cinema / 『ブラッド・ダイヤモンド』

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ブラッド・ダイヤモンド
原題:“Blood Diamond” / 監督:エドワード・ズウィック / 原案:チャールズ・リーヴィット、C・ギャビー・ミッチェル / 脚本:チャールズ・リーヴィット / 製作:ジリアン・ゴーフィル、マーシャル・ハースコヴィッツ、グレアム・キング、ダレル・ジェームズ・ルート、ポーラ・ワインスタイン、エドワード・ズウィック / 製作総指揮:レン・アマト、ベンジャミン・ウェイスブレン、ケヴィン・デラノイ / 撮影監督:エドゥアルド・セラ / プロダクション・デザイナー:ダン・ヴェイル / 編集:スティーヴン・ローゼンブラム / 衣装デザイン:ナイラ・ディクソン / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー、マイケル・シーン、アーノルド・ヴォスルー、カギソ・クイパーズ、デヴィッド・ヘアウッド、ベイジル・ウォレス、ンタレ・ムワイン、スティーヴン・コリンズ / 配給:Warner Bros.
2006年アメリカ作品 / 上映時間:2時間23分 / 日本語字幕:今泉恒子
2007年04月07日日本公開
公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/blooddiamond/
霞ヶ関イイノホールにて初見(2007/04/05) ※特別試写会

[粗筋]
 1999年、アフリカ、シエラレオネ。海べりの村で漁を営んで暮らしていたソロモン・バンディー(ジャイモン・フンスー)の平穏な日常は、だがある日襲来した反政府軍RUFによって崩壊させられる。辛うじて家族を逃がすことには成功したものの、村はほぼ壊滅状態となり、肉体に恵まれたソロモンは、RUFの活動資金源となっているダイヤモンドを採掘する労働力として、山中の採掘場に送りこまれてしまう。
 他方、密売人のダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)は、武器と交換に入手したダイヤモンドを密輸する途中で不覚にも逮捕され、収容所に送りこまれてしまう。そこでダニーは、担架で運ばれてきた男が、檻に閉じこめられた男に向かって、巨大なダイヤをどこに隠した、と恫喝するひと幕を目撃した。紛争地帯での活動に権限を持つ大佐(アーノルド・ヴォスルー)の口利きで釈放されたダニーは、自らの逮捕が報じられたうえに、取引先であるロンドンの大手宝石会社が“血染めのダイヤモンド”――紛争地帯にて武器の供給に利用されるダイヤモンドとの関わりを否定し、売買が困難になるなか、それでも問題の巨大なダイヤを獲得するために暗躍を始める。密かに隠し持っていたダイヤ一粒で資金を得ると、ダニーは担架の男に罵られていたその人物――ソロモンを保釈させる。
 事情が理解できぬままだったソロモンは、しかし引き離された家族を捜すために現地で職を得、難民リストに家族たちの名前を必死に捜し求めるものの、なかなか発見できない。そうこうしているあいだにもRUFは着実に版図を広げ、紛争は国全体に波及、ソロモンやダニーの潜伏する都市にまで及ぶ。ダニーはソロモンに対し、家族と引き合わせることを条件に、発掘したダイヤモンドの隠し場所を教えるよう要求した。ソロモンもやむなく承伏し、ふたりは行動を共にすることとなる。
 ダニーは潜伏中に偶然知り合ったアメリカ人女性ジャーナリストのマディー・ボウエン(ジェニファー・コネリー)に、彼女の追っている“ブラッド・ダイヤモンド”の流通経路を一部明かすことを交換条件として協力させると、どうにかソロモンと妻子とをリベリアの難民キャンプで引き合わせた。しかし、ソロモンが誰よりも誇りに思っていた息子ディア(カギソ・クイパーズ)の姿はない――少年は、別の地にいたとき、RUFによって拉致されていたのである……

[感想]
 アフリカ紛争地帯の武装集団が資金や兵器の調達に、占拠した採掘場から得られるダイヤモンドの売り上げを用いていることは随分前から問題視されていた。こうした経路で齎されるダイヤモンドは“紛争ダイヤモンド”――本編のタイトルでもある“ブラッド・ダイヤモンド”と呼ばれており、2003年に導入されたキンバリー・プロセスという国際ルールによって数を減らしているが、未だにアフリカ諸国に火種を留めているという。
 映画の世界ではあまり積極的に着目されていなかった、華やかな世界に隠れた闇にスポットを当てた作品であり、その点から注目が高く本国アメリカでも話題を振りまいたようだ。だが、率直に言ってしまえば、社会派作品としては物足りなさを禁じ得ない。
 この“紛争ダイヤモンド”が齎す害悪の一般的なものはすべて遺憾なく盛り込んでいる、と思われる。アフリカ庶民を代表する存在として描かれたソロモンの体験する悲劇が、ほぼすべてを象徴していると言っていいだろう。そこで暗躍する西欧諸国のエゴイズムを密売人が代弁し、彼らに絡んでいく女性ジャーナリストが国際的な視座から解説を加えていく。実に整理整頓が効いている。
 しかし、あまりに優等生的に整頓がなされてしまったため、シンプルに話が進みすぎて引っかかるところに乏しい。こういう流れでこういう事態が引き起こされます、そしてこの悲劇なのです、といった具合に教科書の朗読を聞かされるが如きで、第三者的な関心しか惹きつけられないような雰囲気がある。
 その意味でいちばんの問題点は、主人公に武器・原石の密売人を設定してしまったことにあると思われる。アフリカで生まれ育ち、内紛によって人生を弄ばれたこの男は、当初自らも利権を貪るべく、躊躇なく人を犠牲にし自らの利益に繋げていく。それが、家族と引き裂かれた漁師と合流したあたりから変化を生じていくわけだが――このくだりが、フィクションとしてあまりに手垢のついた成り行きであり、どういう風に発展していくか想像がついてしまう。事実、想像した通りの決着に行き着くのだが、それゆえに中弛みが著しく感じられてしまうのだ。展開が予測できているなかで見せられる“過程”ほど退屈なものはなく、定石通りに堅実に仕上げた弊害がここに生じている。
 ただ、いまも記したように、極めて堅実に仕上げていることは疑いない。“紛争ダイヤモンド”を巡る諸問題のいちばん象徴的な部分を、ひとりの漁師の身の上に集約することでうまく整頓して作中に盛り込み、フィクションとしてのドラマ性を、漁師と運命的に接触する密売人に担わせることで、複雑さはないがその分シンプルに、一般的な観客にも伝わるよう描ききった点は評価できる。
 密売人も漁師も、“いい役柄”ではあるが、俳優の選択に成功しているのも事実である。これまでその演技力が過小評価されていたきらいのあるレオナルド・ディカプリオは、物語を通して精神的に変容していく役柄で初めて本領を発揮した印象があるし、対する漁師を演じたジャイモン・フンスーは『イン・アメリカ』の哲学的な人物から一転、普遍的な思考を持つ愚直な男を力強く表現し、新たな代表作を得た感がある。このふたりが揃ってアカデミー賞にノミネートされていることからも、本編が最適な役者を得たことは疑いない。
 また、アフリカの大地を舞台とした頻繁な戦闘場面や、その自然の広大さを感じさせる映像の構成にも秀でたものがある。展開の予測がつくために中弛みする、と記したものの、その緩みが最小限に抑えられているのは、緊張の解けた瞬間をついて描かれる戦闘や武装集団の残忍な実態の描写、そして細かな心情の機微を巧みに盛り込んでいるがゆえだ。
 そうした忌憚のなさが却って一級作品と呼ぶには物足りない印象を留めてしまったいやみはあるものの、社会派としてのテーマも充分に描き出しつつ端整に纏まった娯楽大作として、きっちり使命を果たしている佳作と言えよう。如何せん2時間半はやや長いという印象だが、そこさえ気にならなければ充分に楽しめるはずだ。

(2007/04/06)


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