仮想戦記 『バトル オブ ゼロ』

著者 文音

  第08話 終章編

 1941年(昭和16)十一月二十日

 シチリア島日本司令部

 「ロレンス元師、フランス侵攻作戦はできてますかな?」

 「英国と調整中です」

 「確かにそれは必要でしょうが、それまでに日本軍でできることがあるでしょう」

 「たとえばどんなことでしょうか?ド=ゴール将軍」

 「フランス南部の空爆です」

 「確かにそれは重要なことですがどこを空爆しますか?」

 「もちろん、武器供給を止めるための空爆です」

 「具体的には?」

 「艦砲射撃で沿岸部の火力発電所を、空爆で水力発電所並びに変電所を爆撃するのです。その場所は、フランス地図を元に赤丸を付けていきますね。こことここ、それにあっちとそっちです」

 「わかりました、一度この作戦目標を空爆してみましょう。成果があればまた目標を示してください」

 「戦果を期待しておりますぞ」

 「バタン」

 

 

 「よろしいのですか?安請け合いしても」

 「では、君、これからこの目標に対して戦果を期待できませんから実行できませんと断ってきなさい。私はそれで構いませんよ」

 「いえいえ、それには及びません、結果のいかんにかかわらず請け負ったことだけはやってみましょう。けっして私が自由フランスに行きたくないというのではありません」

 

 

 十一月二十五日

 シチリア島日本軍飛行場

 「いいか。ここにいるメンツの中には、バトルオブブリテンの経験者がいる。あの戦いの中で迎撃側が有利だった理由の一つにたとえ迎撃させられた場合でも地表に怪我なく着陸できれば、その日のうちに隊に復帰できることだ。これからフランス領の爆撃に入るわけだが、たとえ、迎撃されて地面に落ちた場合でも助かる場合がある。フランスは独逸の占領地だ。独逸兵に拘束されればそれまでだが、一般市民もしくはレジスタンスに拾われれば捕虜にならないでスイスもしくは連合国領に連れてってもらえる可能性がある。よって、お前たちにおまじないを教えておく。

 周囲の人間がMの字を手で表現してくれたら、レジスタンスのメンバーである可能性が高い。その場合、英語でワールドパスワードといえ。日本語で言う世界の合言葉だ。助かりたかったら、今のことを忘れるな」

 「はいっ」

 

 

 コルシカ島簡易短波放送局 午後七時

 「フランスの同士につぐ。我々自由フランスはフランスの地に戻ってきた。それはここコルシカ島であり、フランスが大陸の覇者となった時代にはじまりの地でもある」

 「そして、同士のみなさんに約束しよう。我々は必ずパリに戻ってくると。もう独逸になど協力する必要がないと。独逸の片棒を担ぐ必要などないと」

 「もちろん、独逸をフランスから追い出すのだがどんなに遅くとも来年中に達成されることを約束しよう。しかも、それは最悪の事態であり、現実はもっと早く独逸を追い出せるであろう」

 「今、独逸の置かれている状況を説明しようではないか。独逸は勝手に始めた戦争を自分たちで終わらせることができない。なぜなら独逸一国を全世界が包囲しているからだ。どんなに独逸ががんばったところで生産力は五分の一でしかない。単純に言おう、独逸の戦車一台を連合国の戦車五台が包囲している状況は、包囲する戦車が増えるばかりでしかない。もっといおう、独逸にあるのは陸続きの土地でしかない。そう、地中海に浮かんだ島一つ、取り返そうにも戦艦がない、輸送船がない、ないないずくしの国でしかない」

 「え、イタリアがいるじゃないといわれても、イタリアはこの戦争で一回も勝ったことがない、戦艦も基地にひきこもりをしている。そう植民地にシチリア島も我々が奪い返したものだ」

 「イタリアの状況を言おう。イタリアはすでに厭戦気分が蔓延している国だ。戦争をして得たものは何もない。失ったものは、三個師団とシチリア島並びに植民地としてのリビアだ。街中の会話はドイツ駐留軍さえいなければ連合国側につこうというものだ。いまから戦勝国になろうというものだ」

 「だから我々はもうイタリアを相手にしない。フランス解放とギリシャ解放をした地点でイタリアは連合国に寝返ることになっている。それでは、フランスで一番有名な曲から今夜の放送を始めよう」

 

 

 「進め祖国の子らよ 栄光の時が来た 我らに対し暴君の 血塗られた軍旗が掲げられた 血塗られた軍旗が掲げられた 聞こえるか 戦場で 獰猛な兵士の怒号が 奴らは来る 汝の元へ 喉をかききるために 汝らの子の

 市民らよ 武器を取れ 軍隊を組織せよ 進め 進め 敵の汚れた血で 田畑を満たすまで 市民らよ 武器を取れ 軍隊を組織せよ 進め 進め 敵の汚れた血で 田畑を満たすまで」

 

 以下フランス国歌(ラ=マルセイエーズ)が七番まで続く。

 

 

 十一月二十六日

 コルシカ島上空

 「おいでなすった。まあ、あれだけラジオ放送をすれば独逸もイタリアもほおってはおけないわな」

 「それを迎撃するのが日本軍の仕事というのがなぜだろうという気もするが、来てもらう方が都合がいいのも事実だしな」

 「しかし、そのために艦上機である零戦まで動員する必要があるのは納得いかないけどな」

 「しかし、人間てなものはそんなもんだよ。まずい事実をつきつけられたとき、武器があればそれで黙らそうとする」

 「イタリアから飛んでくるのは体制派とその部下」

 「フランスから飛んでくるのはラジオ放送をやめさせようとする軍部。なんせ、今日もあんなまずい事実を放送させられたら気が狂うか無気力になるかのどちらかだしな」

 「ただし、フランス本土から二百キロのここを護衛するのは109ではちとつらいものがあるんじゃないか。最短のカンヌからでさえね」

 「イタリアも同じだが、コルシカ島に近いところは田舎で飛行場がない。ローマもしくはフィレンチェ、ジェノバからだと三百キロ、これは偵察部隊とほぼ変わらんね」

 「109Fなら増槽でやってこれるが、そんな最新の兵器を自国部隊に行きわたる前に同盟国にしかも裏切りの二文字が漂い始めた国に配備するわけにはいかない」

 「独逸で今一番重要なことは独逸本土防空であり、それを満たすまで最新兵器を前線に送るのは無理だ」

 「それでは、Juのお相手をさせようかね。109が近付いた場合、最初に逃げろと伝えてある。勝手に引き下がってくれるからね」

 

 

 テゥーロンフランス海軍基地

 「いいか、今日の重要なことは昨日の不愉快なラジオ放送が今夜も流れるかどうかだ」

 「もし、今日も流れたら明日もコルシカ島まで空爆だ。もし、放送されなければ明日は休みだ」

 

 「ざざーーー」

 「やー、今夜もここコルシカ島から自由フランスによる貸し切り放送を始めるよ」

 「それでは、まずフランス国民に大きなプレゼントだ。何と元イタリア領のリビアでのバカンスだ。なぜって、それは明日のお楽しみだよ。明日になればわかるよ」

 「では、今日もフランスで一番有名な曲から始めよう」

 

 「明日の休暇はなしか、ド=ゴールめ。我々から休みを奪いやがって」

 

 

 十一月二十七日

 テゥーロンフランス海軍基地

 「うん、レーダーに映るこれは味方部隊か?何か故障でもあったか?」

 「それがコルシカ島に向かった部隊が引き返しているようです」

 「おい、これは多すぎる。敵機侵入とおもってくれ。早速空襲警報をだせ」

 「飛行場には、迎撃部隊が半分しかいません。」

 「それでもかまわん。さっさととばせ」

 

 

 彗星T

 「お、敵さん、大慌てしてるぞ。先陣の一式陸上攻撃機が飛行場空爆か」

 「自分たちが攻めている場合、油断が生まれやすいのは事実だ。こちらは迎撃に上がってくる戦闘機が少なければそれでいいが」

 「しかし、部隊の三分の二が目標を変電施設ですか?爆撃効果あると思うか?」

 「変電所からでる電線が一本なら効果は大きい。設備投資してクモの巣みたいに電線を張り巡らせていた場合、復旧は早いよ。さあ、どっちだろ?」

 「判定はレジスタンスの報告待ちか?」

 「ド=ゴールの言うとおり、明日から工場が動かないからバカンスだというのは今のところ、誰にもわからない」

 「目標発見、水力発電用ダムは的が大きくていいね」

 「急降下でいくぞ」

 「バゴーーン」

 「目標のダム決壊、退却だ」

 

 

 戦艦紀伊

 「よし、午後四時をもって火力発電所を砲撃する。空母四隻に護衛を頼むのを忘れるな」

 「発砲したら、引き返すぞ。今回の作戦名を発表する。楽園だ」

 「よし。主砲準備。撃て」

 「ズ、ドン」

 「面舵いっぱい」

 「お、飛行部隊がやってきたが少ないな」

 「こちらに入った情報では、マルセイユの飛行場を爆撃で封鎖したとのことです」

 「戦闘爆撃機を排除できればそれでいいが」

 

 

 テゥーロンフランス海軍基地

 「やけに日本が攻勢に出てくるな。こちらがコルシカ島に送りだしたために迎撃部隊が出払っていたせいでもあるが」

 「ド=ゴールがひっぱっているせいかもしれません」

 「南から戦艦部隊が来るとは思っていなかったが、海軍基地でなく火力発電所を狙ってくるとはね」

 「これが昨日のラジオ放送で言っていたバカンスをプレゼントする手段だったんでしょう」

 「確かに占領地で送電線をスパイダーネットにする投資を独逸がするわけはないからな。しばらくマルセイユ近郊で全ての工場は動かないだろうな」

 「独逸もフランスに発電所を建設する余裕はないしな」

 

 

 コルシカ島簡易短波放送局 午後七時

 「実は今日のリスナーは少ないんだよ。だからみんな出勤したら教えあってくれよ。マルセイユ周辺が停電で真っ暗であることを。ここ、コルシカ島からみても対岸のフランス領の明かりは見えないね」

 「しばらく、マルセイユ近郊では発電所も変電所も閉鎖されたから、中立国経由でフランス人ならリビアの避暑地へバカンスに出かけるべきだよ。仕事をしろと言われても電気がなければ大半の工場は動かないからね。電気が復旧する時期になれば戻ってきますよ。と言いかえしな。おっとごめんよ、ダムをいくつか決壊させたから一足先に水遊びしている人たちには謝っておくよ。ではいつものようにフランスで一番有名な曲から今夜も放送を始めよう」

 

 

 十二月三日

 シチリア島日本軍飛行場

 「今日で一週間になるがマルセイユに明かりがつかないね」

 「どうやら、発電施設を攻撃するのはかなり効果的なことがわかった」

 「次はどこを攻撃するって?」

 「イタリア南部の発電施設だそうだ。発電施設の場所は、土木設計をしたマフィアからの情報提供があった」

 「この作戦にはアメリカ軍も参戦する。ギリシャまでの飛行ルートに入っているイタリア東部をアメリカ軍が担当し、西部を担当する日本軍が水力及び火力発電所と変電所を爆撃することになった」

 

 

 十二月十八日

 独逸首相官邸

 「ここ一週間、枢軸国ですさまじい勢いで工業生産力が低下しております」

 「停電のせいか?」

 「はい、発電施設並びに変電所および送電線を止められますとその地域一帯の工業生産が止まります」

 「該当地域はどこかね?」

 「枢軸国全体に及びます。独逸本土を空爆する英国軍も日本軍やアメリカ軍による発電施設等に対する成果から試験的に導入したところ、独逸本国でも有効であることが判明しており、ここ最近の攻撃目標は電力関連施設を攻撃目標にされております」

 「さらに占領地では、レジスタンスが送電線を破壊するようになったため兵士は対爆撃のみならず山中に押し入って送電線復旧作業にかかりきりになっております」

 「対策はあるかね?」

 「かなり難しいですね。送電線の破壊作業よりも早く送電線を複数の線で結ぶことくらいですかね」

 「それは無理だ。金が続かない。想定外の事態に陥ったか」

 「電力を集中的に工場に送電してくれ。戦車と飛行機並びに弾薬を製造する工場には送電線を複数にして、一つのラインがとぎれても支障がないようにしておくんだ」

 

 

 スイスのとある諜報施設

 「いいか、これからフランス並びにイタリアで次の噂を流す。独逸には一週間遅れで噂が流れるようにしておく」

 「その内容は、ソビエトが近く独逸に対し攻勢に出ると。ソビエトが再び占領した地域では市民の半数が強姦並びに略奪の被害に出会うと。残りの半分に対してもシベリアへの強制移住が待ってると。この噂を振りまいてくれ。これはバルト三国が占領されたときに実際にあった話だから、俺はそれをリトアニア駐留赤軍兵からきいた、エストニアを占拠された散髪屋が言ってた、ラトビアでカフェから見えた等、事実を織り交ぜてくれればいい」

 「また、ポーランドではポーランド兵の捕虜十万人が赤軍に殺された。住民百万人がシベリア送りになったせいで、三つの街が消えた。噂らしくしているがこれらのことは諜報部がつかんだ事実だ。しかも今回の大戦で実際に行われた事実であるから、ソビエトに占領されれば略奪、強姦、強制移住に圧政が待っているとばらまくだけでいい。占領後に待っている生活は悲惨の一言であると諜報部でもほぼ間違いないとみているから真実の伝道師になったつもりで言いづらそうに話を広めてくれ」

 

 

 1942年元旦

 ドーバー海岸(英国)

 一家三人が一台の釣り船で海岸にのりつけた

 「お巡りさん、一家三名英国に亡命を希望します」

 「亡命をする理由を言ってくれ」

 「ナチス独逸の占領政策並びに赤軍からの恐怖から逃れるために大陸を離れました」

 「わかった。自由フランスが運営している区画がある。そこへ行ってもらう」

 「わかりました」

 

 

 「今日、十組目の亡命希望ですね」

 「どうやら、独逸占領地はひどい有様のようだな」

 

 

 独逸首相官邸

 「十二月の工業生産高です。フランス並びにイタリアでの出来高が半減しました。波及効果は枢軸国全体に広がりつつあります。また金をもつ占領地住民は姿をくらませつつあります。フランスなら船をもつものはコルシカ島を目指して、そのほかの住民はスペイン経由でリビア、モロッコに行こうとしています。生産高が半減したため、食料品が都市部市民を中心に行きわたりません。都市部では食料品を求めるデモが広がりつつあります」

 「このままでは占領地行政が成り立ちません。市民は食料品がいきわたらない限り、銃にも向ってきます」

 「一般家庭向けに電力を絞ったタイミングで大戦の事実が噂として流れた。停電でラジオからの放送を受信できなくなったせいなのは、放送された自由フランスからの内容が事実と受け止められたと思われた。もともと空爆を繰り返されるということは、制空権を奪われつつある証拠だからな」

 「目ざとい人間ならぼちぼち独逸を見限りそうだな。占領地からは食料品を隠し始めることだろう。独逸に協力的な占領地民はもともと仇がいなければ利で釣れた人間だ。そんな奴らから最初に連合国側に内通し始めることだろう」

 「しかし、赤軍だけには負けるわけにはいかないのでは?」

 「中国語でいう三光作戦か。その噂を仕入れた人間も自分の家族が可愛いよ。東部戦線には最新兵器と精鋭が配備され続けるだろうね。士気も維持されるだろう。東部戦線の戦力は維持されるだろうが他の戦線は前線が求めるものが届かなくて東部戦線に吸い上げられる可能性はあるな」

 「降伏する場合、東部戦線を残して降伏という場合もあり得る。今や赤軍はナチとともに恐怖以外の何者でもない」

 「先ほどイタリアより連絡がありました。ムッソリーニが失脚したそうです」

 「何?詳しくいえ」

 「はっ、元々ムッソリーニはイタリア王国において首相に任命されたものでした。王がムッソリーニを解任したとのことです。その後、イタリア北部に駐屯した独逸兵が再び武力を背景にイタリア北部を押さえました。代表にはムッソリーニを傀儡として指名しました。しかし、王族以下イタリア王国の面々は前線の兵士とともに南部を掌握し、ローマを中心とする政権をうちたてました。これには元々南部に構築された連合国対策の要塞線がそのまま独逸の掌握した北部と南部とを隔てる境界線となっております」

 「大陸に上陸されるのではなく、大陸から裏切り者が出たか」

 「総統が常々言ってたな。イタリアと組んだ方が負けると」

 「上に報告してこい」

 

 

 コルシカ島簡易短波放送局

 「今日はローマに立ち寄ったかえりだよ。何と一足先にローマ解放だね。自分で言っておいて何だが自分の予定は今年の夏の予定だったんだが欧州大陸から連合軍が解放した地域が出たよ。次はパリ開放だろうね。この放送が続く限りパリ開放は近いと思ってくれて結構だよ。さて今日はローマからの慶事ということで教会から聖歌隊を引き連れて放送するよ。最初にもってくる歌は、今ローマで一番歌われてる歌だ。特別にフランス語訳で歌ってもらうからね

 

 

 イタリアの兄弟よ イタリアは今目覚めた

 シピオの兜を頭に戴き 勝利はどこにあらん

 主が作りたもうたローマのしもべ

 我がイタリア その美しい髪を捧げよ

 さあ隊列を組め 我らは死をも恐れない

 イタリアが呼んでいる そうだ」

 

 

 ローマ日本基地

 「ひきこもりだったイタリアが日本に降伏か」

 「そう思ったが、実際はローマ戦線を挟んで独逸の傀儡政権とドンパチするから弾薬と戦車を送れとさ」

 「これ以上は北上させないでおこうぜ」

 「ああ、当初の予定通りイタリアはイタリア人に任せよう。万が一連合国側が不利となったらもう一回寝返るかもしれん」

 「海軍だけでもシチリア島に動かしとこうぜ。当初の予定日は変更なさそうだしな」

 「あ、それは問題ないだろう。独逸もついに主要国は一国だけだ。イタリアに前線を構築するために戦力を割り振らないといけないだろう」

 「西部戦線、東部戦線、イタリア戦線、ギリシャ戦線にそれぞれ対戦する国がいるんだから独逸も人的資源が枯渇するだろうな」

 

 

 シチリア島アメリカ軍基地

 「イタリアの降伏対象国に我々は選ばれなかったのか?」

 「それがイタリア王国側で我が国の新聞を手に入れていた模様で、アメリカはギリシャ解放をするまで他に手を出してはならないという情報を入手していた模様です」

 「それはそうだが、対象国に選ばれなかったのが無性にくやしい」

 「我々は、大戦で結果を出していませんから。たいして日本は、リビア、エチオピア、イタリアの解放者になってしまいました。コルシカ島を含めれば四カ国の解放者になるかもしれません」

 「まあ、議会政治だからな。我々は命令通りギリシャ解放に邁進しましたというしかないな」

 

 

 同年二月一日

 コルシカ島日本司令部

 「ロレンス元師、いつまで我々を待たせるつもりですか?」

 「それは、イタリアに戦車を送りましたせいで戦力に一時的に不足したものですから、後もうすこしお待ちください。戦力が補充するまで後少し時間が必要です」

 「それはわかっていますが、フランス本土で餓死者が出始めたというではありませんか。これ以上フランス国民が死ぬのを待っておれません」

 「それは問題ですね。わかりました、我々の作戦成功時には非常食を満載した飛行艇をピストン輸送させる準備をしておきます」

 「わかりました。後少しだけ待ちましょう」

 「バタン」

 

 

 「フランス解放なら英国に先に言えばよかったのでは?」

 「英国司令部に問い合わせたところ、半月前に同じことを言っていたとのことだ」

 「気もちはわかるんですが、冬に攻勢をかけるのがどれほど難しいのかと」

 「海越えだからな、冬はしける。春を待たずに海を渡れないのは、英国も日本も同じだ」

 「少し、イタリアに津波(T-34)を配置したおかげで不都合を直しているせいもあるんだがな」

 

 

 同年三月十五日

 独逸カレー基地

 「天気予報ではこれから五日間しけるとのことです」

 「よし、幹部連中に休暇申請を受け付けるといえ。期限は三日だ」

 

 

 英国司令部

 「明日、カレーに向けてX日を発令する。日本軍にも連絡を入れろ。アメリカ軍には目くらましの空爆要請を入れておけ」

 「はっ」

 

 

 三月十六日

 午前十一時

 独逸カレー基地

 「海上に大艦隊を組み英国が進攻してきます」

 「幹部に休暇取り消しを連絡せよ。このままでは指揮をする者がいない」

 「どうやら、天気予報精度でも英国に負けていたようだな。本日快晴でなぎだ」

 

 

 独逸トゥーロン基地

 「海上を連合国艦隊が埋めています」

 「戦闘機と爆撃機をあげろ。港湾に近づく戦力をすべて撃ち落とせ」

 

 

 戦艦キングジョージ五世

 「いいか、対岸にあるものを撃って撃ちまくれ。復讐の時はきた。我が上陸部隊に近づく者を全てなぎ払え」

 「久しぶりの出番ですな。独逸海軍がひきこもりになってからわが軍の戦艦も出番がありませんでしたからね」

 「制空権は確保した。数で押さえてるよ。後は、敵戦車を艦砲で押しつぶすだけだ」

 「後は兵力二百万が上陸後、孤立させないことだ」

 「夜のうちに、レジスタンスとともに空挺部隊が後背地を押さえにかかっています」

 「作戦本部としてもほおっておけば、カレーの港湾防御力が上がる一方ですから勝負だとおもったんでしょうね」

 「フランスで餓死者が出始めてる情報を得てからね。占領地政策がうまくいってないのは決行をした理由のひとつだよ」

 「後は、ド=ゴールが率いる南軍とどちらが先にパリに進攻するだけかだよ」

 「彼は、劇薬だね。今も日本のケツをたたきまくっているらしい」

 「南軍は、地元で地理に明るそうですから我々は不利ですな」

 「直線距離は、我々の方が半分だが、独逸に近い分だけ敵の反攻を食らいそうだな」

 「戦車の性能はどっちが上かね?それも明暗を分けそうだが」

 

 

 空母翔鶴

 「いいか、今日は地上部隊をたたけるだけたたけ、今日の任務は上陸支援だ。そのために今日はイタリア海軍からも戦艦を引っ張ってきている。今日が戦艦の活躍する最後の作戦かもしれん。防御よりも敵兵力の削減に重点をおけ。船は浮かんでいればかまわん。飛行機は空母が沈んだらコルシカ島にむかえ。その覚悟でやってくれて結構だ。日英海軍が全て出払っているが問題ない」

 「どうやら、敵部隊による妨害は少ない模様」

 「よし、津波でマルセイユ並びにトゥーロンの占領をおこなう」

 

 

 「司令、自由フランスが北上しています」

 「やむを得ん。あちらはガソリンエンジンだ。津波で追いかけろ。輸送部隊を追随させろ」

 「向こうは、百キロ先で待っていてくれるさ。M4はそういう戦車だ」

 「独逸兵はアルザス地方に退却したため敵と遭遇することは少ないと思うが」

 

 

 三月十九日

 「ド=ゴール将軍、ヴァランスです」

 

 

 三月二十二日

 「ド=ゴール将軍、リヨンです」

 

 

 三月二十六日

 「ド=ゴール将軍、ディジョンです」

 「このまま、パリにまでいくぞ」

 

 

 三月二十八日

 独逸パリ司令部

 「パリ市街地でゼネストがおこりました。郵便職員、地下鉄、警察の全てが止まりました」

 「レジスタンスがパリ市街地で蜂起しました。我々は南軍に対抗するため、市外にでておりこれに対処するのは困難です。敵兵力は二万人と思われます」

 「我々と同数か。では、市内の敵を落とすぞ」

 

 

 マルセイユ日本軍司令部

 「司令、パリでレジスタンスが蜂起したものの苦戦しています」

 「やむを得ん。二式飛行艇で武器弾薬をパリまで運べ。制空権をとるべく、戦闘機を飛ばせ。戦車をパリ南部に集結させろ」

 「敵兵力はわかるか?パリ周辺に二万人とのことです」

 「空挺部隊を出す。市街地を盾に戦車部隊が到着するまでレジスタンスをしておいてくれ」

 

 

 四月一日

 パリ市内でナチス国旗を掲げる役人が三色旗をかかげた。素材はカーテン生地とシーツであった。エッフェル塔、凱旋門、ブルモン宮殿で次々と旗は変わりつつあった。フランス人がその作業にかかわったため、独逸兵はまだ占領を維持していたが。自由フランスがパリ南東部を占拠。コルティッツ大将が自由=フランスに対し降伏を伝達。午後一時をもって解放の鐘がパリに鳴り響いた。

 

 

 パリが落ちたことで、カレー周辺を防衛していた独逸兵はロッテルダムへ退却を開始した。

 「ド=ゴールにしてやられたな」

 「彼はロンメルの電撃作戦経験者です。何度も地図を見ながらパリ開放を達成するのは自分たちだと作戦を練ったに違いありません」

 「まあ、我々もこのままカレー周辺で釘づけにされるよりはいいか」

 「パリにまで行く必要がなくなったと思えばいいかと。よし、今度こそ英国でロッテルダム開放を成し遂げて見せよう」

 

 

 キエフ赤軍司令部

 「パリが落ちたそうだが、独逸軍は兵力を西に移動させたか?」

 「いいえ、増強されることはあっても兵は脱走もしません」

 「なぜだ、パリが落ちたら次はベルリンだろ?」

 「我々だけには負けたくないせいかもしれません」

 

 

 ベルリン首相官邸

 「ゲーリング君、私は最後に独逸のために貢献するつもりだよ」

 「連合国は無条件降伏をつきつけていますが?」

 「戦線を今のまま維持する。正確には東部戦線かな」

 「このままですと、ベルリンが先に落ちてラトビアが後に残りそうですが?」

 「赤軍には降伏しない。たとえ英国に敗れてもだ。それが独逸国民のためになると思う」

 「わかりました。それに従いましょう」

 

 

 五月三日

 ロッテルダム開放

 

 

 五月十五日

 ケルン占領。独逸本拠をラトビアのリガに移す。

 

 

 五月十九日

 ベルリン占拠。

 

 

 五月二十五日

 独逸無条件降伏を受諾。

 

 

 赤軍キエフ司令部

 「やっと、独逸兵が引いていくな。我々も占領地を取り返すぞ」

 

 

 エストニア国境

 「司令、エストニアに英国国旗が上がっています」

 「バルト三国、フィンランドは全て英国国旗が上がっています」

 

 

 ルーマニア国境

 「日本国旗が上がっています」

 「スロバキア、ハンガリーもです」

 

 

 クレムリン

 「どういうことだ。枢軸国はすべて英国、日本、アメリカ(バルカン半島)に占領されてしまっているぞ」

 「各国からの返事です。ソビエトが求めた西部線戦。これを我々は達成したものであると」

 「バルト三国を力ずくで取り返せ」

 「それは無理です。独逸の東部戦線がそのまま武装解除に応じたとのことです。西部戦線と東部戦線の兵力が一つになると赤軍の兵力では破れません」

 「これは、ラトビアで自殺したヒットラーの置き土産のようです。ヒットラーはソビエトだけには降伏したくなかった模様です」

 「占領地の様子はどうだ」

 「食料不足を起こしていた地域にマグヌードル並びに各国の非常食が供給され始めたため、安定しています」

 「書記長、延期していた四十年オリンピックを日本が開催したいと言ってきましたがどうしますか?」

 「無視しろといいたいが、保留にしておけ。回答時間ぎりぎりまで引き延ばせ。それまでに各国の回答を集めておけ」

 「はっ」

 

 

 1942年十月十日

 「ここに大戦の影響で延期されていました第十二回東京オリンピックの開催を宣言いたします」

 「上空を飛燕Tによるデモンストレーションですか」

 「アメリカがへそを曲げなかったものだな」

 「アメリカにきいたんだ?42年に開催するとしたら開催できるかと?」

 「返事はできないだったよ。それで44年オリンピックの開催を確約させたら黙った」

 「アメリカには大戦に供給されなかった兵器等が使用された弾薬(三十万トン)をはじめとして未使用品が使用品と同じ分だけ残っていたせいで、その在庫処分に困っている話らしい」

 「オリンピック競技場の建設も今年から始めるつもりだったのも理由として大きいね」

 「M4などは、フランスで解放者のよび名がついたから自動車工場で増産真っ最中だったらしい」

 「M4は、フランスをはじめとする占領地各国で格安なら買ってもいいと返事が来たらしい。が、津波(T-34)の走行距離を知る者が各国にいるようでガソリンエンジンの戦車は金がないと手を出せないといわれてね。アメリカはガソリンもおまけでつけているって話だ」

 「それとフランスでは、ド=ゴールが大統領になって国際社会に復帰するらしい。人気者であることは確かだ。パリの解放者にして、ヒットラーに並ぶ演説巧者」

 「ヒットラーもそれほど悪くいわれていない。最後に独逸のためを思って戦力を東に固定したままだった。ヒットラーも西側が手薄なのは気が付いていたが世界を相手に戦う愚を悟っていたようだ。最後は、戦後を見据えたうえでの芝居だったようだ。」

 「たしかに、パリ開放は出来すぎだったな」

 「後継にはギリシャ防衛で名をはせたロンメル大将の名があがってるよ」

 

 

 「ソビエトがへそを曲げずにオリンピックに出てくるとは思わなかったよ」

 「それが同調国家がひとつもなかったのが大きい。独逸が参加できるようにオリンピックを延期したと言われれば、枢軸国も参加してしまったからね」

 「独逸に残っていた科学者はどうなるかと思っていたら、すでに自由意思で各国に散らばってた」

 「最高の科学水準軍団だったからね。彼らがいるせいで独逸だけは、日英米の共同統治になっていた。抜け駆け厳禁というわけさ」

 「ソビエトからは、少女二名がボグダン=フメリニツキー勲章を受章して帰ってきてるのは驚いたよ。早速、オリンピックのデモンストレーションに参加してるよ」

 

 

 同年十月二十四日

 「ここに第十二回東京オリンピックの閉会を宣言いたしますとともに、一通の通知がノーベル財団から届きましたことをお知らせします」

 「おい、受賞者は誰だ?」

 「物理学なら八木アンテナの開発者、八木教授」

 「文学賞はないだろ」

 「経済学もな」

 「生理学、医学分野ならビタミンの発見者か?」

 「平和賞なら天皇か?」

 「化学賞なら高分子化学分野か?」

 「まず、授賞理由から説明させていただきます。世界に広がる飢饉と人口増大問題に一つの回答を出してくれたことに我らノルウェーを代表して今回の授賞理由につながりました」

 「ということは、平和賞だな」

 「つづきまして受賞者を発表いたします。小麦の短諫種小麦十号を世界で初めて品種登録いたしました岩手農事試験場です」

 「ここにこの品種育成者である稲塚権次郎さんを迎え、次回開催場所であるアメリカ合衆国の国旗を掲揚してもらいます」

 「どうか盛大な拍手でお迎えください」

 「パチパチパチ」

 

 

 

 

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