cinema / 『アナトミー』

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アナトミー
脚本・監督:ステファン・ルツォヴィツキー / 製作:ヤコブ・グラウセン、トマス・ヴュプケ / 音楽:マリウス・ルーランド / 解剖室デザイン:アンドレアス・トンホイザー、レナーテ・マルティン / 出演:フランカ・ポテンテ、ベンノ・フェルマン、アンナ・ロース、ホルガー・スペックハーン、セバスチャン・ブロムヘルグ、トウラゴッド・ブーレ、リューディガー・フォークラー / 配給:Sony Pictures Entertainment
2000年ドイツ作品 / 上映時間:1時間39分 / 字幕:税田春介
2002年03月30日日本公開
2002年08月23日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.spe.co.jp/movie/smp/
お台場シネマメディアージュにて初見(2002/04/06)

[粗筋]
 パウラ(フランカ・ポテンテ)は医師一家の娘として生まれ、祖父と同じ解剖学を専攻、名門で祖父の出身校でもあるハイデルベルク大学に合格し意気も上がっている。様々な表彰状を部屋に飾った祖父とは対照的になんの取り柄もなく、無知な住人ばかりが患者として訪れる町医者に甘んじる父に対して反感を抱いているせいもあって、彼女の名誉欲は相当なものがあった。
 大学の環境は素晴らしかった。広大で設備の整った解剖室、状態の良好な標本や文献を揃えた資料室――寮の部屋がみすぼらしく、同居人のクラスメイトに色情狂の気味があることさえ除けば、理想的な環境――に見えた。
 最初の解剖実習の日、パウラは診療台の上に見知った顔を見て驚愕する。彼はパウラが大学の寮に越してきたその日、行きの電車の中で心筋症の発作を起こし、彼女の介護でどうにか一命を取り留めた人物であった。生きているのが不思議なほど症状の重い青年だったが、車中の会話では新しい医師と治療の相談をするはずだった彼がどうしてここに横たわっているのか――医学的な興味と私的な理由から、パウラは男性の遺体を詳しく調べようとするが、何故か担当の教授はいい顔をしない。密かに調査を進めた彼女は、遺体にプロミダールという血液をゴム状に変質させる薬品が生前に注射されていたこと、そして彼の遺体を提供したのがAAA――アンチ・ヒポクラテス連盟を名乗る、医学者たちによる秘密結社であることを知る。そこには、医療のモラルを逸脱した行為が隠されていた……

[感想]
『ラン・ローラ・ラン』での好演によりハリウッド進出も果たしたフランカ・ポテンテが本国ドイツで2000年に主演、その年の興行収入トップとなったホラーである。でも日本では何故か台場シネマメディアージュ独占、しかも『SHOCKING MOVIE PROJECT』なる企画の一環として、2週間限定での公開。いくら「面白い」と評価しても瞬く間に終わってしまうんではなー、と若干やる気が失せる。
 そう、これはなかなか出来がいい。じわじわ染み込んでくる心理ホラーではなく、不意打ちや映像・音声の合わせ技で観客を脅かすサスペンスホラーでもない。いや、厳密には双方の要素を取り入れているのだが、全体の印象はホラーとしては一風変わったポップな色彩に包まれている。伝統ある大学、荘重な雰囲気の標本室に数多並んだ人体標本(しかもどれがそうなのかは不明だが、本物の死体を加工した実物も含まれているという!)、そして近代的ながら無機質な印象と血の色とのギャップが妙にアナログな空気を漂わせた解剖室まで、それぞれの要素は寧ろゴシックホラーのガジェットをなぞったものとも捉えられるのだが、随所で描かれる若者の如何にも放恣で自堕落な生活像、それでいて描き分けも明確できっちり立ち上がったキャラクター、何より「不撓不屈」という表現の似つかわしいヒロインの凛々しさが、作品に過剰に陰鬱な色が付くことを抑えている。ゆえに、かなりグロテスクな描写が多いにも拘わらず「怖い」という印象を受けがたい事実もあるが、ホラーとしての味わいを留めながらなるべく多くの人に見てもらおうとする姿勢、と捉えれば寧ろ成功しているし評価されるべき一面だろう。ホラー場面に直接拘わらない場面では、Fatboy Slimなど有名なヒップホップ・ブレイクビートの楽曲をバックに採用し、ポップ感を高めている。恐怖をきちんと描きながら、これから先どうなるのだ、というヒヤヒヤをテンポよく観客に感じさせる手腕はなかなか。
 非常に纏まっているのだが、それ故にどうもこぢんまりしている印象は否めない。一切の非科学的要素を排除し現実的なレベルのみで未知の恐怖を作り出してみせた点は賞賛したいが、その為にクライマックスでの推移が現実的になりすぎて物足りなさを感じてしまった。加えて、ラストでもう一ひねり欲しかった、という嫌味もあるが、無理に後味を悪くさせなかったと考えれば――観客に気分良く家路に就いてもらうことを考えていた、とするならこれが正解だろう。良くも悪くも、巧みに型に嵌った佳作である。逸脱したクオリティの恐怖ではなく、オーソドックスなそれを気軽に堪能する目的であれば、これ以上に整った作品を寡聞にして私は知らない。

 それにしてもプログラムの販売もない、公式サイトでのキャスト・スタッフ紹介も僅か三名を紹介するのみという不親切ぶりで、詳細に検討しようがない。ために、いつもは粗筋で役名に出演者を併記しているのだが、今回に限り主人公しか書くことが出来なかった。御了承いただきたい。……うあーん、詳しい情報欲しいよー面白かったからスタッフ・出演者の次作も期待しようと思ってたのにー。

(以下、2004/06/22追記)
 なお本編は同じ監督によって続編が製作されております。日本では劇場公開こそありませんでしたが、2004/06/23にDVDで発売されました。本編がお気に召したという方は、併せて鑑賞するのもまた一興かと。
『アナトミー2 コレクターズ・エディション』(Sony Pictures)の購入はこちらからどうぞ→[amazon]

(2002/04/06・2004/06/22追記)


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