Book Review 近藤史恵編

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近藤史恵『この島でいちばん高いところ』
1) 祥伝社 / 文庫版(祥伝社文庫) / 平成12年11月10日付初版 / 本体価格381円 / 2000年11月13日読了

 祥伝社文庫15周年記念特別書き下ろしとして上梓された400円文庫の一巻、「無人島」テーマ競作の一冊として刊行された中篇作品。

[粗筋]
 仲のいい17歳の女子高校生グループで、海に出かけた。けれど海水浴場は彼女たちにとって鬱陶しいだけで、そう宿のおばさんに話したところ、近くにある穴場を教えて貰った。日に一度往復便があるだけの無人島。他に訪れるのは釣り人ばかりで、海を独占状態に出来ると聞いた。聞きしに勝る景勝の海で、少女達は精一杯に遊び、うたた寝をして――うっかりと帰りの船に乗り損なう。空腹と恐怖をどうにか凌ぎながら一夜を明かしたとき、彼女たちの一人が欠けていた。――そうして、少女達は非現実的な恐怖の直中に投げ出される。

[感想]
 ミステリとしては味わい不足――ではなく、そもそもこれをミステリと言う方が誤りと思える。少女達が残酷な現実に出逢い、過去の己を殺して成長していく物語に過ぎない。随所に細かなアイディアが盛り込まれ、実際に謎らしきものも描かれているのだが、あくまで彼女たちの成長を促す部品に過ぎない。
 成長、と便宜上表現したが、一読して貰えればそういう言葉も何処か似つかわしくないと感じられるだろう。そういう点も含めて、取り敢えず自分で読んで何かを感じていただきたい作品。決して完成されてはいないが、それ故に価値がある、と思った。マイナスをつけたくなるのは、ミステリという看板の所為としか考えられないのが些か辛いところ。

(2000/11/13)


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