cinema / 『呪怨』

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呪怨
監督・脚本:清水 崇 / 監修:高橋 洋、黒沢 清 / プロデュース:一瀬隆重 / 撮影:喜久村徳章 / 美術:常盤俊春 / 音楽:佐藤史朗 / 音楽プロデューサー:慶田次徳 / 編集:高橋信之 / 視覚効果:松本 肇 / 出演:奥菜 恵、伊東美咲、上原美佐、市川由衣、津田寛治、柴田かよこ、松田珠里、田中要次、本田大輔、井上博一、尾関俊哉、藤 貴子 / 配給:東京テアトルグループ、ザナドゥー
2002年日本作品 / 上映時間:1時間39分
2003年01月25日公開
2003年07月25日DVD発売 [amazon]
公式サイト : http://www.cine-tre.com/ju-on/
試写会にて初見(2002/11/06)

[粗筋]
 介護福祉センターでボランティアをしている仁科理佳(奥菜 恵)は、日頃からの仕事ぶりを見込まれて、連絡の付かない寝たきり老人の様子を見てきて欲しい、と頼まれる。問題の家である徳永家を訪れると、玄関は開けっ放し、室内にはものが散乱し、介護対象の幸枝(磯村千花子)の蒲団も寝間着も排泄物で汚れており、家人の姿はない。仕方なく掃除をし、幸枝を着替えさせた理佳だったが、どうも様子がおかしい。二階では奇妙な物音がし、見てみれば目張りのされた押入のなかに、黒猫と俊雄(尾関俊哉)と名乗る子供がいる。階下に戻れば、あたりは再び散らかっていた。いったい何があったのか、と千花子を問い詰める理佳だったが……。
 ……徳永勝也(津田寛治)の家庭に、特別な不幸などなかった、それまでは。だが、その家に引っ越した直後から盛んに不審な物音を聞くようになり、ボケた母の様子が少々度を超しておかしくなった。千花子が日中死んだように眠りこけていることから、夜間の物音も彼女の所為だと思い込んでいた真理子(柴田かよこ)だったが、千花子の介護の最中に物音を聞き、彼女は恐る恐る階段を登る……
 帰宅した勝也は、一階の灯りが点いておらず、食事の支度も母の世話もお座なりであることを不審に思い、二階に上がってみる。すると、二階の一室で真理子は目を瞠き心神耗弱状態になっていた。すぐさま救急車を呼ぼうとした勝也だったが、どうにも妙な気配を感じ、そして……
 ……理佳が戻らないことを心配した福祉センターの職員が徳永家を訪れてみると、そこには恐怖に歪んだ顔のまま絶息した千花子と、何の衝撃からか心神喪失した理佳の姿があった。職員の通報を受けて現場を訪れた刑事達(本田大輔、井上博一)は、見つからない千花子の家族に連絡を取ろうと、その場から携帯電話に繋いでみる。すると、発信音は階上から聴こえてくるのだった……
 ……異様な出来事は、なおも連鎖する……

[感想]
 題名を見ただけで「ああ、あれ」と頷く方もいるだろう。ビデオオリジナルで発表され、その内容の素晴らしさ(怖さ)が口コミ、或いはインターネット上で語り継がれ、好評を呼んで第2作まで制作されてしまった作品の、リニューアル劇場公開版が本編である。評判を聞くにつけいつか見たいいつか見たい、と念じていたら、見るより先にリニューアル版が制作されてしまい、運良く試写会招待状を頂戴できたので一般より早く鑑賞した次第。
 ホラー映画と言われて一般に想像されるような、不意をついてどーん、とか死角からざく、とか血の海どばーっ、とかいうような、確実だが乱暴でその場しのぎの演出が非常に少ない。怪異の立ち現れる瞬間はだいたい予兆があり、その上で実際に見えたもののの手触り、息づかいなどが画面から感染するような、染み入ってくる恐怖が主体となっている。来るぞ来るぞ、と思っていて実際にやって来ると普通拍子抜けするものだが、本編ではその予感すら効果的に使われている。
 ハリウッドなどの大資本を投じた作品群が陥りがちな虚仮威しから脱却し、日本古来の「実話怪談」に近いじわじわと迫る恐怖を描くために腐心している。またこれも本来の怪談を踏襲するように、脅威の源泉は決して語られず、ただ異様な出来事だけが積み重なっていくのも巧い。
 時系列を徹底的にいじり、物語として一貫した脈絡はなく(いちおうオチはあるのだが、決して主眼ではあるまい)、虚心に恐怖だけを綴った作品。凄い。――ただ、それ故に私のような人間には、終盤にかけていまいち「怖い」という感覚を起こしづらくなるのも事実だ。日頃好きこのんで怪談を読み聞きするような人間は、しまいに「次に何が起きるのか楽しみになってしまう」。妙なワクワク感が体に満ち、普通嫌悪し恐怖するべき最後のある場面ではニヤニヤさえしてしまうのだ。ただし、欠点とは思わない。これだけ徹底して因果の見えない恐怖を描いてくれたからこその感覚であり、たぶん常識的な感覚しか持ち合わせない向きには、相当怖い。ここまで説明のつかないホラー映画というのも珍しく、慣れていないほど、くるはずだ。
 邦画が世界に誇って恥じない名作故、恐いか恐くないかを別として多くの人にお薦めしたいが、臆病な方は鑑賞前に体を隅々まで洗っておきましょう、という忠告ぐらいは必要かも知れない。だって――

 なお、粗筋が妙に尻切れトンボなのは、勘所をなるべく書かないように努力したが故です。何が起きているのかは、どうぞ劇場(或いはかなり先でしょうが映像ソフト)にてご確認ください。

(2002/11/07・2003/01/08データ改訂・2003/07/24追記)


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