Book Review 歌野晶午編

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歌野晶午『生存者、一名』
1) 祥伝社 / 文庫版(祥伝社文庫) / 平成12年11月10日付初版 / 本体価格381円 / 2000年10月28日読了

『長い家の殺人』でデビュー、以後作風のマイナーチェンジを繰り返しつつ堅実かつ意欲的な本格ミステリを上梓し続ける歌野晶午が祥伝社文庫15周年記念400円文庫シリーズ中の「無人島」テーマ競作の一巻として発表した中篇。

[粗筋]
 教義に基づきテロを実行、教団の導きにより、海外逃亡の準備が整うまでという話で、私達実行犯五名は無人島に匿われた――と思っていた。だが、案内役として同行した教団幹部・関口が、部下の稲村を置き去りにして唯一の船を用いて出奔、そのまま何日待てども戻らなかったことで、初めて自分達の立場を悟った。絶望しつつも、何とか生き残る道を模索していたその矢先に、取り残された稲村が何者かの手で殺害された。誰もが彼を殺す動機を持っている、或いは、彼らの知らぬ第三者がこの島に存在して稲村を殺害したのか。疑心暗鬼が齎す不安と緊張が、許より危険なバランスにあった私達の精神状態を激しく揺さぶる――

[感想]
 個人的には、『ROMMY』による復活以降の歌野作品と初めての邂逅だったりする(って、ジャーロ掲載作品があるか)。非常に野心的ながら、骨格を抽出すると実はストレートな「そして誰もいなくなった」だと解る。結末の転回に至るまでの推理過程と、読者に解釈を委ねた結末が勘所。余計なテーマを持ち込まずひたすら核心に突き進んだ、潔いミステリとして楽しめる。……まあ、ちょっと勘がいいとやっぱり題名で割れるんだけどね、この結末は。

(2000/10/28日記中にて言及、2000/11/13[粗筋]など追加の上切り出し)


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