陰陽紀 『木漏れ人たち』
第03話 『式神の作り方は・・・・』
緑の原野と土の匂い、
ハンモックで寝そべっている脇を自動車が抜けていく、
陽界は、町の中心なのに、陰界は原野が広がる。
陰界と陽界の狭間は、木漏れ日に似た異空間を見せていた。
陽界は少しだけ明るく暖かく。陰界は少しだけ薄暗く涼しい、
陰界の生態系は陽界と似てる。
陽界の土も陰界の土もそう変わらない。
今日は、インゲン、枝豆、サツマイモ、トマトを植えてみた。
最大の問題は水で、陽界への順路はコロコロ変わる、
こればっかりは、近くの川から引かないとどうしようもない、
近くといっても奥地に入らないといけないので、
護符の式神がいくらあっても足りないし、行きたくもない、
死んだ男が探検隊を組織して陰界の奥地に行ったのもその辺の事情だろう。
千に聞けば陽界と陰界の違いは少なく、生と死の概念がある、
生きて体を持ってる陰魔と、死んで体を持っていない陰魔にわかれ、
死んだ陰魔が陽界に出現しやすい、
生きてる陰魔が陽界に出現することは珍しいが、出現すると大変な騒ぎとなる。
この陰界と陽界を出入りできるのは、特別な資質の持ち主らしく、
特別に訓練された霊山衆でも稀らしい、
陰陽師の端くれになっても金は要る。
トレーラーハウスに金目のモノが残されていた。
どうやって稼いだのかわからないが、考えたくない額だ。
ありがたく使わせて貰うが、いつかは尽きる、
この才気を使えば怪盗になれそうだが
“なれそう” と “なる” の間は、数十キロ離れている気がした。
彼のキャッシュカードは出金時、録画されてそうで使わない方が身のためだろう。
とりあえず、町の中心部に落ち着ける場所があるのは好都合で、土の香りも嬉しい、
「あれ、朱条君。畑作ったんだ」
千が何やら差し入れを持ってきた。
若い娘なんだから、町の真ん中で遊ぶとこあるだろう。と思うのだが、
彼女はそこら辺の女子高生とは、全く異質な価値観を持っている。
まぁ こちらもカルチャーショックで気持ちと価値観が変わってしまった。
昔の初心な自分はどこに行ったんだろう。
千は、ジュースとお菓子をキャンプテーブルの上に置くと、
「朱条。ポテチとポッキー。どっちがいい?」
「じゃ ポテチで」
千は、紙コップにコーラを注ぐ、
「ったくぅ 仙堂菜月の式神を撒くのが大変だったわ」
「なんか疑われてるの?」
「陰陽師ってね。組んで仕事もするけど」
「個人経営者でもあるから仕事上のライバルでもあるわけ」
「だから、相手の力量を意識しておく必要があるでしょ」
「この陰界の順路は、普通の式神じゃ入ってこれないけど」
「彼女は、弟子をとった私の力量が気になるのね」
「なんか、凄い攻防だね」
「決定的にぶつかることはないと思うけど」
「す、凄い言いよう」
「朱条君も監視対象になってるはずだから、そのうち、近づいてくるかも」
「えっ 本当に?」
「まぁ 今のところ興味半分くらいかな」
「気まぐれに式神を出して、監視するくらいのことはするわね」
「なんか、ここも、ばれちゃいそうだな」
「こういうのはね。教えてもらうようなものじゃないから」
「力があるなら自分で気付く。力がないなら危ないから気付かない方が身のため」
「シビア」
「菜月は、プライド高いから対価なしで教えてもらうなんて嫌いなのよ」
「そういえば、何日か前、交差点を通って行ったけど」
「たぶん、地脈の確認」
「地脈を利用しないと式神を余計に使うことになるから」
「千に教えてもらった、陰陽術、難しすぎるよ」
「あれが初歩よ。」
「陰陽文師は最新科学物理を陰陽術に応用させてるんだから」
「その携帯も」
「そうよ。最新の陰陽術が全部入ってるし、物凄く高い」
「どのくらい役に立つの」
「普通の携帯として使うのが一番だけど」
「出来立てでも強力な万能式神で、普通は式占計算で使うわね」
「ふ〜ん・・・俺・・どうしようかな・・・」
「なにが」
「才能生かすなら陰陽師も悪くないけどヤクザな仕事は、尻込みするよ」
「いまどき、普通の仕事したって、自分の才能を生かさないと実入りのいい賃金なんてないよ」
「会社も売り上げ数が最大の信用と宣伝だから、いつも借金で水増して張り合う」
「薄利多売で余裕なんてないだろうし、ぎりぎりなんじゃないかな」
「胃が痛くなりそうな話し」
「でも 霊山衆も血縁が進んで村社会で排他的でね」
「陰陽師の仕事もどこかの霊山衆に属さないといい仕事は回ってこない」
「新しい血も必要だけど、一匹狼で勝手にやっていると、敵を作ることもある」
「朱条君は、私の弟子という形で霊山衆に入っていくのが無難なのよね」
「うっ 千に都合がよすぎるような」
「ふっ 俗にいう、しがらみってやつよ」
「中にいるとヌルイけど、弱者にシワ寄せがきて泣かされるし」
「朱条君が私に会う前の陰陽師のイメージ通り、内向きな閉塞感もある」
「た、大変なんだ」
「だけど、それが一般的な日本社会ってやつじゃない」
「どこも変わらないなら、才気を生かせるほうがいいでしょう」
「はぁ・・・アメリカとかにも陰陽ってあるのかな」
「あそこは、キリスト教社会だから護符のようなものがあるけど」
「呪符は、悪魔崇拝で別れてる」
「日本と構造が違ってて、かなり興味深いし」
「呪符が日本人より通用しにくいときもあるの」
「へ、なんで?」
「呪符って言っても地脈だけじゃなく、人の恨み辛みも利用するもの」
「だいたい、アメリカ人って恨むより怒るから解消されてることがあるの」
「全く利かないわけじゃないけど、利きにくいし、高くつくわね」
「だから逆に言うなら恨むなら怒れってことね」
「そ、それ日本じゃ難しそうだな」
「ふっ」
「でも千、詳しいね」
「そりゃ 外国勢力も入ってきてるし」
「私はないけど。エクソシストとぶつかったときもあったみたいね」
「ど、どうなったの」
「この種の人は、得手不得手が多くてピンからキリまであるし、その時々でいろいろ」
「危険を冒してもって地位名声を欲しがる覇気のある陰陽武師は少数派で」
「同位格の相手が向こうについてたら費用がかさむし、手打ちにすることもあるかな」
「なんか、日本的」
「ここは陰界だけど、一応、日本だもの」
「それより、朱条君。陰魔狩り手伝って」
「えっ 手打ちするんじゃないの?」
「陰魔と手打ちしたことなんてないわよ」
「でも、陰魔と戦うことなんて滅多にないって」
「それがねぇ 戸隠霊山衆が陰界に何かして、陰魔を怒らせたみたいなの」
「それで、日本中に陰魔が出て大変」
「じゃ 長野で原因不明の院内感染がっているって・・・」
「嘘に決まってるじゃない、一番近い状況が原因不明の感染症なの」
「危なくない?」
「危ないけど、国の補正予算が降りて、蔵元衆も霊山衆を囲いだしたから実入りはいいわね」
「覚えめでたく、手柄を立てたら、どこかの会社の窓際係長くらいなれるかも」
「それって、人脈やらコネやら、いろんな意味で鬱になりそうだよ」
「一生懸命やればいいこともあるよ」
「なんか、戦国時代の足軽の気分」
「だから言ったでしょ 中に入るとヌルくて、弱者にしわ寄せが行くって」
「それに誰だって、ただ働きなんてしたくないわよ」
「命懸けなら尚更だし、それが霊山衆でもね」
「そして、戦功を取り過ぎると、庶民は皺寄せで悲惨なことになる」
「戸隠霊山衆は何したんだろう」
「さぁ 跡目と派閥でゴタゴタしてたみたいだけど」
「う、内輪なの」
「今までの経験でいうと、モラルのない個人と組織が潰れるかは半々」
「でも潰れる前の個人と組織は、モラルがなくなる」
「だから霊山衆も潰れる前は、やけくそになって禁忌じみたことだってするでしょ」
「えぇえええぇ」
東八乗神社
小高い孤立した山の中腹に神社があった。
階段は100くらいあるという。
階段を上りきると、
神主らしい、八十歳くらいの爺さんが杖を付いて立っていた。
どうやら来ることに気付いていたらしい。
「お前さんが孫娘の弟子か・・・」
強い眼光にすくみ上る。
『そ、そういや、闇ヤクザって・・・』
「は、はい、よろしくお願いします」
「まったく、ガキのくせに弟子などと・・・とも言ってはおれん状況じゃて・・・」
「や、役に立てるでしょうか」
「そうやのぉ 陰界の匂いがする上に、才気はありそうじゃの」
「「・・・・」」
「朱条と言ったな。あとで、部屋に来るといい」
「は、はい」
複雑な手順を経て、式神が作られていく、
式神の材料は、持ち主と絆が強いモノほどよく、
古く作られた式神ほど強く、新しい式神は弱くて使い物にならない、
だいたい、3年物から徐々に使えるようになり、
名人なら10年を過ぎるころから具現化する、
ワインと似てるというか、
作るというより育てる概念に近く、作った後も手間がかかる。
一般通念の “式神は使役する物” とかけ離れ、
自分の分身や子供といった意識が必要だった。
朱条彰人は、指導する千羽鶴と、面白がる仙堂菜月に挟まれ、式神を作っていく、
幸運なことに朱条は、出産祝いでポプラの木が庭に植えられ残っていた。
和紙の素材としては弱いが、それでも洋紙の材料であることに変わりなく、
楮(こうぞ)、みつまた、雁皮(がんぴ)を加えれば何とかなりそうだった。
陰陽師の家系ともなれば、出産から和紙の材料になる木が10本近く植えられ、
最初は親が作り、物心つくと自分で作っていく、
先祖伝来血縁の式神も含めるなら、陰陽師の家系は式神の強さと保有量が圧倒的で、
どんなに才気があっても初代の陰陽師は太刀打ちできない構図が作られていた。
鎮守の森
「なんでトランプを選んだの」
「アニメの怪盗が使ってたから」
「・・・・」 ため息
「でも先に呪符の作り方を教わるとは思わなかったな」
「呪符に対抗するために護符ができたんだもの」
「呪符を知らずに護符を作れないでしょ」
「毒蛇がいるから解毒剤ができたのと同じよ」
「私も呪符を別に分けて作ってるけど、普通は対象を決めてないから呪符は不完全なの」
「一番強い呪符は対象を決めて、3代以上掛けて育てた呪符ね」
「それを使うと一族根絶やしということもある」
「でも普通は対象を決めないで、地脈や気を断つ使い方よ」
「上級陰陽師同士だと、互いに10kmくらい離れた場所からでも式神を送り合えるの」
「式神の強さと数がモノを言うけど、凄い空中戦になるわね」
「呪符の式神が護符の式神の迎撃を掻い潜って」
「相手の陰陽師の五行を破壊して運気や気力を削り取っていく」
「だから両方とも倒れることもあるし、勝ってもただじゃすまない」
「す、凄い」
「そうそう、山伏が相手の時は気を付けて」
「山伏は強いの?」
「元々 山伏が母体で陰陽師が別れたの」
「山伏は、攻撃力も防御力も高いから、近接戦闘じゃまず勝ち目がないわね」
「山伏が強いのに陰陽師に別れたの?」
「勘違いしないで」
「山伏も陰陽師も、元々 強さを求めてるわけじゃないの」
「山伏は心身の解放とか解脱を探求し」
「陰陽師は、人間と宇宙の法則性で高みを探求したわけ」
「法力を身に着けたとか、式神を使えるとか、過程の話しなのよ」
「その割に世俗で大変だな」
「だって食べていくのに世俗の蔵元衆と結ぶ必要があったし」
「国が乱れたらどうにかしたいと思う気持ちもあるでしょ」
「国が乱れた原因て陰陽とかって・・・」
「蔵元衆が雇わない限り、霊山衆は動かないし」
「それが良かれと思ってしたことも多いの」
「それに霊山衆がなくても。霊山衆じゃなくても、代わりはいるもの」
「だから陰陽師は原因というより道具かな」
「ふ〜ん・・・」
「だけど、爺。どこまで知ってるんだろう」
「えっ」
「陰界のことなんて、誰にも言ってないのに」
「自分で気付いたんだ」
「隠居してるけど、持ってる式神ならこの地域じゃ最多最強よ」
「この辺のヤクザは、神社に手を出すなって厳命してるし」
「・・・・」
「でも陰界に気付くなんて・・・まだ老いぼれてないってことかな」
「目がすごく怖かったけど」
「ふ〜ん、身内だと慣れちゃのね」
爺の部屋
「ほら、これをやろう」
人型の式神らしい式神が50枚ほどあった。
「は、はい、ありがとうございます」
「他人の作った式神は力が半減するが、お前さん、使えんわけでなかろう」
「はい」
「昔作った式神での」
「陰陽文師が式神の素材と形に拘らなくてもいいとわかったのは、50年くらい前じゃった」
「生糸、綿でも式神が作られるようになって」
「20年くらい前になると、タタラ鉄の式神まで開発されてな」
「これもやろう」
目の前にナイフが出された。
「い、いいんですか」
「まぁ わしも長くはないし、式神をたくさん持っててもしょうがないからの」
「ビワの礼と。お前さんを陰陽師に引っ張り込んだ孫娘の詫びじゃて」
「そんな。助かってます」
「しかし、懐かしいの。陰界のビワを食べたのは30年ぶりだったかの」
「違いがあるんですか」
「んん・・・口では表現できん」
「陽界と陰界の間には、迷路のような道があっての」
「少しでも順路がずれるとやり直したり、行き来できなくなる」
「普通の人間は道がわからず行き来できん」
「しかし、何年かに一度、突然変異で、鬼子というのが現れての」
「その者は、陰界と陽界を行き来できる順路がわかるらしい」
「一度、その男に連れられて陰界に行っての、命からがら逃げてきたわ」
「自分もビワを取ってたら陰魔に襲われました」
「運が良かったの」
「わしを案内してくれた男は陽界に戻って、すぐ亡くなったよ」
「それ以来、陰界に行くことはできなんだ」
西八乗高校
「転校生を紹介します。秋月陣くんです」
「空いてる席は・・・朱条くんの隣ね」
転校生は、体格のがっちりした少年だった。
教室内の力関係は、確実に変わると思われ、
腕力自慢数人の同級生が動揺する。
「よろしく、秋月君」
「よろしく、朱条君。俺、長野から逃げてきたよ」
「へぇ 長野は、どうなってるの?」
「みんな逃げ出してるよ」
「代わりに妙なのが入ってきてるけど、今は、よくわからないな」
「そうなのか・・・」
「おまえ、感染症とか怖くないんか」
「え、ああ、こわいこわい」
「・・・・はぁ ビビらせてこの教室仕切ってやろうと思ったけど、駄目だな」
「それなら強そうなんだし、逆らうやつ、ぶっ飛ばしちゃえば」
「ふっ そんな疲れることするかよ」
「どの辺に引っ越したの?」
「比良6丁目だ」
「俺んちは、佳南1丁目だから、近くなく遠くなくだな・・・」
「秋月君は、体格いいけど、スポーツやってるの」
「山登りくらいか。つか、家が山の中だったけどな」
「あははは・・・」
まったく違うタイプなのに近しいものを感じ、
気の合う友人と出会った気がした。
戦場区域が割り当てられ、
部隊ごとに報償金が振り分けられ、
戦果に応じて戦功報償も振り分けられる。
霊山衆の報償体系は、傭兵部隊のそれと変わらない、
危険が増せば、それに応じて、報酬も多くなる、
しかし、生命財産の危機に晒された時こそ人間性が現れた。
戦場で戦うより、蔵元衆やクライアント衆の護衛が安全で実入りがよく、
権力者と富裕層の護衛に相当数の霊山衆が割り当てられた。
一般大衆は、権力層から見捨てられた。と言えないまでも、
有力な人材が利己的な人々によって前線から引き抜かれる。
熊野霊山衆の割り振りは 前線6 対 護衛4 で人材が振り分けられ
千羽鶴、仙堂菜月、朱条彰人は、未成年なことから前線への輸送を担当した。
自衛隊のトラックに物資が積まれていく、
それとは別に政府から委託を受けた創立5日目の風水衆社のトラックも集まっていた。
「要人警護だったら楽だったのにね」
「霊山の主流派は、要人警護に回ってるみたいね」
「学徒動員なんて、世も末だわ」
「でも自衛隊か、かっこいい」
「「・・・・」」
「まぁ いいわ。熊野霊山衆はそれほど弱くないけど割り振りも厳しいし」
「甲斐性のない陰陽武師の弟子になってしまったとあきらめて」
「いや、そこまでは思ってないよ」
「人のいいことで・・・」
「これ、俺、使えるかな」
朱条は、ナイフと式神を見せた。
「そ、それ、爺の・・・」
「ちょっと、その黒いの呪符じゃない」
「えっ」
「陰魔やれるけど、マジ人も殺せるよ」
「うそ・・・」
「でも護符結界の中じゃ使えないからね」
「結界が壊れたとき、捨て身で使うか」
「結界の外に出て使うかよ」
「そうなんだ・・・」
自衛隊の人たちが近づいてくる
「おい、君たち、この辺は危ないから帰りなさい」
「隊長さんですね。任書です」
「・・・じゃ 責任者は?」
「じ、自分はただの運転手で・・・」
「任書を持ってる私に決まってるでしょう。仙堂菜月。私よ」
「じゃ きみら3人が政府の派遣要員?」
「はい」
「き、君たち・・・高校生だよね」
「任書の確認を」
「じ、次官相当の扱いって・・・」
「ま、まさか・・・」
「もう、政府は腐ってるどころか、狂ってるぞ」
「だから嘘付や欲深いやつに金や権力を渡すと碌なことがないんだよ」
「どこの馬鹿が票を入れた」
「きっと、クズとゴミの二者選択だったのでは?」
「そういう時は立候補しろよ」
「「「「あははは・・・」」」」
「不投票者が増えるわけだ」
「不投票者が増えるほど利権団体が強くなるんですけどね」
「「「「・・・・」」」」 ため息
「官邸に向けて120mm迫撃砲を撃ち込んだら スカーっ! としますけどね」
「それで世の中が良くなるなら、遠の昔しに先任か俺がやってるわ」
「「「「・・・・」」」」
「まぁいいか、とにかく、君らについていくことにするよ」
「隊長さん。前もって言っておきます」
「ナビゲーションで順路と時間が指定されてると思いますが全て厳守です」
「蛇行したり戻ったり停止したり降りたり、不可解な移動をします」
「何も言わず、黙ってついてきてください」
「それと緊急の場合、順路を変更するかもしれません」
「その場合、こちらの指示に従ってもらいます」
「・・・これまで、たくさんのくだらない命令で、馬鹿には慣れたと思ってたが」
「よりによって、この非常時に最低な命令だな」
自衛隊の人たちは、あきれたように去っていく、
「しょうがないでしょう。外堀の結界を作りながら陰魔を避けて行かないと・・・」
「霊山衆を知ってる蔵元衆ならともかく、何も知らない自衛隊に言ってもわからないわよ」
「なんか、上に抗議してるみたいだ。士気、落ちそうだな」
「先導車が高校生3人じゃきっと泣きたくなるわね」
「せめて、大人を責任者にすればよかったのに」
「前線に張り付いて動けないみたいね」
「護衛を引き抜くから」
「わたしたちも大邸宅で、テレビを見ながらクダを撒いてたかったわ」
山道でトラックが停まると
自衛隊によって大きな鉄棒が地中に埋められていく、
自衛隊員は、馬鹿げていると思いつつも任務だけはこなしていた。
「凄い、自衛隊食だ」
朱条は単純に喜ぶ、
「・・・これはまた・・・庶民ならともかく。国防の要の兵隊さんがこれじゃ・・・」
「栄養士と、隊員の好き嫌いで作ったわけね」
「なに駄目なの」
「まぁ いろいろ、言いたいことあるけど、陰陽術の説明は面倒だからやめておく・・・」
「よぉ 君たち、食べるか」
途中止まった時、買ったらしい焼き鳥が回ってくる。
「ありがとう」
「ところで、君たち」
「この鉄棒は、感染症を止める防壁じゃない」
「もちろん、感染者を外に出さないためのバリケードでもない」
「ついでに言えば、我々の服装も君たちの服装も感染症を防ぐ防護服じゃない」
「これは、何のまじないかな」
「そうですね Need not to know じゃ駄目?」
「駄目だろう。納得できなければ士気が保てない」
「知ると、もっと士気を保てなくなるかも」
「「「「・・・・・」」」」
隊長が去っていく、
「陰陽の護符結界って、言えばよかったんじゃない?」
「まさか、疑心暗鬼だった士気が一気に崩壊するわ」
「そうなのかな」
「蔵元衆と霊山衆が何度も経験してることだから」
「蔵元衆もあれで投機が多いでしょう」
「9割勝つとわかっても万全を尽くして最後の1割を私たちに頼る」
「だけど、ああいう人たちは、組織と共有するスペックと士気、戦術以外を排除するわね」
「例え、何人か信じたとしても、信じない人たちと対立して指揮を執れなくなる」
「・・・・」
「給料分の士気しか期待できそうにないわね」
「プラスアルファなんて、最初からあてにしてないよ」
「・・・来た。2匹」
朱条の示した方向から二匹の陰魔が迫り、十数体の式神が追撃していた。
「うそっ!」
「結界を張って」
「自衛隊の人たちは?」
「結界の大きさは変えられない」
千の折鶴状の式神が次々と宙を舞い、
仙堂のミサンガ型の式神が投げられ、
結界を形成していく、
!?
「折鶴に、触らないで!」
折鶴に触ろうとした隊員が驚いて手を引っ込めた。
陰魔と式神が争いながら護符結界の周りを巡回し、
結界の外にいる自衛隊員が次々と倒れ、
「おい、どうした」
自衛隊員が駆け寄ろうとする。
「結界の外に出るな!」
「し、しかし」
「死ぬぞ!」
目に見えない襲撃に自衛隊は小銃を身構えるが見えない敵に通じるはずもなく、
外堀の結界の折鶴がバラバラに散ると、内側の自衛隊員も倒れ、
自衛隊員が乱射した銃弾が朱条、千、仙堂の傍をかすめていく、
「ちょっと! 危なっ!」
「きゃっ!」
「ば、馬鹿、撃つな」
朱条は式神とナイフを出したが、護符結界が邪魔で、どちらも使えない。
朱条が結界の外に出ようか考えてるうちに陰魔は、遠ざかっていった。
「いったい何が起きたんだ」
「敵は、陰魔よ。隊長さん」
「陰魔?」
「妖怪とか、お化けの類」
「気を全部食われてなければ生きていられるけど、長生きはできないかもね」
「そんな・・・」
「感染した人たちを病院に下げてください」
「残りは作戦を続けます」
「しかし、この状態では」
「さっきのは陰魔2匹。護符結界を作らないと、もっと出ていくわ」
「や、やっつけられないのか」
「陰魔が10分くらい止まっていてくれたら」
「私たちは護符しか作ったことないし」
「大人でさえ、対物呪符どころか、対人呪符なんて滅多にやらないの」
「だから動いてる陰魔なんて苦手」
「君たちは、何者なんだ」
「陰陽武師」
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月夜裏 野々香です
戸隠霊山衆は陰魔に何をしたのでしょう。
霊山衆は、陰魔と戦争状態になったようです。
今回は、勧善懲悪型の作品で、よく見かける感じで終わらせてみました (笑
一度やってみたかっただけです。
第02話 『戸隠の乱』 |
第03話 『式神の作り方は・・・・』 |
第04話 『雷風(らいかぜ)と瑞鬼(みずき)』 |