月夜裏 野々香 小説の部屋

   

ファンタジー小説 『夜明けの晩に』

  

第02話 『ダヴォの雲と魔法石』

 カオス世界は、直径1000kmの円周の中。

 カオス世界

 中部域のフィリア王国と外周に位置する4つの王国。

 東のデセート王国。

 南のザクオン王国。

 北のドラクーン王国。

 西のコルレア王国。

 5つの王国に別れていた。

 内側は、山・森・川があり、雨も降れば雪も降る。

 自然、そのものはダヴォの雲の向こう側と繋がっている。

 しかし、人間にとってダヴォの雲は、死の雲だった。

  

   

 南のザクオン王国

 ダヴォの雲壁の手前に軍団が集結。

 雲の向こう側と

 こちら側。

 違いは、不明。

 各国ともダヴォの雲の秘密を探ろうと、いくつもの研究機関を組織していた。

 シェラは、灰色の雲に向かってロープをつけた水筒を投げ込み。

 引き戻す。

 水筒を調べてみても、人に害をなす物質は存在していない。

 ダヴォの雲は、王国によって呼び方が違っていた。

 雲でなく、霧と呼ぶ場合もあった。

 「タダの霧じゃ ないのか?」 シェラ。

 かといって水筒に付着した土壌に毒物らしきものはない。

 長槍と弓で脅された死刑囚がダヴォの雲の中に追い詰められていく。

 霧の中に入ると苦しみ。

 黒い魔物に襲われる。

 逃げ戻ってくる囚人が途中で倒される。

 魔物に捕まる前に兵士が矢を放って、ロープを引き摺り戻す。

 シェラが死体を検分する。

 「・・・わからんな」

 「皮膚呼吸で苦しくなるわけ。でもないようですね」 弟子

 「毒性がまったく掴めない」

 「酸素ボンベと防護服で気密性は高いはずですが」

 「地下道を掘っても駄目・・・気密性の高い服でも駄目・・・」

 「なのに鳥は、行ったり来たりしている」

 ダヴォの雲間から二羽の鳥が旋回しながら出てくるのが見える。

 「人間だけが苦しむ毒があるのか?」

 「1000年前に天空に打ち上げた天翔ける船がカオスの大地に光を落とし」

 「ダヴォの霧からカオスを守っている 」

 「ということは1000年前、その毒性の秘密が解けていたということですよね」

 「資料は無いが静止軌道上に衛星があるんだろうな」

 「光を落とした場所は間違えたようだが」

 「やはり、間違って・・・ですか?」

 「たぶんな」

 「しかし、宇宙とか、星空とか、本当なんでしょうか?」

 「さあな・・・信じない者は多い」

 シェラが丸秘と書かれた書類を開くと、それらしい写真が載っていた。

 「たぶん本当だろう」

 「1000年前の船が壊れもせずに・・・ですか?」

 「疑問は、たくさんあるよ」

 「ええ・・・しかし、不可解な霧です」

 「!? ・・・まさかな」

 「何です?」

 「いや、不意に禁じ魔法が思い付いた」

 「・・・ははは、まさか」

 「直接の呪いなど、自分の首を絞めるようなもの、正気な人間はしないだろうな」

 「ええ、自殺志願者でもなければ・・・」

 「魔法石を使って、人の心臓を直接止めようとすると、自分自身の心臓が不整脈になる」

  

  

 フィリア王国

 庭園でムーゼス執事の授業が行われていた。

 「よろしいですか? ガイオス王子。魔法石に付いて説明します」

 「はい」

 ガイオス王子。気の無い返事

 「魔法石が発見されたのは、1000年前です」

 「これを製造したのは、いまは失われた。加速器という機械を使ったといわれています」

 「フラーレンと呼ばれる物質にトップクォークと呼ばれる粒子を閉じ込めることに成功したのです」

 「トップクォークは大きなエネルギーを起こして対消滅。つまり消えてしまう粒子でした」

 「しかし、フラーレンと呼ばれる物質に閉じ込めたことで対消滅を止めることが、できるようになりました」

 ムーゼス執事は、本を読んでいるだけ、

 教えている側も、教わっている側も、わからない内容だった。

 「このフラーレンを結晶化したものが魔法石です」

 「そして、重要なのは、ここからです」

 「この魔法石が人間の持つ気に従って備蓄と放出をするという特性があるということです」

 「現在、魔法石は、カオス世界で大小合わせて140個から160個があると思われています」

 「そして、備蓄できる気のエネルギー量も魔法石によって様々です」

 「そして、魔法石は、それを使う人間の気質によって性質が変わります」

 「基本的に動かしやすい粒子からになります」

 「風、火、水、土という様に段階を追って動かせるようになります・・・・」

 「では、ガイオス王子。魔法石を身に付けてください」

 ガイオス王子は、赤い魔法石のペンダントを身に付ける。

 正体不明の緑色の石のペンダントと二つ並ぶ。

 「では、意識を集中して」

 ガイオスは気を意識して、赤い宝石に気を溜めて、一気に放出する。

 見えない空気の塊が木に当たって震える。

 「ガイオス王子。風系統は、こういう使い方をすべきですな」

 ムーゼス執事は、少しばかり集中すると、次の瞬間に木の枝を切り落とした。

 「・・・あ」

 「カマイタチです」

 「真空状態を作って物質を切り裂きます。コツは木の細胞壁に沿って効率良く裂くこと」

 「石もそうです。衝撃を与える角度や場所が正しければ、スパッと割れます」

 「気を放出するのは簡単ですがエネルギーの浪費です。まず気で風を操ることが基本です」

 「温度差で風を操ることが出来れば、摩擦で湿度を飛ばし、乾燥した空気の道を作って・・・・」

 次の瞬間、火の玉が勢い良く飛び出し。まっすぐに飛んでいく。

 「乾燥した道を作ることです」

 「・・・・・・・」

 ガイオスは、あっけに取られる。

 「いまのは、大気を摩擦させて湿気を飛ばしました。水を操るのは、その応用です」

 「科学的に水は、酸素と水素で作られているので、これを分離するか、結合させるかです」

 「つまり火を使うと、同時に他の場所に湿気を集めることになるので、周辺の湿度が高くなります」

 「この応用で周囲を冷却させて氷の結晶を帯電させると・・・」

 熱源の周囲が冷やされ、スターダストの様なものが現れ、びりびりと帯電が始まる。

 「雷をぶつけることも出来る様になるわけです」

 「つまり、風、火、水、電撃は、連続技で行うのが合理的です」

 「もう一つ、風で小さな砂煙。微細粒子を巻き起こしながら火を起こすと爆発が大きくなります」

 ムーゼス執事は、そういったかと思うと、

 砂煙を巻き起こしながら突風で木を切り裂き、木を燃やし、

 周囲は、バチバチと雹混じりの放電をぶつけ、

 そのまま砂塵を巻き込んだ炎が爆発を起こして、木をバラバラに吹き飛ばした。

 「炭塵爆発」

 「これは、埃でも起こせます。ですから、いまいる場所、環境を考え、魔法を使うことが最良です」

 「その為に自然科学の知識が必要になるわけです」

 「良いですか風上に向かって火炎を使うような愚かなことはしないでください・・・・雨の日もです」

 「雨の日は、氷の矢か、雷撃です。自然に逆らわず。利用することを忘れないでください」

 「はい」

 「そして、忘れてならないのが魔法石によって蓄積できる気の量に限界があります」

 「気を溜め込むには数日を必要とします」

 「というわけで、魔法石を使う場合は・・・・ガイオス様、わかってますね?」

 「あ・・・戦略的にもっとも効果的な状況を選んで使うこと。また、緊急避難」

 「そういうことです。ただし、直接人間を燃やしてしまうような形で使わないように」

 「まずエネルギー消失が激しすぎること」

 「気を覆っている人間に魔法は困難であるばかりでなく」

 「フィールドバックで精神障害に陥りますからね」

 「多くの国が弓矢を加速させることに魔法力を利用するのは、それがもっとも楽だからです」

 「はい」

 「では、わたしに向けて攻撃してください。魔法防御は、重要ですから」

 ガイオスは、精神を集中して風を起こし、攻撃する。

 いずれも出来損ないの攻撃だったがムーゼス執事に届く前に消失するか、逸らされる。

 そして、遂に魔法力がゼロ。

 「魔法で攻撃するより。魔法で防御するほうがエネルギーの消失が少ないということです」

 「エネルギー消費は、距離に比例して少なくなるので近い方が有効です」

 「相手の行おうとする反対の現象を起こして、消失させるか、逸らせます」

 「逸らす方がエネルギーの消耗が少なく。複雑な計算も必要ありません」

 「しかし、仲間と行動している時は、逸らす方向を十分に計算する必要性があります」

 「はい」

 「では、今日は、ここまでです。魔法石への気の蓄積を忘れないようにしてくださいね」

 「はい」

  

  

 暗室。

 ガイオス王子は、サラミスの肩に掴まり、ボロボロになって出てくる。

 医務室。

 サオリナ先生は、手当て、そっちのけ。

 ナイフで、ガイオスの血を採り、緑色の宝石との反応を見比べる。

 『・・・俺は、きっと不幸な星の下に生まれたんだ』

 『きっと。他の子供は仲間たちと遊びまわっているじゃないか』

 ガイオス王子は、痛みを堪えながら、そのまま眠ってしまう。

  

  

 ザクオン王国の外周域

 王国軍が、ダヴォの霧の向こうに向けて大量の矢を放つ。

 10人あまりの魔法使いが矢を加速させると、勢いを増して霧の中に吸い込まれていく。

 数分後、防護服を着た兵士が霧の中に押し入り、

 矢を受けて死に掛けている魔物5体を霧の中から引き摺りだしていく。

 「こちらの被害は?」 シェラ

 「兵士3人が行方不明。4人が負傷しています」 弟子

 「そうか、遺族への見舞金と負傷者への医療費を払わないとな」

 「これが死傷者の名前です」

 弟子が紙を渡す。

 「ふぅ〜」

 死傷者に感銘があるわけでなく、思い入れもない。

 遺族への見舞金と負傷者への医療費は、兵士の士気に直結している。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 戦闘に勝てば良いというわけでもない。

 師団費を考えれば、最小の被害で最大の戦果をあげるべきであり。

 国庫が空になればじり貧。

 未亡人が増えて恨まれ、時に感謝されたり。

 どちらにしろ、農産物が減ると面白くない。

 「モリサカ中隊を置いて、行方不明者を一週間ほど待つ」

 「では、駐屯地へ戻って魔物を解体しよう」

  

  

 フィリア王国

 馬に乗ったガイオス王子とサラミスが丘の上に立って国境の街道を見詰める。

 「サラミス・・・商隊だ。良いよな。好きな国に行けて」

 「好きな国じゃなく。利益の上がる王国に行くのだと思いますよ。雨の日も風の日も」

 「鞭で殴られるのと、どっちが、いいかな」

 「ははは・・・・」

 「奴隷だって、もっと大切にしてもらえるよ。きっと」

 「ははは」

 サラミスが、わずかに同情する。

 たとえ奴隷でも生かさず殺さずだと消極的な労働しか得られない。

 積極的な労働力を得ようと思えば、一定水準の保障が必要だった。

 きちんと働くのであれば、鞭を振るは無駄。

 当然、ガイオスのように毎日のように鞭で打たれて。というのはない。

  

  

 ガイオス王子が商人の市場に行くと外国の農産物、工芸品が並んで人だかり。

 ガイオスも、サラミスも、馬を降りて外国の珍しい商品を見て回る。

 20代の男が手を振っている。

 コルレア王国の商人で証拠はないがスパイと確信していた。

 「やあ、ガイオス王子。新種の痛み止めが入ったんだが、どうだ」

 商人が袋を放り投げ、放物線を描いた袋がガイオスの手に落ちる。

 「シクラス。いつも実験薬の差し入れ。ありがとう。嬉しいよ」

 ガイオスが苦笑い。

 シラクスは、職種が違ってもサオリナと同類と直感する。

 「なあに、たいしたことないさ」

 「定期的に打ち身を作ってくれる貴重な人間だ。大切にしないとな」

 「は・・は・・・はは」

 「それで、王子。この前の薬は、どうだった?」

 「良いけど臭いが強過ぎるよ。少し沁みるのは我慢できるけど、治りは少し早い気がする」

 「そう・・・か・・・やはりな」

 「シラクス。また儲けているんだろう」

 「フィリア王国に流通している金貨をどこに持って行くつもりだ」

 「薬剤が一番、儲けやすいんだ。量が少ないのに値打ちが高い」

 「それでいて特産品や配合。精製の過程が複雑。普通は手に入りにくい」

 「あれは?」

 ガイオスが指差した。

 「お・・お目が高い。ドラクーン王国御用達の剣。希少金属をふんだんに使って特殊加工したものだ」

 「軽量且つ、折れ難く、強靭にして。柄に魔法石をはめ込んだ極上品」

 シクラスがガイオスに剣を見せる

 「魔法石が小さい、備蓄できる魔法力が少なすぎるよ」

 ガイオスが剣を検分する。

 「対魔法防御専門だよ。矢を逸らすのが目的だな」

 「軽い上に、その気になれば、魔法力で剣を重みを加えながら加速させて振り下ろせる」

 「並みの剣では勝てないよ」

 鞘から剣を抜くと自分が持っている剣の半分くらいの重さで軽く。振りやすい。

 これで強度が同じなら圧倒的に有利だ。

 「ドラクーン軍と斬り合いはしない方が良いね」

 「高過ぎるから持っているのは、王族や師団長くらいのものだ」

 「・・・ふ〜ん・・・いくら?」

 「1000000」

 ガイオスは、鞘に戻すとすぐに返した。

 王都で最高級の家が買える金額だった。

 魔法石の値段からすれば倍。

 ガイオス王子が毎月貰っている、お金では、とても足りない。

 費用対効果なら別のモノを買うだろう。

 人を倒すなら手刀でも、その辺に落ちている岩でも良い。

 限界スレスレで命のやり取りしているわけではなく、剣の優先順位は低かった。

 「魔法使い同士の戦いになると互いの遠距離、中距離の攻撃は負担が大きい」

 「魔法防御で身を守りながら近付いて、こいつで振り下ろすのが効果的なんだぞ」

 「残念だけど “戦う前に話し合え” と教わっているんだ」

 「まあ、味方を増やして、国を守るのが王様の仕事だからな」

 「これは?」

 ガイオスが見かけない小物の集まりに気付く。

 「ダヴォの雲から回収したもので良くわからないな」

 「1000年前のものか・・・・・」

 ガイオスは、興味深そうに手にとって眺める。

 「今回は、随分多いね。ダヴォの雲に入ったの?」

 「どこかの国の軍隊がダヴォの雲に突入した戦利品でね」

 「当たり外れがあるがソコソコに掘り出し物もある」

 ガラスの玉の中に絵が書いてある。

 これほどの微細加工は魔法でも困難で、どうやったのか、まったく、わからない。

 「確かに珍しいね」

 「あ・・・黒妖石の欠片もあるのか。ダヴォ教に襲われるんじゃないの? シラクス、大丈夫?」

 黒光りしている小さい宝石があった。

 魔物の体の中に一つ入っている。

 ダヴォ教信者は、これを体に埋め込む。

 そして、一般的にも価値がある。

 「ダヴォ教徒だって金は持っているだろう。余裕がある者は買うからな」

 「ただの宝石で体に埋め込んでも変化が無いのに・・・・」

 「宗教上の気休めさ」

 

 

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第01話 『ガイオス王子の苦難』
第02話 『ダヴォの雲と魔法石』
第03話 『復 讐』
登場人物

諸王国