/ 『8人の女たち』
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『light as a feather』トップページに戻る8人の女たち
原題:“8 femmes” / 監督・脚本:フランソワ・オゾン / 共同脚本:マリナ・デ・ヴァン / 原案:ロベール・トマ / 製作:オリヴィエ・デルボスク、マルク・ミソニエ / 撮影監督:ジャンヌ・ラポワリー / 音響:ピエール・ガメ / 編集:ローランス・パヴェダー / 美術:アルノー・ド・モレロン / 衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ / 振付:セバスチャン・シャルル / 出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、イザベル・ユペール、ファニー・アルダン、ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、ダニエル・ダリュー、フィルミーヌ・リシャール / 配給:GAGA Communications
2002年フランス作品 / 上映時間:1時間51分 / 字幕:古田由紀子
2002年11月23日日本公開
公式サイト : http://www.gaga.ne.jp/8femmes/
劇場にて初見(2002/12/14)[粗筋]
事件はクリスマスを控えたある日、長女スゾン(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が寄宿舎から帰省した朝に発覚した。館の主の妻でありスゾンの母であるギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)に次女のカトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)、ギャビーの母であり足を悪くしているマミー(ダニエル・ダリュー)、ギャビーの妹で欲求不満気味のオールドミス・オーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)らが和やかながらもどこか不穏な会話を交わしていると、なかなか起きてこない主の部屋へ食事を運んだメイドのルイーズ(エマニュエル・ベアール)が悲鳴を挙げた。カトリーヌが駆け込んでみると、そこには背中にナイフを突き立て、ベッドを深紅に染め倒れた主の姿があった……
一同は現場保存のために主の部屋を封印したが、次第に疑心暗鬼に取り憑かれていく。主に怨みを抱いていたのは誰か、互いに憎み合っていたのは誰か? スゾンらを育てた家政婦のマダム・シャネル(フィルミーヌ・リシャール)、主の妹で元ヌードダンサーのピレット(ファニー・アルダン)までも巻きこんでの暴露合戦の果てに、明かされた真相とは……?[感想]
アガサ・クリスティの推理小説ハリウッドミュージカル風味。
元々舞台で上演するために書かれた脚本、と言われても頷くだろう、ほぼ完全な密室劇である。登場人物も題名通り8人の女のみ、一応館の主も回想場面などで登場するが後ろ姿だけ。潔く絞り込んだ舞台と人物が、それぞれの抱える秘密を交錯させながらもシンプルなミステリーの雰囲気を作り上げている。
ミステリとしては目新しい発想はないし、真相への論理的な手懸かりがいまいち乏しいのが難だが、伏線はきっちり張られており、ラストシーンもなかなかに強烈な印象を残す。最後にああいう形で行動に出た理由が、作中で語られた出来事からするとやや説明がつかない気もするが、そのお陰で家族全体が抱え込んでいた秘密と悲劇が全員に共有され、甘くも苦い余韻を演出している点、作劇上は正しい結末だったのではないか。
ひとつひとつの出来事を吟味すると実は無茶苦茶深刻な話なのだが、真剣であるが故にコミカルなやり取りを女優たちが的確に表現したことと、随所にミュージカル風の場面を挿入し空気を軽くすることで、重い告白がさらっと呑み込めるようになっている。古典映画の名作にオマージュを捧げた振付と衣装デザイン、何よりも人形劇のような舞台設計が、物語をいたずらに現実的なものに見えなくしているのだ。
ミステリの素材を用いながら、生々しい女たちの葛藤をファンタジックに魅せてしまった、何とも不思議な雰囲気の一本。映画を観る、という行為がお洒落であった時代を偲ばせながら、内容的には見事に現代を映している点も含めて、変わり種の名作である。ある映画賞で、本編に出演した全女優が主演女優賞を獲得した、という事実からも解るとおり、誰が主人公ということはないし、主の妻から家政婦に至るまでひとり残らず存在感を見せつけている。が、何にしたって際立っているのはカトリーヌ・ドヌーヴの化物っぷりである。日本で言えばもうじき還暦の筈なのにこの美貌とオーラはいったい何事か。
一方、主の妹で堅物の女を演じたイザベル・ユペールは、先頃のカンヌ映画祭で『ピアニスト』によって主演女優賞を獲得している名優だが、本編も『ピアニスト』も役柄的に似通っている(性格そのものには結構隔たりがあるが、基本的な要素が共通しているのである)。ではそういう役ばかりなのかというと――プログラムによれば、彼女を堅物に見せるため服装やメイクに腐心したようだから、終盤で見せた変身後の姿こそ彼女の女優として本来の姿なのだろう、うん。ただそう思っただけで特にオチはない。あ、役柄的には最も多くの側面を披露した、という意味で際立ってました。もうひとつ、余談というかこそっと呟く。プログラムの制作者、デザインセンスは認めますがある点で素人すぎます。どの点がそうなのか、は敢えて触れず。
(2002/12/16)