cinema / 『CUBE2』

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CUBE2
原題:“CUBE2 : HYPERCUBE” / 監督・撮影監督:アンドレイ・セクラ / 製作・共同脚本:アーニー・バーバラッシュ / 共同製作:スザンヌ・コルヴィン=ゴールディング / 原案・脚本:ショーン・フッド / 共同脚本:ローレン・マクローリン / 製作総指揮:マイケル・パセオネック、ピーター・ブロック、ベティー・オアー、メーラ・メー / プロダクション・デザイン:ダイアナ・マグナス / 編集:マーク・サンダース / 視覚効果:デニス・ベラルディ、アーロン・ウァイントローブ / 音楽:ノーマン・オーレンステイン / 出演:ケリー・マチェット、ジェラント・ウィン・デイヴィス、グレース・リン・カン、マシュー・ファーガソン、ニール・クローン、バーバラ・ゴードン、リンゼイ・コーネル、ブルース・グレイ、アンドリュー・スコーラー / 配給:media suits、KLOCK WORX
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:岡田莊平
2003年04月25日日本公開
公式サイト : http://www.cube2.jp/
ヴァージンシネマズ六本木にて初見(2003/05/10)

[粗筋]
 真っ白い正方形の部屋が果てしなく続く迷宮。最初に出逢ったのは心理療法士のケイト(ケリー・マチェット)と、私立探偵のサイモン(ジェラント・ウィン・デイヴィス)だった。突然の出来事に平静を欠いたサイモンは隠し持っていたナイフでケイトを脅す。だが、まず盲目のために過剰に怯える少女・サーシャ(グレース・リン・カン)、そして移動してきた扉に番号をつけてきた慎重な男・ジェリー(ニール・クローン)、悲観主義的な物云いをする青年・マックス(マシュー・ファーガソン)、そして明らかに老人性痴呆の症状を呈しているペイリー夫人(バーバラ・ゴードン)と出逢い、彼らもまた「自分がどういう経緯でここに運び込まれたのか、どうすれば脱出できるのか解らない」という境遇にあることを悟ると、サイモンは凶器を収める。
 既に幾つかの部屋を渡り歩いてきた彼らだったが、律儀にナンバーを刻んできたサイモンは奇妙なことに気づいていた。どういう順序で歩いてきても、三つほどの部屋が繰り返し姿を現すというのだ。そして壁面には、超立方体(ハイパーキューブ)のモチーフが刻まれている。つまり、この迷宮は特殊な世界法則に支配されているらしい。
 先に迷いこんだ人々の荷物やそれぞれの素性をヒントに、脱出の糸口を捜す一同。だが、そんな彼らを、「立方体」に仕掛けられた様々な罠が襲う。何故彼らはこの奇妙な牢獄に閉じ込められたのか、そして果たして彼らは無事に脱出できるのか――?

[感想]
 オリジナルである『CUBE』は、カナダが新しい映像作家を発掘するという計画のもと、既にハリウッドで絵コンテなどを手掛けていたヴィンチェンゾ・ナタリ監督の才能に着目して、国内のキャストとスタッフを集め低予算で作り上げたものである。対して本編は、アメリカの大手制作会社であるライオンズ・ゲート・フィルムズ出資のもと、製作総指揮やプロダクション・デザイン、視覚効果など一部を除いてキャスト・スタッフを一新、正確な数字は解らないが恐らく第一作を大幅に上回る製作費に支えられて完成した続編である。だが、予算の関係もあってだろう、CGなどの視覚効果を最小限に抑えて心理の綾を描くことで密閉状況のサスペンスを盛り上げていた前作とは、様々な点で趣が異なる。
 オープニングからしてCGを駆使したアニメーションであり、前作では部屋ごとに異なった色を使っていたのに今回は白一色、トラップもほぼすべてがCG技術を活かした視覚効果を用いている。前作のそれが人間の内臓を描いているような雰囲気だったのに対し、こちらは清潔な手術室でメスを入れ、人工臓器を埋めこんでいく様を見せつけている、といえば解るだろうか。
 この表現からも察していただけるだろうが、正直に言って、前作とほぼ同じ方向性を期待していたなら裏切られることは確実である。条件を深めていって感情的な諍いと謎解きとを噛み合わせ、与えられた道具や要素を存分に活かしたオリジナルの『CUBE』と較べ、本編は全般に放り出された謎や意味のない要素が多いのだ。きっちりとした脈絡がないから、観賞後にストーリーを記憶のみで辿ろうとしても難しく、故にこんな曖昧な粗筋になったわけで(他にも多少理由はあるが)。
 また、オリジナルの罠があまりにシンプルかつ強力すぎて、「レーザーCUBE」と呼ばれるトラップ以外は登場にも逃亡の過程にも面白みがない。たとえば前作にあった、音に反応して壁から無数の巨大な針が飛び出してくるトラップを避けて下の階へ降りていく、というような、トラップの存在自体が演出する緊迫感というものがない。全体に、大仰なわりには効果を示していないのだ。
 前作と較べ、迷宮が作られ彼らが閉じ込められた理由について探る場面が増えているせいもあって、謎や秘密が少しずつ積み重ねられていく過程は面白いし、前作に近い味わいを留めている。が、そうして提示されるものは本編で初めて採り上げられた要素であり、前作ではおくびにも出していないものが大半である。
 そして最大の焦点である結末においても、最も難しい問題――何故彼らが選ばれて閉じ込められなければならなかったのか――については充分な解答を出しているとは言えない。しかも、煎じ詰めてみるとこの解答、本編の疑問には一応答えているものの、前作での同様の疑問については更に謎を深めているだけ(どころか、あの結末のあとに訪れるであろう悲劇をダイレクトに予感させるため、後味を微妙に壊しているとも言える)、という妙な結果になっているのだ。つまるところ、あの『CUBE』の正統的な続編としていちばん期待されたものは、殆ど得られなかった。
 ではまるっきりの不出来なのか、と訊かれると、そう断じてしまうには勿体ない要素も多いのだ。少なくとも、同じ立方体の部屋が連なる迷宮、という設定のベースは引き継いでいるし、前作でも想像しうる悪夢を、直接ではないが衝撃的に描いている点は評価できる。
 監督がカメラマン出身であるためか、カメラワークの感性は前作よりも遥かに洗練されており、作中最も前作からのスタッフが残っている視覚効果の面では、監督が提示したという「白」のイメージを取り入れながら、前作の味わいをも残すことに成功している。
 前作『CUBE』を見ていても、同様のものを期待しなければそれなりに楽しめるし、前作が未見という方は「SF的な仕掛けを用いたスリラー」として鑑賞すれば、色々納得出来ない点は多くとも、かなり面白く感じられるはず。要は、監督はじめスタッフが入れ替わっていると気づいた段階で、別物であることぐらいは覚悟して観ましょうよ、ってことで。

 それにしても、プログラムを作る方はミステリって読まないんですかね。客観的叙述で嘘を書いてはいけない、という最低限のルールは守ってくださいお願いですからー。(以下ネタバレのため伏せ字)唯一アイゾンとなんの接点も持たないケイト、って、彼女がいちばん深い関わりを持ってるじゃないかこらー。(以上伏せ字)

(2003/05/10)


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