cinema / 『トレーニング・デイ』

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トレーニング・デイ
監督:アントニー・フュークワー / 製作:ジェフリー・シルバー、ボビー・ニューマイアー / 脚本:デイヴィッド・エアー / 音楽:マーク・マンチーナ / 出演:デンゼル・ワシントン、イーサン・ホーク、スコット・グレン、トム・ベレンジャー、クリフ・カーティス / 配給:ワーナーブラザース映画
2001年10月20日日本公開
2002年07月05日DVD日本版発売 [amazon]
2004年02月28日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : 日本=http://www.warnerbros.co.jp/trainingday/ オリジナル=http://www.trainingday.net/

[粗筋]
 ロス市警の若き警官・ジェイク・ホイト(イーサン・ホーク)にとって、待望の一日であるはずだった。交通課から麻薬捜査課に転属となり、数々の大物を検挙したことにより伝説化していた刑事・アロンゾ・ハリス(デンゼル・ワシントン)の部下となって最初の日である。早朝に目醒めたジェイクの自宅にアロンゾからの連絡があり、署ではなく町中の喫茶店に呼び出される。初めて逢ったアロンゾは、だがジェイクの予想を悉く裏切るキャラクターだった。品がなく横暴で、名状しがたくダーティな気配を纏っている。不安を覚えながら、アロンゾが自らのオフィスと呼ぶ高級車に同乗するジェイク。こうして、ジェイクの想像を絶した“試練の日”が始まった――

[感想]
 あまり先入観がない方が宜しかろう、という判断の元に粗筋短め・さわり限定でお届けしました。が、殆どの劇場は今週金曜日で次の作品にバトンタッチしてしまうため、あんまり意味はない。気になった方はDVD・ビデオの発売を待ってご鑑賞下さい。
 問題はその価値がある作品か、という点であるが、ある、と声を大にして(フォント太字にして)申し上げよう。観賞後、何かに印象が似ている、と思いよくよく考えてみたところ、この作品の味はいわばハードボイルド風の『セブン』(デイヴィッド・フィンチャー監督)なのである。希望と正義感に満ち溢れた若き新米刑事と、既にありとあらゆる暗黒を目の当たりにし道を外れつつあるベテラン刑事という主要キャラの造型(ついでに言えば人種も一致している)、後者が前者を教育するというスタイル、拘りの感じられるカメラワーク、綿密な取材に裏打ちされた独特のリアリティ、観客の裏を徹底的に掻くストーリーも共通している。本編の監督アントニー・フュークワーは映画二作目という新人だが数々のミュージックビデオやCMで高い評価を得ており、『セブン』のデイヴィッド・フィンチャー監督とキャリアが似ていることから、或いは当初から『セブン』を意識して製作されたのかも知れない。
 前述の通り、作品の方向性そのものは完璧なハードボイルドと言っていいだろう。最近読者として怠慢だからかも知れないが、小説の世界でもここまで巧緻なハードボイルドというのには久しくお目にかかっていない気がする。練り込まれたキャラクターに深甚な台詞回し、善悪の境界を溶かすようなテーマに騙りの利いたプロット、痛切な結末まで、ハードボイルドの基本を隅々まで押さえており、そのダーティな雰囲気と緊張感とが素晴らしい。
 重みと暗澹とした予感に満ちた結末はハリウッド的標準から逸脱しており、爽快感のみをエンタテインメントに求める方には間違いなく不向き。だが、こういう厳しさに触れてみるのも、たまにはいいと思うぞ。先に見た『ソードフィッシュ』に続き、下半期ベストクラスの逸品。

(2001/11/7・2004/06/18追記)


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