cinema / 『ビロウ』

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ビロウ
原題:“BELOW” / 監督:デヴィッド・トゥーヒー / 脚本:ルーカス・サスマン、ダーレン・アロノフスキー、デヴィッド・トゥーヒー / 製作:スー・ペイドン=パウエル、ダーレン・アロノフスキー、エリック・ワトソン / 製作総指揮:ボブ・ウェインスタイン、ハーヴェイ・ウェインスタイン、アンドリュー・ローナ / 共同製作:マーク・インディグ、マイケル・ゾウマス / 撮影:イアン・ウィルソン B.S.C. / 美術:チャールズ・リー / 編集:マーティン・ハンター / 視覚効果監修:ピーター・チャン / 衣裳:エリザベス・ウォラー / 音楽:グレアム・ラヴェル / 出演:マシュー・デイヴィス、ブルース・グリーンウッド、オリヴィア・ウィリアムズ、ホルト・マッキャラニー、スコット・フォーリー、ザック・ガリフィアナキス、ジェイソン・フレミング、ジョナサン・ハートマン、デクスター・フレッチャー、ニック・チンランド / 配給:GAGA-HUMAX
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:林 完治
2003年02月22日日本公開
公式サイト : http://www.BELOW.jp/
東劇にて初見(2003/03/13)

[粗筋]
 1943年、大西洋を飛行中の米軍機が、洋上に遭難者を発見した。燃料不足の飛行機に代わって遭難者を救助したのは、米海軍の小型潜水艦タイガーシャーク。
 折悪しく、所属不明の船影を発見したために、挨拶も抜きに遭難者は手早く収容された。慌ただしく閉ざされたハッチの梯子から最後に降りてきた姿に、乗組員たちは言葉を失う――それは、美しい女性だった。
 遭難者たちは何者かの攻撃によって沈められた病院船に乗っていた人々だった。重傷を負って口も利けない男と二等航海士のキングスリー(デクスター・フレッチャー)、そして看護婦のクレア(オリヴィア・ウィリアムズ)。たっひとり女性が紛れ込んでいたというだけで、クルーは騒然となった。風紀を乱すと嘆くもの、興味本位で悪戯を仕掛けるもの、或いは不吉な兆候だと息を呑むもの。
 初めての潜水艦、外郭にものが当たるたびに鳴り響く異音に怯えるクレアを、若いクルーのオデル(マシュー・デイヴィス)が気遣う。そうこうしているとき、ドイツ船籍の軍艦とのニアミスが発生した。スクリューをはじめとするあらゆる動力を止め、息を詰めてやり過ごすタイガーシャーク号――だがそのとき、場違いなベニー・グッドマンの音楽が鳴り響いた。
 艦長室に置かれていたレコードプレイヤーが動いたのだ。艦長のブライス(ブルース・グリーンウッド)が急いで止めるが、間もなく爆雷の雨が降り注いだ。大きな損傷は発生しなかったが、クルーたちの間には疑念が生じる。
 そんな矢先、艦内でありうべからざるものが発見された。ドイツ軍の制帽――持ち主は、重傷を負った遭難者だった。クレアの指示で口を閉ざしていた男は、ブライスの訊問中にメスを手に取ろうとし、その場で射殺された。
 クレアの悲嘆、ブライスらの焦燥をよそに、艦内にはしばし安堵の空気が漂った。だが、ドイツ兵士の死を機に、奇妙な出来事が頻発しはじめる。投棄するために死体を袋に入れ、運んでいた男が死者が発したと思しき声を聞き、再度のニアミスでふたたびベニー・グッドマンが鳴り響く。
 一方クレアは、出来心で侵入したブライスの居室で、奇妙な事実に気づく。航海日誌の筆跡が途中から変わっており、ロッカーにはブライスとは別の男の写真が飾られていた。タイガーシャーク号の艦長は、航海のさなかに変わっていたのだ……

[感想]
 ひとくちにホラーと言っても、二通りの方向性がある。おぞましい怪異をそのまま剥き身で描く、例えば『死霊のはらわた』や『サスペリア』のようなものがあれば、怪異の気配を軸に恐怖を表現する、例えば『アザーズ』のようなものがあり、『ジーパーズ・クリーパーズ』のように両者をミックスした表現もまた多く認められる。
 本編は一貫して後者の方向を辿ったホラー映画と言える。実のところ非常に瞬間的に、直接怪異を描いている場面が無数にあるのだが、原因に触れないことで最後まで不可解な印象を残している。
 一方で、ミステリ的な伏線のちりばめ方と丁寧な回収を試みており、きちんとカタルシスが存在する。だがその上で、決着が必ずしも怪奇現象の存在を容認も否定もしていないあたりが実に巧い。確かに怪奇現象の責任にしてしまえば万事説明がつくのだが、出来事の大半が偶然だったと言われても決して不自然ではないのだ。このあたり、実によく弁えた作りとなっている。
 潜水艦、しかも大西洋にて単独の作戦行動に出ているさなかの艦内という究極の密室を舞台とすることでサスペンスを盛り立てることにも成功している。潜水艦という密室内でのパニック、という観点からすると、後半でソナーも潜望鏡も失った状況をいまいち活かしきれていない点で物足りなさを感じるが、そうして考えると主眼はやはりホラー映画として完成させることにあった、と思われてくる。戦時中、単独行動、そして女性を乗船させることが不吉だと考えられていたこと、などなど、いずれも恐怖を盛り上げるための材料に他ならないのだ。
 割り切れない部分を多数残しているため、どうしても一般受けはしない印象が強いが、特殊な舞台を活かした秀逸なホラー映画だと思う。
 ただひとつ――海中からのヴィジュアルがあまりに鮮明かつ現実離れしたアングルからのものばかりのためCGだと一目で割れてしまい、かなりテクニカルなカメラワークをもってしても実写部分から浮いて見えるのが気になった。技術力は素晴らしいし、艦内の描写にもリアリティを感じるだけに、もうちょっと配慮が欲しかったところ。

(2003/03/14)


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