cinema / 『ぼのぼの クモモの木のこと』

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ぼのぼの クモモの木のこと
原作・監修:いがらしみきお / 監督:クマガイコウキ / 絵コンテ・脚本:いがらしみきお、クマガイコウキ / 音楽:ゴンチチ / CG制作:デジタル・フロンティア / 声の出演:上村祐翔、吉田小南美、山口勝平、小桜エツ子、菅原正志、島本須美、道平陽子、長島雄一、森本レオ、立川談志 / 製作:竹書房 / 配給:Amuse Pictures
2002年日本作品 / 上映時間:1時間1分
2002年08月10日公開
2003年03月21日DVD発売 [amazon]
公式サイト : http://www.bonobono.jp/
新宿武蔵野館にて初見(2002/08/24)

[粗筋]
 ぼのぼの(上村祐翔)が貝殻の中に飼っていたコゲトリ虫がいなくなってしまった。焦げたものを食べ、綺麗に光るとても変わった虫で、ぼのぼのの宝物だった。シマリスくん(吉田小南美)と一緒に森中を探したけれど見つからない。
 こんな悲しい気分のとき、ぼのぼのの森に住む動物たちは、クモモの丘にあるクモモの木を訪れる。葉っぱの不思議な匂いが悲しい想い出を忘れさせてくれるからだった。早速クモモの木に向かったぼのぼのは、そこで誰かを見つける。けれど、相手はぼのぼのの姿を見ると逃げるように走り去ってしまった。
 次の日、こんどはシマリスくんが宝物をなくしてしまった。ちょうど遊びに来たアライグマくん(山口勝平)と球投げをして遊んだあとで一緒に探したけれど、やっぱり見つからない。悲しい気分になったので、ぼのぼのたちはクモモの丘を訪れた。丘の上には、昨日見たあの子がまた佇んでいる。あれはポポ(小桜エツ子)だ、と言いアライグマくんは呼び掛けるけれど、またしてもポポくんは逃げ出してしまう。ポポくんは昔、アライグマくんの友達だった。けれど、お父さん(菅原正志)が悪い人たちと付き合ったりしているという噂があって、いつしか毎日クモモの木の下でぼーっと突っ立っているだけの変わった子になってしまった、という。
 ぼのぼのは森の賢者のスナドリネコさん(森本レオ)や、クズリくん(道平陽子)の自称物知りのお父さん(長島雄一)にコゲトリ虫のことと、ポポくんとその家族のことを訊ねてみた。ポポくんのお父さんが悪い人と付き合っていたらしいのも本当で、コゲトリ虫は大きな火事でもないと見つけられないらしい。また悲しい気分になったぼのぼのは、雨の中クモモの丘に向かう。こんな日にもポポくんは丘の上に佇んでいた。何をしているの? と訊ねると、ポポくんは自分を迎えに来てくれる誰かを待っている、と応えた。いつか、どこかから自分を迎えに来てくれる、見知らぬ誰か――小さい頃、同じように誰かを待っていた経験があるぼのぼのは、ポポくんの言葉を信じた。そのときからふたりは友達になるのだった――

[感想]
 ぼのぼの2度目の映画化は『モンスターズ・インク』『シュレック』が実現したのと同様に、ふわふわふかふかの毛並みを再現したフル3DCGである。アメリカ制作の二作はともかく、こちらは漫画媒体で大ヒットを飛ばした作品が原作であり、かくいう私も一時期何度も読み返していた。それだけに、最初は悪い冗談のように思っていたのだが。
 これが、いい。
 原作者自らが関わった脚本の仕上がりは疑うべくもないが、いちばん危惧していた3DCGによるぼのぼのたちが、驚くくらいに愛らしい。メインキャラクターたちは無論のこと、原作では憎たらしい役柄の脇に至るまで、意志を備え豊かな表情を見せるぬいぐるみのように描かれており、見ているだけで笑みが零れてくる。原作ではお馴染みのやけに指向性のある汗とか、アライグマくんに蹴飛ばされ砂煙とともに飛んでいくシマリスくんとか、動揺のあまり口をあんぐりしているぼのぼのとか、が3Dで忠実に再現されているのも素晴らしい。当然ながら、同時に3Dを採用する最大の利点である自在のカメラワークも随所に取り入れられ、不思議な臨場感を作ることに成功している――些か作り物っぽい背景だが、それが不利になっている箇所は殆どない。オリジナルキャラクターまで含めて、全く異なるフィールドへ見事にあの「ぼのぼの」の世界を移植している。
 厭死刑もとい癒し系などという言葉が生まれるずっと以前から「癒し系」を想起させる作品世界を築き上げてきた作品だが、だからこそ微妙に従来の「癒し」という定義からずれた線を狙ったシナリオは、子供のみならず大人にも賞味できるクオリティにある。一時代を築いた作品の原作者とその名助手として辣腕を振るってきた人物によるこの作品、端倪するべからず。

 作者がよく解っているからだろう、声の配役も絶妙である。主人公であり全編の語り手であるぼのぼのには子役を起用し、演技しているんだかしていないんだか解らない語り口が不思議と味わい深い。シマリスくんはじめ脇の殆どはプロで固めたことも、ぼのぼのの味を引き立てるのに役立っている。しかし何より、あのスナドリネコさんの名台詞「それは秘密です」を、森本レオに言わせたのが憎い。実の処私はこれだけが目当てで劇場を訪れたぐらいだったのだが。
 ちなみ立川談志はアライグマくんのお父さんである。これまた強烈な嵌り具合。

(2002/08/26・2004/06/23追記)


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