/ 『ジョンQ −最後の決断−』
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『light as a feather』トップページに戻るジョンQ −最後の決断−
原題:“JOHN Q” / 監督:ニック・カサヴェテス / 製作:マーク・バーグ、オーレン・コーレス / 製作総指揮:エイヴラム・ブッチ・カプラン / 脚本:ジェームズ・キアーンズ / 撮影:ロヒール・ストッフェルス / 美術:ステファニア・セラ / 衣裳デザイン:ベアトリックス・アルーナ・パストール / 編集:ディディ・アレン / 音楽:アーロン・ジグマン / 出演:デンゼル・ワシントン、ロバート・デュヴァル、ジェームズ・ウッズ、アン・ヘッシュ、レイ・リオッタ、キンバリー・エリス、エディ・グリフィン、ショーン・ハトシー、ダニエル・E・スミス / ニュー・ライン・シネマ作品 / 配給:GAGA-HUMAX
2002年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 字幕:岡田莊平
2002年11月23日公開
公式サイト : http://www.JOHN-Q.jp/
劇場にて初見(2002/12/22)[粗筋]
ジョン・クインシー・アーチボルド(デンゼル・ワシントン)は不況に喘ぐ典型的なブルーカラーだった。長年勤めてきた工場では企業の都合からパートタイム勤務への格下げを言いわたされ、ギリギリの生活のために銀行へのローン返済もままならず、遂に妻デニス(キンバリー・エリス)の車を差し押さえられてしまうほどだった。余った勤務時間で他の仕事に就こうにも、1の求人に400の応募があるような雇用状況では当然ままならない。
それでもなんとか明るく暮らしていたアーチボルド一家に、突然の悲劇が訪れた。少年野球の試合中、走塁していたジョンの息子マイク(ダニエル・E・スミス)が胸を押さえて倒れ、呼吸困難に陥った。ジョンは自らの車で、ホープ記念病院へと担ぎ込む。下された診断は、心筋症――心臓が膨張し、満足に機能しないために本来送られるべき血液が肺に溜まるという症状であり、このまま放置すれば数ヶ月、数週間と保たない怖れがあった。
病院のレイモンド・ターナー心臓外科部長(ジェームズ・ウッズ)とレベッカ・ペイン院長(アン・ヘッシュ)は薬品投与による延命か、心臓移植のどちらかしかない、と決断を迫る。ジョンは迷いもせずに移植を望んだ。だが、病院側はより現実的な問題を彼に突き付ける。ジョンが会社を介して契約している保険では、25万ドルを下らない心臓移植の費用を賄うことは出来ず、被移植者名簿に名前を載せるための前金すら用意できない、というのだ。ジョンの保険は、彼の与り知らないところで、通常勤務からパートタイム勤務に格下げされたのと同時に適用ランクが引き下げられていたのだ。保険会社で用意できるのは僅か2万ドル。
その日からジョンは懸命の努力を試みた。家財から自分の車、結婚指輪まで売れるものは全て売り渡し、工場勤務の同僚で親しい友人の協力によりカンパを集め、金策に奔走するがとても必要な額には満たない。そうしているあいだにも、マイクの血圧は低下しデッドラインに近づいていく。
そして怖れていた日が訪れた。7000ドルの支払いを済ませた翌日、マイクに対して病院から退院通告が為されたのだ。既に病院は好意から多額の医療費を融通しており、これ以上支払を待つことは出来ないという。文字通りの死刑宣告を電話でジョンに伝えながら、デニスは激昂した。なんとかするというのなら、すぐになんとかして――その瞬間、ジョンは最後の手段に出ることを決意する。
病院を訪れたジョンは、息子の元へは向かわず、ターナー医師と接触する。最後の懇願にも、一介の医師として打てる手はないとはねつけるターナーに、ジョンは拳銃を突き付けた。もう頼んだりはしない、そうさせるだけだ、と。ジョンはターナーに拳銃を突き付けたまま救急病棟に向かい、数名の医師と患者ごと占拠した。要求はただ一つ、息子の名前を被移植者名簿に載せること。
駆け付けた警察内部で、ベテランの交渉人で慎重派のクライムズ警部補(ロバート・デュヴァル)と強硬派のモンロー本部長(レイ・リオッタ)が対立し緊迫するなか、人質に対しても生来の優しさを失わないジョンに対して、患者たちはもとより、次第にターナーの気持ちも揺れ動いていく。マイクの命は救われるのか、そしてジョンの蛮行に救いはあるのか――[感想]
予想通りの話でした。
随分前から何度も予告編を見て、こういう展開だろうな、それはきついな、と思いつつ観に行って、幾つかの場面から「終盤はこう推移するんだろう」と予測しながら観ていたら、ほぼその通りの着地をしてしまった。予備知識なしで観れば非常に緊迫したはずの場面でもどこか暢気に構えてしまうのは、事前にあまりに見せすぎたからだろう。話題作とは言え事前にあまりに大きく喧伝されてしまったためにかなりの傷を負ってしまった作品、と言えなくもない。
また、病院占拠という優れた着眼を、サスペンスという側面ではあまり活かしきっていないのが難点だ。警察とジョンQとの交渉をもっとシビアで緊迫感溢れるものに仕上げることも可能だったはずなのに、その辺はかなりあっさりと処理している。加えて、レイ・リオッタ演じるモンロー本部長があまりに馬鹿っぽいのも少々やりすぎと見えた。
しかしその分、ジョンQの父親としての努力と必死さの描き込みは非常に丹念で印象深い。彼をはじめ、登場する医者にしても患者にしても、特異な個性の持ち主を用意せずどこにでもいる人物として描いたことが、物語に真実味と普遍性、社会性を齎している。現場に集った野次馬たちが、人質とともに一瞬姿を現したジョンQに対して賞賛を惜しまないという一場面も、さりげないながらアメリカにおける保健医療制度の現実を窺わせて生々しい。
あくまで主眼は、追い込まれながらも必死に息子の命を救おうとする父親を描くことにあり、ストーリーも他のあらゆる登場人物も彼を活かすためのパーツでしかない。とは言いながら、終盤にささやかな捻りを用意することで、彼の理解者たちに見せ場を作った辺りが巧妙で憎い。
サスペンスとしての緊迫感を求めたり、意外性から来る感動を求めるとかなり物足りない出来だ。が、監督や脚本家、出演者たちが描きたかったのはあくまでアメリカの医療制度が孕む矛盾と、その中で懸命に我が子の命を救おうとする父親の姿だけだろう。予定調和的なラストシーンよりも、終盤近く、ある決意のもとに昏睡と覚醒の狭間を漂う息子に対して語りかけるジョンQの姿にこそ本編の本懐がある。今回、プログラムが充実しすぎてて書くことがあまり思いつきませんでした。それはそれで悲しい。ただ、キャストやアメリカの医療制度に関する記事が充実しているのに対してスタッフの紹介がお座なりだったのが残念。略歴が載ってるのが僅か四人、というのは寂しすぎやしないかと。
(2002/12/22)