/ 『ビューティフル・マインド』
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『light as a feather』トップページに戻るビューティフル・マインド
原題:“A BEAUTIFUL MIND” / 監督:ロン・ハワード / 脚本:アキバ・ゴールズマン / 製作:プライアン・クレイザー、ロン・ハワード / 音楽:ジェームズ・ホーナー / 原作:シルヴィア・ナサー / 出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、エド・ハリス、クリストファー・プラマー、ポール・ベタニー、アダム・ゴールドバーグ、ジョシュ・ルーカス / 配給:UIP
2001年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 字幕:戸田奈津子
2002年03月30日日本公開
2002年09月13日DVD日本版発売 [amazon]
2004年07月07日DVD最新版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.uipjapan.com/beautifulmind/
日比谷スカラ座1にて初見(2002/05/03)[粗筋]
ジョン・ナッシュ(ラッセル・クロウ)は小学生時代の教師に「君の脳は二人分ある、だがハートは半分だ」と評された、天才であるが人を人と思わぬ言動の目立つ少年だった。1947年9月、プリンストン大学大学院数学科に進んだナッシュだったが、「独創的な論を」と孤立した研究を続けて授業にも出席せず、相変わらず友人らしい友人も出来ない。そんな彼の心を最初に開いたのはルームメイトのチャールズ(ポール・ベタニー)だった。彼の励ましを契機に少しずつだが周辺と打ち解けていった彼は、バーでの出来事をヒントに、後年の研究の礎となる「均衡理論」を着想した。授業をサボるのは相変わらずだったが、経済理論を一変させる傑出した論文をヘリンジャー博士(ジャド・ハーシュ)は高く評価し、たった一人しか推薦できないMIT工科大学ウィーラー研究所の募集枠にナッシュを当てることを約束した。数学科でのライバル・ハンセン(ジョシュ・ルーカス)はプリンストン大学に席を留め、水をあけたような恰好の決着に、ナッシュは漸く入学以来の溜飲を下げるのだった。
しかし、ウィーラー研究所での仕事もナッシュにとっては理想的とは言い難かった。1951年、軍部からの呼び出しに応じて、ロシアから送信されたと思しい暗号を解読したが、これは4年ちょっとで僅か2度目の目立った出来事。第二次世界大戦で一部の数学者が日本軍の暗号を解読し原爆投下に成功したのとはあまりに違いのありすぎる状況だった。焦燥感に襲われる彼のもとを、ウィリアム・パーチャー(エド・ハリス)と名乗る国防総省の人間が訪れた。ナッシュの暗号解読の才能を激賞し、新聞や雑誌の記事に隠された暗号を発見・解読する極秘任務に就くように請う。この大役を、ナッシュは快く引き受けた。
その一方で、ナッシュにもう一つの転機が訪れた。大学の研究所にいる以上仕方なく行った講義の席に、聴講生として加わっていたアリシア(ジェニファー・コネリー)という女生徒が、奇特にもプライベートのナッシュに興味を示し、やがて二人は結婚するに至る。だが、守るべき者が出来てしまったことが、ナッシュの裏の生活に大きな支障を来すことにもなってしまった。これ以上仕事を継続できないという思い、パーチャーからのプレッシャー、産まれてくる子供に対する不安……その挙句に、ナッシュが手足を拘束され連れ込まれたのは、精神病院だった――[感想]
実在するノーベル経済学賞を受けた数学者ジョン・ナッシュの伝記(シルヴィア・ナサー著・日本語訳は新潮社刊)に基づいて作られた、衝撃の……何と呼ぶべきだろう? 人間ドラマという表現は究極過ぎて避けたいように思うし、スリラー、サスペンスという表現も可能だがこうした表現よりも深く重いものを感じさせる。では、ラブストーリーだろうか? 実際はこれが一番相応しいだろうが、舌足らずの感があるのもまた事実だ。
無理な試みは放棄しよう。要は、ジャンルという枠で語ろうとするとはみ出すような迫力を備えたシナリオなのである。未見の方の興を殺ぎかねないので後半のプロットについて詳細に触れることは出来ないが、前半で語られたことの全てが後半で生きてくる構成の妙、現実という下敷きがあったにしても巧いの一言に尽きる。その展開を、時系列に添った異例の撮影スケジュールと無駄のない演出と編集でスピーディに見せた監督共々多くの栄冠に輝いたのも当然と言えるだろう。
ナッシュの伝記ゆえ、彼を演じたラッセル・クロウの上手さはある意味当然の要求とも言える。が、やはり、より目を惹かれるのはナッシュを最後まで支えた愛妻アリシアを演じたジェニファー・コネリーだ。決して主張しすぎずに、悩みながらも最後まで自然体のままでナッシュに寄り添おうとした彼女を、派手さはないが静かな華やかさを湛えて演じきっている。終盤、年老いたアリシアのメークはややわざとらしかったが(この時代に関してはラッセル・クロウが出色。依然自らの病と闘いながらも全てを淡々と受け入れた穏やかな老学者を、実年齢を忘れさせるほど完璧に表現してみせた)、ウィーラー研究所着任以降の物語は彼女のためにあったのではないか、と感じさせるほど素晴らしい。
2時間20分はドラマとしてはやや長尺の部類に入る(昨今はハリー・ポッターやロード・オブ・ザ・リングといったファンタジーが平然と3時間近い長さで上映されているのであまり感じないが、やっぱり長い)が、そうしたことを殆ど意識させない、エピソードの迫力。こと、約数十年間を一気に追う後半の密度は凄まじい。これだけの半生を描いて駆け足に感じさせないことも含め、様々に意見はあるだろうが、流石アカデミー賞に相応しい圧巻の名作である。個人的には、“天使の歌声”シャルロット・チャーチを随所にフィーチャーした音楽も高く評価したい。本編での起用の仕方はまさに「天使」そのもの、空から光が降り注ぐ如き名唱を、是非劇場でご堪能ください。
……凄い、の一言で片づけるのもアレかと思ってこーいう書き方になったんですけどね。(2002/05/03・2004/06/22追記)