/ 『デス・フロント』
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『light as a feather』トップページに戻るデス・フロント
原題:“Death Watch” / 監督・脚本:マイケル・J・バセット / 製作:マイク・ダウニー、サム・テイラー / 製作総指揮:ダン・マーグ、マイケル・ビスチョフ / 共同製作:サム・ラヴェンダー、キャロライン・ヒューイット / 撮影:ヒューバート・タクザノウスキー / 編集:アンヌ・ソペル / 美術:アレクサンダー・デニック / 衣装:ルシンダ・ライト / 音楽:カート・クレス、クリス・ウェラー / 特殊効果:フラッシュ・バランドフ / 特殊視覚効果:UPP / 出演:ジェイミー・ベル、ヒューゴ・スピアー、マシュー・リス、アンディ・サーキス、ローレンス・フォックス、ハンス・マシソン、ディーン・レノックス・ケリー、ヒュー・オコナー、クリス・マーシャル、ルアイディリ・コンロイ / 配給:GAGA-HUMAX
2002年イギリス作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:風間綾平
2003年08月30日日本公開
2003年12月21日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : なし
銀座シネパトスにて初見(2003/09/06)[粗筋]
1917年西部戦線で、チャーリー・シェイクスピア(ジェイミー・ベル)は地獄絵図を目の当たりにしていた。そこで繰り広げられているのはドイツ軍との肉弾戦、敵も味方もなくそこら中に死体が転がっている。突撃を指示されるが、年齢を19歳と多く見積もって兵役に就き、かつてはただの連絡兵だったチャーリーは怖じ気づいて足が動かない。有刺鉄線に引っかかってしまったテイト軍曹(ヒューゴ・スピアー)の助けを求める声にも気づかず、ただ呆然と立ち尽くすだけだった……
毒ガス攻撃から一夜明けて、チャーリーの所属するY中隊は霧のなか、重傷を負ったシバス(ルアイディリ・コンロイ)を担架に乗せて彷徨っていた。本営との連絡が取れず、自分たちの現在位置も把握できない状態で、彼らはドイツ軍の塹壕を発見する。生存していた兵士のうち一人を射殺、ひとりを取り逃がし、ひとりを拘束した。投降した兵士は敵意を示さず、意味不明のことを喚いているようだったが、塹壕占拠という功績に目の眩んだ部隊は耳を貸さない。
Y中隊の指揮官はジェニングス大尉(ローレンス・フォックス)だったが、当人は現在地の割り出しに懸命で頼りにならない。テイト軍曹が先頭に立って塹壕内部を調査すると、その異様な状態が明らかになった。交戦状態にあったと思えない塹壕内部にはドイツ兵の死骸が累々と転がり、しかも一部は味方同士で殺し合ったとしか思えない。危険な気配を嗅ぎ取ったチャーリーとマクネス(ディーン・レノックス・ケリー)は撤収を訴えるが、大尉や凶暴な資質を持つクイン(アンディ・サーキス)は塹壕の確保にこだわり聞く耳を持たない。
一方、鉱石無線を発見したブラッドフォード(ヒュー・オコナー)が、シバスの様子を窺いながら本営との連絡を試みるが、あちらにブラッドフォードらの声は届かない。それどころか、聞こえてくるのは「Y中隊は全滅した」という不吉な言葉だけ。テイトは、他の隊員には黙っているよう命じる。
塹壕内をいくら探せど、発見するのは不気味な死体ばかり。泥にまみれた死体のふりをしたドイツ兵と交戦したことで痺れを切らした一同は、捕虜とした兵士に訊問を試みる。かつて連絡兵をしていたチャーリーがフランス語で話を聞くと、兵士は不気味なことを口走りはじめた。
「塹壕には邪悪なものが潜んでいる。早くここを立ち去れ、さもなければ仲間同士で殺し合い、全滅する羽目になる」――[感想]
ホラーと戦争は、あまり相性が良くない。
地下に潜む魔物や、不意をついて現れる未知の恐怖といったホラーのガジェットを並べ立てたところで、戦場で繰り広げられる人間同士の醜い争い、阿鼻叫喚の地獄絵図の前には浮ついて映る。日常的に死の恐怖と隣り合わせにある人間にとって、幽霊や怪物の類が大挙したところで状況に大差はないのだ。
そういう意味で、本編は無謀な試みに出てある程度の成功を収めている、と言ってもいい。舞台を孤立した謎の塹壕という密室に設定し、最前線にいるという認識で外敵に対する脅威を登場人物に植え付けながら、同時に内側に存在する未知の恐怖を感じさせた趣向はなかなかに見事だった。
が、問題は実際に現れる怪異の性質である。ひとつひとつは不気味なのだが、一貫性がない。終盤で仄めかされる目的といまいち合致せず、変にアンバランスな印象を残すのだ。特に有刺鉄線を駆使した場面など、正直笑ってしまう。
一方で、外と内の脅威に晒されてそれぞれに常軌を逸していく隊員たちの姿、その中で自分なりの正義感に固執して成長の兆しを見せるチャーリー少年の描写や演技は説得力があり、襲い来る怪奇現象よりも彼らの間のやり取りや心理的駆け引きは、戦争物としては少々月並みのものも目立つが、おおむねなかなか見応えがある。似たような軍服を着用し、泥にまみれて似たような恰好になっていても、きちんと見分けられるようにキャラクターが立っているのも評価したい。当初はジェイミー・ベルという若き才能を起用するために、年齢を偽って兵役に志願した少年という設定を用いたのかと思ったが、この点も物語の展開に多少なりとも奉仕していることも言い添えたい。名を挙げるきっかけとなった『リトル・ダンサー』と較べて遥かに地味な役柄で強烈な印象を残した役者自身も称賛に値する。
ホラーとしてのガジェットや演出手法が半端なため、どうも物足りない印象ばかりを残すものの、作品のテーマとそれに対する誠実さは悪くなく、パーツの不出来を補うくらいに纏まりがいい。積極的に推しはしないが、観ればそれなりに楽しめる作品に仕上がっている。……二週間で上映終了というのは、ちょっとあんまりでないかい、と感じるくらいには。(2003/09/06・2005/05/07追記)