若おやじの戯れ(ゲーム批評)Volume1


戯れの頭に戻る

Back to Home

ADAM THE DOUBLE FACTOR

発売元・C's Ware
本体価格8800-

Windows95/98対応

総合評価・☆

 『EVE burst error』(PC98・SS・Windows95)、『EVE The lost one』(SS・のちにWindows95移植に際して『The Lost One〜Last chapter of EVE』と改題)と続いたC's wareのドル箱シリーズの最新作。発売元はPCのアダルトゲーム業界で老舗としていっぱしの地位を築いていたのだが、ここしばらくWindows対応ソフトで致命的なバグや期待を激しく裏切る出来の作品を続発したため、かなり信頼を損なっていた。シリーズ前作の『The Lost One』(Win版のこと)で「EVEシリーズの完結」を唱ってしまったため、『ADAM』という看板の元にシリーズを再開した恰好である。本来そういう日和見主義的な姿勢も批判されて然るべきな気もするのだけれど。

 『EVE The Lost One』が不興を買ったことを反省してか(詳細はLost Oneのページを参照のこと)、一度は脇役に回された天城小次郎と北条まりなを主人公として再度起用、『Lost One』で殆ど破壊された世界観を極力『burst error』のそれに引き戻して、仕切り直しを図っている。
 取り敢えず世界観の再生だけはある程度成功していると言ってもいい。しかし本来第一作『burst error』で独特な空間の生成に貢献したシナリオライターはその『burst error』を最後にC's Wareを退いているため、全般に「第一作を模倣している」という感が強い。それでも銃器に関する蘊蓄や、『The Lost One』では結局一人も存在しなかった裏世界のプロフェッショナル的キャラの登場、暗号に殺人トリックの採用(どちらもちゃちなものだが)など、評価できる部分も散見されるのだが……
 結局、本編における問題点の一切は、きちんと物語が収束していないということに尽きるだろう。一応作品の中で発生する殺人や発砲事件の謎は(謎と呼べるほどのレベルではなかったにせよ)解決しているのだが、作品自体を前作・前々作と繋ぐ展開の全てが放り出されたまま、唐突にゲームは終わってしまう。例えば小次郎とまりなを取り巻く人間関係に兆した変化であるとか、EVEシリーズに根を下ろすある組織の更なる暗躍であるとか、そういった思わせぶりなニュアンスをばらまくだけばらまいて、回収しないまま、どうやら物語は次回に続いてしまっている。
 中途半端なところで物語を切り、次回へ購入者の興味を繋ぐ、という手法自体は別に珍しくもない。漫画などではしょっちゅう行われていることだから、それだけなら今更腹立ちもしない。問題は、本編がゲームであり、パッケージにも広告にも何処にも「続編があります」などと銘打たれていた訳ではない、という点にある。
 前口上でも述べたことだが、ゲームの真髄は「勝ち負けがある、さもなくば一つの納得いく答えが提出される」という面にある、と私は考えている。この作品は分岐のない一本道のシナリオを採用し、そういう意味においてゲームの主眼を謎解き――即ちある場面で物語を進めるのに必要な何かを探し出す作業――においており、プレイヤーにゲームをしているという気分を与えられる部分は他にはない、と考えるべきだ。しかしこの作品では、進行に必要なフラグの大半が、謎解きではなく時間の推移を促すための繰り返し作業に設定されており、「謎が解けた」というカタストロフィではなく、「やっと話が先に進む」という諦め加減の感慨が先に立つような作り方をしている。この時プレイヤーには「どうして先に進めたのか」という理解が生まれず、つまりそこには勝ち負けはおろか、納得のいく答えも存在しない。そうしてだらだらと物語をやらされた挙句に、展開の殆どに決着が付けられないまま終ってしまうのでは、ただ釈然としない思いばかりが残る。少なくとも私には全く評価できない。
 こういう造りをすることが初めから目的だったなら、発売元は予めその旨告知するべきだったのだ。途中で終る、と納得して買ったならあの結末でも(満足はしないにせよ)悪いことはない。きちんと解決編足る続編をプレイヤーに示すことで問題はなくなる。ゲームというものに対して誰もが続編を期待しているわけではないのだから、それが最低限の礼儀というものの筈である。しかしC's wareでは発売前に(実際には今に至っても)その努力を怠り、事実上未完成の作品を市場に供給して平然としている――そういう印象が否めない。この作品をシナリオ面で正当に評価して欲しいなら、C's Wareはこの不手際について、購入したユーザーに対しきっちり頭を下げるべきだろう。
 しかし、もし本当にC's Wareが態度を明確にしたとしても、納得のいかないことは残る。この作品は業界で初めてCD-ROM版と共にDVD-ROM版を提供したことで知られているが、実際にはCD-ROM版でも二枚に満たないボリュームしかない(DVD内の総容量を調べたところ、900MBそこらしか入っていなかった)。「入れ換え作業の手間が省ける」という惹句が添えられているが、現実にはそれ程の恩恵は感じられない。どうせあとから続編を提供するつもりだったのなら、端から作品自体のボリュームをCD-ROM三枚なり四枚なりに増やし、取り敢えず一個の作品として(発売済のEVEシリーズをやったことのないプレイヤーでも)納得できる程度に作り上げてから市場に出すべきだったのではないか? そうすれば先の惹句にも説得力が伴っただろうし、途中がどうあれ(結末が余程馬鹿げたものでもない限り)プレイヤーに不満を与えることはなかったはずだ。

 システム自体はそこそこの出来といえる。いつでもセーブは取れるようになっているし、取り敢えずプレイに支障を来すようなバグがなかっただけでも成長したと捉えてあげたい。だが、本来アピールされている側面に見所がないのは戴けない。アニメーションについてはそこそこまともなエンジンを独自に開発しているので、その動き自体は滑らかで綺麗なのだが、全編で数えるほどしか(深川の記憶ではオープニングとエンディングしかなかったような……)使われておらず、演出もお粗末なので楽しめるというレベルではない。
 それ以上に、広告にもパッケージにも画期的な新システムのように打ってあった『Touchable view』というのがどうしようもなかった。何のことかと思えば、要はプレイヤーによる行動指示をビジュアル画面の任意の箇所をクリックすることで代用するという奴。結局はゲームデザインの問題でしかないし、デザインと捉えても作品の質の向上に寄与したとは思えない。第一、同様のスタイルは他社の幾つかのソフトでかなり昔から採用されているのだ。具体的に挙げると、18禁ソフトとしてはelfの『遺作』『YU-NO』、アボガドパワーズの『涼崎探偵事務所シリーズ』2編、一般作ではSSの『慟哭そして…』、最近ではFairy Taleの『リップスティックAdv EX』が該当する。私が把握していないものも数多あるだろう。目新しさの何もない手法に、明らかに宣伝目的の名称を添えるのは逆効果ではなかろうか。少なくとも私は発売前から反感を持っていた。
 また、この作品はシリーズキャラクターが多数出演しているが、その殆どを(恐らく一人を除いて全て)旧作と異なる声優が演じている。それ自体はアダルトゲームという性格上仕方のないことなのだが、そこまでした割には性描写が薄く、物語上の必然性にも乏しい。出来からすればHシーンぐらいしか売りはないのだから、せめてここだけでもまともに作ってくれれば良かったのに、と思うのだが……(しかもまりなのHシーンには彼女の声は入っていない……基本的にまりな視点のシナリオでは彼女の声を排除しているからなのだが、かつて『デザイア』では女性視点の時にそこだけ女性の音声を入れるということもやっていた。今回敢えて排除した意図がよく分からない)

 結論としては、間違っても人様に勧めていいようなゲームなどではない、ということだ。それでもやってみたい、買ってみたいと仰言るのであれば、今のうちから続編の購入資金を用意しておくべきである……正直、この現状では本当に出せるのかどうかも怪しいものだけれど。

戯れの頭に戻る

Back to Home