cinema / 『ファーゴ』

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ファーゴ
原題:“FARGO” / 監督・脚本:ジョエル・コーエン / 脚本・製作:イーサン・コーエン / 撮影:ロジャー・ディーキンズ / 音楽:カーター・バーウェル / 出演:フランシス・マクドーマント、スティーヴ・ブシェミ、ウィリアム・H・メイシー、ピーター・ストーメア、ジョン・キャロル・リンチ / 配給:Asmik Ace
1996年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 字幕:戸田奈津子
1999年10月08日DVD日本発売(2002年03月22日最新版) [amazon]
DVDにて初見(2003/10/07)

[粗筋]
 ノースダコタ州ファーゴは際限なく降り続ける雪の中にあった。この地にある車の販売会社で営業部長を務めるジェリー(ウィリアム・H・メイシー)は多額の負債を片づけるために、かなり無謀な策を思いついた。刑務所を出たばかりの犯罪者を使って妻を誘拐させ、妻の父親ノーム(ジョン・キャロル・リンチ)から身代金を騙し取ろうというのだ。
 だが、計画は最初から波乱含みだった。人を通じて雇い入れた男は、独特な風貌で悪目立ちするカール(スティーヴ・ブシェミ)に無口で何を考えているか解らないゲア(ピーター・ストーメア)と、かなりアクが強い二人組。会うなりジェリーの対応に不平ばかり並べ立てる。不安を覚えながらも、調達した車をそのまま渡すしかなかった。
 その一方で、ジェリーを巡る状況は悪化の一途を辿っていた。金融会社からは書類の不備を指摘されて信用を失いつつあり、もう一つの策として用意していた新事業はどうにか義父ノームの協力を取り付けるところまで漕ぎ着けたものの、ジェリーは自分が資金を借りて取引を行うつもりだったのに、口利き料しか払わない、と切り捨てられた。焦りは募る。
 カールとゲアの二人組は道中不協和音を生じさせたり、女を買って鬱憤を晴らしたりしながら、目的地ファーゴに足を踏み入れた。だが、かなり雑な手際でジェリーの妻を誘拐したあと、用意していた隠れ家に向かう途中で、パトカーに停止を命じられる。カールはどうにか口先でごまかそうとしたが、却って怪しまれ、車を降りるように言われた。次の瞬間、ゲアは警官に向かって発砲した。
 困惑と憤りに駆られながら、カールが警官の屍体を処理しようとしたとき、一台の車が通りすぎ――カールとゲア、そしてカールが運ぼうとしていた警官の屍体を目撃した。ゲアは車で追い、道から転落した目撃者ふたりを容赦なく射殺した。
 翌朝、妊娠八ヶ月の女性警察署長マージ(フランシス・マクドーマンド)は一本の電話に起こされた。警官と一般市民ふたりを無造作に殺した犯人を、マージは静かな足取りで追い始めた……

[感想]
 なんで地上波で見た記憶がないのかと思ったら……これは無理だわ。
 コーエン兄弟作品はまだ『バーバー』と本編のみしか鑑賞したことがないが、それでも特徴として察せられるのはひたすらに意外性を突き詰めたプロットと、端正だが戯画的なキャラクター造形だ。
 冒頭の数分で、主要な登場人物の個性が完璧に描かれている。ジェリーは他人に対して強い姿勢に出ることが出来ず、カールは口先の巧さを取り柄にしているつもりだが計画性に乏しい。ゲアは胸中の読めない無言と無表情のうちに怒りを溜め込んでいる、といった具合のことが、三人が初めて対面する冒頭だけでおおむね察せられる。
 あとは、複数の視点を絡めながら縦横に話が転がっていく。一時間半ちょっとという短めの尺に詰め込めるだけのものを詰め込みながら、舌足らずになっていない。途中に一見無駄な描写があるようにも感じるのだが、完結とともに全体を眺めてみると、その虚しい余韻に少なからぬ影響を齎しているのが解る。驚異的に構成が巧い。
 衝撃のラスト、という宣伝文句で本当に衝撃を受ける場合はそんなに多くないが、本編は掛け値無し。しかも決してそれだけではないのが強みである。謎解きや極めて知的なやりとりはないが、筋立ての巧さは必見。一面の銀世界が、その余韻の乾きと冷たさをより引き立てている。
 耳について離れない秀逸な音楽とも相俟って、見たが最後延々と記憶に刻まれそうな作品。何より、非常に明確なテーマがあるのにそれを過剰に謳ったり、教訓じみた括りにしていないのがいい。

(2003/10/08)


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