月夜裏 野々香 小説の部屋

   

ファンタジー小説 『夜明けの晩に』

  

第03話 『復讐』

 王族が王都を出て地方を巡回する。

 これは、治世のためでフィリアに限らず、どこの王国でもやっている。

 木漏れ日の街道を馬の群れが落ち葉を踏みながらを進む。

 サリオス王の馬。その後ろをガイオス王子とニーナ女王の馬が並び。

 周囲を50頭の軍馬が警戒していた。

 ガイオスは、訓練が無いだけで清々しい気分・・・・・

 不意に体が萎縮する。

 突然。

 ニーナ女王と一緒に馬から落とされる。

 落ちた衝撃で、しばらく声も出ないガイオス。

 2m以上の高さから何の前触れもなく落馬させられれば死ぬこともある。

 周囲で喧騒が聞こえ。

 しばらくすると起こされる。

 「・・・お、おかあさん・・・」

 ガイオス王子は、母親の肩に矢が刺さっているのを見ると真っ青になる。

  

 数刻後

 ザンジバル侯が何かを抱え。

 従者が白い馬を曳いて戻って来る。

 ザンジバルは、一人の子供をボロ布の塊のように地面に放り落とした。

 周りの兵士は、いつでも殺せるようにと剣を抜く。

 「子供ではないか・・・本当に子供の仕業なのか?」 サリオス王

 「これを・・・」

 ザンジバルが弓と矢を王に渡す。

 王は、女王に刺さっていた矢と見比べる。

 冤罪は王の威信低下と直結している。

 王は、間違うわけにはいかない。迷ってもいけない。神の様な判断力を求められた。

 「・・・同じ所有者だ」

 サリオス王の目の色が変わり。護衛隊が、その襲撃者に近付く。

 「・・・誰に頼まれた」 サリオス王

 「・・・・・・・・」

 「答えろ!」

 「父上と母上の仇! この先、おまえ達に平穏が訪れると思うな!!」 女の子が叫んだ。

 ボロをまとった暗殺者が女の子だと知ると周りが少しばかり動揺する。

 「・・・・名前は?」

 サリオス王の目が冷たく光る。

 背後関係さえ分かれば殺すつもりだった。

 「ネピロス公国の・・・フレア」

 ネピロスの公国の公女の一人。

 「生き残っていたのか・・・・それでは、覚悟してのことだろう・・・・やれ」

 指名された兵士が剣を振りかざした。

 「・・・待ってください。王。お慈悲を」

 ニーナ女王は、包帯を肩に巻き。痛々しそうに少女の前に出る。

 兵士がどうして良いのかわからず止まる。

 「お願いです・・・王」 ニーナ女王

 この日、ガイオスは、母ニーナ女王が父サリオス王に願い事をするのを初めて見る。

  

  

 フィリア王国

 ある屋敷

 「あの娘のおかげで襲撃計画は、失敗した」 男B

 「なんということだ。念入りな計画がバカな娘によって。全て無駄にさせられた」 男A

 「サリオス王・・・まさか、命拾いしたと思っていないだろうな。運の良い男だ」 男B

 「しかし、ネピロスの公女が生き残っていようとは」 男C

 「何もしなければ、我々が復讐していたのだ」 男A

 「・・・・これで機会は遠ざかった」 男B

 「やり直しだな」 男A

 「しかし、ニーナ女王は、どうしてフレア公女の嘆願をしたのだ」 男B

 「立場が似ているからだろう」

 「ネピロスも、ザクトも、サリオス王に滅ぼされた国同士」

 「ニーナ女王もかわいそうなお方だ。間接的だが両親の仇と・・・・」 男C

 「フレア公女と接触しようとするネピロスの残党がいれば交渉できるかもしれないな」

 「公女がこちらの監視下にあるのも悪くない」 男A

 「しかし、いままでフレア公女がどこに保護されていたのか、気になるが・・・・」 男B

 「あの姿だ。着の身、着のままだったのでは?」

 「ネピロス公国の残党と接触していれば、もっと良い生活をして、もっとまともな襲撃をしたはずだ」 男A

 

 

 ガイオス王子は、サラミスと馬で遠出。

 他に従者の馬が二つ。

 襲撃事件後、グレイクとアルロイが従者として増えていた。

 「・・・・・・・・・」

 ガイオス王子は顔色が悪かった。

 「王子。ニーナ女王は無事だったのでしょう」 サラミス

 「ああ・・・毒矢じゃなかった。あとは打撲だけだったから・・・」

 「フレア公女か・・・暗殺者が元ネピロス公国のお姫様とはね」

 「俺、呪われたんだ。いやだな。あんな風に言われるなんて」

 「自分の王国と両親を殺されたんだ。怒るよ。普通」

 「だけど、俺に向けて矢を射ったんだぞ。危なく死ぬところだったんだぞ」

 「一番の復讐だな。王国を滅ぼそうと思えば王子を狙うのは最短だよ」

 「・・・・あのフレア公女。白い馬に乗ってたな」

 「招待されたのが天国じゃな・・・」

 「王子に当たってたら即行で首をはねられていたよ」

 「母上は、どうして、助けたんだろう」

 「それは、本人に聞かないとわからないよ。サリオス王が決定を覆すなんて、珍しいことだから」

 ガイオス王子一行が建設中の橋を慰問する。

 ある程度、若い人間を集めて公共事業をさせるのは、悪さをさせないためでもあり。

 同時に王国を豊かにするためでもあった。

 建設所

 責任者に橋の建設状況を聞く。

 わかるようで、わからない、

 しかし、聞いている振りだけでもモラルが維持できる。

 当然、理解するようにムーゼス執事に言われている。

 自然科学の理解力が増せば、それだけ効率良く魔法を使える。

 いくつかの質問をし、図面を見ながら、わかった振りをして頷くのは仕事だからだ。

 そして、訓練より楽だった。

 橋を検分し、働いている者に親しく声を掛け、不満があれば聞く。

 これも仕事だった。

 不満があれば監督官の弱味になって、王族の立場が良くなる。

 不正があれば正す。

 それで威信に繋がる。

 賢い振りをする必要はなく、意見を聞いて善政をする振りで良かった。

 そして、善政こそ、王政の王道で、これに失敗するとクーデターに繋がる。

 これが共和制や本にある民主制になれば、自分のせいじゃないと逃げることが出来た。

 王政の失敗は、王族の死と直結する。

 ガイオス王子は訓練の厳しさから民主制が良いのではないかと、口にこそ出さないが思っていた。

 「・・・王子」

 サラミスが崖の上を見ていた。

 白馬に乗ったフレア公女が崖の上から見下ろしていた。

 「・・・弓矢は、持っていないだろうな」

 「監視付だよ。そんな物、持てるはずないよ」

 「歩き回れるんだ」

 「ニーナ女王の預かりで自由みたいだ」

 「女王への恩義で、いまのところ復讐の心配は無い気もする」

 命を狙われた経験は、ガイオスの心境に変化を与える。

 暗室の訓練で勘が良くなっても、いざ矢が飛んできた時、反応が体の萎縮では話しにならない。

 それより、母ニーナに助けられた事が問題だった。

 死ぬほど訓練を受けても動けない。

 訓練を受けていない母ニーナは、一瞬の判断で我が子への愛で動き、息子を助けた。

  

  

 暗室

 厳しい訓練にもガイオスの姿勢は前向きになり良くなっていく。

 いざ前向きになると。いままで後ろ向きだったことがわかる。

 白馬に乗った王女が迎えに。という妄想は消えており。

 同じ失敗をするつもりもなかった。

 とはいえ、前向きになっても、ザンジバル侯爵は強すぎた。

 いつものようにガイオス王子は、ボロボロになって暗室から出て行く。

  

 そして、医務室では、ボロボロの体を横たえるが血を採られて、

 ガイオス王子は、適当に手当てをしてもらうとそのまま寝てしまう。

 

 夢を見ていた。

 知らない城で女の子と遊んでいる。

 大人しく静かな女の子。

 一緒に手を繋いで城の中を探検し、

 堀の池に石を投げ落として、

 水柱を立てては、楽しんだ。

 

 そして、猛火、城全体が燃やされ、

 無数の矢が向かって来る。

 大人たちが少女を連れて行こうとする。

 少女は、ガイオスと手を離すのを嫌がった。

 しかし、少女は、大人たちに連れ出され、

 ガイオスは、一人残される。

  

  

 起こされるガイオス王子

 「ガイオス王子」

 「・・・はい」

 「どうやら、その緑色の宝石は、あなたを回復させる効果があるようです」

 サオリナ医師が書類に何かを記入する。

 「魔法石なんですか? これが」

 「いえ、王子の心身とその緑色の石が共振しているようです」

 「どうやら、それを付けている方が回復が早いようですね」

 「・・・・・・・・」

 「魔法石より受身的な要素が強いようです」

 「気を溜めて放出するより、ガイオス王子の心身と共振する鏡のようなものです」

 「結晶質の宝石は、人との関係でそういった性質も持つこともあります」

 「心身というのは気のこと?」

 「そのへんの解明は、まだです。もうしばらく。時間が必要ですね」

 「まだ、血を採るんだ」

 「当然です」

 サオリナがニヤリとする。

 ガイオス王子は、王になったら、やりたいリストにサオリナ医師のいじめを入れる。

 表立って出来ることではない。

 しかし、人間、何か失態をしでかすものだ。

 そのとき、刑罰を数パーセント上乗せしてやるのだ。

 誰も、わからないだろう。

 本人さえも・・・・

 そのとき、同じ表情をしてニヤリと笑ってやる。

  

  

 城内のテラスを歩くガイオスとサラミス。

 自分を射殺そうとした少女が前から歩いてくる。

 歳は、ほとんど変わらない。

 背丈も同じ程度。

 どちらかというと精悍で整った顔をしている。

 フレア公女の後ろに監視の兵士が付いていた。

 フレアから最低限の儀礼上の礼を受けただけ、視線で敵意がわかる。

 ガイオスは、フレア公女とすれ違う。

 緊張の一瞬。

 次の瞬間。

 夢で見ていた少女とフレアが重なる。

 「・・・・あ・・・」

 ガイオスの素っ頓狂な声にフレアが止まる。

 「あ、あの城の女の子・・・小さい頃。一緒に遊んだ」

 「・・・・・・・・・」

 フレアの冷たい眼がガイオスを射抜く

 「・・・・・・・・・」

 「忘れていたの・・・・良いご身分ですこと・・・わたしは、あなたを忘れたことがなかった・・・・・」

 そう言うとフレアは去って行く。

 ガイオスは呆然と立つ。

 あの時のフレアは大人しく、泣き虫で物静かで、かわいかった。

 いまのフレアは、精悍でカミソリのような刺々しさで別人。

  

  

 図書室

 ムーゼス執事、ガイオス

 「王子は、ネピロス公国の人質だったのです」

 ムーゼス執事は、事も無げに言う。

 「ネピロス公国は、旧アグローブ王国で最強だったのです」

 「アグローグ王国は、悪政と腐敗で混乱していました」

 「配下のフィリア公国、ネピロス公国、ザクト公国の連合軍によって滅ぼされたのです」

 「3公国の中でネピロス公国が最強でした」

 「ネピロス公は、忠誠の証にフィリア公国とザクト公国に人質を求めたのです」

 「そして、ガイオス王子は、人質になったのです」

 「その後、フィリア公国とザクト公国が連合を組んでネピロス公国を滅ぼしたのです」

 事情がわかると意識も変わってくる。

 「母上が、フレア公女の嘆願をしたのは?」

 「立場が似ているからでしょう。ニーナ様は、ザクト公国の忘れ形見」

 「ザクトの公族は、アグローブ王国とネピロス公国との戦いで大きな損失を受け、力を失っていました」

 「ザクト公家は、娘のニーナ様をフィリア公国に引き渡しフィリア王国に吸収されてしまったのです」

 「そう・・・」

 「カオス世界では良くあることです。争いが尽きないのはダヴォの狂気という者もいますがね」

 「争いの種が人間の私利私欲で、それが人間に内在しているのは事実です」

 「そして、このカオス世界で生きていける人間の数は、決まっていますからね」

 残酷だったが事実だった。

 ガイオスとフレアは、時折、すれ違う。

 互いに無視していた。

 しかし、相手を意識しているのが伝わる。

  

  

 森の中

 ガイオスは、ムーゼス執事に魔法の訓練を受けていた。

 魔法は、剣の訓練と違い一度消費してしまうと魔法石に気が蓄積されるまで数日必要だった。

 しかし、ガイオス王子は、緑色の宝石のおかげで一日、二日で魔法石の気を満杯にする。

 これは王子とサオリナだけの秘密であり。誰にも教えない事にしていた。

 カマイタチが木の枝を削ぎ落とす。

 竜巻が土煙を巻き起こしながら木を包み込み、放電を起こしながら爆発する。

 ムーゼス執事は、満足したように頷く。

 「それが魔法における。もっとも威力のある攻撃法です」

 「しかし、普通は行いません」

 「エネルギーの消耗が大き過ぎるからです」

 「普通は、矢を射るとき、増速させる」

 「また。崖から岩を落とす」

 「剣の軌道を変えるなど。消耗が少なく、楽な方法を使います」

 「魔法だけで攻撃をしないのが最善の戦法です」

 「良いですか」

 ムーゼスはポケットから針を取り出した。

 「そして、それを投げると、30本ほどの針が瞬時に木に深々と命中する」

 「・・・・・・・」

 「これで、人は死にます。大技で魔法石のエネルギーを消耗させてしまうのは愚かです」

 「はい」

 「それと人を殺す場合。精神的な反動で障害が起こりえます」

 「王子は、なるべく防御魔法に徹するようにしてください」

 「攻撃は、他の者にやらせるのです」

 「仮に攻撃しても最後のとどめは、他の者にやらせてください。王族は人を殺してはいけません」

 「はい」

  

  

 暗室

 ガイオスは、闇の中で、いくつかのコツを覚えていた、

 自分の気を飛ばして、相手を撹乱するのが効果的だった。

 それでもザンジバル先生の位置がわからず。

 混乱しているうちに、ボコボコされてしまう。

 

 

 

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第02話 『ダヴォの雲と魔法石』
第03話 『復讐』
第04話 『スパイラルハート』

登場人物

諸王国