cinema / 『逆境ナイン』

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逆境ナイン
原作:島本和彦(小学館・刊) / 監督:羽住英一郎 / 脚本:福田雄一 / 撮影:村埜茂樹 / 照明:澁谷亮 / 録音:益子宏明 / 美術:北谷岳之 / 装飾:佐々木敬 / 音響効果:柴崎憲治 / VFXスーパーヴァイザー:貞原能文 / 音楽:佐藤直紀 / 主題歌:岡村孝子『夢をあきらめないで』(BMG FUNHOUSE) / 企画・制作プロダクション:ROBOT / 出演:玉山鉄二、堀北真希、田中直樹、藤岡弘、、柴田将士、出口哲也、寺内優作、坂本真、青木崇高、土屋有貴、境沢隆史、栩原楽人、松本実、松崎裕、金児憲史、平山祐介、小倉久寛、金田明夫、炎尾燃、内海桂子、古田新太 / 配給:Asmik Ace
2005年日本作品 / 上映時間:1時間55分
2005年07月02日公開
公式サイト : http://www.gk9.jp/
渋谷アミューズCQNにて初見(2005/07/04)

[粗筋]
“全力でないものは死すべし!”を校訓に掲げた全力学園は、負け続ける運動部の存続など微塵も許さない。甲子園地区予選万年一回戦止まりの野球部は遂に校長(藤岡弘、)から廃部を言い渡された!
 だが、現在のキャプテン不屈闘志(玉山鉄二)はそう言われたからとおめおめ引き下がるようなヤワな男ではなかった。彼はある条件を自ら提示し、廃部差し止めを申し出る。その条件とは――万年一回戦止まりを返上するのみならず、甲子園への切符を手にすることであった!! 手始めに、同地区の甲子園常連校・日の出商業に練習試合を申込み、勝利することを宣言する!!
 マネージャーの月田朋子(堀北真希)はじめ仲間たちは揃って「無理だ?!」と叫ぶが、そこを説き伏せ不屈は通常の三倍にもなる練習を敢行する。しかし、どういうわけかこんなときに限って、赤点による補習、或いはラジオ製作中に誤って半田鏝を掴んで利き腕に火傷、或いは誤って臨時のバイトを頼まれて欠席、或いは飼っているチワワに噛まれて負傷(?!)、などなど、九人ギリギリの野球部メンバーが次々と意味不明のトラブルに見舞われて脱落していく!! 最終的にレギュラーは不屈とキャッチャーの僅かふたりとなるが、月田の計らいで暇なクラスメイトを動員しどうにか面子を揃えて挑むことを決意する不屈。頼みとなるのは己の右腕のみだ――
 だがしかし?! どーいうわけか試合前日、よりによって不屈は右腕を骨折、投げるどころの話ではなくなってしまう!! 豪雨の中、それでも左腕で投げ抜くという不屈の姿にバカ、もとい根性を見たレギュラーはそれぞれの事情を押して、グラウンドに馳せ参じた。そこへ、バスを乗り入れて現れた日の出商業のキャプテン神崎(松本実)はこう言い放つ――肩慣らしのために受けた練習試合だが、豪雨によりグラウンドのコンディションが最悪になっているので、室内練習に切り替える。君たちの不戦勝で構わない――
 奇蹟の大勝利である!!!!
 校内新聞は負け犬たちの初勝利をトップで報じ、その話題は瞬く間に校内を席巻した!! だが、不戦勝なのに何故か絵に描いたような天狗に成り果てた不屈ら野球部員たちに、地区予選まで廃部を保留していた校長は業を煮やし、一計を案じる。そして、不屈たちの前にその男が姿を現した――かつて日本代表にまで上り詰めた男、榊原剛(田中直樹)である!!!!!

[感想]
 いつもより多く!とか?を使ってみました。普通に書くといまいち勢いが伝わりにくいのです。
 原作を手懸け、実は自作の主人公でもある炎尾燃名義で特別出演までしている島本和彦は、無意味に“熱い”作品ばかり発表していることで知られている。仮に本編の原作を知らなくともほかの作品を読んだことがあれば、題名を敷衍するだけでその内容は察せられるはずだ。言い換えれば、そのノリを実写で映像化するのは非常に辛い。
 だが、本編の監督である羽住英一郎は、出世作となった『海猿』続編の話よりも優先してこちらの企画を進めたというだけあって相当なファンであるらしく、のっけから見事なばかりに“島本節”を映像化している。まず画面に姿を現すのが、徹底的に役柄にのめり込んだ玉山鉄二と、俳優として既に充分なまでにキャラ立ちしている藤岡弘、であったというのも奏功しているだろう。このふたりのおよそ現実離れしたやり取りで、有無を言わさず逆境ワールドに観客を引きずり込み、あとは一気呵成である。口を挟む予知がない。
 ツッコもうと思えば幾らでもつっこめる話である。そもそも問題の冒頭で、いきなり校長が生徒を殴るのはどうよ、とか弱小とはいえさすがに冷遇しすぎじゃないかと思われる部室の有様とか、不戦勝をそこまで美化するのはほんとーに可能か、とか。だがそもそも、効果線つきで人がブッ飛び、調子に乗ると人間離れしたスピードで動く(身悶えさえ倍速なので世界はスローモーションになる)ような主人公が登場する映画に常識とか理屈を求める方がどうかしている。
 畳みかけるように逆境続きだが、それにしたってナインのほうに色々と問題があるんじゃないかとか、もっとそれ以前に色々あるだろー、と思う箇所がある。しかし、思い出したように他のキャラクターがそれにツッコんでくれるので、観客としては案外モヤモヤした感覚を抱かずに済む。更にそのツッコミに無茶苦茶な展開で後押しを加えてくるので、気にするよりただただ呆気に取られてしまうのだ。
 兎に角隅から隅まで無茶苦茶な映画なのだが、それでも焦点がちゃんと絞られているのは、メインとなる数名以外のキャラもちゃんと完成されているからだ。途中で急遽雇われる暇なクラスメイトの方々はともかく(しかし彼らもちゃんと画面の片隅で意外といい仕事をしていたりする)、不屈以外の野球部員ひとりひとりも個性が明確になっているので見分けがつくし、ライバルとなる日の出商業にしても、名前が出て活躍するのは三人くらいだが、他にも見ていて可笑しい選手を混ぜていたりする。更にはその日の出商業に負かされる学校の投手にまで敢えてエピソードを用意して、お約束の展開に持って行くあたりも素敵だ。ひたすら過剰な根性論が、隅々まで物語を支配しているのである。
 力が入りながらもどこかチープ感を漂わせたCGもまたいい味を出している。不屈のテンションが上がったとき、マトリックスもどきのスローモーション演出が展開されるのだが、その無駄な使い方と妙な安っぽさが作品の雰囲気をうまく助けている。特に、ある一発ネタのためにかなりはじめのほうから伏線を張った挙句、更に最後まで引っ張る一種の貧乏くささがまた愛らしい。
 これだけ無茶苦茶をやっておいて、しかも最後のほうでどー考えてもルール的に異常な展開があったりするにも拘わらず、クライマックスでは思わず感動させられてしまうのがまた凄い――と言いつつも、ちゃんとラストにはもうひとつお約束が用意されているわけだが。
 ひたすら頭をスッカラカンにして楽しめて、しかもクライマックスでは意外な感動まで味わえる、そういう意味でなかなか侮れない作品。少なくとも、観終わったあとにこんな訳の解らないパワーが充填される映画というのは、日本ではそうそうお目にかかれません。

 島本和彦作品のそんなに熱心な読者ではない私が本編を観に行った最大の理由は、ちかごろ注目している堀北真希がヒロイン格で出演していたが故である。決してこなれた演技ではないのですが、清澄な存在感と愛らしさとを共存させた女優というのは日本ではなかなか珍しいので、『渋谷怪談』で発見して以来なるべくチェックするようにしている。
 本編で演じる月田朋子は清潔な愛らしさと、聡明なようでいてかなり根っこから天然ボケというキャラクターで、彼女の備えた雰囲気とうまくマッチして、やもすると汗くさくなりがちな物語にいい具合に彩りを添えており、そういう意味で期待通りだった。いまいち行動原理が最後まで謎のまま、というのもナイスである。
 しかし彼女を観ていて楽しかったのは、服装でのお遊びがふんだんである点だ。いつ見ても制服姿かユニフォームがほとんどの野郎どもと異なり、私服姿での登場も多い。加えて終盤、不屈闘志の妄想のなかで披露する姿が可笑しくも可愛いのだ。これから御覧になる方のために詳細は伏せるが、是非ともその姿を網膜に刻みつけて欲しい。
 ――一方で、やはり同じく終盤における藤岡弘、のある使い方に激しくノックアウトされたことも付け加えておきたい。あれは、卑怯だ。

(2005/07/05)


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