交渉のパイプを持ちました」

 「彼は、和解のための条件を上に伺うといいました」

 「逃したのかね」

 「ええ、中レベルの陰魔ですが負傷していましたし」

 「数か月は戦力にならないようでした」

 「信用できるものか」

 ごほん!

 「信用を失ってるのは戸隠霊山衆なのですよ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「戸隠霊山衆は相手を理解しようとせず、一方的に土地を踏み躙ったのではないのか」

 「そ、そんなことはない、交渉する気は合った」

 「土地をよこせ、お前たちは出て行けでは、難しかろう」

 「分かり合う努力はしたのだ」

 「努力が実らなくて残念だったな」

 「わ、我々戸隠霊山衆は、決して私心によって事を成そうとしたわけではない」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 幽体の陰魔でなく、実体を持つ妖狐 “野狐” の登場です。

 なんていうか、ベタな展開ですが (笑

 撤退戦は、ちょっと燃えるものを感じますね。

 

 

 

第05話 『学徒動員と珊瑚町の式神戦』
第06話 『わかろうとしたの』
第07話 『時空脈符と創始者』