cinema / 『地獄の変異』

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地獄の変異
原題:“The Cave” / 監督:ブルース・ハント / 脚本:マイケル・スタインバーグ、ティーガン・ウェスト / 製作:ゲイリー・ルチェッシ、アンドリュー・メイソン、マイケル・オホーヴェン、トム・ローゼンバーグ、リチャード・ライト / 撮影監督:ロス・エメリー / プロダクション・デザイナー:ピエール・ルイジ・バジル / 編集:ブライアン・バーダン / 衣装:ウェンディ・パートリッジ / 潜水技術アドヴァイザー:ジル・ハイネス / 潜水撮影:ウェス・スカイルズ / 音楽:ラインホルト・ハイル、ジョニー・クリメック / 出演:パイパー・ペラーボ、コール・ハウザー、レナ・へディ、エディ・シブリアン、モリス・チェスナット、ダニエル・デイ・キム、マーセル・ユーレス、リック・ラヴァネロ、キーラン・ダーシー・スミス / 配給:GAGA Communications
2005年アメリカ・ドイツ合作 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:松崎広幸
2006年09月30日日本公開
公式サイト : http://www.jigoku-movie.jp/
銀座シネパトスにて初見(2006/10/05)

[粗筋]
 いまから30年前、冷戦下のルーマニア、カルパチア地方。廃墟となった教会地下にある巨大洞窟への潜入を試みたトレジャー・ハンターたちが爆弾を使用した結果、教会は倒壊。大規模な山崩れも伴って、トレジャーハンターたちは全員生き埋めになってしまった――
 ――そして現代。埋没した洞窟は地質学者ニコライ博士(マーセル・ユーレス)らによって再発見された。地球でも最大級の洞窟であり、浸水している区域を調査する必要性を説くニコライ博士によって、潜水技術に長けるダイバーチーム“シャーク”が現地に招聘された。
“シャーク”の面々とニコライ博士、彼を手伝う生物学者のキャサリン(レナ・へディ)に撮影を担当するアレックス(ダニエル・デイ・キム)が合流して、地底への調査行が始まった。
 メンバー中、意気軒昂なタイラー(エディ・シブリアン)が偵察を買って出ようとするが、その兄で冷静沈着なリーダー格のジャック(コール・ハウザー)は、代わりにブリッグス(リック・ラヴァネロ)を派遣する。タイラーの不満をよそに、ブリッグズは首尾良く中継点となるポイントを発見、一同を招くが、移動中に拠点と繋がるケーブルに異常が発生、原因究明のために潜水調査を行っていたところ、ストロード(キーラン・ダーシー・スミス)がタイラーの目前で異様な生物によって引きずられていき、その勢いで暴走した水中スクーターが爆発、衝撃で洞穴が一部崩落し、全員が脱出不可能となってしまう。
 もはや後戻りは出来ない。一同は前進し、脱出する術を求める。他方、ストロードを襲撃した生物の切り落とされた一部を調査していたキャサリンは、その細胞に驚異的な順応力と影響力とを備えた寄生生物がおり、その影響によって生物が“変異”を遂げている事実を発見する。洞穴のあちこちで発見される、かつて潜入した人々の痕跡は、決して彼らが喰われたのではなく、別のものに変貌した可能性があるというのだ。
 脱出不能、果てもなく拡がる暗闇と水。そのなかを徘徊する未知の生物。様々な脅威に晒された彼らは、無事生還することが出来るのだろうか……?

[感想]
 川口浩探検隊を彷彿とさせる予告編によって一時期ネットで話題となった本編であるが――実物も見事に川口浩探検隊であった。
 何せ、どこまで意図したのか解らないチープ感が横溢している。まずプロローグとなる30年前の出来事、教会の地下にある洞穴に潜入する、というのはいいがその穴を開けるためにわざわざ火薬を使って自滅する人々からして実に珍妙だし、その洞穴が30年を経て学術調査によって再発見されるというのも変である。どんな理由があって埋めたままにされていたのか、なんでいまさら研究者たちはそこに注目したのか。
 そして、地底に潜入してからの描写が更に往年の秘境探検ドキュメント風味の王道を行っている。どう考えても危険極まりない場所へ気軽に突き進んでいく面々、随所で仄めかされる異形の気配、あからさまに奇妙な地底生物の数々。これこそ正統派怪奇冒険もの、と激しく主張せんばかりのシチュエーションで満ちあふれている。これだけ徹底していれば、本質的に荒唐無稽であろうと楽しめるのは当たり前である。
 よくよく冷静に眺めていると、多くの設定や心理描写が未消化のまま残っているのも窺える。プロローグとして描かれたトレジャーハンターたちの真意やその後の行方はもとより、チーム“シャーク”内部の感情的な軋轢についてもちらほらと仄めかされながら、必要以上に掘り下げられていない。地底生物の造型や、寄生生物の様式についても、ルーマニアという舞台と絡めると多くの裏設定があるのでは、と勘繰ることが出来る。だが、そういうものを敢えて一切削ぎ落とし、尺を手頃に収めてB級テイストに徹した潔さもまた爽快だ。
 結果的に描写が薄くなってしまったきらいはあるが、しかしチープならチープで、と割り切った描写、セオリーを踏まえて整った構成、そしてお約束通りながら一筋縄では行かない余韻を齎すクライマックスとラストシーン。観終わったあとに残すものもさしてなく、傑作とは呼びがたいけれど、いい意味でのチープさが終始光る優秀な娯楽映画であると思う。ただし、本気で楽しむには、ジョークの解る余裕が必要かも知れないけれど。

(2006/10/08)


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