cinema / 『ドリームガールズ』

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ドリームガールズ
原題:“Dreamgirls” / 監督・脚本:ビル・コンドン / 製作:ローレンス・マーク / 製作総指揮:パトリシア・ウイッチャー / 原作・作詞:トム・アイン / 音楽:ヘンリー・クルーガー / 撮影監督:トビアス・シュリースラー / プロダクション・デザイナー:ジョン・マイヤー / 編集:ヴァージニア・カッツ / 衣装:シャロン・デイヴィス / 振付:ファティマ・ロビンソン / 舞台照明デザイナー:ジュールス・フィッシャー、ペギー・アイゼンハワー / ミュージック・スーパーヴァイザー:ランディ・スペンドラヴ、マット・サリヴァン / ミュージック・プロデューサー&アレンジャー:アンダードッグス / 出演:ジェイミー・フォックス、ビヨンセ・ノウルズ、エディ・マーフィ、ダニー・グローヴァー、ジェニファー・ハドソン、アニカ・ノニ・ローズ、キース・ロビンソン、シャロン・リール、ヒントン・バトル / 配給:UIP Japan
2006年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2007年02月17日日本公開
公式サイト : http://www.dreamgirls-movie.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2007/02/17)

[粗筋]
 1962年、デトロイト。シアターで開催される、一週間の契約権を賭けた公開オーディション・イベントにギリギリで到着した三人の少女たちの姿があった。ディーナ・ジョーンズ(ビヨンセ・ノウルズ)、エフィ・ホワイト(ジェニファー・ハドソン)、ローレル・ロビンソン(アニカ・ノニ・ローズ)は“ドリーメッツ”の名前でヴォーカル・グループを結成、エフィの兄C.C.(キース・ロビンソン)の楽曲をエフィのパワフルな声を中心にして歌いあげ、客席からの大喝采を浴びるが、結果は敗退。またしても有名になるチャンスをフイにした、と落胆する。
 そんな彼女たちに救いの手を差し伸べたのは、地元で中古車ディーラーを営むカーティス・テイラーJr.(ジェイミー・フォックス)という青年であった。音楽業界への進出を夢見て盛んにシアターに出入りしていた彼は、オーディションの直後にステージに上がる、地元の有名シンガーであるジェームズ・“サンダー”・アーリー(エディ・マーフィ)のイベントに出る筈だった女性コーラスが急に抜けてしまった事実を把握していた。“ドリーメッツ”、特にエフィの力強いヴォーカルに可能性を見出したカーティスはすぐさま彼女たちを捕まえると口説き落とし、アーリーに交渉する。アーリーのマネージャーであるマーティ・マディソン(ダニー・グローヴァー)は渋い顔をするが、生来の女好きであるアーリーは彼女たちを受け入れ、直後のテストで優れた歌唱能力を示した三人を、マーティも認めないわけにはいかなかった。
“ドリーメッツ”の三人がアーリーのバック・コーラスとして活動を始めると、続いてカーティスはC.C.を売り込むことにした。“ドリーメッツ”の力強くソウルに満ちあふれた音楽を支えた彼の楽曲をアーリーに歌わせ、全米にリリースすることを目論んだのである。ただの中古車ディーラーであるはずが、曲の内容にまで容喙しようとするカーティスに、マーティンは警戒を顕わにするが、アーリーはすぐさま理解を示し、C.C.の作った歌をカーティスのガレージで録音した。
 この新曲『キャデラック・カー』は大ヒットとなり、カーティスに更なるステップへの移行を決意させる。即ち、中古車ディーラーという仕事から足を洗い、アーリーや“ドリーメッツ”たちを中心とした音楽業界への本格参入である。折しも、従来のスタイルに限界を感じていたアーリーとマーティンの意見が一致しなくなったこともあって、カーティスはマーティンからマネージメント権を譲り受けると、中古車を叩き売り、その資金でギャンブルに馳せ参じ資金を獲得する。全米で認知されるためには、各地のDJに曲を流してもらう必要がある。そのためには何よりも賄賂が有効だった――
 カーティスの目論見は奏功し、ジミー・アーリー&ドリーメッツとして行われた全国巡業は大好評を博する。そのあいだにエフィはカーティスと、ローレルはアーリーと恋仲となり、彼らは幸福の絶頂にいた。カーティスの立ち上げた“レインボー・レコード”はここから本格的な成長を開始する――だが、彼らにとっての蜜月は、もう間もなく終わりを告げようとしていた……

[感想]
 これを書いている現在、本編は今年度のアカデミー賞に6部門、都合8つのノミネートを受けている。但し、8つのうち3つが歌部門で、いわゆる主要部門では助演男優賞にエディ・マーフィが、助演女優賞にジェニファー・ハドソンが挙げられているのみで、あとは美術部門・衣裳部門・録音部門と裏方が中心となっている。それだけに、決して全体としての出来には期待していなかったのだが――少々侮りすぎていた。
 話自体はよくある、ショウビズ界での成功と、それに伴う喪失と苦しみとを描いたものである。多少なりともアメリカの音楽を知っている人間ならば、一連の人間関係やその背景とがモータウン・レコードという実在するレーベルをモデルにしていることは察せられるだろう。それ故に、話には並のフィクションを上回る説得力が備わっている。主役格であるカーティスが運営するレコード会社にはのちに男の子を中心とする5人組グループが所属するが、彼らの雰囲気はあからさまにジャクソン5をモチーフにしているのが察せられるし、“ドリーメッツ”――アーリーから離れ単体でデビューするときに“ザ・ドリームズ”と改称する――の人気ぶりを描くためにビートルズとの絡みを仄めかしたり、人気司会者の姿を垣間見せたりする“お遊び”とも呼べる仕掛けが、その時代性をもきっちりと感じさせるのだ。音楽の変遷がいささか実際よりも速すぎるきらいはあるが、そのくらいはフィクションとしての許容範囲内であろう。
 巧いのは、その出自に潜む“ミュージカル”としての本質が序盤ではあまり表面化せず、次第に浮き彫りにされていく点だ。某有名タレントに限らず、物語の途中でいきなり登場人物が歌い出す不自然が気になって、ミュージカルと言うだけで拒否反応を示すような人もいる。だが、予備知識なしで本編に対したとき、最初のうちはこれがミュージカルだとは気づかないだろう。少々歌の分量が多めに感じられるだけで、ショウビズ界を舞台としたドラマ程度の認識になるはずだ。それが次第に、物語の中で不意に歌が意味を備え、やがては台詞がそのまま歌詞となった歌が盛り込まれるに至る。華やかさよりも、その切々とした感情を伝える内容もあって、ドラマとしての中に組み込まれていても違和感を齎さず、気づけば“ミュージカル”という様式を受け入れさせられている。構成の巧みさが光る点だ。
 題材がヴォーカル・グループであるだけに、中心となる“ドリーメッツ”の三人を筆頭に、いずれも歌唱力のある人物が起用されているのは当然だが、中でもジェニファー・ハドソンという逸材を発掘してきたのは本編最大の功績だろう。
 冒頭から、三人組のリード・ヴォーカルとして心理的な大黒柱にもなる女性を時として傲慢に、しかしチャーミングに演じ、やがて訪れる残酷な変化と、それに伴う成長をもきっちり表現した演技力も出色だが、素晴らしいのは全登場人物中最も多かった、歌唱場面での表現力である。彼女が絡む場面では、ミュージカル・シークエンスに突入するきっかけはほとんど彼女が齎しているし、大勢がヴォーカルを担当していても常にひときわ強烈な存在感を示す。
 そして、彼女がどこよりもその存在感を発揮しているのが中盤、すれ違いの結果エフィが“ザ・ドリームズ”を離れることになる一場面だ。物語の流れと歌詞とが完全に一致し、ドラマティックに展開するこのひと幕におけるジェニファーの絶唱ぶりは、文字通り圧倒されんばかりの迫力である。このひと幕だけでも、本編は劇場で鑑賞するだけの価値を齎されたと言っていい。
 物語の決着は、しかし必ずしも幸福なものではない。だが、ほとんど何もない状態から出発した人々が、十数年間の経験により得た喜びと悲しみとが一気に噴出し、静かに拡がっていくラストシーンは、単純なハッピーエンドでは成し得ない種類のカタルシスに満ちている。
 アカデミー主要部門に絡まなかったから、と期待を削っていた自分を恥じる。これは優れた計算と、傑出した表現力に支えられた、優秀な1本である。何よりジェニファー・ハドソンと、彼女がその魅力を最大限に発揮した中盤のミュージカル・シークエンスを世に出したというだけでもその功績は大きい。

(2007/02/17)


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