Book Review 北川歩実編
『書斎』トップページに戻る
『若おやじの殿堂』トップページに戻る
北川歩実『嗅覚異常』
1) 祥伝社 / 文庫版(祥伝社文庫) / 平成12年11月10日付初版 / 本体価格381円 / 2000年10月28日読了祥伝社文庫15周年特別企画・400円文庫シリーズの一作として発表された中篇作品。
[粗筋]
古川夏海は、ある事故を契機に嗅覚に異常を来している。夏海の恋人でもある富坂正嗣は彼女の症状研究を共同で行うことを、植田理歩にメールを介して提案してきた。夏海の特徴的な嗅覚異常を研究することで、「意識」の存在が実証できるかも知れない、という主旨である。夏海の強力も取り付けたその矢先に、正嗣が実験に使用していたラビットが、脳に差された電極を弄られて殺される、という事件が発生する。状況から理歩の犯行としか考えられない、と訴え、富坂は共同研究の話を反古にした。理歩の恋人であり、最近探偵に転職した嶺原克哉は、成り行きから富坂の所属する研究室の長である谷本真千子から真相解明の依頼を受ける。一連の事実に裏に隠されている真相とは――?[感想]
如何にもという香気を伴った北川ミステリ。実の処アイディアの骨幹は全てタイトルに集約されていて、気付く人はかなり早いうちに真相を見抜いてしまうだろうが、解決に至るまでの展開は自然かつ丁寧で論理的。その所為で、造型の整った登場人物達が何処か無機質に映ってしまう辺りも常通りなのだが。中篇という長さのお陰で、この人の長篇で良く感じさせる後味の悪さが薄い(というより、寧ろ本編はいっそ爽やかとも形容できる)のが買い処かも知れない。(2000/10/28日記中にて言及、2000/11/13[粗筋]など追加の上切り出し)