cinema / 『コワイ女』

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コワイ女
共通スタッフ
製作:三宅澄二、大月俊倫、高野力、古玉國彦、佐々木史朗 / プロデューサー:小松万智子、山口幸彦、佐藤美由紀 / 音楽:ゲイリー芦屋 / 主題歌:森大輔『ふれられない場所』(Warner Music Japan) / 配給:Art Port
2006年日本作品 / 上映時間:1時間47分
2006年11月25日公開
公式サイト : http://www.kowai-onna.jp/
シネマート六本木にて初見(2006/12/15)

[概要]
 題名通り、“怖い女”をテーマにしたホラー・オムニバス。以下、作品ごとに簡単な粗筋と感想を記す。

「カタカタ」
監督・原案・脚本:雨宮慶太 / プロデューサー:久保田傑 / 撮影:冨田信二,J.S.C. 美術:安宅紀史 / 特殊メイク:中田彰輝、中村しのぶ / 出演:中越典子、小林裕子、豊原功補、鈴木理子、森奈みはる
[粗筋]
 恋人・晃(豊原功補)との結婚を間近に控えた加奈子(中越典子)は、だがちかごろ晃の携帯電話に彼の昔の妻からやたらと電話がかかってくるのが気に掛かっている。ある晩、道端に供えられた花が朽ちて、花瓶が倒れているのを目にした加奈子がふと頭上を見上げると、突如正体不明の衝撃を受けて昏倒する。目醒めてマンションに帰ってしばらくのち、晃から「昔の妻に刺された、いま彼女がそっちに向かっているらしい」という電話を受ける……
[感想]
 これは完全な失敗作である。冒頭から、画面の状況とそぐわない音声、やたらと説明的かつ下手なヒロインの喋りにうんざりさせられる。肝心の怪奇現象も、いちばん程度の低い虚仮威しが中心となっていて、怖いと感じるよりもひたすら呆れっぱなしだった。
“カタカタ”という化物の造型そのものはオーソドックスな要素を踏まえながらも力強さがあり面白いのだが、それと物語全体に仕掛けたアイディアとが噛み合っていないのが根本的にいけない。クリーチャーの創造以外はすべて「こうしておけば受けるだろう」という浅はかな思い込みだけで作られたようにしか見えず、どうにも不愉快な代物だった。

「鋼」
監督・脚本:鈴木卓爾 / 原案・脚本:山本直輝 / プロデューサー:松田広子 / 撮影:松本ヨシユキ / 美術:古積弘二 / 出演:柄本佑、菜葉菜、香川照之
[粗筋]
 自動車整備工場に勤める関口(柄本佑)はある晩の帰り道、上半身を頭陀袋に包んだ謎の女に体当たりを喰らって負傷する。情けない気分で迎えた翌日、関口は工場の経営者・高橋(香川照之)から唐突に、妹とデートしてやってくれないか、と頼まれた。翌日の日曜日、車を借りて高橋の家まで迎えに行くと、そこにいたのは何と、あの頭陀袋の女だった。そうして関口と高橋鋼(菜葉菜)との奇妙なデートが始まる……
[感想]
 1本目の不出来が嘘のような、一種神々しいばかりの出来。
 本編の魅力はただただ、“鋼”という人物の創造に尽きる。上半身を頭陀袋に包んで生活している、というだけで存分にキャラが立っているが、その生活様式が悉く意味不明なのだ。その不条理さはしばしば笑いを誘う一方、随所でおぞましさをも呼び起こす。
 そしてある地点を境に、そのシュールな行動がすべて不気味さに結実していく。それでもしばしば奇妙な笑いを招きはするのだが、そうして笑ってしまったこと自体が恐ろしく感じられる。
 特に脅かすような描写などなく、“鋼”の不可解な生態を連ねているだけ、というのが実際のところだが、その飾らない演出がいい。一部、やりすぎと感じられるところもあるものの、それすら許せてしまうほどの異形の傑作である。“鋼”のキャラクターもさることながら、フラットな一般人の態度を装いながらどこかネジが外れている異様さを見事に演じた香川照之が秀逸である。

「うけつぐもの」
監督・原案・脚本:豊島圭介 / 原案・監修:清水崇 / プロデューサー:押田興将 / 撮影:木村信也 / 美術:安宅紀史 / 出演:目黒真希、須賀健太、松岡俊介、左時枝
[粗筋]
 母・冴子(目黒真希)の離婚によって、道男(須賀健太)は彼女の実家に引っ越す。越して早々の夜、道男は庭に見知らぬ少年の姿を見た。その少年と同じ姿格好の写真が仏間に飾ってあることに驚く道男に、母はそれが失踪した彼女の兄・正彦であることを教える。そのとき、冴子は兄が失踪する直前、蔵に入っていくのを目撃したことを思い出した。夜が更けてから、蔵に入っていった冴子は、あるものを発見するのだった……
[感想]
『怪談新耳袋』シリーズを支えたふたりの手によるだけあって、実に堅実な作りの“ジャパニーズ・ホラー”となっている。旧家の蔵に眠る何かが引き起こす異様な出来事、というお定まりの素材を、堂に入った演出と語り口で表現し、画面に派手さはないながらも、よく選ばれた舞台と力のある俳優を配して丹念に“怪談”の空気を醸成している。
 あまりにオーソドックスすぎて目立った“良さ”が感じられないのが残念ながら、こういうものを着実に作り出せるだけの方法論を確立していることは、ジャンルとしての地力があることの証明でもある。コンスタントに作られてこそ意味があるのだ。

[総評]
 もともと日本のホラーは“貞子”や“伽椰子”を例に引くまでもなく、女性が恐怖の原点に君臨することが多く、敢えてタイトルに冠するまでのことはなかった、という感覚がある。それを突き破るほどのテーマ性を押し出せなかったために、全体に普通のホラー作品集、という印象しかもたらせていないのが残念だ。
『鋼』はそのアイディア自体が既に傑出した、一見の価値ある作品と言えるが、『うけつぐもの』は堅実ながらも凡庸、『カタカタ』に至ってはいいアイディアを演出・音響・演技の稚拙さが殺してしまっており、揃えると正直あまりお薦めできるレベルではない。良作である『鋼』にしても無理に劇場で鑑賞するほどの主張はなく、興味があっても映像ソフトで押さえておけば充分な出来だろう。

(2006/12/15)


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