月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第05話 『学徒動員と珊瑚町の式神戦』

 総理官邸

 「この領収書の束はなんだね」

 「戸隠包囲網維持のための費用です」

 「・・・額が大きくないか」

 「まさか」

 「水増しした費用を国と国民に押し付け、私腹を肥やそうとしてるんじゃないだろうな」

 「ま、まさか、適正且つ必然な費用ですよ」

 「「「「・・・・」」」」 疑心暗鬼

 「なんなら、みんなでうまみ分けを・・・・」

 「ほどほどにしておきたまえ、この非常時に」

 「そうだよ。いくらなんでも非常識すぎる」

 「では、長野対策会計監査機関を設立して天下りするのは」

 「頭が痛くなってきた」

 「「「「あはははは・・・・」」」」

 「まぁ いい、しかし、この学徒動員は、まずいよ」

 「包囲網を崩さず。包囲を出た陰魔を討伐するには学徒動員しかないかと」

 「子飼いの要人警護の霊山衆を包囲網に出したまえ」

 「いや、しかし、それは・・・・」

 「身内に不幸があると、いろいろ、運営上、何かと支障があるかと」

 「庶民は運営上支障がないってか」

 「「「「・・・・」」」」

 「正規の経済活動ですので」

 「「「「・・・・」」」」

 「それで、学徒動員に死なれたらどうするんだ」

 「陰魔のせいで不審死が増えてるので、陰魔のせいにするのが妥当かと」

 「だが学校から引き抜いて公的機関で預かってる時じゃ」

 「非常事態なのでは」

 「昼日中、巡回中の学徒動員者をゴシップ記者に嗅ぎつけられたら、誰が責任を取るんだ」

 「俺、いやだぞ」

 「だいたい、蔵元衆と霊山衆は日本の暗部中の暗部。非常事態宣言でも出せない」

 「しかし、こうなると誤魔化しきれんよ」

 「じゃ 放課後の巡回ということで」

 「それじゃ 地域ごとの歪なチームしかできないではないか」

 「身体を持った陰魔なら軍や警察でも対応できます」

 「しかし、身体を持たない陰魔の相手は、霊山衆しか・・・」

 「報償と保障制度は?」

 「適当な架空会社を作ってそこからというのは、いざという時は有耶無耶にできますし」

 「責任が政府に及ばないのなら、もう何でもいいよ」

 「総理。そろそろ、長野感染症対策の会見時間です」

 「ああ、どう辻褄を合わせたものか、頭痛くなってきた」

 

 

 八乗町 蔵元探偵社

 「えぇえと、猫探しのアルバイトが入ってますので、よろしくお願いします」

 名ばかりの探偵社と雇われ所長。

 架空の依頼主と架空の依頼、

 どこからともなく振り込まれる捜査費用・・・

 新人のアルバイトは、仙堂菜月、朱条彰人、千羽鶴、秋月陣だった。

 とりあえずという形で、2年の仙堂菜月がリーダーになってしまい、

 1年の朱条彰人、千羽鶴、秋月陣がついていく。

 珊瑚商店街

 原因不明の感染は珊瑚商店街の区画を中心に広がっていた。

 「ここ、2週間の感染者は24人だから、2体から4体くらいかしら」

 「いい勝負ってこと?」

 「まぁ そうね」

 「とりあえず、護符結界を4つくらい準備しておこうかしら」

 「菜月。護符結界を作り過ぎると、攻撃力が削がれない」

 「不確定要素があるもの」

 視線が朱条に集まる。

 「すみませんね。不確定要素で・・・」

 店の半分はシャッターが閉まってひっそりとしていた。

 仙堂菜月のミサンガが猫になって駆け出し、

 千羽鶴の折り鶴がカラスになって飛び立っていく、

 式神を目と耳として使える数は、陰陽師の才気と式神の力で変わる、

 また、索敵と別に攻撃用と迎撃用の式神も残しておかなければならなかった。

 4人は、開いてる店にでも入ろうと、

 「秋月。パチンコ屋に入ってどうするのよ」

 「いや、社会勉強で・・・」

 「音がうるさくて集中できないでしょうが」

 「へいへい」

 『法力を使えばな・・・』 と朱条につぶやく、

 『なるほど、って、そんなことできるんだ』

 『朱条。山伏になればお前も・・・』

 「陰陽師だってできるわよ」

 ファーストフード店

 テーブルの上に市内地図が広げられ、

 陰陽師風、あるいは山伏風にいうと、健康上よろしくなさそうなハンバーガーが脇に並ぶ。

 若い男女4人組で、その場を楽しめるのなら気分で補うこともできる。

 しかし、問題は、楽しむ雰囲気でないことにあった。

 仙堂の猫と、千のカラスが移動するにつれ、市内地図上の×印が増えていく、

 「朱条君のイレギュラーな力がどこまで通じるのかしら」

 「僕も索敵だそうか?」

 「こういうのは経験がモノを言うの」

 「素人に同時並行の仕事はさせられない、決めたとおり迎撃に専念して」

 「朱条。式神操作より、法力で行こうぜ、山伏は強いぞ」

 「山伏は内面に向かい過ぎて、森羅万象の理に疎いの、陰陽師がバランスいいのよ」

 「森羅万象の理には敏感だぞ」

 「感受性が強くても法則を理解してないから利用できないだけなのよね」

 「陰陽師は理屈っぽいんだよ。だから功徳が弱い」

 「功徳って?」

 「奇跡っていうのがあってね」

 「善行の蓄えが大きいと法則を超えた奇跡の引き金になるときがあるんだよ」

 「朱条君。それ、実証が少な過ぎて仮定に過ぎないから信じちゃだめよ」

 「きっと、実証しきれないくらい秋月君の善行が少ないのね」 千が笑う

 「ふん」

 「で、秋月君。戸隠で何があったの?」

 「クライアントについてシンガポールに行ってた時、起きたんで、知らん」

 「なに、秋月君は、結局、なぁあんにも知らないんだ」

 「悪かったな。秋月家は、戸隠の主流でも反主流でもないんだよ」

 「どちらにも相手にされなかったのね」

 「秋月家は、代々派遣で外出が多い」

 「外部とのパイプが強いから、内輪の争いごとに入れにくかったんだろう」

 「ふ〜ん・・・・見つけた」

 「千。どこ?」

 「・・・といより影ね。4つ」

 「東中区4丁目・・・こっちに向かってる」

 「ばれたの?」

 「いえ、でも、退避は、間に合いそうにないわね」

 「迎撃する」

 仙堂がミサンガを8つ外すと、

 きゃー!

 突然現れたスズメバチ8匹に店員と客が慌てだし、

 スズメバチは、まっすぐ店を飛び出していく、

 「わたしも出そうか」

 「2対1なら勝てると思う」

 「それより、移動した方がいいわね。コースから本体は、2丁目の方だと思う」

 「千は、そっちに4つ出して」

 「ええ・・・」

 千が折鶴を4つ出すと、雀になって飛び立っていく、

 店員と客は、突然現れたスズメバチと雀に驚き、

 4人は、金を支払うと店を出て移動する。

 「陰陽師戦ってやつは、どうして、こう、まどろっこしいのかね」

 「2丁目に突撃させてくれよ」

 「陰魔の本体を確認してからよ」

 「秋月。あんたは、せいぜい、護衛で頑張ってもらうからね」

 「へいへい」

 

 仙堂のスズメバチ8匹は影4つを見つけると、加速しながら回り込み、

 気付いた影と空中戦を繰り広げた。

 

 仙堂、千、朱条、秋月

 仙堂は、市内地図を見つめながらチェックしていく。

 「こちらが龍穴で、陰魔を夭砂に追い込めるなら有利だけど・・・」

 「陰魔も、そういう場所は避けるだろうし、龍穴は、陰魔の索敵網に入るようなものね」

 「かといって、護符で臨時に龍穴を作っても攻撃力を削がれる・・・」

 「菜月。西陣5丁目で陰魔の影と接触したわ。こっちを探してる」

 「迎撃で向こうも気付いたわけね」

 「迎撃は?」

 「2つやられたけど、一匹だけ残して全滅させた。いま、追いかけてるけど」

 「罠っぽい?」

 「どうかしら、逃亡先に本体がいるようでもあり、本体がいないようでもあり・・・」

 「迷うところね・・・」

 「千。索敵はカラス、猫。雀で、迎撃がスズメバチなのはなぜ?」

 「人目についても違和感がないし、人を監視することが多かったから昔からの習慣ね」

 「千。肥田2丁目で陰魔の影と接触したわ」

 「ずいぶんと広範囲ね」

 「ひょっとして・・・戦力を分散してるか。数が多いのか」

 「感染者規模からすると、陰魔は2、3体のはずよ」

 「じゃ・・・西にはいないかもしれない」

 「菜月。例の場所に移動した方がいいのかしら」

 「まだ早いわ」

 「でもあまり距離を離れられないか・・・」

 「もう一つ二つ、ポイントを作っておくべきだったかしら」

 「そんなに式神に余裕ないもの」

 「いよいよ。朱君のイレギュラーパワーに頼ることになりそうね」

 「な、なんか、いるような・・・」

 「見つかったぞ」

 秋月が下水に逃げ込もうとした影に法力を当て、粉砕する。

 「急いで、ポイント4へ」

 「千! 西と南の式神を戻して」

 「でも」

 「先制攻撃を受ける。もう、陰魔が北か東にいると賭けるしかないわ」

 4人は、護符結界を施してる場所へと走った。

 「来た!」

 「北から13・・・東から15・・・」

 「思ったより多い・・28よ・・・」

 「朱条君。頼んだわ」

 朱条が護符式神30体を放出するとスズメバチとなって飛び立ち、

 迫ってくる影の群れとぶつかる。

 「北の13匹が退路を断つため回り込んでくるわ」

 「菜月。戻してる式神4体をぶつける」

 朱条の式神をかわした影を秋月が法力で粉砕していく、

 「つっ・・・」

 「大丈夫? 秋月君」

 「大丈夫だ。先に行け」

 「菜月。北で見つけた。2体」

 「こっちも東で1体見つけたわ。思った通り陰魔は二手に分かれてる」

 仙堂と千が呪符式神18ずつを放出。

 「僕も出そうか」

 「もうすぐ、護符結界に張るから直前に頼むわ。2体いる北に」

 『雷風』

 6つの呪符式神がスズメバチとなって飛び立っていく、

 護符結界に入ると護衛してる護符式神が力を盛り返し、

 陰魔の影を護符結界の外側へと押し返していく、

 「秋月君」

 「大丈夫だ。肩をやられただけだ」

 霊障で秋月の肩が黒ずんでいた。

 あわあわわっわわ・・・

 朱条が瑞鬼を振り回し、秋月に近づく、影を牽制する。

 「朱条君。式神に集中して!」 千が叫んだ。

 そう、近接戦闘用の武器は、陰陽師の意識を散漫にさせること方が多かった。

 索敵に出していた仙堂と千の索敵用の式神が戻ると、

 数に任せて、護符結界の厚みを広げていく、

 「思ったより大物だったみたいね」

 「戻ってきたわ」

 呪符を施し、第二波で8つずつを放出した。

 戦況は刻々と変わっていく、

 陰陽武師の式神と陰魔の影は、珊瑚商店街全域で交戦を繰り広げ、

 互いに相手を視認することなく、攻撃隊を差し向け、相手の五行を削っていく、

 「菜月。北の陰魔2体を片づけたわ」

 「東の1体は・・・逃げられたわ。でも致命傷を負ってるはず」

 「・・・・」

 「大丈夫。朱条君」

 「なんか、陰魔の生気を削り取ったような感覚が・・・」

 「慣れるのね。これで終わりじゃないから」

 「問題は失った式神ね。私たちは補充できるけど」

 「朱条君はどうしたものかしら」

 「6体死んだ」 しょんぼり

 「わたしのをあげるわよ。9年ものだけど」

 「ほんと」

 「ええ、一度に使える式神は限られてるし」

 「出せる戦力は多い方がいいし、師匠の務めね」

 「よかった」 ほっ

 「つうか、朱条。いま、先生から師匠に格上げされてるぞ」

 「あ・・・」

 『『終わったな・・・』』

 「でも爺の雷風は大したものね」

 「一撃で陰魔に致命傷を与えるんだから、威力半減なのが嘘みたい」

 「よっぽど千家の血筋と相性がいいのね」

 「でも瑞鬼はね・・・」

 「千爺さんは、朱条君と相性がよさそうな式神を上げたんでしょう。使いこなせるかは別よ」

 「そうねぇ・・・式神戦に慣れるまで瑞鬼は、使わない方がいいかも」

 

 

 東八乗神社

 蔵元衆の車が停まると積み荷を降ろして去っていく、

 「この折り畳み傘が陰陽文師が作った新型の式神・・・」

 「雨の日専用みたいね?」

 「折りたたみ傘だからカバンの中にでも入れとけば目立たないと思うけど」

 「でも、どうやって使うの・・・」

 「これ、おもろ」

 「本当だ」

 朱条と秋月は、機械音痴の少女二人を余所に、

 「「・・・・」」

 携帯用即席護符結界を完成させていた。

 「でも雨の日ならともかく、晴れてる日に使うのは変」

 「死ぬよりいいと思うぜ」

 「5年くらい使えば鷹になりそう」

 「マジかよ」

 「うん、相性は別にして、作りの手順が粗いけど、補完できそうだし」

 「「「・・・・・」」」

 ぽん ぽん

 「それ、陰陽文師の前でいうな。殺傷沙汰になるぞ」

 「そうなんだ」

 「「「・・・・・」」」

 

 

 雷風は、朱条の分身となって陰界に来ていた。

 式神を分身として使えるようになるまで最低数世代を必要とし、

 相性が合わなければ適わない、

 血縁でもない新参の陰陽師が100年物の式神を扱えるものではない

 朱条と雷風は、縁組を済ませると朱条の特異な才気と異常な相性で雷風と同化してしまう。

 その後、陰陽文師が作った新素材で補完されながら今に至っていた。

 陽界と陰界の順路は複雑怪奇で常に変動しているにもかかわらず。

 雷風は、順路を誤ることなく陰界に到達し、護符式神を展開させる。

 式神が式神を使うのも妙だが、作って7、8年の式神と違い、

 陰陽文師のいうところの四柱推命の陰陽五行化で目に見えない歴力が働く、

 霊山衆でも100年以上の式神は、次元の違う存在として個性。

 陰陽文師でいうところの式格が認められていた。

 耕作地の作物を取り入れ、雑草を抜き、ジャガイモを植えて水をやり、

 原野を耕して耕作地を広げる。

 「よう、朱条。何やってるんだ」

 40代くらいのよく見知った男と、15歳、16歳、18歳の女の子が立っていた。

 朱条は、この男を正真正銘の悪党だと思ってる。

 「松永さんか。畑だよ」

 「しけたことしてんな。俺みたいにやればいいのに」

 「誘拐して働かせるの?」

 「そうそう。時々 物を入れてやれば奴隷のように働かせられるし」

 「こんなトレーラーハウスじゃなくて、城だって作れるぞ」

 「あと、ハーレムもな・・・」

 同じ西八乗高校と西八乗中学の娘たちが土産のお菓子類やらビールやらを置いた。

 「あ、ありがとう」

 「「「・・・・」」」 ぺこり

 『こいつ、俺を未成年だと知っててやってるんだろうな・・・畑にでも撒くか・・・』

 「・・・気が進まない」

 「相変わらず人が良いというか、前にいた時田もまじめだったが」

 「お前は、さらに輪をかけてまじめだな」

 「そうかい・・・」

 「・・・お・・・おまえ・・・朱条じゃないな」

 「へぇ やっぱりばれたか」

 「誰だ!」

 「式神だよ。陰陽師の使うね」

 「俺、陰陽師になったんだ。ここにいる朱条に似たのは式神の分身」

 「ふ〜ん 妙な術だな。ていうか、便利そうだ・・・」

 「いや、覚えることがたくさんで、大変だよ。奴隷を使う方が楽」

 「ん・・・まぁ 40過ぎて習い事は勘弁ではあるな」

 「今日は、何しに来たの?」

 「いや、城を大きくしてるんだけど手伝いが欲しくなってさ」

 「嫌だよ」

 「気が変わる頃かと思って誘いに来たんだが、もうしばらくは無理か」

 「早く大人になれよ」

 「あはははは・・・それより、最近、表に変なのがいるだろう」

 「ああ、なんか物騒だな。こっちの世界の奥地にいる連中だろう」

 「なんで表の世界にいるんだ」

 「長野県の感染騒ぎだよ」

 「この前、長野に行ったら表の世界と裏の世界の順路が物凄く簡単になっててさ」

 「ちょっとしたことで出入りできる。その連中がこっちまで流れてきてるんだ」

 「んん・・・・それは、困るな。この辺は大丈夫だろうな」

 「今はね。それで、この陰陽の力を使って、荒事仕事さ」

 「へぇ そんな危ないことしなくてもいいのに、俺が雇ってやろうか」

 「やだ」

 「ふっ な、娘を置いて行ってやろうか」

 「残念だけど、僕は保護者付きの未成年だし」

 「ずっと、ここにいるわけじゃないから守れないよ」

 「3人とも、こんなにかわいいのに」

 「お父さんに似てないところが、実にかわいいと思うよ」

 「ふっ まぁ まだ、若いからな。それくらい真面目な方がいいのかもしれないな」

 「俺も若いころはまじめだったよ」 うんうん

 「あはははは・・・」

 「本当だって、目がキラキラしてたんだぞ」

 「あはははは・・・」

 「今度、若いときの写真を見せてやろう」

 「楽しみに待ってるよ。松永さん」

 「じゃあな」

 「「「・・・・」」」 こくり

 「・・・・・」 バイバイ

 そういうと松永と少女たちは陽界への順路を通って去ってく、

 彼は、同位の相手に紳士的でも、

 無知・無能な相手に誘拐、拉致、監禁、強制労働・・・と、とことん残忍になれる男だ。

 しかし、勘違いしてはならない、

 彼に庶民の法は、あてはめられない、

 彼は彼の村の王で、村人口300人弱の君主だった。

 彼は、大人の世界で普通なのだろう。

 自分もいつかは彼のようになるのだろうか。

 どこか飄々としていて憎めない部分もあった。

 彼の村は、どこか諦め観があるが、物資が溢れ、

 少なくとも結束した王国の封建社会として安定し発展していた。

 陽界と陰界を出入りできるというのは、それほど大きな特権と言える。

 犯罪に手を染めることに躊躇しなければだが・・・

 しかし、彼にも悩みがあるようだ。

 彼の子供たちは鬼子ではなく、自力で陽界と陰魔を出入りできないでいた。

 そう、世代交代が近づくにつれ、

 彼は、自分の王国をどうするか、決断しなければならなくなる。

 彼のスカウト攻勢は、ただの思い付きではなく、

 年頃の娘三人を連れてくるのも冗談でなかった。

 王国存続の先延ばしが絡んでいた。

 

 

 西八乗高校

 奇行が祟って、好奇な目で見られているが学校は嫌いではない

 いまは、秋月君という親友もいるし、

 松永の娘たち、

 3年A組、葛城香苗(18歳)。1年B組、大沢恵美(16歳)、

 西八乗中学に3年A組 三沢裕子(15歳)がいた。

 名前が違うのは母親が違うからで、

 中学の頃、あの父親によって、西八乗中学に転校させられていた。

 そういった縁があって、知らぬ仲でもなく、

 偶然会えば、初々しくも登下校を一緒にすることもあった。

 まぁ 父親がアレな人物でも

 当人同士は、花も恥じらう高校生。

 こればっかりは、ガラス細工のように繊細で脆く、青春のほろ苦さめいて、

 手順を踏まなければどうしようもない、

 だいたい、父親が背後で画策してるのだから、地雷を踏むようなもので恐ろしい、

 今日は偶然出会った、3年女子と登校していた。

 彼女と身長はあまり変わらない、スレンダーで容姿は中の上といえた。

 三人娘に共通してるのだが、父親のことで世間様に後ろめたいのか陰りがあった。

 もっともその陰りは、マイナスでなく、そそるくらいプラスに働いている。

 「今日の朱条君は本物?」 と3年A組の葛城香苗(18歳)

 「僕は偽物だよ」

 「本物はどこにいるの?」

 「秘密の場所で式神作り」

 「ふ〜ん、でも、本当にそっくりね。お父さんは何で見分けられたんだろう」

 「僕たちは、独特な感性があって・・・口では説明できないかな」

 「朱条君は、お父さんのこと、嫌ってる?」

 「いや、葛城さんのお父さんは、王様だし、そういうわけじゃないんだ」

 「なんか、踏み切れなくてさ」

 「だよね。やってること酷いことだもの」

 「いや、世の中も相当なものだし。村は普通以上に上手くやってると思うよ」

 「人としてアレだけど。いい王様なんじゃないかな」

 「そう思ってくれるのなら、少し楽かな・・・くすっ」

 「なに?」

 「だって、朱条君。本物みたいだもの」

 「本物と変わらないと思うよ。意識を重ねられるし」

 「へぇ〜 器用なのね」

 「だよね」

 「わたしたちとかも陰陽師になれないのかな」

 「んん・・・そうだねぇ 先生に聞いてみないとわからないけど」

 「才気がないと難しいんだ」

 「あと、自然科学とか物理学の勉強しないと・・・・」

 「ええ〜 陰陽師って・・・」

 「陰陽五行って、総合統計自然科学者なんだよ」

 「・・・・」

 「あと、式神ってワインと似ててさ、5年くらいから力を持ち始めるし」

 「才気があって、陰陽の血統じゃないと式神をすぐ使えないんだ」

 「ぼくは、ほら、変わり者だから」

 「環境と能力は普通じゃなけど、朱条君の感覚は普通だと思うよ」

 「そういわれると安心かな」

 ふわ〜

 『朱条君は、お父さんみたくならないでね』

 「あはははは・・・」

 たとえ王様のようでも、年頃の娘の反駁から逃れる術はないのだろう。

 彼女の香りを嗅ぎながらそう思った。

 

 

 1年C組

 「奇行士名高い朱条君は、朝から3年女子と登校か、もてるんだな。驚きだよ」

 「い、いやぁ ちょっと縁があってね」

 「どういう縁か気になるねぇ あやかりたいものだ」

 「秋月君は、十分、もててるようだけど・・・」

 一緒にいることが多いせいか、

 時々 女子の視線が秋月に向くのに気づいていた。

 「ふっ やっぱり男はタフじゃないとな。女は守ってもらいたいから、そこに惹かれる」

 「下心ありありだね」

 「その上、若さと外見に頼って、中身がないから厄介でね」

 「そ、そうなんだ」

 「ポイ捨てでやってもいいけど、どうも気が引けるし・・・・」

 「あははは・・・」

 「仙堂さんとかいいよな」

 「そ、そうだね。いいよね」

 「ちょっと怖いけどさ」

 「あはははは」

 「本物は式神作りしてるのか?」

 「うん、たくさん作っとかないとって、仙堂さんと千も休んでる」

 「朱条。お前、血統書付きの彼女たちでさえできないことをやってるんだ」

 「自分の分身を作り出せるお前が異常なんだぞ」

 「鬼子って言われたよ」

 「そういうのが十何年かに一度、現れるらしいけどね」

 「普通は、異形だから奇形として処分される」

 「ごくたまに普通の姿で後天的に才気という形で現れるんだ」

 「へぇ」

 「前に話した功徳と関係があるらしくてね」

 「奇跡」

 「そう、因果律で当てはまらないプラスとマイナスが時々起きる」

 「陰陽文師は鬼子を陰陽五行外力にしてるし、山伏は隔世功徳の氾濫と考えてる」

 「常軌を超えたプラスとマイナスの片方だから、鬼子を疎む派閥もあるらしいけどね」

 「どちらにしても、正直、新参は式神の絶対量がないし」

 「式神も借り物になるから、山伏がいいような気もするけどな」

 「と言われても千家に良くしてもらってるから」

 「やれやれ、俺が先に会ってたらな・・・」

 “今日、比良木は休み?”

 “うん・・・”

 “なに?”

 “噂だと、感染したって聞いたけど”

 “マジ! 怖いな”

 『秋月君。この前、逃した陰魔かな』

 『たぶんな』

  

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 戦闘モノですが有視内戦は、たくさんあるので (笑

 陰陽武師3人、山伏1人 VS 陰魔3体で有視外戦です。

 

 

 

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