cinema / 『アイランド』

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アイランド
原題:“The Island” / 監督:マイケル・ベイ / 原案:カスピアン・トレッドウェル=オーウェン / 脚本:カスピアン・トレッドウェル=オーウェン、アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー / 製作総指揮:ローリー・マクドナルド / 製作:マイケル・ベイ、ウォルター・F・パークス、イアン・ブライス / 撮影監督:マウロ・フィオーレ / 美術:ナイジェル・フェルプス / 編集:ポール・ルーベル,A.C.E.、クリスチャン・ワグナー / 衣装:デボラ・L・スコット / 音楽:スティーヴ・ジャブロンスキー / 視覚効果監修:エリック・ブレビグ / 特殊効果監修:ジョン・フレイジャー / スタント・コーディネーター、第二ユニット監督、アソシエイト・プロデューサー:ケニー・ベイツ / 出演:ユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソン、ジャイモン・フンスー、スティーヴ・ブシェミ、ショーン・ビーン、マイケル・クラーク・ダンカン、イーサン・フィリップス / 配給:Warner Bros.
2005年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 日本語字幕:菊地浩司
2005年07月23日日本公開
公式サイト : http://www.island-movie.jp/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2005/08/03)

[粗筋]
 リンカーン・6・エコー(ユアン・マクレガー)は夜毎、奇妙な悪夢に襲われ続けている。彼はルールを越えて密かに想いを寄せ合っているジョーダン・2・デルタ(スカーレット・ヨハンソン)と豪華な船に乗っている。だが、突如何者かに腕を掴まれ、海中に没する――常にそこで目が醒める。もともと彼は施設の他の仲間たちよりも好奇心が強く、様々なことに疑問を持つ質だった。次第に胸中に芽ぐむ焦燥感で体調が不安定になっていることもあり、施設の長であるメリック(ショーン・ビーン)の診察を受ける羽目になる。
 施設では週に何度かの率で抽選会が行われる。当選した者は、汚染され尽くした世界に残された最後の楽園“アイランド”へと輸送され、幸福な暮らしを送ることが出来る、と教え込まれていた――だが、リンカーンはそのことにも疑問を抱いている。本当に世界は汚染されているのか? 彼がひょんなことから親しくなった、監督官としては一風変わった男マック(スティーヴ・ブシェミ)に会いに向かった区画で、何処からともなく迷い込んできた虫を捕まえたことで、疑惑はよりいっそう膨らんでいく。世界が汚染されていないとしたら、自分たちは何故ここにいる? 毎日自分たちがさせられている仕事の意味は何だ?
 ある晩、抽選会において遂にジョーダンが選出された。彼女の幸運を喜びながら、離れてしまうことへの不安がそうさせたのか、その夜リンカーンは深夜にまたしても見た悪夢で目を醒ます。人目を盗んでマックの働く区画へとふたたび侵入し、虫を放ったリンカーンは、その飛んでいくのを追って梯子を登っていった。
 辿りついたのは、いずこか知れぬ病棟のなか。そこでリンカーンは、つい最近“アイランド”へと旅立っていったはずの仲間ふたりを発見する。だが、出産を契機に施設を出たはずの女は、子供が生まれると同時に薬殺され、希望を謳って出ていったスターク・2・デルタ(マイケル・クラーク・ダンカン)は胸を切開された状態で逃走を図ったところを、リンカーンの目前で捕らえられ、「死にたくない」と叫びながら連れ戻されていった……その背景は解らないまでも、しかしリンカーンははっきりと悟った。この世界の外に“アイランド”は存在しない。去っていった者たちを迎えるのは“死”だけなのだ、と。
 その瞬間、リンカーンは自分の成すべきことを見定めた。早朝、本来男が入ることを許されない女子寮へと飛び込み、ジョーダンの手を取る。そして、彼女と共にあの隔離区画へと走った。追っ手を振り切り、遂に飛び出した先は――汚染など微塵も見いだせない、美しく広大な自然があった。
 一方、ふたりの脱走を知ったメリックは、幹部に対する説明と並行して、人伝に呼び寄せたトラブル・シューターのローラン(ジャイモン・フンスー)にリンカーンらの捜索と捕獲を依頼する。フランス軍に在籍し、戦争も経験したことのあるローランは、優秀なスタッフを率いて、ろくに表の世界を知らないリンカーンたちに瞬く間に肉薄していく……
 果たしてリンカーンたちは無事に彼らの手を逃れ、真の“アイランド”に辿りつくことが出来るのか……?

[感想]
 SFやミステリを愛好する者にとってはもう馴染み深すぎる、クローズド・サークルの謎を巡る話――という路線はのっけから捨てている。予告編や宣伝でネタは存分に割ってますし、その後の展開も概ね予想通り。
 解りきっているなら解りきっているで、設定に独自色を出すなど努力していればSF風味の謎解きとして優秀な成果を収められもしたのだろうが、本編はそういう方向については大して顧慮していないようだ。施設の隔離の仕方、培養されている人間たちに対する欺瞞の不充分さからもそれは窺える。
 その辺は寧ろ割り切ってやっている節があるのだが、それでもいささか配慮が乏しすぎるのでは、と思う箇所が幾つもある。特に重要なのは、リンカーンが発見した脱出経路の問題だ。彼は監督官のひとりであるマックとの交流から外界へと至る道の手懸かりを発見するのだが、マックとの交流までは認めるとしても、隔離区画の構成は根本的な危険を孕んでいるように思う。ハシゴを上がった先がどうしてあんなところに辿りつくのか。危機管理の観点から言えば、万一にでも彼らが迷い込んだとき速やかに回収出来るような場所に設けるべきではないのか――百歩譲っても、わざわざ隔離区画から直結させる必然性のある場所に出入り口は切ってあるべきだろう。あれはあまりに不自然すぎる。
 また、話の展開からすれば、この“施設”での出来事をリンカーンやジョーダンの言動に対する伏線として活かすべきところだが、その辺にも無頓着であるのが勿体ない。設定上生じる無知から来るちょっとしたユーモアが逃走序盤に描かれるのだが、そのあたりにしても何らかの仕掛けをしておくべきだったし、それ以外にも外界での行動に対して何らかの伏線を設けていれば、ドラマ性がより深まっただろうに、と思える場面が多いのだ。同じ事は、クライマックスにおいて重要な動きをする、とある登場人物についても言える。演技力の確かさが、言葉少なななかにも表情や仕種で行動を裏打ちしていてそれなりの説得力を付与していたが、いささか役者に頼りすぎていると感じた。全般に、シナリオの練り込みが甘い。
 だが、それでもここを押さえなかったら全体が崩れてしまう、というSF設定は最低限押さえてあるし、そのヴィジュアルの作り込みは決して悪くない。それを活かした高速での凶悪極まりないカーチェイスや、高層ビルに掲げられた看板で発生するパニックは、この筋のベテラン勢が多く加わったスタッフだけあって迫力充分である。
 惜しむらくは、これほど作り込んだにも拘わらず、説得力のある見せ場がここぐらいしかない点だ。最後の一幕に繋がる重要な出来事に関しては、ある登場人物の行動が早計すぎるように感じられるし、その後真実が発覚する場面がちょっと遅すぎるのでは、と思う。クライマックスにおける出来事はきっかけを考えると唐突、というかさすがに設備が酷すぎるだろう。
 そもそもこれだけ無茶苦茶なアクション続きでどうやって主人公たちが生き延びたのかが不思議でならない。銃を乱射されたり頭上からガラスの破片が降り注いだり、剥き身のまま重い金属材を乗せたトラックの荷台に潜んでいる場面だって、普通に考えれば無事では済むまい。二人乗りの飛行バイクでのチェイスにしても、初見であれだけ動かせて、ギリギリで追跡や障害物を回避するなど果たして可能か。
 ――と色々言ってはみるが、その辺はアクションもののお約束であり、致し方のないところだろう。普通ならその強さに何らかの裏付けを求めるところだが、本編の設定ではそんなものを付け足したら却って不自然になる。
 細部の雑さを割り切った上で、スタントを主体としたアクション・シーンの迫力や、実際に描ききれなかった背景やドラマを想像して楽しむべき作品である。少なくとも、他愛ないながらもそのスピード感によって二時間超をほとんど飽きさせずに見せてしまう点、なかなか優秀な娯楽映画だと思う。とある人物の行動など、果たしてそんなに簡単に“彼ら”を許せるか? という疑問が一瞬湧いたが、それも結末の静かな微笑で帳消しにしている――やはり、役者頼りの傾向の強い作品ではあるのだが。

 それにしてもこの話、何も知らずに閉じこめられていた人達より、そんな彼らを監視するために四六時中施設内に籠もらされているメリックやマックら監督官のほうが心理的にきついよーな気がしました。……その分きっと、映っていないところではえぐいことも行われてそうだが。いみじくもマックが、「メリックは他にもたくさん法に触れる行為をしてきてるんだ」といったことを語ったように。

(2005/08/03)


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