月夜裏 野々香 小説の部屋

    

天ボタ系火葬戦記 『イザナギ・イザナミの塔』

 

 第02話 1946年 『塔の消失』

 イザナギの塔

 ボーリングが掘られ、地下へと支柱が埋め込まれていく、

 そして、外からも建物が倒れないよう側壁をコンクリートで固めて土台を作っていた。

 司令塔

 司令、政務官、民政官

 「アメリカ艦隊はいまのところ、メキシコ湾で訓練中か。慎重だな」

 「たいていの国は、100万の将兵を失ったら慎重になるよ」

 「むしろ、厭戦気運が広がってくれることを望むね」

 「満州は?」

 「欧州からソビエト軍100万がチタに集結している」

 「チタは破壊したはずだが寒いのに大変だろうな」

 「状況を知らなかったんじゃないかな」

 「日本軍は、沿海州とカムチャッカ半島を占領しているが、いいのかね」

 「占領しないと舐められるだろう」

 「こちらは建物を残してるから生活は容易だけどね」

 「日本に宣戦布告したことをソビエトに後悔させてやらないと」

 「侵攻部隊壊滅で、沿海州とカムチャッカ占領されたら既に後悔してるだろうな」

 「ソビエト海軍は?」

 「巡洋艦2隻、響導艦1隻、駆逐艦・掃海艇12隻、潜水艦78隻」

 「あまり感心しない性能です」

 「ふっ 当分、兵器に困らないが、人材不足が困るな」

 「むしろ、軍の強面が人心を失ってるから統治が上手くいってると思うね」

 「10000円の一律国民分配は?」

 「いまのところ上手くいってる」

 「平均賃金が10000円ならこのくらいだろうな」

 「所得倍増計画ですか」

 「後は財産税で調整すればいいでしょう」

 「国民の動揺は?」

 「未来の日本から来たということで納得してるようです」

 「正確には違うけどね」

 「ふっ」

 

 イザナギとイザナミに運び込まれた金属インゴットが加工され、

 工作機械が作られると日本各地へと配送されていく、

 工場の人たち

 「金属インゴットの品質が脆い」

 「均一のインゴットも作れないのかもしれない」

 「最悪でも壊れにくい工作機械でも置いていかないと」

 「日本人は上手くやっていけるだろうか」

 「さぁ 焼け野原のボロボロでも権力構造は一新して正した」

 「弱兵でも戦力はある」

 「アメリカ西海岸とパナマを破壊し、ハワイを占領している」

 「チタを破壊し。沿海州とカムチャッカを占領している」

 「アメリカ軍とソビエト軍は弱体化して。前線は、はるかかなた」

 「あと、工作機械。医療機器。電子機器」

 「核技術。セラミック、カーボン、ケブラ、シリコン、プラスチックの技術の基礎は伝えた」

 「そして、オーランチオキトリウム石油生成技術の基礎があるから何とかなるだろう」

 「なんとかねぇ 中途半端な気もするが」

 「余所者が何でもかんでもやってしまうと日本人の自立を損なわせてまずかろう」

 「ちったぁ 自分で考えないと」

 「日本人は従属的で飼われやすいからね」

 「まぁ そうだけどね」

 日本中の工場で土木建設機械、農業機械が生産されていく、

 東南アジアまでの制海権は回復し、

 油送船が日本へと油を供給すると土木建設機械と農業機械が動き出していく、

 

 

 朝鮮(輝夜)半島

 一個師団で朝鮮人を包囲し、船に押し込んでいく、

 船は出航して東シナ海を南下し、

 上海から揚子江を遡って、朝鮮人を何度も一回り小型の船に乗り換えさせながら

 四川盆地に朝鮮人を降ろしていく、

 その繰り返しだった。

 「なぜニダ? 朝鮮人は日本人ニダ」

 「日本人は朝鮮人を同胞と言ったニダ! 日本人は朝鮮人を騙したニダ!」

 「うるせぇ このバカどもが、日本国内で戦争煽るだけでなく」

 「世界中で対日参戦を工作しやがって、さっさと降りろ」

 「違うニダ。あれは一部のバカどもがやったニダ」

 「同罪だ」

 「助けてニダ。殺されてしまうニダ」

 「護身用に95式式軽戦車と小銃と当座の食料を置いていってやるよ」

 「酷いニダ。こんな公共設備も電気も電話も水道もない国に住めないニダ」

 「半島の公共設備も電気も電話も水道も日本が作ったんだよ」

 「半島は朝鮮人のものニダ!」

 「もう違う」

 「「「「「酷いニダ!!!!!」」」」」

 

  

 ハバロフスク

 猛吹雪が風を切って接収したソビエト軍建物を震わせていた。

 日本軍将兵たちは寒いのか肩をすくめて火鉢を囲んでいた。

 「白人の代表はどうするって?」

 「ハバロフスクに残りたいそうです」

 「スターリンが怖いからな」

 「政治局員やKGBの粛清は怖いでしょう」

 「日本人がまともな行政をしているなら面白くなくても居残りだろうね」  

 「渤海復活だと面白いな」

 「いいですね」

 「しかし、他国を占領したまま経済を立て直せるかどうか」

 「問題は、戦争を終わらせられるかどうかでしょう」

 「イザナギの連中はどうするって?」

 「講和を結ばないと攻撃すると、ホワイトハウスとモスクワを脅迫してるらしい」

 「ホワイトハウスとモスクワも落とせるのか」

 「落とせるでしょう。ホワイトハウスとモスクワが信用するかは、わかりませんが」

 

  

 

 イザナギの塔

 吉祥司令、秋月政務官、白井民政官は、時計と逆進タイマーを見ていた。

 「そろそろか」

 「やり残したことはあるが、これまでだな」

 「司令。イザナミの菊池司令です」

 ディスプレーに映像が映った。

 “いよいよですね” 

 「イザナミの準備は?」

 “心残りがあるだけですよ。あとは日本人の問題でしょう”

 “所詮、我々は余所者だよ・・・”

 ・・9・8・7・6・5・4・3・2・1・0・

 

 

 呉

 第07任務群

  戦艦 アイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシン、

      サウス・ダコタ、インディアナ、アラバマ、マサチューセッツ、

      ワシントン、ノース・カロライナ

  重巡ニューオーリンズ、ミネアポリス、サンフランシスコ、ウィッチタ、駆逐艦14

 日本軍人たち

 「イザナギはどうするって?」

 「軍艦は非生産人員を取り過ぎる上に、維持費がかさむので解体した方がいいと」

 「戦争中に戦艦を解体って・・・鍋や缶を作れってか」

 「ふっ 生産部門に人材を回したいのだろう」

 「権力構造を散々弄繰り回された挙句、軍縮か」

 「イザナギとイザナミは、政治を変えてしまったそうですね」

 「衆議院は歴史、地政、政治、軍事、経済、文化、法律を学んだ9大学卒からの抽選になる」

 「票じゃないんですか」

 「国民から選ばれるのも、国民から選ぶのも民主主義らしい」

 「というより利権や金次第っていうのをやめたいのだろう」

 「国民に一律分配が決まって、お金をもらったからってどうにかなるものじゃないです」

 「俺は軍事を学んだから抽選で当たる可能性はある・・・」

 「少将。大変です。イザナギとイザナミの塔が消えました」

 「「「「はあああ!!!」」」」

 

 

 総理官邸

 「イザナギが消えた?」

 「はい」

 「なぜ、塔が消えたのだ?」

 「わかりません。最初からなかったように焼け後と建物が残ってました・・・」

 扉が開いた。

 「総理。イザナミも消えました。ほぼ同時刻です」

 「どういうことだ?」

 「塔の人間は?」

 「消えました」

 「何もかも」

 「いえ、石油を作る藻の一部と工場だけは残ってます」

 「あれは、我々の機材と資材だ」

 「そういえば塔で作った工作機械は残ってます」

 「しかし、藻は一部だけ」

 「つまり・・・彼らは消えるべくして消える存在だったのか」

 「散々権力構造を引っ掻き回されましたが、結果的には良かったのかもしれません」

 「吉祥司令は、なんて言ってたかな」

 「日本は利己主義と拝金主義を排斥し」

 「朝鮮人を国内から排除し、アメリカ人に注意し」

 「戦後は、軍需を押さえ民需中心に切り替えよと」

 「ではそうしよう」

 

 

 1000隻以上のリバティ船とT2タンカーが日本と東南アジア・中国を行き来し日本再建を続けていた。

 動いているのは輸送船ばかりで、軍艦は呉港で停泊しているだけだった。

 第01任務群

  空母 彩鳳(ヨークタウンU)、紅鳳(ボンノム・リチャード)

  軽空母 雷凰(ベロー・ウッド)、閃凰(バターン)

  重巡 吾妻(ボストン)、伊吹(キャンベラ)、鞍馬(ボルチモア)

  防空巡 五十鈴(オークランド)、長良(サンファン)  駆逐艦14

 

 彩鳳(ヨークタウンU) 艦橋

 海軍長官と副官

 「訓練は?」

 「なんとか進んでいますがT2タンカーの燃料が心細くなりました」

 「ほとんど、民需に取られてしまったからな」

 「イザナギ・イザナミは民需が好きでしたから」

 「ふっ まぁ 戦争してみれば日本国の底の浅さがわかったよ」

 「元々 資源がありませんでしたからね」

 「しかし、石油が自給できるなら戦える」

 「国民は憔悴しきってますがね」

 「だが、戦勝には違いない」

 「我々の戦勝ではありませんがね」

 「神風が吹いたとでも思えばいいだろう」

 「ええ」

 「しかし、アメリカの軍艦は住みやすいな」

 「確かに」

 「石油精製は」

 「オーランチオキトリウムはわずかですが少しずつ増えています」

 「培養もうまくいってるので、10年もすれば必要な量は得られるはず」

 「10年間か、持ち堪えられるならいいが」

 「敗北寸前でしたからね」

 「とにかく、機雷処理と急がせろ」

 「せっかく大艦隊を組んでも危なくて、満足に動かせない」

 

 

 工場

 イザナギで作られた工作機械で作られた部品を組み立てると、

 土木建設機械と農業機械が完成し、日本各地へ送られていく、

 軍人たちは、ため息を付くが、戦闘機や戦車が作られることは無かった。

 工場長と将校

 「設計図も素晴らしいが工作機械が違うだけでこうも変わるんだな」

 「鋼材がよく切れるし、よく削れる」

 「惚れ惚れするようなショベルカーだろう」

 「戦車を作れ」

 「上下水道・下水。電線・電話線が優先ですよ」

 「あと、水力発電に、風力発電に、火力発電に・・・」

 「戦争中なんだぞ」

 「頑張って日本を守ってくれ」

 「最新の戦闘機とか、戦車の設計図があるんだが」

 「被災家屋は223万戸で日本の全家屋の2割が焼失してるし。工場再建もある」

 「早く2000台のショベルカーを32の都市に送らないと。日本を再建してからにするよ」

 「「「「「・・・・・」」」」」 ぶっすぅ〜

 

 

 

 アメリカ合衆国

 白い家

 職員らが情報収集に懸命になっていた。

 「いったいどうなっている」

 「それが・・・広島と長崎の二つの巨大な塔が消えたとか」

 「1000mもある塔がどうやって消えるのだ」

 「むしろ、1000mもある巨大な塔がどうして出現したか、の方が気になります」

 「なぜ、そんな塔が出現した」

 「核爆発が原因では?」

 「では核攻撃すれば、また塔が現れるのか?」

 「可能性はなくもありません」

 「長崎には原爆を落としてないぞ」

 「長崎にも核爆発があったそうです」

 「住民は全員避難させられていましたがね」

 「つまり、我々が落としたが、落とせなくなり、代わりに核爆発を起こしたと」

 「時間軸の観念でいうと彼らからは、我々の時空を横から見てるのかもしれません」

 「「「「・・・・」」」」

 「アラモゴードの実験の時は現れなかったぞ」

 「こちらの諜報だと、現れたのは別の世界の日本軍ですよ。機体に赤いマークがついてたそうですから」

 「あちらの世界のアメリカは気づいていないのかもしれません」

 「だが歴史は変わってしまってるのでは?」

 「時間に関して我々は知識がありませんからね」

 「では、日本に対し、もう一度、原爆を使うと、さらに塔が現れるかもしれないのか」

 「かもしれません」

 「「「「・・・・」」」」

 「しかし、消えたということはどういうことだろう」

 「塔の側に何か制約があるのでは?」

 「それとも時間軸が狂ったことで次元が変わり、いられなくなった」

 「タイムパラドックス?」

 「そう言えるかもしれません。未来から来た日本軍と言ったとも聞いてますし」

 「もっと情報はないのか?」

 「いえ、我々の手駒は地位から追放されたようです」

 「どうする。講話を結ぶか」

 「しかし、今回の大敗について、国民になんといったらいいのか」

 「二つの謎の塔が出現し、アメリカ機動部隊と極東ソビエト軍を壊滅させ、消えたと?」

 「消えてしまったのだろう」

 「日本側も塔の出現に関しては何も公表していない」

 「しかし、嵐で艦隊が壊滅したとも言えませんし」

 「日本軍に攻撃されて壊滅したと」

 「その原因を聞かれたら? なんで艦隊を奪われたのか。どう釈明する?」

 

 

 統合司令部

 イザナギで貰った設計図を検討していた。

 「ターボファンエンジンか。プロペラエンジンより構造がわかり易いな」

 「是非作りたいものだ」

 「工作機械は全部、民間に回っている」

 「戦争中だというのに?」

 「しばらくは民需集中と言われてるからね」

 「ボロい工作機械ならあるだろう」

 「これだけ精密だと無理だな。それに工業生産は統制されている」

 「議会は復活して大学卒からの抽選じゃ 伝も何もないし。権力基盤が一新されて縁故が切られてしまってる」

 「日本政府も消えてしまったイザナギとイザナミに順ずるとはいい気なものだ」

 「イザナギとイザナミは、アメリカとソビエトから日本を守り、消えてしまったことで神になるのだよ」

 「なるほどね」

 

 

 中国大陸

 重慶

 国民党政府は崩壊し、バラバラの軍閥になっていた。

 日本政府は国家再建で余力がなく、

 中国軍閥と手を組みつつ、撤収の頃合いを考えていた。

 日本人行政官たち

 「客家は日本と組んでもいいそうだ」

 「アメリカ軍とソビエト軍を挫いて、蒋介石が捕らえられ、軍閥は分裂なら日本と和解するだろうな」

 「だが客家は、独占を狙ってる」

 「ユダヤ資本と違って。機会均等を是とする我々と相容れない」

 「機会均等か。しかし、客家と組めば中国を安定させられるのでは?」

 「外患を利用して国を支配するのは面白くないがな」

 「日本も外患に蝕まれていたらしいけどな。イザナギ・イザナミのおかげで駆逐できてよかった」

 「もっと、独自の外交パイプを作るべきだろう」

 「しかし、アメリカ海軍と極東ソビエト軍を押し返すことができたし」

 「東アジア戦略では、千載一遇のチャンスでもある」

 「問題は、日本が焼け野原だということじゃないか」

 「そうだけどね」

 「中国で木材や石畳を作って日本に運ぶか」

 「代わりに客家円楼に上下水道と電気とトイレを作ってやるとか」

 「まぁ 造幣局を抑えたんだし、法幣も使えばやれないことはない」

 「駐留軍の兵舎も円楼式で立てた方がいいと思う。安全だし」

 「まぁ 漢民族は残忍な時があるからな」

 輪転機ではガシャガシャと法幣が印刷されていた。

 

 

 

 T34戦車。あるいはBT7快速戦車は性能が高く、

 戦車1両と小隊(50人)は、それまでの1個中隊(200人)分に匹敵した。

 中国大陸の歩兵部隊は4分の1で守れるようになり、

 日本軍は少数民族で警官部隊を組織し、中国軍から捕獲した武器を渡してしまう。

 上海港

 「俺は帰還だよ」

 「いいなぁ」

 「日本で工場勤めだよ」

 「うぇえぇ〜」 脱力

 「だけど日本本土が焼け野原になってるのによく戦えるな」

 「死ぬまで日本を守るさ」

 「ああ、俺も頑張るわ」

 「家族に伝えることはあるか?」

 「家族は爆撃で全部死んだよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「気軽な身だ。中国大陸でのんびりするさ」

 

 

 ブルネイ

 T2タンカーで油を給油すると出航する。

 東南アジアの石油産出は少なく、別のT2タンカーが並んでいる。

 アメリカのように石油が湧いて溢れるような地域ではなかった。

 「ようやく安全に海を渡れても燃料産出が少ないのが問題だな」

 「海軍がすぐに使ってしまうからだろう」

 「もっと、油がないと戦争できない」

 「結局、油余りのアメリカと同じ土俵に乗せられて戦わされたようなものだな」

 「しかし、指揮系統で風通しがよくなったのは助かる」

 「権力構造改革に反対した数百人が処刑されたからね」

 「イザナギ・イザナミも思い切ったことをしたよ」

 「ふっ 利権は金の生る木だからね」

 「自分の金の生る木を命懸けで守ろうとしたら殺された。その程度に過ぎないよ」

 「日本は、貧しい国だったからな」

 「というより近代化でアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの方式を取り入れたからだろう」

 「イザナギ・イザナミが外患の系譜を断ったのは悪くないよ」

 

 

 焼け野原の東京

 国会議事堂の周辺は小屋が作られ、農地に野菜が植えられ、洗濯物が干されていた。

 衣食住を最優先で整備するため60年償還の建設国債で紙幣が印刷されていた。

 地方から米が運び込まれて配給がされ、

 吹き出しが作られ、配られていく、

 イザナギで作った区画整理通りに測量が行われ、

 土木建設機械が瓦礫を片付け、地盤を作っていた。

 道路は削られると、上下水道と電線が埋められ、コンクリートが敷かれていく、

 被災者は、掲示板の地図と、

 持ち主の名前が書かれた札を確認し、家を再建しなければならなかった。

 被災者たち

 「土地が広くなってるぞ」

 「人口が減ったからだろう」

 「元から住んでたところから離れてしまったな」

 「でもまぁ 生き残っただけでも御の字だし。さっさと家を作ろう・・・・」

 「ん、坊主。どうした?」

 「おとう、おかん、死んじゃった」

 血の滲んだ包帯を頭に巻いた10歳くらいの子供は、涙も枯れたのだろう。

 吹き出しの器を持ったまま立ちすくんでいた。

 「おまえ、名前は?」

 「田中一郎」

 「おとうとおかんの名前は?」

 「田中正造と田中光枝」

 「知ってるか?」

 「あそこだろう」

 一人が指差した方向に田中家の名札があった。

 「木材が来てるじゃないか」

 「じゃ 先に家を建ててやるから、そこに住め」

 「・・・・・」 こくん

 「一人で大丈夫か?」

 「・・・・・」 こくん

 「まぁ 何かあったら、俺のとこに来いや、俺の家は、あそこだから」

 「・・・・・」 こくん

 杭が打ち込まれた土地がロープで切り分けられ、

 木工所で規格通りに板が切り分けられ、トラックで運び込まれていた。

 合板を組み合わせると子供でもプレハブの家を作ることができ、

 疎開から戻った子供たちは後片付けの手伝いをし、幾らかの小遣いを貰っていた。

 希望者には爆撃されていない輝夜(かぐや)半島の家と土地が割り当てられることもあった。

 

 

 満州国

 スターリン重戦車、T34戦車が100両ほど並んでいた。

 イザナギが定めた場所を掘ると泥のような油を採掘できた。

 「スコップで採掘できそうだな」

 「本当に黒い泥に見えるが燃えるのか?」

 「ああ、精製所は大きくなりそうだが、まぁ 設計図はあるし、いずれは完成する」

 「ソビエト軍が攻めてこないことを願うよ」

 「まだ、チタの再建で忙しいのだろう。前線は今のところ静かだよ」

 

 

 オワフ島

 無料の映画上映会がされていた。

 アメリカ軍が沖縄戦の様子をカラーで撮影したもので、

 白人将兵の沖縄住民に対する蛮行が流されると、

 白人の観客が表情を変え、真っ青になっていく、

 白人将兵の沖縄の蛮行に比べるなら、

 日本軍将兵のハワイ占領政策は紳士的とさえ言えるもので、

 白人女性が夜間外出しても無事に家に戻ることができた。

 むしろ、強姦事件が起こるとしたら同じ白人が犯人であることが多かった。

 日本軍のハワイ占領の様子も同じように撮影され、

 アメリカ軍の沖縄戦と合わせて、映画フィルムを作って、全世界に複製を流していた。

 アメリカは莫大な資本を使って、日本が流した映画フィルムを買い続け、

 日本側はさらに複製を作って、第三国に無料で配布し続け、いたちごっこになっていた。

 その映画フィルムは、南米から中米に移動し、

 ついにはアメリカ本土でも広がり始めた。

 それに一役買ったのはオアフ島から上げられた風船爆弾や

 バンクーバー島付近からフィルム缶をばら蒔いた伊号だった。

 この情報戦はアメリカ政府を追い詰め、徐々に戦争継続を困難にしていった。

 

 

 オアフ島の滑走路に緑色に塗装されたB29スーパーフォートレス、B24リベレーター、

 P51ムスタング、P38ライトニング、F6Fヘルキャットが配備されていた。

 日本軍守備隊は20万、M4戦車300両が配置されている。

 ハワイの生産力は高く、衣食住は、最低限自給でき、

 必要なものは燃料だけだった。

 そして、アメリカはハワイを攻略するか。

 アラスカ・ベーリング海から千島・北海道を占領するしか対日侵攻を考えられなくなっていた。

 深夜の東太平洋

 ハワイ東方に漁船団が配置されている。

 魚を釣るが同時に哨戒任務も帯びていた。

 漁船団のさらに東方は、二式大艇が海に浮かんで、やはり釣竿が垂らされていた。

 魚が釣れると、ナイフで捌いてワサビ醤油をつけて堪能する。

 「刺身の味は家が丸焼けにされても変わらんな」

 「まったくだ」

 「しかし、アメリカ軍はまだ来ないのかね」

 「さぁ 半分ぐらい捕獲したらしいが」

 「開戦以来の大艦隊なのに。あれで半分かよ」

 「アメリカは空母をベルトコンベアーに乗せて建造してるらしいよ」

 「なんで戦争したんだろうな」

 「全くだ。戦争しなければ、俺の家は燃やされなかった」

 「だな・・・・」

 

 

 アメリカ合衆国

 コンベアB36が飛び立った。

 乗員15名

 全長49.40m×全幅70.10m×全高14.25m

 自重77580kg

 R4360エンジン6基(3800馬力)  J47ターボジェット4基(2300kg)

 最大速度685km/h 航続距離11000km(フェリーフライトなら16000km)

 機銃16門、爆弾39000kg

 「B36とB29を比べると大人と子供くらいの差があるな」

 「この大きさで、よく空中に浮かぶもんだ」

 「飛行船より小さいよ」

 「広島と長崎の塔は消えたらしいが、日本は核ミサイルを持っているんだろうか」

 「さぁな しかし、B36ならハワイ諸島を楽勝で爆撃できる」

 「パナマが破壊されても日本を攻撃できるわけだ」

 「しかし、議会は大騒ぎになってるぞ」

 「権力者と富裕層は勝ち戦で名誉のためだけに子供を沖縄に送っていたらしいからな」

 「前線が音信途絶でハワイまで占領されたら大騒ぎになるだろう」

 「もし、沖縄に狩りに行った息子が死んでいたら、それこそ、大統領の断罪が始まる」

 「もう始まってるよ。正直、大統領は長くないだろう」

 「というか、あいつらがこの戦争の仕掛け人じゃないのか」

 「仕掛け人は上層部だけだよ。中層部は知らない家も少なくない」

 「逆に、やけくそになって日本に復讐するかも」

 「ふっ やりかねんな」

 「しかし、原爆実験は凍結らしいから通常兵器で攻撃しないとな」

 「それは辛いな」

 「潜水艦は?」

 「日本近海に向かった潜水艦が100隻以上撃沈されてるか、奪わえたと聞く」

 「どうやったのかわからんが」

 「じゃ 下手に手出しをすると怖いな」

 

 

 アメリカ東海岸

 ジキル島

 悪党たちが集まっていた。

 「日本外務省に問い合わせたところ」

 「現在、保管したドッグタグは130万個以上」

 「電報にあった認識番号と照合するから待て、とのことだ」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「我々の息子たちの生存は期待できないらしい」

 「なぜだ。勝てると保障してたじゃないか」

 「どう計算しても勝ってたさ。計算外のモノが出現しただけだ」

 「なぜ、原爆で塔が出現したのか。まだわからないのか?」

 「物理学者は核爆発で並行次元世界の日本と一時的に繋がったのかもしれないと」

 「塔が出現していた時間帯は?」 

 「だいたい、一年、というか。地球が太陽を一周した時間かも」

 「並行次元世界の研究を続けさせろ」

 「しかし、核実験は危険では?」 

 「アラモゴードの実験では塔は現れなかった」

 「つまり、アメリカ国内で実験しているなら、干渉はないと考えていいのではないか」

 「わかりました」

 「さて、対日作戦をどうするかだな」

 「日本はノックダウン寸前のはず」

 「それは、いったい、いつの情報だ」

 「日本の主要都市のほとんどが焼け野原になっている」

 「そのことは事実だ。日本再建と同時にアメリカとソビエト相手に戦えるものか」

 「だが、日本と中国とは講話している」

 「そして、アメリカ機動部隊は壊滅」

 「戦線はハワイを奪われて西海岸まで後退させられ、パナマ運河も再建途上」

 「何より、例の映像フィルムは全世界の諸民族で反アメリカを強くし」

 「アメリカ国民の戦意を低下させてしまう」

 「日本には石油がない。もう一度、艦隊で攻撃すべきだ」

 「戦力比で不利だよ」

 「日本軍のベテランは9割方失われてるはず」

 「だといいがな」

 「「「「・・・・・」」」」

 扉が開いた。

 「大変です。FRBが群衆に占領されました」

 「なんだと!」

 「ワシントンとニューヨークでも暴動が起きています」

 「「「「「・・・・」」」」」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 朝鮮半島は輝夜(かぐや)半島に変更されました (笑

 

 

 

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第01話 1945年 『08月06日午前08時15分』

第02話 1946年 『塔の消失』