cinema / 『「超」怖い話 THE MOVIE 闇の映画祭』

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「超」怖い話 THE MOVIE 闇の映画祭
原作・映画祭主催:平山夢明(『「超」怖い話シリーズ』竹書房・刊) / 総監修:鎌倉泰川 / エグゼクティヴ・プロデューサー:堀江貴文、大和田廣樹 / 企画:高橋一平、渡部裕子、渡邊健太郎 / 製作:伊藤明博、萩尾友樹 / プロデューサー:加藤威史、山崎伸介、飯島茂 / 制作協力:ジャパン・アート / 配給:竹書房
2005年日本作品 / 上映時間:1時間22分
2005年07月02日公開
公式サイト : http://www.takeshobo.co.jp/movie/chokowa/
渋谷シネ・ラ・セットにて初見(2004/07/07)

[解説]
 現代実話怪談の雄、『「超」怖い話』シリーズ。その編著者として、実話怪談・創作ホラーの分野で独自の地位を築いた平山夢明主催による、ホラー映画オムニバスである。平山氏が呼びかけた著名人が、それぞれの信じる《極上》のホラー映画を15分程度で製作、劇場に訪れた観客の投票によって雌雄を決するという企画になっている。
 以下、作品ごとのごく大雑把な粗筋と感想とを記していく。

『悪霊』
監督・脚本・主演:津田寛治 / 撮影:高間賢治 / 出演:杉山彦々、浅野麻衣子、赤堀雅秋、中原翔子
 夜毎見る悪夢に悩まされる男は、記憶からも消し飛んでしまうほどの恐怖の正体を探ろうとする。あちこちに焦げ跡のように残った死者の魂などは恐怖の対象にならない、本当に恐ろしいのは……
 全篇台詞らしい台詞はなく、ひたすら津田寛治のナレーションと象徴的な映像によって綴られていく。言葉の粒は揃っているが、しかし終盤に至る論理展開が強引かつ決着が凡庸なので、お話としては説得力に欠いている。
 だが、そのナレーションそのものの力強さにしても、ほとんど鏡の前に突っ立ったままにも拘わらず感情の細波を窺わせる様子にしても、津田寛治の演技力が際立った作品である。津田に限らず、この作品に登場する人物は大半、ほとんど身動きすることがない。じ、っと佇んだまま、静かに動くカメラを顔だけで追っていく、その様子の薄気味悪さ。ラストの激しい動きに至るまでの異様な静けさに、濃密な狂気がまとわりついている。当代きっての演技派俳優らしい、演技に淫したような作りが映画ファンにとって頼もしい一本である。出来れば結末にもう少し捻りが欲しかったところだが。

『カフカの夜』
監督・主演:矢部美穂 / 出演:矢部文子、矢部美佳
 結婚を間近に控えた男女が気紛れに入った占いの館。そこで女は不吉な未来を宣告されるが、これをしていれば大丈夫、とひとつのペンダントを手渡される。だが、それでも女は不幸に見舞われて……
 よくあるネタを捻った作品なのだが、要素がとっ散らかりすぎて効果をなしていない。占いの場面にしても、主人公の恋人が暮らすアパートの階下の住人にしても、また怪奇描写にしても大半がジョークのようで、プロットの狙う恐怖が充分に描き出されていない。脚本・演出共になんだか映画学校入学したての生徒が実験的に作った代物のように思える。
 ただ、それ故に妙に憎めない作品でもある。監督・主演の矢部美穂の実母と実妹を起用したり、壁に不気味な絵をわざわざ飾ったり、意味もなく虫を登場させたり、といった単純でチープな素材の扱いが、奇妙な魅力に繋がっているのも事実である。単体で出されたら「何じゃこりゃ」な代物だが、ことこういうオムニバスの中に組み込まれると、奇妙にキャラ立ちする作品である。

『すげぇ!アニキ』
脚本監修・主演:遠藤憲一 / 監督:石川均 / 脚本:平山夢明 / 出演:加藤知宏
 伝説の男・秀次にも遂に年貢の納め時が来たようだ。荒廃したアジトを取り囲むのは500人を超えるヒットマンたち。だが、蹌踉とする弟分を前に秀次はまったく動揺する気配を見せない。果たしてアニキは如何にしてこの窮地を乗り切るのか……?
 ………………これ、ホラーか? 確かに怖いっちゃ怖いが、なんか“怖い”の意味がほかの作品と違いすぎてないか?
 しかし、滅法面白いのも確かなのである。周囲を取り囲まれた窮地の中、ひとっことも喋ることなく適当にうろつき廻っているアニキ=遠藤憲一、それを追いかけながら必死に彼の行動の真意を知ろうとし、独り合点しては感銘を受けている弟分。ぶっちゃけコントとしか言いようがないが、実質的な登場人物は僅かにふたり、しかもひとりは終始無言という特異な状況で引っ張っていく手際はお見事。
 言われてみりゃホラーかも知れないオチは察しのいい人ならかなり早い段階の伏線で気づいてしまうが、しかしそれを遠藤憲一主演でやってしまったことが本編の秀逸なところだ。しかも自ら監修しているのである。……確かにすげぇぜ、遠藤のアニキ。惚れ直しました。

『『四谷怪談』でござる』
監督・脚色・主演:快楽亭ブラック / 出演:林由美香、市川左團次、山本竜二
 伊右衛門は降って湧いた縁談に目が眩み、妻のお岩に相貌の崩れる毒薬を飲ませ、同時に出入りの按摩・宅悦に不義を働くよう持ちかけ、それを理由に離縁を強攻しようと目論む、が……
 誰もが知る『四谷怪談』を落語調に、しかも思い切った省略によって15分の枠に収めた力作……かと思いきや、かなり意外な方向へと崩れ落ちていく怪作であった。二代目快楽亭ブラックの芸風をご存知の方なら(或いは本編のアレンジは、落語の形で提示済のものかも知れないので)意外でも何でもないだろうが、予備知識がないと唖然とする代物であることは間違いない。
 その実、ツボはきっちり押さえていて、しかもオチにいたる伏線もさりげなく盛り込まれているあたり、日に一本は映画を観るという映画通ならではの巧みさである。映画を熟知しているが故のお遊びを盛り込みつつ、自らの芸の範疇に取りこんでしまった、こういうのを職人芸という。
 余談だが、本編でお岩を演じた林由美香氏は公開を間近に控えて原因不明の急死を遂げている。素材が四谷怪談、しかも事前に御祓いを済ませていない、ということから例によって“お岩の呪い”が取り沙汰されたのだが、観た人間に言わせてもらえば――たぶん、関係ないと思う。さすがにこの内容では怒るよりも呆れる方が先だろう。
 いずれにしても、時代がかった作りの本編に見事に嵌るお岩を演じた林由美香氏の急逝は、呪い云々に関わりなく惜しまれてならない。心よりご冥福をお祈りする。

『深夜ノ墜落』
監督・脚本:平山夢明 / 出演:藤村ちか、森田亜紀
 夜の帰宅途中、たまたま行き会ったゴスロリ女に心中に誘われた女。どうにか振り切ったが、ゴスロリ女は思いもかけない形で女の生活の中に侵入する。そして……
 このオムニバスの中で唯一、真っ当なホラーに仕上がっている。しかも発端は『東京伝説』風味の狂気を匂わせ、怪奇描写は『新耳袋』シリーズにも通じる正統派の作り。徹底して平山氏らしい要素が詰め込まれながらもほぼ完璧なショートショート・ホラーの結構を示しており、見事な演出ぶりである。狭い独身用マンションの構造を応用したカメラワークと怪奇現象の描き方も堂に入っている。
 ただ、それだけに終盤の展開が蛇足に感じられる。いまさらこんなお約束の展開を本家である平山氏にやられても、という感が強いし、何より他のある作品とオチの方向性が被っているのがいけない。そのことを意識して作品の上映順序に手を入れた様子も窺えるが、それでもいい印象を齎さないことに変わりはない。まがりなりにも旗振りである本人の作品なのだから、もうちょっと気遣いと捻りが欲しかったところ。
 しかし、オムニバスという構成と切り離して捉えれば、単体では最もストレートで、堂に入ったホラー映画であることは間違いない。本気で平山氏のみで作品を撮ったなら、もしかしたら驚異的な作品が生まれるかも知れない、そんな予感をさせる一本。……や、たぶん本気でやったら平山氏死ぬと思うので、やってくれとはとても言えないが。

オープニング&エンディング
監督:鎌倉泰川
 外面はいいけれど内心では毒突いてばかりの女。不幸な一日の締め括りは、身を凍らせるような出来事であった……
 投票の対象外ではあったが、『「超」怖い話』の題を冠した映画としてはこのパートがいずれよりも理想的な出来であった。さりげない怪異と、思いがけないところから出来する悪夢。暗澹とした余韻に至るまで、最も正しく『「超」怖』の世界観を映像として再現した作品であると思う。頼もしいと感じる一方で、平山氏はじめ他の監督たちに「もーちょっとしっかりせえよ」と思わせてしまうのは果たして成功なのか失敗なのか。

[全体の感想]
『「超」怖い話』というタイトルを戴いたオムニバス映画、と期待して観に行くとかなりの率で裏切られた印象を抱くに違いない。なにせそれらしい作品といえば当の平山夢明氏の作品のみ、あとは怖いどころか笑いが湧く作品ばかりであり、もっと言えば観客の投票の対象から外されたオープニングとエンディングの連作のほうが遥かに『「超」怖い話』らしく感じられるのは、企画として大問題である。
 しかし、『「超」怖』を意識せず、“恐怖”というテーマでの競作として、また低予算・B級を敢えて志向して作られた作品として捉えれば、かなり楽しめるはずだ。人によって“恐怖”というもの捉える尺度がかくも異なるのか、という驚きもあれば、ホラー映画に対する姿勢の違いも窺われて非常に興味深い。
 如何せん、ほとんどは狙いも作りもマニアックなので相手を選ばずにお薦めすることは出来ないのが悩みものだが、正統派なものに限らず“恐怖”を描いたものなら何でも好きという方、支離滅裂でもホラーに対する愛が感じられれば充分、というかたならとりあえず楽しみ方が見いだせると思われる。
 でも、もしまた新たな映像化企画を立ち上げるのなら、もっと真っ当な代物にしてほしーなー、と思わなくもない。こういうのも嫌いではないが、『「超」怖い話』の看板をかけるに相応しいか、と問われると首を傾げざるを得ないのだ。

(2005/07/08)


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