cinema / 『ゴーストシップ』

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ゴーストシップ
原題:“GHOST SHIP” / 監督:スティーヴ・ベック / 脚本:マーク・ハンロン、ジョン・ポーグ / 原案:マーク・ハンロン / 製作:ジョエル・シルヴァー、ロバート・ゼメキス、ギルバート・アドラー / 製作総指揮:ブルース・バーマン、スティーヴ・リチャーズ / 撮影:ゲイル・タターソール / 美術:グレイアム“グレイス”ウォーカー / 編集:ロジャー・バートン / 音楽:ジョン・フリゼル / 視覚効果監修:デイル・ギューギッド / 共同製作:リチャード・ミリシュ、スーザン・レヴィン / 出演:ジュリアナ・マルグリース、ロン・エルダード、デズモンド・ハリントン、アイザイア・ワシントン、ガブリエル・バーン、アレックス・ディミトゥリアデス、カール・アーバン、エミリー・ブラウニング / ダーク・キャッスル・エンタテインメント作品 / 配給:Warner Bros.
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間31分 / 字幕:林 完治
2003年01月11日日本公開
東劇にて初見(2003/01/18)

[粗筋]
 1962年。アメリカからイタリアへと航行する豪華客船アントニア・グラーザ号。社交界の要人たちが甲板でダンスパーティーに興じるなか、ひとり旅の少女ケイティ(エミリー・ブラウニング)だけが退屈を持て余していた。そんな彼女に老紳士が手を差し伸べて、ダンスへと誘う。ようやく少女が旅を楽しみはじめたとき、想像を絶する惨劇が幕を開けた――
 ――それから40年後。大仕事を済ませたばかりのサルベージ船アークティック・ウォリアー号乗員たちは、久々の休暇に思いを馳せつつ酒場で盃を酌み交わしていた。その彼らに、ひとりの男が声をかけた。パイロットだというその男ジャック(デズモンド・ハリントン)は、公海を飛行中に遭難船らしい船影を発見しており、それを牽引してくれないか、と言う。公海上で発見された遭難船の積み荷は発見者が所有権を主張できる、という国際法が存在する。無事移送できた場合、20%の分け前を寄越してくれればいい、と持ちかけるジャックに、アークティック・ウォリアー号の船長マーフィ(ガブリエル・バーン)は10%の契約で請け負った。
 濃密な霧に包まれた公海で、アークティック・ウォリアー号は無事にその船を発見する。船腹に記されたアントニア・グラーザ号の銘に、マーフィは震える。1962年の5月に突如消息を絶った船は、40年を経た今なお洋上を漂っていたのだ。
 状態を調査するため、航海士のグリーア(アイザイア・ワシントン)とジャックを除く乗員が客船に乗り込んだ。船は長年の風雨により荒廃していたが、依然消えぬ気品を誇っている。だが、ところどころ奇妙な気配も感じさせた。その皮切りは、サルベージ船1/3のオーナーでありサルベージチームのリーダーであるエップス(ジュリアナ・マルグリース)が、腐った床から転落しそうになったマンダー(カール・アーバン)を抱え上げたときだった。階下の空間に、いるはずのない少女の姿が見えた……
 曳航のための準備は翌朝から開始された。船には真新しい亀裂が船底にあり、このままでは曳航はおろかやがて沈んでしまう。一同は亀裂を埋め、動かない舵を元に戻しつつ船内の捜索を行うことにした。
 だが、乗員が散り散りになって調査と作業を進めていくに従って、更に奇怪な出来事を目撃するようになる。マーフィは船長室で飲みかけのシャンパンとグラスを見つけ、グリーアはダンスフロアで吸いさしの口紅のついた煙草を、マンダーとドッジ(ロン・エルダード)は無線機から雑音に混じって古めかしいムードミュージックが流れるのを耳にする。
 少女の幻影が気に掛かるエップスは、屋内プールに迷いこんだ。既に枯渇したプールの内壁には、どういう訳か無数の弾痕が残されている。異様な雰囲気に圧されて逃げ出そうとした彼女の目の前に一瞬、あの少女が現れた。驚いてプールの底に転落し、エップスはしばし気絶する。
 ジャックの呼びかけで目醒めたエップスは、仲間たちの元に戻る途中で、ネズミの群に遭遇した。群れが巣くっていた箱の中に詰まっていたのは、無数のインゴット。安く見積もっても五億ドルは下らない。一同は狂喜し、船は放置して金塊だけ持ち帰ることを即決する。
 積み込み作業が粛々と進められるなか、突如思いがけない事故が発生した。サルベージ船のエンジンをかけた瞬間、機関室で大爆発が起き、エンジンの調整を行っていたサントス(アレックス・ディミトゥリアデス)が死亡、グリーアらも負傷する。そうして、アークティック・ウォリアー号の面々は大洋のただなかで、この異様な気配の充満した幽霊船に取り残されてしまった……

[感想]
 ホラームービーという名の様式美。それがこの作品の全てである。
 何せプロットにツッコミどころが多すぎるのだ。色々と不可思議な出来事が発生し、いちおうそれらに説明は(あくまでホラーの文脈のなかで)付けられるのだが、いまいち大雑把の感は免れない。客船全員が行方不明になり、40年も無人のまま洋上を彷徨っていた動機付けが特に緩い。
 しかしなによりも惜しむらくは、恐怖映画としては冒頭、甲板上のダンスフロアで展開した一瞬の殺戮よりもインパクトのある場面がそれ以降登場しなかったことだろう。有名なマリー・セレスト号の事件などを下敷きに、異様なシチュエーションを随所に挿入して静かに恐怖感をあおる演出は悪くないが、全体の八割を占める現代での物語よりも過去の物語のほうが衝撃的でえぐく、迫力がある。
 ただ、異様な気配の描き方は悪くないし、ハリウッドの大物が予算と技術を投入したVFXは素晴らしい。恐怖映画だからと浮ついた演技をせず、キャラクターを現実的に作り上げた役者たちの手腕も評価したい。
 重要なのは、ホラームービーに求められる要素を、現代映画の文法のなかで再現している心意気そのものだろう。劇場では場面場面の怪奇描写に震えながら、観賞後はプロットの疑問点を検証したり揶揄したりする。そうした、昔は普通だった娯楽映画における楽しみ方のひとつを、現代ハリウッドの寵児たちが復元していることにこそ意味がある。
 本編を制作したダーク・キャッスル・エンタテインメントは、『フォレスト・ガンプ』のロバート・ゼメキスと『マトリックス』のジョエル・シルヴァーらが、かつて特異な表現と上映手法で一時代を築き上げたウィリアム・キャッスルの衣鉢を継ぐ目的で創設したホラー専門の映画制作会社である。これ以前の二作はウィリアム・キャッスルの代表作を現代の技術でリメイクしたものだったが、本編では初めてオリジナルの脚本を採用している。それだけに抜かりも随所に認められるし、出来は前作『13ゴースト』のほうが色んな意味で上だったもののの、いま敢えてこうしたものを作り、今後も制作していこうという意志は買いたい。
 ……まあ、要するに、粗も含めて楽しむつもりで御覧下さい、ということである。

 例によって余談。
 あまり名前を知らない役者が多い、と思っていたら、テレビシリーズやインディペンデント作品で売れてきた役者が中心らしい。特にストーリーの軸となるエップス役のジュリアナ・マルグリースは『ER 緊急救命室』の初期から参加していたそうだし、ドッジ役のロン・エルダードは一時期その恋人役として『ER』に出演していたそうだ(現実では未だに交際続行中らしい、ってのは正直どーでもいいが)。
 唯一、個人的に顔にも名前にも馴染みがあったのはマーフィ役のガブリエル・バーン。著名な監督の作品に出演しているのだが、ミステリファンに最も馴染みがあるのは『ユージュアル・サスペクツ』でのキートン役だろう。ただ……そう思い出したら、なんか今回も役柄似てるのよね、色々な意味で。

(2003/01/18)


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