月夜裏 野々香 小説の部屋

   

ファンタジー小説 『夜明けの晩に』

  

第01話 『ガイオス王子の苦難』

 とある部屋で数人の男たちが集まっていた。

 「・・・ダヴォ教の狂信者か、ザクト公国、ネピロス公国の残党の犯行に見せかけるべきだろう」 男A

 「それが最良ですが。しかし、そのどれとも共闘に失敗している」 男B

 「こちらが信用されていないだけだろう。しかし、どの勢力も何か画策している」 男A

 「・・・・われらの怨みを思い知らせるべきだ」 男C

 「そうだな」 男A

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 見覚えの無い城の庭園。

 見覚えの無い家臣。

 ガイオスは、女の子と遊んでいた。

 その女の子は、かわいく。大人しく花を摘んでいる。 

 ガイオスは、カブトムシを見つけて、女の子に近付けると悲鳴を上げて逃げ出した。

 ガイオスは面白がって捕まえたカブトムシで追いかけ。

 女の子は、泣きながら逃げ回る。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  突然。ガイオスは、起こされる

 「・・・なに?」

 ガイオスは、不機嫌そうに応える

 目の前の執事ムーゼスが憮然として睨んでいた。

 「ガイオス王子。お分かりだと思いますが勉学中に居眠りとは言語道断」

 「さらに起こされて不機嫌になられるとは呆れてものが言えませぬな」

 このフィリア王国で怖いのは、父サリオス王。母ニーナ女王。

 そして、この執事のムーゼス。

 あと、もう一人だけだった。

 少なくとも四人は、ガイオス王子の教育で問答無用の権限があった。

 「ゴホン! ガイオス王子、しばらくの間、眠らないように声に出して読んで頂きましょうか」

 不承不承に本を読み始める

 「・・・え・・・と・・・1000年前のダヴォの大災厄で人類は、星と呼ばれる世界と絶縁された」

 「我々の世界は、ダヴォの霧と呼ばれる雲海に周囲を覆われている」

 「この世界に住むようになったのはダヴォと呼ばれる生命体との戦いで人類が敗れたためである」

 「ダヴォの雲海。雲、そのものは人間に対し無害である」

 「にもかかわらず、人類がその雲の中に入ると苦しくなり魔物に襲われるのは謎である」

 「魔物は基本的に雲から出てこない。雲が何かを媒体しているのは判明している」

 「そして、その何か、こそが雲海を魔物の世界にしているのである」

 「ダヴォそのものが何なのかは、不明である」

 「しかし、遠い過去において人類は雲が何かを媒体していると知る」

 「対抗策として、天空を天翔る船を建造し、生きるための光でカオス世界を照らしたのである」

 「この光は、本来、ほかの場所を照らすはずだったという言い伝えがある」

 「しかし、信頼に値しない」

 「カオスの世界を建設できるのは、我々、生き残った民だけであり」

 「我々は、神によって選ばれし民である・・・」

 「・・・魔法物質の生成の過程は謎である」

 「ダヴォの大災厄以前、魔法物質は存在していなかった」

 「魔法物質が純粋な科学的産物でありながら、魔法と総称されているのは、その特異性にある・・・」

 

 ガイオスはヘタヘタと図書館を出ると王城に戻る。

 「王子、特別教室は終わりましたか?」

 近衛護衛軍の子弟で出来のいい同世代の男子、サラミスがガイオス王子の御付役になっていた。

 「ああ、終わったよ。自分だけ、余計に勉強して余計に鍛えられるんだからな」

 「それが、王子の務めですよ」

 「はぁ〜 不公平な気がする」

 「他が不公平と思わなければ良いんですよ。王子より優秀な家臣が多いと困るでしょう」

 「そのほうが嬉しいよ・・・・怠けられる」

 「ははは、午後はどうするんです?」

 「そうだな・・・科学技術研究所に遊びに行こうぜ」

 「随分、気に入りましたね」

 「まあな」

  

  

 科学技術研究所

 所長ワイベースは、ビーカーから気体を取り出して顕微鏡で見ていた。

 そして・・・・・・・・・・・・ 

 唸りながら、背もたれに体を沈める。

 「・・・遊びに来たよ。ワイベース」 ガイオス

 「・・・・・王子」

 「・・・あれ、馬なし馬車は?」

 「まだ、充電中だよ」

 「・・・・つまんね〜」

 「夜に充電器を差し込むのを忘れちまったからな」

 ワイベースは、資料を見ながら過去の物と比較していた。

 「何、やっているんだ? ワイベース」

 「本業だよ。本業」

 「馬なし馬車の新型?」

 「違うだろう。ダヴォの雲の研究だろう。馬なし馬車は息抜きだ」

 「そんなのやめて、馬なし馬車を研究しろよ。儲かるぞ」

 「あのな〜 そんなことができるわけ無いだろう」

 「世界が有害雲に覆われているのに緊張感の無い王子だな」

 ガイオスが透明なビーカーを持ち上げて中身を見ても、何も入っていなかった。

 「一体何なんだろうな。気体を雲の内側に持ってくると無害になる」

 「雲の向こうに行くと人間だけが苦しくなる」

 「人間以外のものは平気で行き来する」

 ガイオスは、ビーカーを振る

 「人間の何かに反応している。そして、この雲は何を媒体している」

 ワイベースは、顕微鏡に集中して気付かない。

 「馬なし馬車を雲の中に送って調べたらいいんじゃないか」

 ガイオスは馬なし馬車の充電量を見ながら呟いた。

 「そ・・・それだ・・・馬なし馬車なら、雲の中を調べることが出来るぞ」

 ワイベースが立ち上がると黒板で、あれこれ計算し始める。

 「なあ、ワイベース。あと何時間で動かせるんだ?」

 「あれと・・・これもか・・・・あ・・・いや・・・・こうして・・・」

 「ワイベース」

 「・・・・・・」

 「・・・・ワイベース!!」

 「ああ、うるさい! 外で遊んでろ! ガキども」

 ガイオス王子とサラミスは研究室から追い出されてしまう。

 「くそっ。ワイベースのやつ。あったまにくるな。子ども扱いしやがって」

 「王子、今日は、あきらめて町に行きましょう」

 「町か・・・・そうだな」

 「王子・・・それ、持ち出したのですか?」

 ガイオスは、ビーカーを持っていた。

 「あ・・・」

 「・・・・・・・・・」

 ガイオスは、何となしにビーカーの蓋をあけて覗き込んだ。

 「あ、ガイオス王子! 駄目ですよ」

 「大丈夫だよ。無害なんだろう」

 無害だというのは知っていた。

 何か特別な気体でないのも知っていた。

 「よしなって」

 臭いを嗅いでも思いっきり吸い込んでも何も起きない。

 「なんてこと無いよ」

 ガイオスは、蓋をしたビーカーをテラスの欄干に置いて行く。

 ガイオスは、ごく一般的な王子だった。

 しっかり教育されソコソコ大切に育てられていた。 

 帝王学らしきものも受けて、それなりに王子らしいところもあった。

 しかし、やはり子供で手持無沙汰に耐えられない。

 そして、王都といえ寂れていいた。

 閉鎖された世界で急激な発展というのは無く、どの国のどの町でもそうだった。

 つまらない町だ。

 大人であれば女遊びもあった。

 しかし、一三歳で女遊びはない。 

 興味が無いわけではなく、まだそういう気分でないだけといえる。

 「サラミス・・・・なんか面白いこと無いのかな〜」

 「午後は、剣術の時間ですよ」

 「げっ・・・・・まだ時間は、大丈夫だよな」

 「まあ、大丈夫ですけど。遅れるとザンジバル先生に酷いめに合いますよ」

 「・・・・・・・・」

 ガイオスは、少しばかり怯えた。

 「最近、ザンジバル先生は厳しいですからね」

 「ひぇえぇぇ〜」

 ガイオスは、頭を抱え、記憶を振り払おうとする。 

 

 フィリア王城 地下 

 ガイオスは、皮を巻いた棒を持ち、ザンジバル先生と一緒に黒壁の暗室に入る。

 扉を閉められると真っ暗。

 「始めるぞ。ガイオス王子」

 地獄の魔王が喋った錯覚にとらわれる。

 「はい・・・」

 ザンジバル先生は、実践的だった。 

 ガイオスは静かに位置を変える。こちらの気配を押し殺し、先生の位置を探る。 

 ・・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・

 叩かれているのは、ガイオスばかり。 

 ・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・ 

 ガイオスも、叩かれているだけでなく、横に薙ぎ払って抵抗する。

 ガイオスの棒が、かすりもしない理由は、リーチの違いだけでなかった。

 ・・・・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・ 

 相手は、こちらの動き明らかに見えている。 

 ・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・ 

 太い鞭で殴られているのと同じで、物凄く痛い。 

 ・・・・・・・!・・・・ 

 次の瞬間、圧迫感を感じて、横に動く。

 すぐそばを何かが動く気配を感じ、同時に推測した方向を薙ぎ払う。 

 ・・・バンッ・・・・抵抗があった。 

 ・・・・・・・・!・・・・ 

 さらに何かが迫ってきたのを感じ避けると風圧が過ぎ去る。

 そして、すぐに推測した方向を薙ぎ払う。 

 ・・・バンッ・・・・抵抗があった。

 棒で受け止められている。 

 ・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・ 

 次の瞬間、来ると感じ、棒で闇を払う 

 ・・・バンッ・・・・ザンジバル先生の棒を弾いたのがわかる。 

 次第に何か圧力のようなものが動いているような気がしてくる。

 自然と、そちらに意識が向けられていく。 

 ・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・バコンッ・・・・・・・・・・・ 

 ・・・バンッ・・・・ツゥ・・・・ボトッ・・・・ 

 棒が腕に当たり、棒を落としてしまう。

 「一休みしましょう。王子・・・・扉を開けてもらえませんか」

 王子は、ザンジバルの圧力のようなものを感じながら壁沿いに扉を探して開ける。

 「ガイオス王子。今日は、少しばかり進歩があったようですな」

 「はい。先生。ありがとうございます」

 ガイオスは、一休みできる事を喜ぶ。

 そして、すぐに医務室に行く。

 女医のサオリナ先生は、いつもガイオスにシップをしてくれる。

 「今日も、酷いようですね」 サオリナ

 「・・・・痛いよ」 涙ぐむ。

 「そのうち慣れますよ」

 「慣れたよ。最初の頃は、泣いてばかりだったけど、いまは我慢しているじゃないか〜」 泣き言

 「ガイオス様は、素質があるとザンジバル先生は、おっしゃっていましたよ」

 「王子なんだから手を抜いてくれたって良いじゃないか。死んだらどうするんだよ」

 「死なないように叩いていると思いますよ」

 「ウサギは、寂しいと死ぬんだよ。俺は痛いと死ぬんだよ」

 「人間、痛いくらいじゃ死にませんよ。逆に生きようという気力が湧いてきますよ」

 「湧いてくるのは仕返しの方法くらいだよ。俺が王になったら酷いぞ。ザンジバルのやつ」

 「くすっ 王子、そんなこと言ってたら、もっと痛い目にあいますよ」

 「いまは、ザンジバル先生の好きに出来るんですからね」

 「くそ〜」

 「それに、王様になってもザンジバル侯爵が相手だと厳しいでしょうね」

 「・・・・・」

 ザンジバル侯爵は、代々フィリア王国最強の支え手であり、フィリア王の右腕だった。

 「ぅぅぅ・・・痛くて死ぬ〜」

 薬を飲んでください。

 「うん」

 ガイオスは、痛み止めの薬を飲む

 「ねえ、あれは何?」

 ガイオスは、テーブルの上に置かれた小さな緑色の石に気付く。

 「ああ、これは炭鉱の地下で見つけたとかで、研究用に分けてもらったんです」

 「へぇ。エメラルド?」

 「少し違うみたいですね」

 「見せてもらって良い?」

 「ええ、どうぞ」

サオリナが、ガイオスの掌に緑色の石を乗せると緑色の石がぼんやりと輝きを増す。

 サオリナが気付いて。持ち上げると暗くなり。もう一度乗せると明るさが増す。

 「何か、感じますか? ガイオス王子」

 「少し暖かいような気がする」

 「少し。血を貰いますね」 棚からナイフを取り出す。

 サオリナの眼が本気だと自己主張している。

 「・・ぅ・・わあ・・・ちょ・・っと・・・あ」

 ガイオスは逃げ出した。

 「ちょっと待ちなさい。王子!」

 ガイオスは、医務室から逃げ出すとザンジバル先生に捕まる。 

 ガイオス王子はザンジバルに暗室に連れて行かれそうになる。 

 そこにサオリナがナイフを片手に追い付く。 

 首根っこ捕まれたガイオスを間にサオリナとザンジバルの交渉が始まる。 

 ガイオスは、どっちに転んでも不幸。 

 昔の本だと王子は、もっと安楽で豊かな生活が約束されている身分のはず。 

 カオス世界になって変わったのだろうか。

 他の王国でもそうなのだろうか。 

 ザンジバル先生とサオリナ先生は、緑色の石の反応を見て面白がり。

 遂にガイオス王子の血を採取。 

 ガイオス王子は、さらに暗室で闇打ちの訓練が始まる。 

 暗室の訓練は、痛く、脱臼スレスレというレベル。 

 その辺は、手加減をしているのだろうか。 

 ザンジバル先生に言わせれば、柔らかい皮を巻いた棒でも十分に人を殺せる、という話しだ。 

 そして、太陽の下でも剣術の訓練をする。 

 日の下で教わるのは技術であり、

 暗室で教わるのは、勘だった。 

 そして、その二つが融合することで剣術の腕が上がっていく。 

 もっとも、他人がどう思おうが、目の前のザンジバル先生は、まったく歯が立たない強さ。 

 王族に似つかわしくないガイオス王子の謙虚さは、圧倒的な力関係から来ている。

 

 ガイオス王子は、医務室でサオリナ先生にシップを張ってもらっていた。

 「もう少し、血を貰うからね。王子」

 サオリナ先生がナイフを手にする。

 ガイオスは抵抗する気力も失せていた。 

 時折、緑色の石をガイオス王子の掌に乗せる、

 そして、緑色の光が強まる石に頭を捻るサオリナがいた。 

 

 

 その日

 ガイオス王子は、執事のムーゼス。ザンジバル先生。サラミスと馬に乗って国境の巡回に向かう。 

 やはり同世代といる方が気が休まるのか、ザンジバル先生、ムーゼス執事と離れ。

 ガイオス王子はサラミスと一緒に川沿いを歩いた。

 国境をまたぐ商人が、行き来している。

 「サラミス・・・国境だな・・・」

 「ガイオス王子。川向こうは、デセート王国です」

 「・・・・白馬に乗った王女様が俺を迎えに来てくれないかな」

 「ははは」

 「涙で枕を濡らしながら。俺は待っているんだよ」

 「ははは」

 「笑い事か、見ろよ。この打撲の跡」

 ガイオスが頬に付いた青痰を指差した。

 「デセート王国に王女がいたかな?」

 「別に、どこだっていいさ・・・」

 「さてと、帰るか。国境地帯は異常無し」

 たまに国境線の巡回が仕事として回ってくる。 

 王子に国境を調べさせることで、責任感と国の広さを教育する。

 それだけ。

  

  

 ガイオス王子は医務室でシップを張られていた。

 「ガイオス王子。このペンダントを身に着けてください」

 サオリナが緑色の光る宝石が付いたペンダントをガイオスに渡す。

 「これ〜 魔法石なの? 宝石は女の持ち物だろう。男がつけるもんじゃないだろう」

 「良いから。身に付けて決して外さないでください」

 サオリナが冷たく言い放つ

 「わかったよ」

 ペンダントをつけると緑色の光が強くなる。

 「何だろうね。この宝石・・・魔法石でもなさそうだけど」

 「毎日、体調を報告してくださいね」

 「ハイ、ハイ」

 「ハイは、一回」

 「ハイ」

 ガイオスは知らなかった。

 サオリナは、いろんな人間で試し、変化が無いと確認した後、

 ペンダントという形でガイオスに身に付けさせていた。

  

 

 


 月夜裏 野々香です。

 SFファンタジーものです。

 地球の遠い未来ということにしました。

 それでいて魔法も使いたい。魔族も出したいという前提です。 

 魔法抜きでもやれるのですが、やってみたいです。

 ファンタジー。 

 魔法は、早いうちに最強魔法が出てしまいます。

 ですが、普通は、使いません。 

 魔法の備蓄が無くなってしますと使えなくなってしまうからです。

 もっと費用対効果で簡単な方法を使います。 

 魔法の力は、アクセサリー程度、決定的な要素でなく。

 小賢しい使い方に終始します。

 

 

 

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SFファンタジー 『夜明けの晩に』

第01話 『ガイオス王子の苦難』

第02話 『ダヴォの雲と魔法石』

登場人物

諸王国