月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第62話 『仮面ヤクザ少女』

   「や〜 ま〜 ざ〜 きー くー んー」 ぴとっ!

   「わぁあっ! 安井くん」

   「へっ へっ へぇえ〜」

   こうやって、好きな男子と絡んでいるとき、

   ヤクザの娘であることを忘れることができた。

   ヤクザの娘は秘密、

   馬鹿なことやっていれば、誰もヤクザの娘だと思わない、

   それなのに、それなのに、

   クラス一の才女、吉川ミスギは、私の素性を疑って、

   堂本高校の不良たちは、私のなわば・・・ごほん! シマ・・・ごほん!

   母校道善高校生徒からシャバ・・・ごほん! カツアゲしていた。

   わたしは、わたしの学校と同級生を守るために密かに戦う。

 

   某路地裏

   カツアゲした後、集まる場所は、決まっていて、直感でわかった。

   でも一応、汗しながら走り回るのが主役の務め

   『・・あ・・・遅かった』

   堂本高校の不良たちは、同級生をボコボコにして財布を奪うとゲーセンに向かっていく、

   少女は、カバンの中に仕込んだモノを取り出し・・・

   「まちな」

   「なんだぁ・・」

   「パーマンのお面を被っておもしれぇ ウケる〜」

   「その制服、道善の女子だな」

   「なんだお前は?」

   「決まってるじゃない、パーマンは正義の味方でしょ」

   「はぁ? 正義の味方だぁ」

   「ていうか、この前は、ゴジラの仮面だっただろうが!」

   「あ、あれも、マイ正義よ」

   「いい加減だな」

   「カツアゲした金、置いていってもらおうかしら」

   「なんだとぉ〜」

   「てめぇ〜 ボコボコにしたあと可愛がってやるぜ!」

   「シマ荒らしの落し前、つけさせてもらうわ!」

   「やっちまえ!」

   どた! ばき! がた! ぼき! ばき!

   不良たちは数を揃えても、少女と正面から向き合うと不利

   「・・・ぷっ」

   「隙あり!」

   ごほっ! ばたっ!

   仮面の有用性は、証明された。

   どた! ばき! がた! ぼき! ばき!

   不良たちが転がって呻くのは日課、

 

   仮面を外して、

   路地裏を出ると日差しが暖かく迎えてくれる、

   「や〜 ま〜 ざ〜 きー くー んー」 ぴとっ!

   「わぁあっ! 安井くん、なんでそんな路地から・・・」

   「へっ へっ へぇえ〜」

   「どこ行ってたんだよ」

   「うん、ちょっとね。それより、クレープ食べに行こう」

   「んん・・・まぁ いいか」

   「わぁい や〜 ま〜 ざ〜 きー くー んー」 ぴとっ!

   「あ! 人が見てるから」

   「見せつけちゃえ」

   「だ、だめだって・・・」

   仮面ヤクザ少女のシマを・・・ごほん!

   友達と、母校道善を守る日々が続く・・・・

 

 ばっしっ!

 台本を握りしめ、顔を真っ赤にする親友がいた。

 「なっ なっ なっ・・・」

 「ナ、ナナミちゃん」

 「あー だー ちー」 ギロッ!

 「や、やだ、文化祭の演劇だから、ナナミちゃん、本気にしないで」

 「ねっ! 紫織ちゃん、エミちゃん」

 「「・・・・」」 にやにや

 「ひどい!」

 「け、傑作よ。ねっ 紫織ちゃん、エミちゃん」

 「そうね。女子高生版ヤンクミっぽい設定と、展開がウケるわね」

 「うんうん、腐女子ぽい日常から、飛び抜けてからの急展開とか」

 「ていうか、ナナミちゃん。山崎って誰?」

 「いないわよ!」

 「シマ荒らしの落し前、つけさせてもらうわ! が決め台詞ね♪」

 「・・・だ、誰かに見せてないでしょうね」

 「もちろん、まだ、下書きだし」

 「で、でも文化祭の演劇で・・・」

 キッ! ジロッ!

 「あ、はははは・・・」

 「あっ でも決め台詞は、もう少し捻らないと、ナナミちゃんなら・・・」

 もお〜!

 きゃー

 どた! どた! どた! どた! どた! どた!

 バカやっていられる高校生活は楽しかった。

 

 

 とはいえ、校外に出ると意識が変わり、視野と目つきも変わってくる、

 桜坂を降って下校する頃、社会人の気分に戻る。

 社会に流通してる貨幣を集めないことには生きていけず、

 労働と投資で月当たり数十万を捻り出して回収しないと、

 自分の食い扶持を稼ぐだけになって、老後が怖い、

 大きな資本を回収するなら情報収集が重要で、

 情報を生かせるだけの知識がなければ、話しにならない、

 基礎になる資本がないとなにもできず、

 投資しないと物事が動かない、

 大規模古本チェーン店は、相変わらず人がいるようだけど、

 人影は一時期より少ない気がする。

 そして、現状は楽観できなかった。

 投資先は、不況で資金繰りが怪しく、

 困窮する企業は、生き残るため無理にシェアの拡大を画策し、

 同業他社と凌ぎを削り、

 苦戦すれば、社員と客に犠牲を強いるようになり、違法スレスレな取引に手を出し、

 同業他社とは、食うか食われるかの闘いになっていく、

 ライバルを併呑しなければ存続が怪しくなることもあるし、

 併呑しても不良部門を淘汰しなければ苦しくなる、

 既得権益は、世知辛くなるほど、組織防衛と利益の維持で攻撃的になり、

 理不尽に敗者を作っていく、

 社会の歪みは広がるし、皺寄せは弱者へ向かう、

 結果、違法スレスレな依頼は急増し、収益も大きくなっていた。

 破壊と再生は、ある意味、社会の循環で、破壊を押しとどめれば停滞し、澱み続ける。

 不良な企業を破壊し、不出来な家庭を壊し、

 そこから粗利を上げていく、

 この需要は、作られたものではなく、

 いつの頃からか生じたモノで、

 供給は、需要に応じるに過ぎない、

 まぁ マッチポンプで、個人の権利の主張を致命的にまで拡大させ、

 家族と企業の破壊を積極的に増長させた勢力があったことも事実で、

 裏切りの連鎖と、憎しみからか、

 夫婦を離別させ、家庭を自滅させる離婚屋みたいな存在もある、

 こもれびが直接関わっていなくても、配信で、仕事を振り分けてることもある、

 その影響で利益が膨らんでいる。

 “壊し屋” は、ダーティなイメージがあるけど、

 必要としてるのは、一方だったり、双方だったりして、要は、どっちが勝つか、でもある。

 浪花節な誰かが正義感ぶって目の前に現れたら、どうするだろうか、

 間接的に関わってるにしても、

 女子供ばかりが自己正当化しながら収入のためにやっているだけだし、

 こもれび防衛のためとはいえ、これ以上、人を踏み躙れなくなるかもしれない、

 そして、一度、踏み入ったら、戦意を保てず、組織が総崩れになる可能性もあった。

 そう、悪いことに、そういう、需要が増えている・・・

 「よお、こもれびさん」 と、後ろから

 「あら、矢矧の人」

 「矢矧の人って言うな」

 「馬宮探偵ね」

 「相変わらず、儲かってどうしょうもないって、感じだな」

 「どうしてわかるのかな」

 「顔が曇ってる」

 「・・・・」

 「・・・・」

 「矢矧探偵社は、どう?」

 「んん・・・探偵小説並みの事務所だね」

 「探偵小説並みの推理力もあるし、理想的じゃない」

 「ペット探しの依頼じゃ 推理力の働かせ甲斐もないけどね」

 「ペット探し・・・」

 「まぁ 犬と猫の習性はわかってるから推理で探してるよ」

 「おかげで、ペット探しの依頼が殺到してね」

 「そ、そうなんだ」

 「母さんが、君たちをバーベキューに招待したがってるんだけど」

 「え・・・」

 「土曜日の12時。法事が近いからね」

 「そ、そう、でも、あの依頼は終わった事だし、気を使わなくてもいいのに」

 「とにかく、こもれび全員を招待するから来てくれよ」

 「それで母さんと、広瀬家が満足するんだから」

 「わかった。行く」

 「じゃあな」

 「うん」

 『顔が曇ってるか・・・』

 

 

 

 東京

 紅装束、白装束、碧装束、翠装束、オレンジ装束に身を包んだ人々が入り乱れる。

 「世界の自由を守るフリーダム騎士団に逆らうとはいい度胸だ」

 「なにをそちらこそ、人々の夢を守るドリームホープ戦隊に逆らうとはいい度胸だ」

 「この自己主張ばかりの怠け者が! 夢は眠ってる間に見やがれ!」

 「はぁ? 既得権益者のお前たちの皺寄せで苦しんでる人間が何人いると思ってる」

 「うるせ! 再開発しないと雇用が得られないんだよ。大人しく出ていきやがれ」

 「ふざけんな。老人から年金を騙し取りやがって、子供だって泣いてるじゃないか!」

 「お前たちは身勝手すぎるんだよ」

 「やかましい! このままだと、中国製品に日本の市場が乗っ取られるんだよ」

 「少しは悟りやがれ」

 「そっちこそ、少しは弱い者を察してやれよ」

 「「うぬぅぬぬぬ!」」

 「「やっちまえ!」」

 「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」

 5人対5人のヒーローたちが入り乱れて、収拾がつかなくなっていく、

 そして、物陰から諸外国のヒーローたちが様子を眺めていた。

 「共倒れは、近いかな」

 「今度こそは、漁夫の利を得ないと」

 「ていうか、どっちも全然、頼ってこないぞ」

 「やっぱり、島国だから付け込み難いのかな」

 わー わー わー

 「おっと、坊主たち、いま、公園に近付いちゃ危ないぞ」

 「向こうで遊びなさい」

 「「「はぁ〜い」」」

 カ〜〜ット!!

 「30分、休憩します」

 撮影が終わると数秒前まで

 敵と味方で戦った青葉(沢木)ケイコと衣笠(中山)チアキが並んで

 サンドイッチを摘み、

 コーヒーを口に含んだ。

 芸名は、旧日本海軍艦艇の艦名の青葉型巡洋艦から取ったらしく、

 一部のコアな支持層を期待できた。

 二人とも主役ではなく、準主役、

 格闘の動きは本物らしく、武闘系キャストが目を見張る、

 「鹿島の奴ぅ 自分の分だけ撮り終わったら、どっかに行きやがって」

 「なんか、こもれびの仕事してるみたいね」

 「所属事務所も鹿島に協力的だし、グルっぽい」

 「どういう関係なんだろう」

 「胡散臭いよね」

 「あの鹿島の “あんたたちは関わらない方がいいわ的な態度” がムカつくわよ」

 「というより鹿島の “知らない方が身のためよ的な視線” にムカつく」

 「ついでに特撮モノって、なんで、こんな変な格好なのかしら」

 「変身というより、変態よね」

 「あははは・・・」

 「今度は、どっちが勝つんだっけ?」

 「騎士団が勝つと国が成長するし」

 「戦隊が勝つと弱者の生活が一時的に守られるから・・・」

 「んん・・・なんか、どっちでもいいやって気がしてきた」

 「でも、共倒れすると外国に漁夫の利を持っていかれるなんてシビアね」

 「勧善懲悪モノから分岐結果モノを楽しむようになったの、いつからかしら」

 「さぁ 昔のチキチキマシン猛レースを参考にしたって聞いたけど」

 「そんなこじ付け・・・ なんか、圧力がかかったみたいよ」

 「へぇ〜 そんなんで、よく、視聴率取れたわね」

 「最初は怪しかったらしいけど、作り方が上手くなって視聴率が安定したって・・・」

 ADが走り回る

 「“あめつちの秤” の撮影再開まで、あと5分です」

 

 

 

 某銀行

 「最近、党派を超えた分権派の入出金が目立ってないか」

 「基本は中央の権力闘争さ、リクルート事件とバブル崩壊でも分権派は立たなかったし」

 「よっぽどのことがない限り大丈夫だろう」

 「よっぽどって、応仁の乱クラス?」

 「日本は元々保守的だし、骨抜きにされちゃって、その上、高齢化してるからな」

 「爺さん婆さんばかりじゃ 応仁の乱クラスでも動かないと思うよ」

 「それに利権と労害で膠着してるからどうにもならんしな・・・」

 部屋に入って来た銀行員が耳打ちする

 「・・・課長。またやられましたよ」

 パソコンのスイッチが入れられ、

 モニターに数字の羅列が並ぶ、

 「またか、変えたばかりだろう」

 「ええ、3日と持ちませんね」

 「しかし、脅迫文無しじゃ 手の打ちようがないな」

 「銀行のシステムをいつでも破壊できるということですからね」

 「それに不具合を直してもらったこともありますし」

 「・・・ファイルの口座に100万振り込んでおいてくれ」

 「どうやって暗証番号を解読してるんですかね」

 「何度作りなおしてもBファントムが侵入してきやがる」

 「厄介な相手ですよ」

 「しかし、これ以上複雑にすると運用とサービスに支障をきたしそうだな」

 「二度もランクを落としましたからね。向こうじゃなく、こちらの事情で・・・」

 「システムを再構築するより、振り込む方が安上がりなのが救いですかね」

 「このまま雇って手駒にしたいくらいだ」

 「いいですね。最強の銀行です」

 「その代り、他行から総スカンくらいそうだがな」

 「それどころか、CIAに襲撃されますよ」

 「Bファントム。あっちにも行ってるのか」

 「噂だと、アメリカは医療機関に侵入されて、御機嫌斜めらしいですよ」

 「どこかのネットカフェで面白半分にやってるんだろうが、ハタ迷惑な奴だ」

 

 

 原宿

 鹿島ムツコは、数人の男たちと携帯で連絡を取り合い、少女を付けていた。

 費用に見合う効果があるのだから、普通の少女ではない、

 娘の素行次第で有力者に圧力をかけ、業界の流れを変えることができた。

 地方は、噂か兆候があれば、ゆすりネタで仕事が舞い込む、

 これが中央だと、ホストや男優を使ったアグレッシブな仕事に発展することさえあった。

 もっとも相手が有力者の子弟だと反撃される可能性も高まる。

 今回、幸運なことにキャストを使うこともなく、自然発生のカップルだった。

 卑下すべき仕事と言えなくもないものの、

 肉食動物が獲物を追い詰めているような感覚に囚われる。

 『東京まで来て、なにやっているんだか・・・』

 “いい、目的は、こもれびと中央の人脈を繋ぐことよ”

 “人脈は、あなたの存在価値にも繋がるから社交性を大切にね” by 富田サナエ

 元引き籠もりのおまえだけには言われたくない、ことを面と向かって言われ、

 こもれびと中央の橋渡しと、組織間の信用を高める提携仕事をしている。

 仕事を通じた仲間意識で、

 より結束が得られやすい共犯で人脈が強まっていた。

 「佐竹さん、三丁目のホテルに入ったわ」

 “三丁目・・・系列外か・・・”

 “仕方がない、部屋番号を確認してくれ、あとはこっちでやる”

 「ええ・・・」

 片手にアルバイト情報誌を持ってホテルの中に入っていく、

 ラブホテルは、低賃金で人手不足に悩まされ、

 情報誌に記載されていることが多く、入り際に塞がった部屋番号を送信した。

 

 

 

 横浜中華街

 0.2kuほどの区画に500店舗が連なって、東アジア最大の中華街を作っていた。

 中国人人口は6000人に達し、

 地元客、沿線客、観光客を呼び込み、賑わいを見せている。

 中国人と日本人の生活が混在し、

 切磋琢磨しながらも共同体が作られていた。

 そして、陽に当たる部分が大きくなるほど影も大きくなって、闇も少なからず生じる。

 “あいつを消して欲しい”

 “あいつを痛めつけて欲しい”

 “密輸して欲しい”

 等々、負の感情を中心に非合法な金が流れると領収書が切られず、

 モノ・サービスと交換で金が移動する、

 むろん、闇経済といっても、生活不能になるほどの金が動くわけもなく、

 生産力を食い潰すほど大きくなれない、

 そして、量刑の大きな犯罪ほど価格が跳ね上がる。

 自然と需要と供給のバランスが作られ、落ち着くところに落ち付いてしまう。

 中華街は、日本の警察や暴力団に対し、対抗処置をとるため、

 中国マフィアと呼ばれる者の一時的な足場になっていた。

 そして、華僑は一枚岩でなく、派閥抗争と権力闘争が行われ、

 その抗争は中国マフィアも巻き込み、中華街の外にも波及している。

 ロン・ムーロンは、人のオーラを見ることで殺意や悪意を察知できることから

 無頓着な行動をとるものの、襲撃されても軽くかわせるせいか、同業者から一目置かれている。

 そのロン・ムーロンも先の失敗が大きく、

 幾つかの変遷を経て、広東系から福建系組織へ移籍していた。

 ムーロンは数人を引き連れ、人混みを抜けると飲茶飯店に入った。

 「おや、ムーロン。そろそろ時間だったな」

 「間に合いましたか、大人」

 「約束の10分前だ」

 わけありの関係なのか、

 円卓に座るだけで、飲茶が配られる、

 「最大派閥は、行き詰ってるようだが、ムーロン君の感想はどうだね」

 「縦割りな特定産業の肥大化と破綻。戦前の日本に近いモノを感じますね」

 「ただ、戦前より社会資本に余裕があって、国際化と産業の近代化に成功して有利な部分がります」

 「あと、戦前より高齢化が進んで不利な部分があるようです」

 「中国は、民主勢力が腹を食い破って出てくる勢いがある」

 「では、中国も・・・」

 「どちらにせよ、次は、天安門以上に荒れるだろう」

 「党は、権力を維持することより、私腹を国外に退避させ。華僑との関係を密にしている」

 「日本人と違って、血を流すことを辞さない国民性だ」

 「我々に火の粉が及ぶ可能性も高い」

 「それで、日本に足場を?」

 「日本は合法なら構わないのだろう」

 「多少、公平な形の法改正を望みたいところですがね」

 「どこと組む」

 「与野党ともパイプは保ってますよ」

 「ただ、大きなパイプではないし、政官財の利権抗争も激しくて」

 「その上、外国勢力を警戒して、手を組むことを拒む勢力も少なくない」

 「それは、我々とて同じだ」

 「まぁ 拝金主義も進んでいますし、資本さえあれば足場を広げられますよ」

 「資本はなんとかしよう。ポストは確保できるかね」

 「はい、課長以上で5分の1、課長以下で3分の1を用意できるはずです」

 「そうか、頼むよ」

 「日本の分権が進めば、縛りが緩やかになるのですがね」

 「集権と分権の対立は、政争の焦点でないのだろう」

 「ええ、県単位でなく、市町村単位の分権強化も検討されているようです」

 「ですが、何かの弾みで、集票に繋がるなら分権に傾く可能性もあるでしょう」

 「ふっ 地域格差の矛盾と歪みの解消か」

 「どこの国でも無理してるからな、付け込める余地が増えるのなら願うところだ」

 「しかし、ロン・ムーロン」

 「なんです」

 「勝つ側についてくれ」

 「確率的に有利な側にいますよ。負けても保険をかけてるので、痛手は小さいでしょう」

 「中国は日本より不安定になってる」

 「わたしもできるなら先祖の墓を守りたいと思ってるのだ」

 「わかってますよ。大人」

 

 

 メールとか。郵便とか。送られてくる。

 メール文だけでは、何が書かれているのか全くわからない、

 パソコンにコピーして、郵便の文字で、メールの内容を書き換えると、

 文書になったり、情報になった。

 政争といえば領袖の弱点の探り合いになる。

 手足の人間が標的にされることは、あまりないし、

 まして、監視といった費用のかかることは、敬遠される、

 時に買収されることもあるが、クライアントを裏切ると、裏稼業ができなくなる。

 むしろ、領袖の片腕を篭絡するか、側近を買収する方が費用対効果で優れている。

 こもれぎの仕事も、そっちが圧倒的に多く、

 同業を牽制しろとか、喧嘩しろとかはない、

 せいぜい、護衛対象といるとき、監視役の同業と接触した時か、

 監視中、護衛役と接触したとき、摩擦が起こるくらいで、無駄な暴力に発展する機会は少ない、

 というわけで、そこそこ、安全圏だけど、

 愛犬のハルと一緒に、こもれび商店街の裏通りを抜けていく、

 紫織は、裏稼業の仕事柄、人脈が多岐に広がっていて、連絡係みたいなことをしている。

 政敵側の有力者の弱点も知っていたりするし、

 用心深く、探りを入れたりする。

 こういう派閥めいたものに付くと、明暗が分かれるというか、

 なにも強迫的なことを言わなくても、面と向かうと、互いに妥協するというか、折り合いを付けることが多い、

 実のところ、殺し合い未満の “じゃ このへんで” という日本の悪しき光景が作られる。

 わからない人たちは、領袖の発言の一つ一つに頭をひねり、何言ってるんだこの人は、なんだけど、

 落としどころの着地点がそこなのだからしょうがないのかもしれない、

 

 あと、分権派といっても穏健なものから強硬なものまで幾つも派閥が存在するみたい、

 予算増額的なもの、

 権限委譲的なもの、

 道州制のような大きな行政単位にするもの、

 都道府県より、市町村の権限を強めるもの、

 閉鎖的というか、外国にお金をもらってるような地域主権の委譲に近いものさえあるし、

 分権という形を取らず、中央役人と地方役人を人口比で採用させるもの

 あるいは、中央・地方議員のスワップさせることで、出向議員に利権絡みの不正腐敗を監視させ

 日本国内の軋轢を是正する程度のものまで、

 紫織たちが属してるグループは、中央役人と地方役人を人口比で雇用するものだった。

 これだと、中央役人の10人に9人が地方出身者で占められ、

 地方に至っては、100人に5人しか地元出身がいないこともありえた。

 もちろん、先立つものは必要かもしれないが、

 そういった資本面は、政権を勝ち取ってのことなのだけど、

 政策が大まか過ぎて、分権派のどの派閥と近いのか、よくわからない、

 そして、よくわかるようにすると、分権派が分裂して、勢いが失速してしまう悩ましさがある。

 まぁ 不透明感が強いのもそれ、

 ちなみに興信所は、クライアントがお金を払えば請け負うため、

 事の是非は、問わない。

 もちろん、気が進む、気が進まないは、あるけど、

 待ち合わせの喫茶店で、相手と会うと、少しばかり値打ちのある古本を渡す、

 ページの間に、リストが挟まっているのだけど、

 署長は、なかなか、嬉しそうな表情をしている。

 そりゃそうだ。

 地方分権なら署長の権限も大きくなるし、予算も増える。

 たいていの公僕は、実情に合わない予算で、

 さらに中央から口出しされて、面白くないと、思うものらしい、

 利権が一つでも入れば、私服も肥やしやしだろうし、

 ぶっちゃけ、中央集権、企業利権、地方分権より、

 はるかに弱い民権は、なおざりにされやすいらしい、

 こいつらが私服を肥やすたびに県民は、印紙代を余計に支払わないといけないし、

 商品価格やサービス価格に上乗せされ、

 物価が上がれば、賃上げ闘争が大きくなり、

 折り合いがつかないとリストラされてしまうハメに

 それで、生活必要経費が積もり積もって、

 収入の追いつかない県民から貧しくなっていくと思うと、腹も立つが

 こもれびに、入ってくるであろう利権は、蜜の味だし、

 数枚のリストが署長の手に渡される。

 「角浦君。表向き、わたしは、中立だからね」

 「わかってます」 ニコッ

 人事で圧力を加えて、中立とか・・・

 そういや、一ツ橋サツキが政敵側なのが少し辛い、

 まぁ こういうのが、中央集権派と地方分権派の確執が後回しにされてる理由なのだが・・・

 

 

 道善高校

 高校生活を舐めてはいけない、

 入試で合格できても単位が足りないと留年もあり得た。

 いまの高校は、単位が足りなければ留年させる。

 そして、留年させられている生徒も多い、

 まったく、人情の欠片もない勉学の門になっている、

 わたしは、声を大にして言いたい、情けは人の為ならずと・・・

 「角浦さん、宿題は?」

 「えっ・・・」

 「古文を一つ作ってきなさいと言ったはずです」

 「・・・・・」 ごっくん!

 高校新入生で、まだ、中学生の気分が抜け切れていない、

 おばさんにヒステリックな表情で睨まれると、身長差と、年齢差は大きく、泣きたくなる、

 「角浦さん。留年候補に入れられたいのかしら・・・」

 「え・・あ、い、いま、考えました」

 「言ってみなさい」

 紫織は、慌てて、教科書を見ながら取ってつけたような・・・

 「・・・は、春は、春は出会うこと多かれ」

 「めづらしきこと、いふかひなしこともあり」

 「我にもあらず・・いざたまへ」

 「な、夏は競うこと多かれ」

 「あやなしこと、うたてしこともあり・・・」

 「おこたることなく行ふいつくこと」

 「・・・秋は心なし、左右(さう)なしこと多かれ」

 「行ふいつくこと遅れるものと縁を切り」

 「やむごとなしものと縁結びけり」

 「冬は枯れておもしろし」

 「あまた人もので着膨れ、あはれ・・・をこなり」

 古文の先生は、数度、目を見開いた後、ため息をつき、

 「ま、まぁ いいでしょう。留年候補からは外しておきます」

 「ほぉ〜・・・」

 「古文落としても留年にはなりませんけどね」

 『くそばばぁ!』

 「だからと言って、日本文化の歴史を受け継ぐあなたたちが古典を怠ってはいけないのです」

 「あなたたちが、古典を学ぶことで、次世代を引き継ぐのです」

 「碌に文化を伝承していない人々が社会を継承していくことが恐ろしいのです」

 「角浦さん。いまのレポートに書いて持ってきなさい」

 『覚えてない』

 「・・は、はい」

 と胡散臭い社会の営みと並行し、

 有意義なようで有意義でなく、有意義でなさそうで有意義な高校生活も続く、

 

 

 

 

 

      

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 しばらく書かなかったら 大阪維新の会 が〜〜

 中央集権の弊害と、地方分権で燻っていたのは知ってましたけど、

 まさか、こういう形になるなんて、

 

 

 

 

 

 

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第61話 『駆け抜けろ、青春!』
第62話 『仮面ヤクザ少女』
  

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