月夜裏 野々香 小説の部屋

陰陽紀 『木漏れ人たち』

 

 第04話 『雷風(らいかぜ)と瑞鬼(みずき)』

 科学技術庁 陰魔対策室

 テーブルの上に航空写真が並んでいた。

 物理的な攻撃が通用しない陰魔に対する手段は限られていた。

 とはいえ、身体を持つ陰魔が出現すれば攻撃しなければならないことから

 航空部隊と戦車部隊は、待機状態にあった。

 偉い人たちとシンクタンク

 「そもそも陰陽とはなんなのかね」

 「陰陽道は、時空の法則性を理解し、法則性を利用する学問に発達してしまったようです」

 「そういう、高度な技術が太古からあったというのかね」

 「いえ、陰陽五行は自然にあるものを統計的に考える学問でして」

 「発祥、当時、特別な力はなかったと思われます」

 「飛鳥時代から平安時代にかけて700年頃、役小角が時空の法則性に気付き」

 「950年頃の安倍晴明の時代、陰陽の習得と拡散が始まったと思われます」

 「にわかには信じられにくいが・・・」

 「そうですね」

 「いわゆる幸運な人は、そういった法則性を知らず知らず利用し、成功してるといえるでしょう」

 「つまり、ここにいる。あなた方も当てはまるということです」

 「では、例えば、同じテーマで話し合うとして」

 「この時間、この場で、この人数が集まって会議をすれば有益な会議となり」

 「別の時間、別の場所で、別の人数が集まって会議をすれば無益な会議となるのかね」

 「ええ、あと、皆さんが、どの方向から集まったとかも」

 「これまでの統計だと、数倍は、効果が変わるようです」

 「つまり、陰陽師は時空の法則性を利用した専門技術者の集団ということかね」

 「はい」

 「彼らは運よく陰陽の法則を利用しているのでなく」

 「計算して利用していると思われます」

 「そんな力があるのなら、わたしなら、もっと、権力を欲するがね」

 「残念ながら権力を目指すと同時に、彼らの学ぶべき方向性は一致しないようです」

 「一致しない?」

 「彼らは、俗世利益を追求する人間でなく、真理の探求者なのです」

 「その上、彼らの生活と信条そのものが式神に力を与え」

 「負の感情は、彼ら自身と式神にとってプラスにならないことが多いようです」

 「「「「・・・・」」」」

 「それで、我々でも陰陽は運用可能なのかね」

 「法則性は、霊山で教わる基礎と、血縁で伝えられる秘伝があるようです」

 「霊山の基礎を扱うのさえ、英才教育による習得が必要なようです」

 「コンピューターや機械で補う方法は」

 「科学技術庁と陰陽文師が協力して作り上げた携帯はあります」

 「しかし、先祖伝来の式神と、個人の才気に負うところが大きいため一般向けでなく」

 「使いこなせる者は少ないですし、費用対効果は小さいかと」

 「山伏は」

 「彼らは、より内面と身体に向かいます」

 「そして、内面性の法則性を利用した法力を外部に向けて投射することが可能なようです」

 「こういう陰陽技術が闇社会に沈んで発達したというのも面白いがね」

 「蔵元衆のせいではあるがね」

 「比叡山焼き討ちで、陰陽師の半分を逃してしまったからでは?」

 「とにかく、戸隠の件が終わったら二度とこのようなことが起きないようにしなければ」

 「しかし、数百の陰魔が戸隠包囲を抜け出し、巷を彷徨っているではないか」

 「感染なら感染を原因を特定しなければなりませんし」

 「諸外国も介入する動きがありますし」

 「どうにかしなければ、日本医学会の威信も傷つきますが」

 「そうは言ってもな・・・」

 「感染症以外、適当なモノがないではないか」

 「こういうのはどうですかね」

 「これまでの核実験と原発事故で拡散した放射能物質で、人類は被爆している」

 「心疾患。肺癌、胃癌、甲状腺癌、皮膚癌の増大だけでなく」

 「一部の核物質は脳に及び、気力や生命力を失わせているというのは?」

 「国民が絶望してモラルを失い、治安が悪化しないかね」

 「しかし、陰魔と交戦状態などと公言すれば、倒閣ですよ」

 「だいたい、戸隠に原発はないだろうが」

 「んん・・・・いったい、戸隠で何があったのか・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 戸隠霊山を囲む護符結界の内側

 ほら貝がそこかしこで響いていた。

 山伏たちが金剛杖を振るって妖狐と陰魔を追い詰め、

 その周囲を数百の式神が取り囲み、妖狐と数十体の陰魔を襲撃していた。

 「いまだ、護符結界で覆え」

 家宝というべき先祖伝来の護符式神が数十枚も使われ、

 妖狐と陰魔の動きを封じる。

 その間に呪符の式神が準備され、さらに外側を囲む。

 そして、護符式神が破られた瞬間、

 「いまだ!」

 呪符式神が妖狐と陰魔を襲い気力を削っていく、

 霊山衆と陰魔の攻防は、当初から足並みが揃っておらず、

 各霊山衆の参戦も逐次投入だった、

 さらに統制をとれる状況じゃなかったことから、

 12霊山衆を12の区画に分けて戸隠を包囲し、

 脆弱な個所に他の霊山衆を組み込むといったちぐはぐさとバラバラさがあった。

 その代り、交替で休憩を取りながら果断なく攻撃が行われ、

 ローテーションの隙間を付いて、陰魔が包囲網から逃げ出していく、

 木陰で山伏が数人の陰陽師を護衛していた。

 「陰魔の出現が減ってきてるな」

 「問題は妖狐だ。あいつがいると陰魔を呼ぶ」

 「妖狐もタフなやつだ」

 「そろそろ、式神を補給しないと、後退した方がいい」

 「戸隠霊山衆は、式神のほとんどを使い切ることになるな」

 「自業自得だろう」

 「高野は関係ないのに、いい迷惑だ」

 「俺は、年間50枚くらいしか使っていなかったのに。この騒ぎだけで、10年分を使ってる」

 「先祖伝来の200年物の式神も10枚近く使ってしまったよ」

 「式神なしの陰陽師か・・・様にならんし、致命的だな」

 「山伏も式神を碌に作れないくせにそこそこ使えるから卸してるだろう」

 「式神があれば便利だが、なくても支障がないよ・・・」

 「突破されたぞ。一匹来る!」

 山伏が大金剛輪陀羅尼を唱えながら法力を開放すると陰魔は、たじろぎ、

 次の瞬間、陰陽師が放った5枚の呪符式神が陰魔を襲って、撃退していく、

 

 外周域

 朱条彰人、千羽鶴、仙堂菜月の3人は、輸送部隊と一緒に戸隠の周辺を巡っていた。

 護符式神による封鎖結界は厚みが増え、陰魔の逃亡を減少させる。

 この頃、自衛隊も事態を把握するようになり、

 というより、否が応でも陰魔の存在を認めざるを得なくなり、

 霊山衆の護衛に不平を言わなくなっていた。

 千と朱条は山間の高台に上がると、戸隠の方を見つめた。

 「それで、どういう風に見えるの?」

 「戸隠霊山の陰界と陽界の迷路がすごく・・・短い」

 「あ・・・出てくるよ」

 朱条がその空間を指差すと、

 千はわからない、

 !?

 「あ・・・」

 朱条が示した空間から陰魔が現れ、戸隠上空を旋回する。

 「出入りする順路が簡単だから陰魔や人が陽界と陰魔を出入りしやすい」

 「なにが起きたのかわかる?」

 「わからない。でも・・・不自然だと思う」

 「何とかならないのかしら」

 「見えるからって何ができるわけじゃないよ」

 「そう・・・」

 新しいトラックが現れ、朱条と千が覗き込む。

 「今度は、石柱の護符か」

 「鉄柱より、石柱の方が古いのよ」

 「呪符の攻撃から、城の五行を守るため、周囲の龍穴を補強したりするわ」

 「それを持ってきたんだ」

 「生産が間に合わないみたいね」

 「顔みたいなのが彫ってる」

 「鬼瓦やシーサーと同じよ。いまじゃ休めくらい効果だから、あまり彫らないけど」

 「ふ〜ん」

 「式神は、基本的に陰陽師が自分で作るものなの」

 「だから霊山衆の陰陽文師は、研究と開発が主で製造部と別れてない」

 「そんなに需要ないしね」

 「でも今回は式神の消耗も激しいし、式神を大量生産しないと間に合わない」

 「このままだと年内に式神なしの陰陽武師になってしまうわね・・・」

 「こ、困るよね」

 「もっと式神を作っておけばよかった」

 トラックを降りた仙堂が戸隠の式神を二人に配った。

 「はい」

 「あ、ありがとう」

 「ありがとう・・・・って、4年物・・・」

 「自分で作ったものならともかく」

 「せめて、8年物くらいじゃないと即効じゃ使えないよ」

 「もう、そんなのばっかりよ」

 「それより、作業は、進んでる?」

 「定刻通り始められると思う」

 「いろいろ時間と手順が決まって大変だな」

 「四柱推命は人だけでなく、式神や物にも応用できるの」

 「時間が手前で、手順が多いほど強くなる」

 「そして、そういう手順を多く見える陰陽師ほど強い」

 「あの石柱もそうだけど、陰陽師の指示で作られた物もあるわ」

 「あと、陰陽の手順と時間がたまたま合致してる工業製品も、そうなるわね」

 「へぇ・・・」

 「そうそう、戸隠包囲網が一息ついたら、陰魔討伐機動部隊を編成するみたいよ」

 「ふ〜ん」

 「で、私たちもそっちに振り分けられるかもって」

 「機動部隊か、かっこいい」

 「名前だけね」

 「待遇は今と大して変わらないし」

 「なんか、生き甲斐って気もする」

 「でもねぇ 対陰魔より、対物、対人が金になるから世の中、腐ってると思わない」

 「あはははは・・・」

 「それに今回は元寇の時と似たようなものだから、報酬で荒れるはずよ」

 「霊山衆が強くなるの?」

 「そうね。私たちの場合、戦力になるまで鍛錬が厳しいし、年月が必要で」

 「大量の式神を自由に使いこなすなんて、数世代必要だし」

 「式神は、護符、呪符、対霊、対陰魔に強いけど」

 「数百人規模だから正面切ってこられたら物理的に強くないから負ける」

 「応仁の乱の前は、陰陽師もそれなりに力があったらしいけど、武士に抑え込まれたし」

 「信長の比叡山の焼き討ちじゃ 霊山衆が半減したともいわれてる」

 「権力層は霊山衆を利用することもあるけど、目に見えない脅威を排斥したがることもあるし」

 「今回のことで霊山衆を弱めた方がいいと思う勢力が増えるかもしれないし」

 「日本の霊山立国はないわね」

 「もう少し国を信用してもいいんじゃ・・・」

 「はぁ あの連中はね」

 「風水で自分のところを大きくするだけじゃなく」

 「敵対勢力の風水を断たせることもする連中よ」

 「時には、対人呪符も使うし、碌な連中じゃないよ」

 「でも、こうやって封鎖結界作ってるし」

 「戸隠包囲の国益が6で、要人警護の保身が4ね。素晴らしい愛国心だわ」 

 「菜月。総力で要人警護じゃないだけ、ましなんじゃない」

 「そういう見方もできないことないわね」

 「羽鶴、そろそろ、朱条君に式神を使わせてみたら」

 「連携の一つくらい覚えないと、戦力にならないわ」

 「そうねぇ まず何ができるかってことを知るべきでしょうね」

 「式神を見せて?」

 朱条が爺さんからもらった式神を見せる」

 「これが一番、古くて強そうな式神ね」

 「式神と縁組は済ませた?」

 「うん」

 「まず・・・」

 

 千羽鶴と仙堂菜月の目の前に朱条彰人が二人立っていた。

 「う、上手いものじゃない。さすが千家秘伝の式神」

 「あの爺・・・普通、わたしへの遺産でしょ」

 「ここ10年くらい新参陰陽ないし、見どころあると思われたんじゃない」

 「でも、一度で成功させるなんて」

 「鬼子だけあって、独特の感性があるわね」

 「お、鬼子って、なに?」

 「突然変異よ」

 「陰陽五行の法則を見つけた役小角がそうだったといわれてる」

 「心霊癌の一種で良性と悪性に分かれるけど朱条君は良性ね」

 「霊山衆は、鬼子を好意的に見る派閥と、異端としてみる派閥がある」

 「「えぇぇえええ〜」」 朱条×2

 「へぇ〜 分身と同気もさせられるんだ」

 「なんか、代わりに働いてもらえそうかも」

 「・・・・」 くら〜

 「・・・・」 茫然

 

 

 西八乗高校

 自分が変わったのか、教室が変わったのか。

 久しぶりに戻った学校は、よそよそしく思えた。

 授業

 “幕末、外国勢力の日本到達に対し、徳川幕府は対応できなくなりました”

 “日本は、権力構造で天皇を中心とした薩摩・長州・土佐の尊皇派と”

 “徳川幕府を中心とした会津の佐幕派に分かれました”

 “それとは別に政策思想で攘夷派と開国派が混在して争いました”

 “京都では、尊王派の維新志士と佐幕派の新選組が戦いましたが”

 “幕末の中心にあった彼らは、幕府や藩の正統派でなく”

 “国難に際し、義憤に燃えて脱藩した人々や農民上がりの人々でした”

 “そのため、彼らの多くは私財を注ぎ込み”

 “経済的な後援を受けるため苦労したそうです・・・”

 『朱条君。睡眠学習とかもやったの?』 ひそひそ

 『ん・・・そういえば、やったかな』 ひそひそ

 『本当に頭良くなったのかよ』

 『よくなったような。よくなってないような』

 『それ、効果ないだろう』

 『あははは・・・』

 それはそうだ。

 文部省所管、何とか財団の無作為抽選でモニターに当たり

 新高校教育カリキュラム講座を受けてきたことになっていた。

 学校を休めるよう、とってつけたような公式講座で実体はなく、

 その代り、学校は欠席でなく、出席扱いになっていた。

 もし、陰魔に襲われて死んでたらどういう言い訳をするつもりだったのやら、

 そっちのシナリオの方が気になるが、

 公的機関を利用しているのだからそこまで準備してのことだろう。

 とはいえ、なんとなく、戸隠包囲網がどうなってるかも気になるし、

 同級生の戸隠包囲網から抜け出た陰魔が悪さしてるような話題を聞くと

 どうしたものかという気持ちにもなる。

 もっとも、千や仙堂に言わせればヒーローモノの見過ぎらしい、

 世の中、利害関係と損得感情で成り立ち、

 大義名分は口実で、正義などむなしいだけだそうだ。

 早い話し、金にならんことに命を賭けるな、見て見ぬ振りしとけと・・・

 しかし、金にならんからと、義を見て見て見ぬ振りをするというのも・・・・

 昼食

 「ほぉ 朱条はうどんか・・・」

 「今日は、うどんの気分なんだ」

 「秋月はカレーね」

 「今日は、カレーの気分でね」

 「ところで、朱条・・・」

 「ん?」

 「おまえ、式神だろう」

 「・・・・」

 「式神にうどんを食べさせる芸当は初めてを見たな」

 「な、な、なに言ってるのかな。秋月君は・・・・」

 「俺は、戸隠霊山衆の山伏だから騙せんぜ」

 「・・・・・」 ごくん! 

 「ふっ 朱条が陰魔と戦っているとき、颯爽と現れて助けてやろうかと思ったが」

 「あまりの異常さに晒しちまったぜ」 

 「・・・・」

 「本物は、どこで、なにしてんだ?」

 「式神作り・・・」

 「なるほど、分身の式神に授業を受けさせて、自分は内職か。器用なやつだ」

 「あ、秋月君は本当に戸隠の山伏なの?」

 「ああ、俺は、未成年だからって、こっちに送られてきたけどな」

 「しかし、陰陽師に朱条家なんてあったか? 聞いたことないぞ」

 「いや、最近、なったばかりで・・・」

 「はぁ? 新参の陰陽師かよ」

 「あははは・・・」

 「朱条。陰陽師はな」

 「才気以上に引き継いだ式神の総量がモノ言う」

 「陰陽師の新参なんていいことないぜ」

 「才気あるなら陰陽師やめて、山伏になっちゃえよ」

 「い、いやぁ しかし・・・」

 「この辺は、東八乗神社が陰陽の隠れ蓑だっけ」

 「確か・・・千家・・・千家に引き抜かれたのか・・・」

 「よく知ってるな」

 「霊山衆は狭い世界だからな」

 「有名どころはだいたい知ってるよ」

 「千家は有名なんだ」

 「あそこは、辿ろうと思えば暦道の賀茂まで辿れるんじゃないかな」

 「それが凄いことなのかどうなのか、よくわかないよ」

 「天文道の安倍氏と暦道の賀茂氏の系譜は、陰陽諸派の半分を超えてる」

 「残りは鎌倉時代以降の新参上がりだけど混血が進んで霊山衆単位で別れたからな」

 「今は実質、霊山衆派単位で考えるな」

 「ふ〜ん、ところで秋月君。戸隠で何があったの?」

 「それが・・・って、式神にいうことでもないか・・・本人ならともかく」

 

 

 東八乗神社

 秋月と式神の朱条が階段を上ると、

 朱条、千、仙堂が迎えた。

 「雷風(らいか)」

 朱条の言葉で、秋月の隣にいた朱条が式神に戻り、

 朱条の手に向かって飛ぶ、

 例え100年物の式神でも、血縁でない新参ができることではなかった。

 「「「・・・・」」」

 「へぇ〜 秋月家の子倅が、ようやく、あいさつに来たわけね」

 「引っ越しでごたごたしてたからね。千爺さんはいるかい?」

 秋月は、アイスクリームの入った袋を千に渡す。

 「ええ、奥で待ってるわ」

 千に案内された秋月は、境内に入っていく、

 『仙堂さん。喧嘩腰だけど、山伏と仲が悪いの?』 ひそひそ

 『山伏って才気でなれるのよ』 ひそひそ

 『陰陽師は式神の相続で系譜の力が強いし』

 『霊山の基礎教育で山伏は内向きなのに、陰陽師は外向き』

 『かといって、別れてやるほどの予算はない、だから争いの火種は常にあるの』

 『ふ〜ん』

 『まぁ 霊山が違うとクライアント次第で戦うことがあるし、共闘するときもあるし。複雑な関係ね』

 「ど、同級生で戦いたくないよ」

 「じゃ 今のうちにせいぜい馴れ合ってたら」

 「大人になっていくうちに自然と張り合うようになるから」

 

 

 妖刀と呼ばれる日本刀がある。

 玉鋼の採掘場と刀鍛冶場の位置関係が風水に適っていると妖刀になりやすい、

 村正がまさにその位置関係にあった。

 さらに作り手と製造過程が陰陽でいう陰陽五行と四柱推命に適い、

 寸法と質量が式神の作り方に近づくと妖刀式神としての力を持ち始める。

 陰陽文師がタタラ鉄の式神化に成功したのは、20年前と新しく、

 式神の製鉄化は、遠距離攻撃を主とする陰陽師と相容れないことから開発が遅れ、

 さらに複雑な手順が必要とされた。

 朱条が千爺に貰ったのは13cm/全長26cm:刃厚約6mmの瑞鬼(みずき)で、

 柄はマユミ木が使われていた。

 鎮守の森

 秋月と朱条

 「朱条君。遠距離の攻防が得意な陰陽師と、接近戦で使うナイフは相容れない」

 「だから陰陽師は弓を使う」

 「千と仙堂は陰陽武師だから弓道部のはずだ」

 「普通、タタラ鉄の式神は、山伏に流れてくる」

 「そうなんだ」

 「試してみるか」

 「えっ」

 「刺してきなよ」

 「うっ・・・」

 「心配ないって、本気でいいよ」

 「ほ、本気でって・・・」

 「いいから、そうしないと、陰陽師がなぜタタラ鉄の式神を持て余すのかわからないと思うよ」

 朱条が秋月の腹を目掛けて刺そうとすると、あっさりと腕を捻り上げられ、

 ナイフが叩き落される。

 「まず、第一、突くとき、目を瞑ったら駄目だな」

 「もう一つ、もし相手がナイフを見ても落ち着いているようだったら」

 「大人しく下がった方がいい」

 「ていうか、人相手に使いたくないよ」

 「まぁ 至近距離で陰魔とぶつかったら、振り回しながら逃げることを進めるね」

 「しかし・・・千家の爺さんが持て余したタタラ鉄の式神を渡した理由もわかる気がするな・・・」

 秋月が腹と腕筋を見せると赤く腫れていた。

 「な、なにそれ」

 「式神っていうのはな」

 「術者の余った才気を貯める器でもある」

 「式神は、式神の年数で質が変わり、重さで容量が変わり、術者の才気で性格が変わる」

 「だから先祖伝来の式神ほど強くなる」

 「そのナイフは、それだけ強い法力を秘めて、朱条がそれを引き出したってことさ」

 「法力?」

 『朱条。やっぱり、山伏になった方がいいと思うぞ』 ひそひそ

 「こら、秋月。誘惑すんな」

 千が後ろで睨んでいた。

 「あははは・・・」

 

 

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 月夜裏 野々香です

 

 

 

 

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第04話 『雷風と瑞鬼』
第05話 『学徒動員と珊瑚町の式神戦』