仮想戦記 『バトル オブ ゼロ』
著者 文音
第09話 戦後枠組み編
1942年(昭和17)十一月ジュネーブ「国際連盟は存続ですか?」
「戦勝国の入れ替わりがあるでしょうが、地政学的に第二次世界大戦の占領地を監督する意味でこのジュネーブ以上に適した地が見つからないのも事実ですので」
「わかりました。では、理事国としてイタリアに替わりソビエトが入ることでよろしいですかな」
「規模の大きさからアメリカも入ることになりそうです。第一次長期理事国はこの五カ国になります(フランス、英国、日本は留任)」
「連盟憲章に関する書き換えはございますか?」
「戦争当事国に対する対応に関しては多数決をもって軍事行動を含む行為が認められるようにします」
「現実的ですね」
「長期理事国ですが、国連の各国負担金上位五カ国を第二次長期理事国とし入れ替わりを認めます。任期を五年とします」
「未払いが減りそうですね」
「それと独逸が独立した後、十年後には長期理事国に参加する見込みです」
「短期理事国は任期二年で十カ国、こちらは負担金の上位である必要はありませんが未払いである場合、立候補できなくなります」
「新たに、経済、教育、農業、保健などの各部門で専門局をおきます」
「専門家を集めなければなりませんね」
「安全保障理事会を仕切るのは理事国十五カ国となります」
「バタン」
「戦前の予想では、何もしなかった国連は廃止されるんじゃないかともっぱらの噂だったか、焼け太りだな」
「英国、フランス、ソビエト、日本、アメリカで最初にやったのは、国連所在地の誘致合戦だったんだが、アメリカ、ソビエト領に新地をもとめると他の国がごねる。では、イギリスにしようかとすると、アメリカは不参加を言いだしてくる。消去法で今の土地でいこうということになった」
「首にならずに済んで、各国の負担金が集まるなら御の字だな」
「加盟国に対抗する意味でも各分野の専門家を集めて議事進行を助けることかな」
「最初に農業部門の懸念を解消すべきかね。人口爆発に対処する種苗機関を各国に配置すべきだろうな」
「世界三大穀物から取り掛かるとしようか」
「トウモロコシの研究機関はメキシコ。これは原産地に近く有益な品種が発見しやすい可能性が高いから」
「小麦はノーベル賞効果で小麦農林十号を品種登録した日本かその研究が一番進んでいるエルサレム信託地の二択だな」
「米の研究機関をアジアにおきたいから、小麦の原産地に近いエルサレム信託地にしよう」
「米だが、先進国は個別で食料増産をなす力があるから排除。米の原産地に近く多毛ができる土地でタイに研究施設をおこう」
「こうしてみると、メソポタミア(小麦)、ヒマラヤ山脈下流域(米)、中南米(トウモロコシ)と原産地近郊に配置できたな。これで原産地にある在来種から有用な遺伝子を交雑することができるだろう」
新長期理事国間会議
「議題は第二次世界大戦占領地に対する政策です」
「まず、植民地に対する決定を先にしたいと思います」
「該当地域は、リビアとエチオピアです。今現在、日本の占領地であります」
「日本国の要望をまず聞いておこう」
「日本といたしましては、リビア並びにエチオピアとも国連統治に委託する方向で検討しております」
「それだと争点になりそうにないですな。争点になりそうな資源も産物も少ないが」
「続いてイタリアに対する方針ですが、一応ベネルクス三国やバルト三国と併せ連合国扱いをする国家と同様、国内干渉をせずという方針でいきたい」
「ただし、枢軸国の植民地(リビア、エチオピア)に対しては放棄させるのは当然という立場で」
「枢軸国の本国占領地は各国並びに当該国の判断で独立させる」
「独逸には陸海空軍の解体並びに軍事企業の解体を終了するまで独立をさせないでほしい」
「それは了承しよう」
大日本憲法部会
「戦後を踏まえ、国民の要望を大日本帝国憲法に反映させるものとする」
「憲法を改正できないから軍部は天皇直属であり政府の干渉を排除できるという妄想が生まれる可能性を排除すためにも憲法改正の運びとなった」
「時代を反映しなければ国として都合が悪いからな」
「産業界からの要望は、共通規格庁を省に格上げしてほしいとのことです。製品を取り寄せ検査し合格認定をする必要がなくなったとのことです。この認定印があるだけで企業間取引が活発化するとのことです。輸出製品に対する共通規格までを認めてほしいとのことです」
「総理大臣を国民投票の上で選ばれる者とし、任期は四年。二期まで。国民投票で過半数の不信任を得たのち天皇が承認した場合のみ不信任が成立するものとする」
「今まで総理大臣の規定は憲法になかったからね」
「総理大臣は国民もしくは天皇のどちらか一方の理解を得ている場合、任期を満了できるわけですね。思い切った政策を実行できそうですね」
「選挙権を二十歳以上にまで引き下げ、被選挙権も二十五歳以上に引き下げるものとする」
「衆議院の優越を決定的にするために、予算の議決権を衆議院のみで成立するのもとする」
「軍隊に女性の採用枠を設定する。女子の投票権は国民に対する問題提起とし、国民の理解が得られた場合、投票権を付与するものとする」
「空軍とミサイルが主役となるならば、男女差別は表面上でないな。空軍が先行して採用枠を広げることになりそうだ」
「軍事裁判を除き、最高裁をこの国における唯一の最高裁判所とする」
「今後の憲法改正は、衆議院、貴族院並びに国民投票で過半数を得た場合に実施されるものとする」
統合本部
「独逸から持ち帰った資料を分析した結果、最優先で開発されるべき兵器はジェットエンジンです。次点でロケットエンジン。三番目に開発期間が長いですが核分裂を兵器利用する核兵器となっております」
「ロケットエンジンを利用していたロケット砲を赤軍が爆撃機に利用していたが、それとは違いがあるのかい?」
「原理はロケットエンジンもジェットエンジンもロケット花火と変わりません。日本では蒙古来襲時に使用された歴史があり、ピストルよりも発明自体は古いものです」
「しかし、独逸から持ち帰ったものは戦争の概念を一変させるものです。具体的にいいますと、日本の誇る長門の主砲で射程が三十キロメートルです。仮にアムステルダムから発射されるロケットがロンドンまで飛来して一トン爆弾が爆発したとします。この場合、射程は三百キロです。ちなみに飛行速度はマッハ五で、迎撃するのはかなり困難です。今まで前線を形成した後、その後方から大砲をうちこむのが戦争というものでしたが、これからはアムステルダムのロケット発射場にロンドンを攻撃する命令一つでロンドンを一方的に人的被害なく攻撃をかけることができるようになります」
「つまりそれは、今までの兵器を否定するものといえるのかね?」
「爆撃機は、ロケット兵器を打ち出す発射台に。戦闘機は爆撃機を迎撃するロケット発射装置に。艦隊は、ロケットを打ち出す移動砲台へと進化するものと思われます」
「戦艦はロケット艦にとって代わられるということかね?」
「はい、またロケットを改良していきますと地球脱出速度である第一宇宙速度(7900m/s)を超え、宇宙から敵国を監視することも、敵国上空から自由に爆弾を落とすこともできます」
「おおー」
「ではロケットの有用性はよくわかった。しかし、ジェットエンジンの開発を第一にした理由を教えてくれ」
「ジェットエンジンもロケットも原理自体は同じものです。燃料を燃やし、その推進エネルギーで推力を得て前進します。違いは、ジェットエンジンは大気中の酸素を燃焼に利用し、ロケットエンジンは燃料と酸素を本体内に収納する必要があるということです」
「いいかえると、酸素を用意する必要があるだけロケットエンジンの方が難しいのか?」
「それもありますが、ロケットは今のところ、使い捨てにされる運命にあるようです。いいかえると費用計算において、燃料を補給するだけで再度利用可能なジェットエンジンの有用性がまさっていると思われます。また民生用に転換する際、ジェットエンジンならばジェット旅客機としてマッハを超える速度で乗客を運ぶことが可能になります」
「それはわかりやすいな」
「最後に核兵器ですが、これは大量破壊兵器というべきもので、仮に一トンロケットに核兵器をのせ三百キロ先にある目標にまで命中させることができますと一発でロンドンを滅ぼすことができる兵器となります。言い換えますと十発このような兵器を保有している地点で戦争相手国は戦争を仕掛けてきません」
「日本は、このまま勝ち逃げでありたいから戦争を仕掛けれない兵器というものはぜひ欲しいものだね」
「必要な予算を認めよう」
「ありがとうございます」
御前会議
「商工省より発表させていただきます、1942年問題が発生しました。マグヌードルの特許が切れました。これにより他国で生産を始める組織がではじますので、今のところ製造方法などの優位がございますが1947年には日本から輸出は半減するものとおもわれます」
「対策は取ってるつもりかね」
「人口が多い国に対しては、現地資本と提携し現地生産を始めるつもりです」
「妥当なところだろうが、国内雇用対策が必要になるな」
「第二のマグヌードルともいえる切り札があれば国内雇用対策になるかと思われます」
「フランスからはド=ゴール将軍が日本酒にはまってしまったようで、日本酒をフランス市場にだせといわれています」
「日本が解放した土地と占領地で第二の日本人街を立ち上げることを提案したいと思われます」
「フランス、イタリア、ルーマニア、スロバキア、ハンガリー、チェコに日本人街を建設するとともに、日本が担当する地域で独逸とオーストリアにも日本人街を設けよう」
「マグヌードルは、ロンドンに赴任した料理人が開発したのですから、今回も意欲ある国民に公募をかけるべきです。うまくいけば第二のマグヌードルが発見できるかもしれません」
「今回の募集要項に『目指せ第二のマグヌードル、世界は君を待っている』といれますか」
官庁告示前回、英国で日本文化の伝道師を募集いたしましたが、両国並びに世界にとって有意義なものとなりました。今回、募集要項は日本文化の伝道師という条件は前回と同様であり、意欲ある個人並びに団体(こちらは三名までを日本のみなし公務員扱いとします、企画立案も受け付けます)を公募します。派遣先 フランス、イタリア、ルーマニア、スロバキア、ハンガリー、チェコ、独逸(ミュンヘン)今回求める人物像目指せ第二のマグヌードル、世界は君を待っている選考過程中
「おい、日本酒の申し込みも来ているがいくつにしぼるか?辛口、甘口、大吟醸、吟醸。焼酎に泡盛、果てはどぶろくまで応募が来ている。これをふるいにかけるのは、納得いく答えが出ない可能性がある」
「酒は当分の間、輸出で行う。現地に立ち上げるのは文字通り酒屋と居酒屋をおく。第一次選考に残った酒を全て店頭に並べ現地で飲み比べてもらい、資本主義のならわい、弱肉強食でいく。生き残った酒のみが現地生産できる資格を有するものとする」
「それなら、納得できるだろう。大資本なら現地で日本人街の隣に土地を買い、販売ルートを構築すればいいさ。今回の応募している大企業にはそちらを提案しておこう。酒屋におかれる一品ではなく、現地で一店舗もしくは総代理店を通して面で攻めてもらおう。今回は、品質にこだわった結果、大量生産品は一次選考で落ちましたとしておく」
「次は、緑茶に抹茶か。たしかにこれぞ、日本文化だが受け入れられるかね?」
「それがこれは手ごわいです。日本のおもてなしは茶室文化にあり。そう企画立案をされると、和菓子、琴、生け花、和服、足袋と連携している節が見られます」
「現地に赴任しているご婦人方は喜ぶだろうな。ええい、日本式家屋をそれぞれの派遣先につくってやる。その中で家屋利用時間と部屋割をして日本館として利用させよう。現地に根付いたらさっさと独立してもらうとして、これは採算が取れなくても国民は納得するだろうな」
「次は、キムチに焼き肉か」
「確かに東アジア限定の文化だな。これはなくてもかまわないんだが、これを採用しなかった際の不平不満が怖い。ただし、周りと摩擦を起こした際の対応をきちんと明文化しておこう」
「次は海産物か。この判断は難しいね。中華の食材であるふかひれ、ナマコ、わかめ、昆布、海苔あたりはすでにアジア圏で輸出体制が構築されているものを西洋に伝播するとしても日本文化の伝道師といえるか?もうすこし、企画立案段階から掘り下げる必要があるな」
「すでに西洋で出回っている豆腐、醤油、ラーメン、うどんは選考過程から却下だ」
「同様に酢、味噌、沢庵、奈良漬も単品としては採用しない。醤油職人ならそれらを調合できる。売れる可能性があればすでに売っているだろうし、醤油を調達できる環境ならば、それらも料理人は自分で作るさ」
「それらはすでに日本文化の伝道師を必要としていないと選考理由にあげておけ」
「ちなみにうな重の判断だが部署で検討した結果、保留となった。現地でウナギを調達できるのならばウナギ職人を派遣できる。しかし、市場にウナギが出回っている可能性並びにうな重に適した種であるかどうか、各国日本大使館を通してまずは調理してもらうことにした。各国の駐留外交官がうまいと言えば、該当国に職人を派遣するものとしよう」
「輪島塗に瀬戸物は、茶室文化に付属しておけ」
「なかなか、企画段階でマグヌードルになるようなものはみあたらないな」
「あれは、ラーメン屋がお持ち帰り用に努力した結晶だからな、ここに持ち込まれた段階で成功しそうなものならすでに実用化されていると考えてもおかしくはない」
「たしかにそうなんだが、今回、これを達成すれば一気に日本食が普及しそうなものがこれだとおもうんだが、これに賭けてみるか?」
「海軍と陸軍にも担当官がいてな。話をうかがったところ、かなりの練度を要求するとのことだ。これを小型化して家庭に普及させようとしたら思いもつかないとのことだった」
「とりあえず、これが実用化させることができたとして、イタリアで水田を確保しておく。いままで米を確保するのに苦労していたんだが、産地をイタリアのポー川沿いに広げる。なに、インディカ米をヤポニカ米に交換するだけでできるそうだ。この企画が失敗する前提でも日本米の需要は急増しそうだから、各国の日本人街向けに増産体制を敷いておく」
「しかし、今回の選考は疲れたな。マグヌードルの発明家が億万長者になったおかげで、錬金術師の募集と思われたか?醤油で欧米市場を押さえれるならうちの製品でできないわけがないと思われたか?それとも、一国一城の主を夢見る者が大量に応募したか?」
「日本に対する愛国心の表れと思ってるのは少数派だろうな」
とある総合商社
「戦争が終わると今まであるだけ輸出できた体制が崩れるな。被災地並びにそれを輸入していた地域にたいして代換え品という形で日本製品を売っていたんだがこれからは厳しくなるな」
「いや、きな臭い地域がある。現在、共産党と国民党が小競り合いをしている中国だ」
「二年前に南満州鉄道社員の家族には国外避難勧告がでている」
「世界中にあふれた武器の供与先になるということか?」
「共産党には陸続きの赤軍がT-34 と爆撃機と迎撃機を電撃作戦用に義勇兵という形で主力兵力として介入しつつあるということだ」
「もうひとつの武器があふれかえっている米国からもその情報を入手するや否や国民政府に肩入れして、M4戦車並びにライトニングを大売り出ししているとのことだ」
「日本の対応は?」
「有事の際、満州鉄道はさっさと放置して朝鮮半島に逃げ込めと指示されている。遼東半島並びに日中国境線(中国と朝鮮半島の境界線)では、人海戦術で戦車が通過できない幅を掘り下げている。これは国境線に押し寄せる移民に対する防衛線として前々からあったものを戦車に対応できるまでに拡張しているということだ」
「防衛のみか?」
「海上戦力があふれているおかげで、三方を海に囲まれている遼東半島と朝鮮半島は海上戦力を主体として対応していく模様だ。陸軍戦力は欧州の占領地に兵力を割かねばならなくて予備師団も枯渇模様だ」
「現地の警察組織を兼ね合わせ、英語の通じない占領国への派遣はかなり難航しているようだ。戦力の半分をパレスチナ人とユダヤ人で補っているくらいだそうだ」
「ユダヤ人は、通訳としても一流だろうな」
「戦時中、スイスのレマン湖にスイス―エルサレム共和国間を往復輸送する飛行艇を用意していたおかげで戦時中、避難民がスイス経由でエルサレム信託地に集まった。東欧からの移民も多かったので、エルサレムで枢軸国占領地の通訳並びに兵隊を募集したところ、通訳には事欠かない数が集まったそうだ」
「ま、第三回エルサレム信託地の入札倍率を見た限り、入植者があふれていたのは予想されていたことだが」
「さて、わが社としてはアメリカに対する補給物資需要をみこんでアメリカ軍の上陸地点に港湾施設一式を準備しておきたい」
「フィリピン基地から中国に陸揚げするとなると、広東州か福建州だな」
「両州の中間地点に保険をかける意味で倉庫を借りておこう。福建省アモイ市に軍需物資を保管しておいてくれ」
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