cinema / 『ボウリング・フォー・コロンバイン』

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ボウリング・フォー・コロンバイン
原題:“Bowling for Columbine” / 監督・制作・脚本・主演:マイケル・ムーア / 製作総指揮:ウォルフラム・ティッチー / 製作:チャールズ・ビショップ、ジム・チャルネッキ、マイケル・ドノヴァン、キャサリン・グリン / 撮影:カート・イングファー / 出演:チャールトン・ヘストン、マリリン・マンソン、マット・ストーン、ジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントン、クリス・ロック、ほか多くの有名無名のアメリカ人、カナダ人 / 配給:GAGA
2002年カナダ作品 / 上映時間:2時間00分 / 字幕:石田泰子
2003年01月25日日本公開
2003年08月27日DVD日本発売 [amazon]
公式サイト : http://www.gaga.ne.jp/bowling/
恵比寿ガーデンシネマにて初見(2003/03/08)

[粗筋]
 1999年4月20日、コロラド州にあるコロンバイン高校でそれは起こった。18歳のエリック・ハリスと17歳のディラン・クレボールドというふたりの生徒が校内の各所で銃を乱射したのだ。12時30分から約一時間後、生徒12人と教師ひとりが犠牲となり、100を超える重軽傷者をも残し、犯人ふたりが自殺するという形でいちおうの決着を見た。彼らは素人離れした技術で作り上げた爆弾も携帯していたという。
 事件はいったい何故起きたのか? 教育か? テレビの暴力描写か? 下劣なニュアンスを多数名祝うするアニメーション「サウスパーク」か? 或いは、犯行時の少年たちの服装に影響を与えたと言われるミュージシャン=マリリン・マンソンか?
 事件の舞台となったリトルトンの人々を皮切りに、直接間接の関係者たちに直接取材を試みながら、反逆児のドキュメンタリー監督マイケル・ムーアはアメリカ最大の謎と言ってもいい現実に切り込んでいく。
 何故、アメリカだけが飛び抜けて拳銃による死者が多いのか?

[感想]
 カンヌ映画祭で約20分間のスタンディング・オベーションを巻き起こしたという伝説のドキュメンタリーである。だが、本編の本編たる由縁は、確かにドキュメンタリーの性格を露わにしながら、語り口は娯楽の文法を外していない点による。
 題名からも本編のそもそもの着眼点がコロンバイン高校での事件にあったのは間違いないが、ムーア監督はそこだけに気を取られることなく、様々な方向からのアプローチを試みる。ムーア監督が初めてスクリーンに現れる場面は、口座開設の特典としてライフルを進呈するという銀行を訪れて実際に頂戴してくる、というくだりである。
 以降、犯行に至った少年たちの同級生や、その家族たちの多くが勤務していた兵器工場に切り込み、更には犯行を促したと言われるマリリン・マンソン(アナーキーな風貌や不作法に足を伸ばした態度と裏腹に、語る内容が実に真摯だったのが印象的だった)や『サウスパーク』の原作者のもとを訪れ、果てには他国の現実と比較して通説の矛盾を衝いていく。
 論調は真っ当で真面目なのだが、そのタクトを振るムーアの風貌が日本のあるタレントを彷彿とさせる巨体に無造作な髭面であり、核心を突く質問のなかに細やかなユーモアを含んでいることが、本編のカラーを無闇に深刻化しない。後半では、ムーア自身の出身地フリントで発生した、6歳の少年が6歳の少女を射殺するという悲劇の現場となった学校にも取材を敢行するが、「決して忘れることはない」と言って言葉を詰まらせた校長に対して、繊細な言葉を使っているあたりなど、ムーアが唱える「怒り」の向こうにきちんと潜む「優しさ」を窺わせる。この「優しさ」こそ、本編の完成度を裏打ちしているのだろう。
 本編の最後で、ムーアは現在全米ライフル協会の会長として銃社会の擁護者の先鋒となる俳優チャールトン・ヘストンのもとを直撃する。短い会見のなかで、それまでに集めた証拠によってヘストンの言説を覆していき、最終的に逃げるように会見を打ちきってしまった彼の後ろ姿をカメラは追う。その後ろ姿に投げかけるムーアの質問と行動はやや芝居かがっているものの、一連の事件を契機にした謎掛けへのひとつの答として、鮮烈な余韻を残す。
 ライフル協会の会長という立場の人間へのアタックだからこそ、最後にこの場面を置いたのだろう。だが、それがチャールトン・ヘストンであったことに運命を感じずにいられない。
 最後まで洒脱さを失わない語り口、それでいて実に平易な論旨と、やや曖昧さを残しながらも爽快な決着。ブラボー、と言うほかない見事なエンタテインメントである。

(2003/03/08・2003/06/13追記)


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