cinema / 『WATARIDORI』

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WATARIDORI
原題:“LE PEUPLE MIGRATEUR” / 総監督:ジャック・ペラン / 共同監督:ジャック・クルーゾ、ミッシェル・デバ / 音楽:ブリュノ・クレ / 編集:マリー=ジョゼフ・ヨヨット / 出演:カオジロガン、ハイイロガン、クロヅル、コウノトリ、モモイロペリカン、キョクアジサシ、コンドル、ルリコンゴウインコ、イワトビペンギン、アオガン、インドガン、タンチョウ、オオハクチョウ / プレジデント・フィルムズ作品 / 配給:日本ヘラルド
2001年フランス作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:古田由紀子
2003年04月05日日本公開
公式サイト : http://www.wataridori.jp/
銀座テアトルシネマにて初見(2003/04/19)

[粗筋]
 網に足を絡めて飛べずにいた鳥を、ひとりの少年が助けたところから、この映像詩は幕を開ける。束縛を解かれた鳥は飛び立ち、既に遠く先を行く仲間たちを追って空を急ぐ。
 地球には多くの渡り鳥が存在する。極寒の地で生まれた彼らは、最も厳しい季節が到来する前に故郷を発ち、餌と暮らしやすい気候を求めて大移動を行う。主にそのルートは南北の軸に添っており、たとえば北欧の比較的温暖な土地で生まれた鳥も、アフリカなどのより過ごしやすい気候の土地を捜して南下するのが認められている。
 この作品は、そうした多くの種類の渡り鳥を、世界各地のスタッフが三年に亘って追い続け、撮影された貴重な映像を紡ぐことによって、彼らの旅をスクリーンに再現したものである――

[感想]
 という書き方するしかないんですよ。何せ、統一した筋はないしナレーションによる説明も異常に少ない。アカデミー賞ドキュメンタリー部門賞候補に挙げられた(賞そのものは『ボウリング・フォー・コロンパイン』にかっさらわれてしまったが)作品だが、粗筋にも書いたように、ドキュメンタリーというより映像詩と言った方がしっくりくる作りである。
 僅かなナレーションと字幕で最小限の生態と移動距離を説明するだけ、あとはすべて映像によって物語らせている。それだけに、漫然とした姿勢で観ているとただのBGVのように思え、惹きこまれはしないし退屈に感じる危険もある。映像の隅々までを眺め、積極的にその中に入っていく意欲がないと、恐らく映画としての楽しみは得られない。撮影時間延べ300時間という膨大な量のフィルムのなかから厳選された映像とはいえ、本来脈絡のない映像を並べているのだから、仕方のない欠点と言える。
 が、実際のところ、虚心に観れば人それぞれに感じるところはあるはずだ。そのくらいにこの映像の迫力と説得力は凄まじいものがある。ガンの編隊に溶け込んだ位置からの視点、水面すれすれを飛び同時に幾つもの水飛沫を蹴立てる群、一匹が海面へと錐揉み状に突っ込むと多くの仲間がそれに従って餌を求めて海に飛びこむ姿、そして雲のように空一面を覆い尽くして規則正しく飛んでいく一群、などなどなど。海岸で翼を痛めた一羽が無数の蟹にたかられていく姿も、工場地帯のぬかるみに嵌って群からはぐれた姿もきちんと映し、ただ美しい映像だけにしなかった点も素晴らしい。
 存在していること自体が驚異と感じるほど、実に意味深いドキュメンタリー作品……というジャンル分けに意味があるのか、と疑問を覚えてしまうほどに、唯一無二の映像作品である。

 なお、途中で飽きてしまうことが怖い、という方は、登場する鳥達の動きに頭の中でナレーションや台詞を付け足して遊んでみましょう、『動物のお医者さん』のように。そういう楽しみ方もあります。

(2003/04/19)


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