cinema / 『エル・マリアッチ』

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エル・マリアッチ
原題:“El Mariachi” / 監督・原案・脚本・製作・撮影・SFX・編集:ロバート・ロドリゲス / 共同製作・SFX・主演:カルロス・ガラルド / 音楽:マーク・トルエーロ、アルヴァロ・ロドリゲス、ホアン・スアレス、セシリオ・ロドリゲス、エリック・ガスリー / 出演:コンスエロ・ゴメス、ヤイミ・デ・オヨス、ピーター・マルカルド、レイノル・マーティネス / 配給:ケイブルホーグ / DVD発売元:Sony Pictures
1992年アメリカ作品 / 上映時間:1時間21分 / 日本版字幕:細川直子
2004年02月25日DVD版日本発売 [amazon]
DVDにて初見(2004/02/29)

[粗筋]
 発端は、とある刑務所。収監されながら電話一本で部下たちに指示を下し、大金を稼いでいたアスール(レイノル・マーティネス)は、久々に連絡を取ってきた仲間モコ(ピーター・マルカルド)に早くここから出すよう要求する。だが、それに応えてモコが刑務所に送り込んだのは、アスール暗殺を命じられた部下数名だった。アスールは密かに調達していた武器で返り討ちにすると、どさくさに紛れて刑務所を脱走し、復讐のためにモコのもとへと旅立った。
 同じころ、ひとりのマリアッチ[歌手](カルロス・ガラルド)がとある町にたどり着いた。一族揃って歌手であり、自らもまた優れた歌い手となるべく修行の旅をしている彼は、験が良さそうなこの町でしばらく稼ごうと考える。だが、何処に行っても人々の返事はつれないものだった。失意のまま、いったん安宿に身を休めた彼だったが、突如やってきたギャング風の男達に襲われる。やむなく相手を様々な手段で返り討ちにしたマリアッチは、仕事探しのときにかすかに惹かれた女性オーナー・ドミノ(コンスエロ・ゴメス)の経営するバーに身を隠す。
 一方、部下と共にアジトにいたアスールは、モコからの電話を受ける。モコは合わせて十人の部下を奪われたことに憤りを隠さず、もはや譲歩の余地はない、と徹底抗戦を宣言する。だが、アスールは六人しか殺していない、と妙なところで譲らない。それもそのはずだった。モコの部下はアスールの特徴を「ギターケースを携えた黒服の男」としか伝えておらず、行き違いからあのマリアッチがアスールとして追われていたのだ……!

[感想]
 2004年03月に、一部では待望となっていた『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』がようやく日本で封切りとなる。それに先駆けて、シリーズ最初の作品と説明されている『エル・マリアッチ』がDVDで発売され、発売済の『デスペラード』とのセット販売も本数限定で行われた。銃弾飛び交いまくりのガン・アクションというだけで『レジェンド〜』に期待を寄せていた私としては、この機会に予習しない手はない、と思い鑑賞した次第。
 この第一作は当時僅か二十三歳(!)だったロバート・ロドリゲス監督が7000ドルという低予算と限られたスタッフで作り上げた、というだけあって、あまり派手さはない。アクションにしても、町中で唐突に追跡劇が始まり、路地裏の銃撃戦であっという間に幕を下ろす、という風情で、正直に言えば迫力には乏しい。
 だが、全編に漂う独特の緊張感と、アクションの途中でさえ垣間見せるユーモアが交互することで、リズム感と共に不思議な牽引力を最後まで残している。こうした類のアクション映画では必ずと言っていいほど存在する「公式」を、微妙にずらしながら意外な方へ意外な方へと話を導いていることも、魅力に繋がっている。
 粗い画面といい知名度の低い役者たちといい、作品全体を覆うチープな雰囲気に決して刃向かわない物語とアクションの組み立て方にも好感を覚える。このあとの『デスペラード』では、本編に引き続き登場するエル・マリアッチの役者がアントニオ・バンデラスにバトンタッチ(しかしカルロス・ガラルド自身は製作補として裏方で参加し続けている)、本編での物語を下敷きにしながらより正統的なガン・アクション・ヒーローに変質し、アクション自体も大作らしい派手なものになるが、そうした娯楽大作に発展するための萌芽が、確かに本編には存在する。洒落た感性によって軽さと重さとを併せ持った、けれど紛うかたなき娯楽映画である。

(2004/03/01)


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