cinema / 『名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)

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名探偵コナン 水平線上の陰謀(ストラテジー)
原作:青山剛昌(小学館・刊) / 監督:山本泰一郎 / 脚本:古内一成 / プロデューサー:諏訪道彦(よみうりテレビ)、吉岡昌仁(東京ムービー) / キャラクターデザイン・総作画監督:須藤昌朋 / 美術監督:渋谷幸弘 / 色彩設定:西 香代子 / 撮影監督:野村 隆 / 編集:岡田輝満 / 音響製作:AUDIO PLANNING U / 音響効果:横山正和 / 音楽:大野克夫 / 主題歌:ZARD『夏を待つセイル(帆)のように』(B-Gram RECORDS) / アニメーション制作:東京ムービー / 声の出演:高山みなみ、神谷 明、山崎和佳奈、山口勝平、緒方賢一、岩居由希子、高木 渉、大谷育江、松井菜桜子、林原めぐみ、茶風林、井上和彦、湯屋敦子、千葉一伸、中嶋聡彦、中田浩二、西村ちなみ、太田真一郎、大川 透、井原啓介、遊佐浩二、有本欽隆、岡部政明、山寺宏一、榊原良子 / 配給:東宝
2005年日本作品 / 上映時間:1時間48分
2005年04月09日公開
公式サイト : http://www.conan-movie.jp/
有楽座にて初見(2005/04/30)

[粗筋]
 その名を轟かせた高校生探偵・工藤新一(山口勝平)はある日を境に忽然と姿を消した。実はある事件で犯罪組織によって謎の毒薬を飲まされた彼は小学生の躰になってしまい、「死んだ」と思いこんでいる組織を欺き追い詰めるため、また同時に幼馴染みの毛利蘭(山崎和佳奈)ら親しい人々を巻き込まないために、江戸川コナン(高山みなみ)を名乗り、普通の小学生として暮らしている。しかし、蘭の父である私立探偵毛利小五郎(神谷 明)を介し、或いは小学校の同級生たちと成り行きで結成した少年探偵団として、はたまた組織絡みの事件に遭遇したり、様々な形で犯罪に拘わり謎を解き明かす日々は続いている。かつて組織の一員であり、いまは新一と同じ薬を飲んで子供の躰になり身を潜めている灰原 哀(林原めぐみ)共々、本来の姿に戻れる日は訪れるのか……?
 そんなコナン少年が新たに遭遇する事件の舞台は、豪華客船アフロディーテ号。蘭や新一の同級生で、実は財閥のお嬢様でもある鈴木園子(松井菜桜子)が両親の代理として招かれたのだが、ひとりではつまらない、と蘭と小五郎、コナンに、哀とその保護者代わりの阿笠博士(緒方賢一)、更に少年探偵団こと元太(高木 渉)・光彦(大谷育江)・歩美(岩居由希子)まで纏めて招待してくれたのだ。初体験の華やかな場所にはしゃぐ小さな級友達を横目に眺めながらも冷静なコナンだったが、さすがの彼も、こんなところまで自分たちを事件が追いかけてくるなどとは、この時点ではまだ夢想だにしていなかった。
 食堂で知り合ったシナリオライターの日下ひろなり(山寺宏一)やアフロディーテ号の設計技師にして名付け親でもある秋吉美波子(榊原良子)とテーブルを囲んだり、蘭が空手の関東大会で優勝を果たした話で盛りあがったり、と最初の夜は和気藹々に過ごしたが、翌日から状況は一変する。
 話の成り行きでかくれんぼをすることになったコナンたちだが、哀とともに鬼の役だった園子が戻らない。最後まで見つからなかった蘭を探して地下のマリーナまで向かった園子はそこで何者かに襲われ、閉じこめられていたのである。コナンがすぐさま閉じこめられていた場所を突き止めたために大事には至らなかったが、何故園子は襲われたのか。
 理由を探るためにコナンと小五郎がマリーナに赴くと、そこにはアフロディーテ号を所有する八代客船を含む八代グールプ会長・八代延太郎(岡部政明)の愛用する鉄扇が落ちていた。事情を確認するために延太郎の部屋を訪れた一同を出迎えたのは、延太郎の娘で八代客船の社長を務める貴江の屍体だった……

[感想]
 原作やテレビアニメ版をちょっとでも観たことのある人なら言わずもがなの箇所から書いてみましたが、けっこう新鮮に見えませんか。改めてなぞることなんか今になると珍しいでしょうし。
 わたくし、原作の連載一回目から読んでいるような人間ですが、何故か劇場版はいっかいも観たことがない。そもそもテレビアニメ版もあまり見た覚えがない。これは出来不出来というより、もともとやたらと説明ゼリフの多いアニメは好きでないのと、尺に対して詰め込む情報が多すぎるが故の駆け足が私には馴染まなかったというだけである。劇場版を観なかったのもその延長上にあるものと捉えていたからだ。ゆえに、前々からいい評判を耳にしながらも、機会の問題もあってなかなか観に行く気になれなかったのである。
 が、今回、作品そのものよりも公開館に足を運びたかったという理由(詳細は鑑賞当日の日記を参照していただきたい)で、ようやく初めて鑑賞することになった。あくまで劇場の施設を観に行くのが主な理由だったため、作品の出来は二の次のつもりだったのだ、が。
 観て納得した。これは、確かに面白い。
 もとがシリーズものであるために、冒頭に前提の説明があったり、お約束めいたやり取りが随所にあって、積極的に観ていなかった人間としては少々居たたまれない思いをする箇所があったが、この辺はまあ致し方あるまい。
 問題に感じたのは、謎解きのロジックが孕んだ大穴と、CGの出来映えである。まず前者であるが、本編のトリックにはかなり意欲的なアイディアが盛り込まれている。やもするとアニメという媒体では表現しづらいのでは、という絡繰りを、視点の巧みな変更によって違和感なく解りやすく見せている点は高く評価できるが、しかし仕掛けとしてはまったくリアリティに欠ける。そもそも、謎解きのために用いられるロジックが、肝心のメインになる絡繰りを根底から覆しかねないのがいけない。特に意識もせず観ていた人なら素直に驚けたかも知れないが、当初から見え見えの、ある仕掛けに気づいていたような人間なら、結末で提示された“真相”にもかなりの率で違和感を抱くだろう。
 そして後者の問題であるが、普通の場面での作画にはこれといって引っかかるところはない。拙いのは、豪華客船アフロディーテ号を遠景で見せている箇所である。正直に言って、見るからに3DCGと解ってしまう雑な作りで、失笑を禁じ得なかった。波濤の描写にはムラがあるし、カメラの移動がぎこちなくてただただ不自然な印象をのみ残す。テレビ画面で観ればさほど気にはならないだろうが、劇場公開作品である以上、もっと繊細な描画を望みたい。
 しかし、それ以外の点ではほぼ及第点以上と言っていいだろう。無理があるとはいえど、伏線やヒントの鏤め方は丁寧で、その意味ではかなりフェアな作りになっている。今回活躍するのは通常三枚目・狂言廻しでしかない毛利小五郎探偵だが、彼がある事実に気づくきっかけはなかなか面白い着眼である。仕掛けの大胆さもさることながら、そうした細かい伏線に工夫が認められることからして、ミステリ好きにはポイントが高い。
 また、ストーリーの随所に緊張感を煽るイベントが挿入されているため、全篇に亘ってサスペンスが持続している点も評価したい。さすがに前提部分はちょっとのんびりしているが、園子が襲われるあたりからはほとんど息を吐く暇もない。場面場面でレギュラーキャラクターの見せ場を極力用意し、そんななかにクライマックスに至る伏線も(少々見え見えではあるがょ鏤めており、プロットに丁寧な推敲が窺われるのにも好感を覚える。終盤での盛り上がり、クライマックスの迫力は、謎解きの不手際を補って余りあると言えるだろう。
 キャラクターごとに眺めると、少年探偵団の三人に灰原哀の積極的な見せ場がないことが惜しまれるが、その分本編の存在意義になっているのは、オリジナルシリーズではどちらかというと道化になることの多い毛利小五郎が出色の活躍を見せていることだ。原作でのダメ人間っぷりをよく知っているだけに、本編での格好良さは痺れるくらいにいい。
 穴があるとは言え全体としてはミステリの基本を押さえているが故にどうしても予定調和の印象は拭えないが、それでも充分に楽しめるだけの要素をうまく鏤めた意欲は立派。その辺の日本映画などよりも遥かに面白く、正統的な娯楽映画と断言しましょう。特徴的な絵柄と、時折垣間見えるどーにも恥ずかしい描写さえ受け入れられるなら、確実に楽しめます――個人的にはそのへんも味わってほしいよーに思いますけれど。
 こら、次も観に行ってしまうかもなあ。

(2005/05/01)


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