月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ローゼンメイデン

   

『は じ ま り』

  

 城の東塔は、春の日差しに包まれていた。

 金髪の青年が眠気を拒むように背伸びをして、窓から外を見渡す。

 背後の若い男がテーブルの水晶を覗き込んでいた。

 「・・・先生・・・いま、人体練成が行われたような陰が・・・・」

 水晶(クリスタル)は、事象を反映させやすい。

 「バカな錬金術師がいるものだ。人体練成は禁止されている」

 「ええ、まったく・・・ん?」

 「どうした?」

 「・・・扉から戻ったようです」

 「そうか、無茶だが、なかなかやりおる」

 「扉を開ける。それだけの力がある、ということでは?」

 「法則を梃子摺らせる程度ができなければ扉を開けられないからな」

 「禁忌だというのに人は懲りませんね」

 「密閉された世界の総量は足掻いても変わらない」

 「しかし、別の世界への扉を開けば総量も変わる」

 「別の世界と不等価交換ですか」

 「泥棒か、強盗だな。よほど実力がないと無理だ」

 「まぁ たとえ、等価交換でも向こうの世界と交換なら大儲けかもしれないが・・・」

 「試さないのですか?」

 「人間、己を知ることは大切だ。無茶なことはせんよ」

  

  

 数日後

 「・・・ローゼンメイデン。できたかね」

 「はぁ 王様・・・・」

 「錬金術師なのだろう。チョチョイのチョイじゃないのか」

 「それが、なかなか」

 「戦争したから捕虜がいる。等価交換用の命は腐るほどあるぞ」

 「王様、無論、等価交換用の命も必要です」

 「しかし、本人が望む、直接契約ですので・・・」

 「無理だというのかね」

 「死を前にすれば、誰しも神を求め、悪魔を遠ざけますよ」

 「捕虜に我が身より価値あるものがあれば・・・どうかね?」

 「若輩者なので考えられませんね」

 「禁忌である事は理解している。そっちは、なんとかしよう」

 「ほかに問題は、あるのかね」

 「まず、悪魔は能力があっても創造の力がありません」

 「創造の力があるのは神と人間だけです」

 「悪魔は信用できるのかね」

 「創造も、破壊も、人間が行います」

 「悪魔は創造の残照で形もありません。契約しない限り、口先だけの存在です」

 「ん、では悪魔との契約は?」

 「人体構造は複雑ですからね。知識と能力を借りるだけです。創造の業は人間が行います」

 「なるほど、捕虜の命でも等価交換の代償になるのか」

 「それは捕虜次第です」

 「もうひとつ、錬金術師でも相矛盾するモノを練成するのは大変です」

 「矛盾していなければ、何とかなるのかね?」

 「人体に矛盾はありません。しかし、高度な意識は矛盾しています」

 「方法はないのかね」

 「最小限の矛盾で何体か練成、生成、成長させ、その後、統合練成させてみます」

 「そんな事が出来るのか」

 「年月がかかりますよ」

 「それで、上手く行くのかね」

 「人間と同じです。過程を経て成長して、意識が高まっていく。その後、練成させる・・・」

 「それで、娘のアリスになる、のかね」

 「娘の血肉で生かされるでしょう。王様の娘ですよ・・・」

 「本当に?」

 「ええ、ただ・・・」

 「だだ?」

 「人間は、既に意思があるので使えません」

 「まさか、動物にしろと?」

 「いえ、それでは本能が強過ぎて野生化してしまいます」

 「では?」

 「人形を使いましょう」

 「人形だと!」

 「アリス姫の血肉を核にローザミスティカを作ります・・・」

 「ローザミスティカ?」

 「魂と生命の核で矛盾している部分です」

 「し、しかし、人形・・・」

 「生きた人形ですよ。王様」

 「しかし、土や木で作った人形に・・・」

 「人体を構成する元素は、全部で29種類・・・」

 「水素原子(H)60.3%。酸素分子(O)25%。炭素分子(C)10.5%。窒素分子(N)2.4%」

 「この4つで98.9%」

 「ほか、25種類の元素が1.1%。これだけです」

 「し、しかし・・・」

 「王様、ご存知ありませんか。神は、土とチリで、人を造られたという事を・・・」

 「ん・・・んん・・・」

 「過程の生態系が、どうあれ、最初は、無機物。問題は神の息吹で与えられた命と魂です」

 「なるほど」

 「問題は、元々一つですから人形の成長の過程で互いのローザミスティカを奪い合います」

 「本能的にかね」

 「ええ、そして、人形は人間から精神エネルギーの供給を受ける必要があります」

 「それで、娘は生き返ると?」

 「ええ、娘さんの血肉でローザミスティカが練成されたのです」

 「成長過程で人の影響を受けるはずですが制御できます」

 「いつ?」

 「物凄く長い年月です」

 「アリス姫の意思は?」

 「そうですね。成長が進めばアリス姫の分身たちは自我が育ちます」

 「気質にもよりますが戦いより共生を選択する可能性があります」

 「それでは、アリスは?」

 「元気だった頃のアリス姫の気質は?」

 「・・・や、優しい娘だった」

 「では、不完全な形で分裂してしまうかもしれません」

 「・・・可能な限り完全にしてもらいたい」

 「しかし、ケース・バイ・ケースもあるだろう。調整できるのかね」

 「ええ、なんとか・・・」

 「人形は何体だね?」

 「美を追求する心、善を追求する心、真実を追究する心を陽と陰で、分けて・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・そうですね・・・・6体・・・くらいでしょうか・・・」

 「そうか、娘の生きた証しを残したい。このままでは、あまりにも不憫すぎる」

 「わかりました」

 死に瀕している娘は幼かった。

 もう少し早ければ、どうにかなったが既に手遅れ。

 医者はサジを投げ。

 錬金術師もお手上げ。

 王も、女王も、涙に濡れている。

   

 

 相反し矛盾する精神。

 人知を超えるほど複雑な人体、

 この二つは、即興で練成できない。

 愚かな錬金術師が何人も性急な人体練成を試みて失敗した事を知っている。

 無理に練成しても不完全な化け物になるだけだった。

 その無理も理論的に理解しており、抜け道を見つけていた。

 年月をかけ熟成させながら練成定着させることはできそうだった。

 血肉を構成する資質が本人のものであれば、ワインと同じ。

 矛盾する精神を必要最小限に分割し、

 ゆっくりと熟成しながら物質に定着させつつ成長させていく。

 そう、数百年、数千年かかろうと・・・・

 それで、新アリス姫が覚醒し誕生する。

 錬金術師ローゼンメイデンは、アリスの気質を6つに分割し、

 人(ミーディアム)の精神エネルギーを計算する。

 6体の人形は、それぞれの経験で、6つの感情の力関係で差が現れる。

 そして、その差が新しいアリス姫の個性になる。

 人体練成は不死に繋がるため、金の精製に次いで需要が多い。

 もちろん、金の練成と人体練成は禁忌。

 前者は、金相場の暴落が経済を破綻させてしまう為、

 錬金術同士でカルテルが作られている。

 後者は、不可能であるため、というより力不足が原因。

 天井に魂の練成陣と床に人体の練成陣の二つが描かれる。

 光と闇の狭間、6つの性質に沿って、血肉が自然に分裂し、生成されていく。

 必要最低限で良く。扉を開ける必要もない。

 水銀燈 (すいぎんとう) 羽 ・・・・・・・・・・知(陰)

 金糸雀 (かなりあ) バイオリン・・・・・・・・意(陰)

 翠星石 (すいせいせき) ジョロ・・・・・・・情(陽)

 蒼星石 (そうせいせき) はさみ・・・・・・・意(陽)

 真紅 (しんく) バラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・知(陽)

 雛苺 (ひないちご) 草・・・・・・・・・・・・・・情(陰)

 生前、アリス姫が関心を寄せていたモノがあり、

 それぞれ、優先する感情として分岐していく。

 そして、練成。

  

ローゼンメイデン

第一ドール  水銀燈

第二ドール  金糸雀

第三ドール  翠星石

第四ドール  蒼星石

第五ドール  真 紅

第六ドール  雛 苺

  

 「・・・ローゼンメイデン。この人形たちが、そうかね」

 「ええ、王様」

 ローゼンメイデンが、ねじを回す。

 微妙に動き出す、仕草が滑らかで人間に近い。

 「・・・・おお・・・」

 「まだ、意思も、情念も、知識も弱いようです」

 「だ、大丈夫なのかね」

 「成長させるという概念で練成しています」

 「人間のように考え動き出すまで、もう少し年月が必要です」

 「素晴らしい・・・ん・・・人形は、6体のはず。もう、1体は?」

 「事情があって、遅れます」

 「そうか、遅れることで支障は?」

 「いえ、計算ずくで、わざと遅らせていますから」

 「それなら、かまわんが・・・・」

 計算上は、問題なかった。

 時間を味方に、いや、年月を味方にする。

 人形の成長過程で強くなっていく自我と不確定要素が介入しない限り成功する・・・・

 「・・・ローゼンメイデン先生。素晴らしいで出来です」 弟子

 「アリスゲームに勝ち残った最後の一人は、次のミーディアムに少女(ミーディアム)を選ぶ」

 「その少女(ミーディアム)が、時を越えて覚醒したアリス姫になるのですね」

 「そういうことになるな」

 「人形は?」

 「それは、覚醒したアリス姫が決めることだ。人形自体、王様の遺産の一つでもある」

 「最後のミーディアムが不憫ですな」

 「どうかな、時を経て練熟した能力が使える」

 「多少、混ざっても、それなりに意識は反映される」

 「しかし、遠い未来のこと・・・」

 「我々も、隔世的に一時的に我々の意識を芽生えさせることは出来るだろう」

 「時折、調整すれば良い」

 「はい」

 「それだけの金を王様に貰っている」

 「そうですね」

 錬金術師にもスポンサーは必要だった。

  

  

 師と弟子が扉の向こうをこっそり覗き込む。

 水銀燈が這って服を取りに行こうとしていた。

第一ドール  水銀燈

 「・・・先生・・・水銀燈は、大丈夫でしょうか?」

 「負の感情は、人間にとって、どうしても必要でな」

 「残念なことだが均等に分散することができない」

 「あの第一ドールが負の感情を乗り越えられれば良いのですが・・・」

 「最も、美しく、気高く、作ったつもりだ・・・わたしの一番好きな人形だよ」

 「わたしも、そう思います」

 「そういえば、君も、人形を作っていたな?」

 「はい、先生の真似をして・・・自惚れてしまいそうです」

 弟子は、作った人形を見せる。

 「・・・わるくない・・・クリス。その人形の名前は?」

 「薔薇水晶 (ばらすいしょう) です。先生」

 「・・・そうか、よろしくな、薔薇水晶・・・」

 ローゼンが、薔薇水晶の頭を撫でると、微笑む。

 反応の速さは、人形の完成度の高さを証明する。

 しかし、完成度の高さは、成長の限界も同時に暗示させる。

 ローザミスティカには、無垢な幼児としての期間と愛情を注がれる経験が必要だった。

  

  

   

 数十年後

 人形達を知る者はいない。

 ヨタヨタと歩き回る人形たち。

 「・・・アリスになるのは、わたしよ」 真紅 ヘロヘロ〜

 「ちがう! 僕だ〜」 蒼星石 ヘタヘタ〜

 どた!

 いたい〜!

 ごちん

 あー!

 やったな〜!

 真紅と蒼星石が掴み合いのケンカ。

 「もう、やめるです! 蒼星石。真紅。もう、やめるです!」 翠星石

 「・・・ねぇ〜 蒼星石。雛苺と、お絵かき、しようなの〜」

 「うるさい。この忙しいときに、そんな恥ずかしい、事ができるかです!」

 「あ〜ん! 蒼星石たら人形みたいに冷たいの〜」

 「ぬぁあ〜んですってぇ〜! ですぅう〜!!」

 ドカッ! × 3

 「「「痛い〜!」」」

 「えぇええ〜ん〜!」 × 3

 泣き始める真紅、蒼星石、雛苺

 そして・・・

 「むふ♪ 姉妹同士を戦わせて、最後に笑うのは、わたし、金糸雀かしら〜」

 頭脳派の第二ローゼンメイデンは、木陰から覗き見る。

   

  

 人形達を見守るウサギ男

 「わたしの役は、まだまだ、先ですかね」

 ぼそ・・・

 使い魔のラプラスは、契約が完遂されるまで自由の身になれない。

 「・・・どうやら、ローゼンメイデンに騙されたようです」

 「この仕事、捕虜6人の命だけでは、割に合いませんね」

 背中に哀愁を漂わせたラプラスが、垂れた耳で去っていく。

  

  

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 70万HIT記念です。

 年甲斐もなく、『ローゼンメイデン』を見て、不意に思いつき。

 少し、調べてみると、思った通り錬金術系の業。

 ということで、『鋼の錬金術師』と絡めて、短編を書いてしまいました。

 いや、『三国志』の人形劇より、萌えです。

 『は じ ま り』 は、TV・DVD の前。

 『収 束』 は、TV・DVD の後。

 

  

  

 等価交換。

 これは、ある種の階層のだと、命も、簡単にどうにかできるので、かなり怖い。というか、やばい。

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ローゼンメイデン 二次短編 『は じ ま り』

ローゼンメイデン 二次短編 『収 束』

  

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