cinema / 『007 ダイ・アナザー・デイ』

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007 ダイ・アナザー・デイ
原題:“Die Another Day” / 原案:イアン・フレミング『007』シリーズ / 監督:リー・タマホリ / 製作:マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ / 脚本:ニール・バーヴィス、ロバート・ウェイド / 製作総指揮:アンソニー・ウェイ / 共同製作:カラム・マクドゥーガル / 音楽:デヴィッド・アーノルド / 主題歌:マドンナ『Die Another Day』 / プロダクション・デザイナー:ピーター・ラモント / 撮影:デヴィッド・タッターソル、BSC / 編集:クリスチャン・ワグナー / 衣装デザイン:リンディ・ヘミング / 出演:ピアース・ブロスナン、ハル・ベリー、トビー・スティーヴンス、ロザムンド・パイク、リック・ユーン、ジョン・クリース、ジュディ・デンチ / 配給:20世紀フォックス
2002年アメリカ作品 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2003年03月08日日本公開
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/dieanotherday/
銀座シネパトスにて初見(2003/04/29)

[粗筋]
 海岸を経由して、三人の西側スパイが朝鮮半島の国境にある非武装地帯の北朝鮮側領域に侵入した。将軍の息子という地位と西側への留学経験を利用して武器の密輸入出を行い、私腹を肥やしているムーン大佐暗殺の密命を帯び、大佐の取引相手と入れ替わって接触を試みるスパイたちだったが、目的達成直前でメンバーのひとりがジェームス・ボンド(ピアース・ブロスナン)であることが発覚してしまった。逃走手段を失いながら大佐を追い詰め、滝壺に墜ちていく姿を見届けたボンドは、しかし追跡してきた将軍らの部隊によって捕縛される。
 十四ヶ月に及んだ拷問は唐突に終わりを告げた。ボンドは西側に囚われていた人質と引き換えに、大英帝国の元に返される。引き渡しの行われた橋の上でボンドとすれ違ったのは、取引の場でボンドの正体を大佐に指摘した男――ザオ(リック・ユーン)だった。
 麻酔薬を打たれたボンドは、診察台の上に拘束された状態で目醒める。見計らったように現れた上司のM(ジュディ・デンチ)はボンドに、この数ヶ月のうちに中国諜報部の人間が三人殺されたと言い、ボンドに密告の疑いがかかっていることを告げる。自白した内容が判明するまでボンドは拘束され、更に“00”コード剥奪の上再度の適性検査が実施される、という無情な宣告を、しかし黙って受け入れるような男ではなかった。精神力で仮死状態を生み出すと、医師たちの混乱に乗じて脱出する。
 ボンドが囚われていたのは香港沿岸に停泊する英国軍艦の中だった。逃走に成功したボンドはその足で香港のホテルに潜んでいる旧知の諜報員に接触する。目的はザオ――自分と彼を交換したことのメリットを探ることと、北朝鮮で自分たちを売った裏切り者をあぶり出すこと。
 ボンドはキューバに飛んだ。協力者ラウル(エミリア・エチェヴァリア)から、ザオがロス・オルガノス島にあるクリニックに匿われているという情報を得て訪れたボンドは、島の付近にある海岸でジンクス(ハル・ベリー)と名乗る女性と出逢って意気投合、早速一夜を共にする。目醒めたボンドが窓を覗くと、どういうわけかジンクスは島に向かうボートに乗り込んでいた。ボンドはクリニックの入院証明書を持参していた男を利用して島に侵入する。
 首尾良くザオを発見したボンドだったが、予想外の抵抗に遭い逃げられてしまう。ザオを追う道すがら、ボンドはクリニックの責任者らしき男の射殺死体と、ジンクスの焼き払われた入院証明書を見つけた。そしてどうにか飛び出してみれば、ザオが乗ったヘリコプターを銃撃するジンクスの姿がある。クリニックの衛兵に囲まれたジンクスは海に飛びこみ、待機していたボートに乗って消えた――どうやら、自分以外に大きな組織がザオを狙って動いているらしいことをボンドは悟る。
 ザオとの格闘中に奪った薬莢には、ダイアモンドが詰まっていた。レーザーによる刻印から、ここ数ヶ月のうちに業績を上げたグスタフ・グレーヴス(トビー・スティーヴンス)の扱ったダイアモンドであることが判明する。ボンドはイギリスに舞い戻り、グレーヴスとの接触を図った……

[感想]
 既視感を覚えるほどに、見事な『007』映画でした。
 常識離れした道具、エキセントリックな悪党、国家規模の陰謀、派手なカーチェイス、壮大な秘密兵器、どんなピンチにあってもスタイルを崩さないボンド。よくよく考えてみると必然性のない行動があったり、本筋からすると矛盾した箇所があるのもらしいと言えば非常にらしい。
『007』という映画に求められる要素をきちんと盛り込みながら、現代的なガジェットと旬の素材を駆使して最上の形で仕上げた映画。それ以上でもそれ以下でもなく、恐らくこれまでの『007』を楽しんで見られた人ならば満足の出来だろうし、合わないと感じた人にはとことん合うまい。
 ただ、ボンドのキャラクター性が従来と較べて若返り、お飾り的存在であったボンド・ガールを、ハル・ベリーに演じさせることで格段に魅力的なものに変えた点がちょっと違う。まさかスピン・オフして独自企画が立つとまでは制作者も予測はしていなかったに違いないが。
 ともあれ、硬いことを考えずに楽しみましょう。後に何も残らない作りも、また潔し。

 公開前に、本編での北朝鮮の扱いに朝鮮半島両国から批判が噴出したことでも話題となった本編だが、私が観る限りそれほど問題はない。寧ろ、現実との距離感に非常に配慮している様子が窺われ、「娯楽映画」であることに徹しようとした確かな姿勢が窺われるだけだった。
 確かに北朝鮮の上層部を牛耳る親子、という設定には現実を反映したような印象が色濃いが、北朝鮮全体を悪のように描くことはしていない。それどころか、ムーン将軍の言動には国際社会を意識した配慮が端々に見え隠れし、終盤でも国に対する責任感を垣間見せて、決して悪人には描かれていない。本編における「悪」は首魁と彼の直属の部下に限られており、それを一掃することで決着する本編の構造は、従来の『007』、ひいては標準的なヒーロー・アクションの枠を逸脱して政治的な面に訴えかけるものでは全くない。

 鑑賞前、予告編で、広告で、各種メイキングで、観る都度に感じていたことがひとつある。本編を観れば或いは払拭される思い込みだろうと高を括っていたのだが、鑑賞したあともその印象は強まるばかりだ。耐えがたくなってきた。この場で叫ばせていただく。
 ザオは中村獅堂そっくりだ。それもキューバ編以降の彼は彼が演じてると言っても私ゃ信じる。

(2003/04/29)


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