/ 『CUBE』
『cinema』トップページに戻る
『light as a feather』トップページに戻るCUBE
監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ / 製作:メーラ・メー、ベティ・オァー / 脚本:アンドレ・ビジェリック、ヴィンチェンゾ・ナタリ、グレイム・マンソン / 音楽:マーク・コーヴェン / デジタル効果&アニメーション:C.O.R.E. Digital / スペシャル・メイクアップ:カルガリー・スタジオ / 出演:モーリス・ディーン・ウィント、ニコール・デボアー、ニッキー・ガーダグニー、デヴィッド・ヒューレット、アンドリュー・ミラー、ジュリアン・リッチングス、ウェイン・ロブソン / 配給:KLOCK WORX、Pony Canyon
1997年カナダ作品 / 上映時間:1時間31分 / 字幕:田中武人
1998年09月12日日本公開
1999年03月17日DVD日本発売 [amazon]
2003年06月18日DVDパッケージリニューアル版日本発売 [amazon]
DVDにて初見(2003/05/04)[粗筋]
約4メートル四方の正方形の部屋。壁には幾何学状の紋様が描かれ、すべての面の中央にダイヤル式の大仰な扉がある。その一室で目醒めた男――アルダーソン(ジュリアン・リッチングス)がそれぞれの扉を開けて様子を窺うと、壁の色を除いてどの部屋も全く同じ作りになっている。そのひとつに移動したアルダーソンは、だが突如襲いかかったトラップによって一瞬のうちに絶命する。
別の部屋。しかし構造はアルダーソンが目醒めたのと全く同じ。床の扉から上がってきたクエンティン(モーリス・ディーン・ウィント)は、床で昏倒するワース(デヴィッド・ヒューレット)、隣の部屋から移動してきたハロウェイ(ニッキー・ガーダグニー)、別の部屋から助けを求めてきたレブン(ニコール・デボアー)、そして上の階から降りてきたレン(ウェイン・ロブソン)と出逢う。
いずれも同じ服装、目醒めてみたら突然この奇妙な建造物に閉じ込められていたという境遇も同じ。警官であるというクエンティンが指揮を執りながら、一同は脱出を試みる。刑務所脱走の常習犯であったというレンの知恵で巧みに罠を躱していったが、そのレンの嗅覚すら働かない罠によって彼は命を落とす。
だが、数学を専攻していた学生のレブンが、それぞれの部屋の扉付近に刻まれた三つの三桁の数字が素数でなければ安全らしいことに気づいたお陰で、四人は思い切った移動が出来るようになる。
しかしとうとう来た部屋を除く四方がすべて罠になってしまった。方策尽きて、頭上の扉を開けてみると、また新しい人物が落ちてきた。彼の名はカザン(アンドリュー・ミラー)――どうやってこれまで生き延びてきたのか、彼は強度の自閉症を患っていた。
それぞれの出自も性格も違い、これまでに生活の交わることのなかった五人。果たして彼らは生きてこの奇怪な立方体の迷宮から脱出できるのか……?[感想]
……なんで今まで観ずに過ごしてきたのでしょう私わ。
セットや衣装、役者はすべて絞られ、一見しただけでもあまり金のかかっていない作品である。部屋から部屋へと盛んに移動を繰り返しているが、それぞれは全く同じセットを照明によって別の色彩に変え別の部屋に見せかけているだけ、終盤でようやく新しい空間が姿を見せるが、詰まるところほぼこのふたつの舞台だけで1時間半近い物語が展開する。
普通なら飽きそうなものだが、強烈な罠とショックを助長する演出、そして独特のヴィジュアル・センスのお陰で、ただ映像だけを見ていても飽きることがない。
それを更に補うのが、人間心理を実に巧妙に織り込んだシナリオである。見ず知らずの他人が一箇所に閉じ込められ、常に命の危険に晒されたならどんな心理状態に陥るか、どのような葛藤が生じるかを見事に描いている。善人に見えた人間がとんでもない秘密を抱え込んでいる、或いはふとした拍子に残虐な側面を見せる、或いは利己的に見えた人間が不意に情を垣間見せる――といった具合に、ひとつひとつの描写が一筋縄でいかない。
脱出に纏わる展開も、細かい部分を観客が判断している暇がないのがややアンフェアな印象を与えるものの、非常に意欲的なミステリといった趣がある。
最も不思議な点については伏せられたままというのが少々残念だが、圧倒的なヴィジュアルセンスと美しい謎、そして人間の精神的な脆さを剔出した心理描写、これだけ揃えば文句はない。低予算でもこれだけのものを作ることが出来る、ということを照明した点においても稀有な名作。もう一度言います、なんで今まで観ずに過ごしてきたのでしょう私わ。で何故いまになってこれを鑑賞し感想までちゃんと書き上げたのかと言うと、今年2003年04月25日より、ヴァージンシネマズ六本木ヒルズの開館に合わせて本編の続編『CUBE2』が公開となったため、その予習として採り上げたわけである。性に合わなかったら鑑賞を見合わせるつもりだったが、予感していたとおり寧ろ私の好みのど真ん中だったので近日中に六本木を訪れようと思います。
唯一にして最大の不安は、続編がヴィンチェンゾ・ナタリ監督作品ではない、という点だが……さて、どうなっていることやら。(2003/05/04・2003/06/19追記)